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第04節 はじめてのLINE

「おい、なに勝手に読んでんだよ!」


声を荒げると、美咲はビクッと体を震わせた。


「いきなり大声出さないでよね」


悪びれる様子が微塵もない。


「ていうか、なにコレ?」


ラブレターを突き出してヒラヒラさせる。


「見ればわかるだろ。ラブレターだよ」


「そうじゃなくて、どうしてこんなもの持っているのかってこと。ひょっとして、自分宛に書いたの? 筆跡まで変えて?」


「誰がそんなさもしいことをするか!」


「じゃあ、いたずらに使うつもり? やめてよね、そんな小学生みたいなことは」


「普通にラブレターをもらったとは思わんのか」


「えー。だってこれ宛名も差出人も書いてないじゃん。本物に見えないって。ドッキリだったんでしょ? わかった、太田だ!」


俺と同じ推理をしやがって……。

こんなことに限って、血のつながりを感じさせる。


「いたずらじゃねえよ。マジもんだ。今日もらったんだよ。そんでコクられた」


「ふうん、物好きな娘もいるもんだね。で、どんな子?」


美咲は興味なさげに、ま、一応聞いておいてあげるわってな口ぶりで尋ねてきた。


「教えてやる義理はねえ。もういいだろ、返せよ」


近づくと、美咲はサッとラブレターを後ろ手に隠した。


「いいじゃん、ケチケチしないで教えなさいよ」


「お断りだ!」


実力行使とばかりに手を伸ばす。


すると、あいつはポケットからスマホを取り出し、すばやく操作して耳に当てた。


「あ、夏希ちゃん? 耳よりな情報があるんだけど――」


「わかった! わかったから! やめろ!」


あっさり白旗をあげると、美咲は舌を出した。


美咲と夏希はツーカーの仲だ。

夏希が董卓なら、さしずめこいつは悪知恵を吹き込む李儒《りじゅ》といったところだろうか。


こんな妹でも昔は「お兄ちゃん、お兄ちゃん」と、俺によく懐いていて、いつも後ろについて来たものだ。


しかし、小学校に入って夏希の権勢を知ると、あっさり俺の元を離れ、夏希になびいた。

夏希の後を追うようにうちの高校に入学し、クラブも同じバスケ部に所属している。


計算高いこいつは、夏希の庇護下にいれば我が身が安泰であると確信しているに違いない。


やれやれ。こうなっては仕方ない。


俺は力なくうなだれ、前髪をかき上げた。

自慢するみたいで自分から人に話すつもりはなかったのだが。


「二年の小早川さんだよ。お前も名前くらいは知っているだろ?」


「MKYの?」


意外にも冷静だ。もっと驚くと思ったのだが。


「ああ、そうだよ」


頬を指でかきながら、こくっと首を縦に振る。


「へぇ、そういう設定なんだ」


「設定とか言うな!」


こいつ、まるで信じてねえ!


「で、本当のところは誰からもらったの?」


「だーかーらー、嘘じゃない! 信じられないのはわかるが、マジでコクられたんだよ!」


必死の訴えを、美咲はハンと鼻で笑う。


「あんな綺麗な人がアニキごときを相手にするわけないでしょ。嘘をつくにしたって、もうちょっとリアリティのある嘘をつけないわけ?」


こりゃダメだ。

口でいくら言っても信じてくれそうにない。

まあ、コクられた俺自身が半信半疑だったくらいだからな。

納得させるには、確たる証拠を突きつけないと。


そうだ、あれなら――。


さっき彼女からもらったLINEが浮かぶ。


あれを見ればこいつも信じざるを得ない、兄にモテ期が到来したことを!


「じゃあ、動かぬ証拠を見せてやる! ついてこい!」


美咲の腕を掴む。


「ち、ちょっと、引っ張んないでよ!」


抗議を黙殺し、強引に引っ張っていった。




部屋に戻るやいなや、スマホを取り小早川さんのLINEを表示させる。


だが、いざとなると小早川さんに断りなくメッセージを見せるのは、ダメな気がした。


この場は友達登録の画面だけでいいか。十分証拠として成立するだろう。


くらえ!


『あやの』と表示されたスマホの画面を突きつける。


「ほら、彼女のLINE登録! これでも信じないってのか?」


美咲はうさんくさそうに画面を見つめる。


「これ本物? 綾小路きみ〇ろとかじゃないの?」


「なんで俺が綾小路きみ〇ろを友達登録してんだよ!」


「そんなこと言ったって、こんな登録名だけで信じられるわけないじゃん。そうだ、本当にこれがあの小早川さんのLINEだっていうんならさ。今、ここでかけてみなさいよ。付き合っているのなら、電話くらいできるでしょ?」


こういう展開は予測してなかった。


「いや、それはちょっと……。用もないのに電話するってのはな」


「なにゴニョゴニョ言ってるのよ。好きなもの同士なら声が聞きたいってだけで電話してもOKなの! やっぱりニセモノってこと?」


美咲がそう言い放った。まさに、その時だった。


スマホから着信音が鳴り響いた。


しかも、画面には『あやの』と表示されていたのだ――。



彼女からの電話に驚いた隙をまんまとつかれた。

美咲はスマホを奪い取り、くるりと背中を向けて「はい、佐藤でーす!」と勝手に応答する。


そして次の瞬間、固まった。


「は、はいぃ!?」


背中をピンとのけぞらせ、素っ頓狂な声をあげる。


「あ、あ、兄ですね。しょ、しょ、少々お待ちくだしゃい!」


振り返った美咲の顔からは、驚きのあまり表情がゴッソリ抜け落ちていた。


「お、お兄ちゃん。電話。小早川さんから……」


お兄ちゃんとか言ったよ……。


そんな呼び方をされるのは小学生のころ以来だ。

しかも自分がそう呼んでしまったことすら、美咲は気づいていないようだ。


スマホを受け取り、美咲に背を向けて応答する。


「もしもし――」


『あ、佐藤くん? よかったぁ、女の子が出たからビックリしちゃいました』


いや、小早川さん、うちの妹はその百倍はショックを受けているよ。


チラリと後ろを見ると、美咲は床にへたり込み、口を開けて放心している。


『妹さんいるんですね、いくつ?』


「一つ下。美咲っていうんだけど、うちの学校にいるよ。似ているから一発でわかるかも」


『えっ、そうなんだ! それはぜひ会ってみたいな。あ、でもお兄ちゃんを取ったって嫌われちゃうかも』


「いや、うちの妹に限ってそれはないよ。煮るなり焼くなりご自由にって感じだと思う」


『え~、まさか~。そんなことないと思うな』


小早川さんは楽しげに笑う。


ああ……この可憐な声だけでも癒される。


『あ、でも年が近いから、そんな態度をとっちゃうのかも。わたしにも妹がいるんだけど、年が離れているから、全然ケンカとかにならないもの』


「へぇ、妹さんがいるんだ」


『うん、今、小学六年生。紗南っていうの』


さぞやすごい美人姉妹なんだろうなあ。

想像してホッコリしてしまう。


「だったら、俺のほうがお姉ちゃんを取ったって嫌われちゃいそうだね」


『ううん、そんなことない。紗南は佐藤くんにきっと懐くと思う』


「そう? もしそうだったら嬉しいんだけど」


『うん、今度紹介しますね』


「よろしく。でも、どうしたの? 急に電話なんか?」


『あ、ごめんなさい。別に何か用事があったわけじゃないの。メッセージをもらったら、無性に声が聞きたくなっちゃって……』


ズキューンときた。


床の上を転がりまくりたくなるのをなんとか堪える。


「お、俺も小早川さんの声が聞けて、嬉しいよ!」


『えへへ。なら、よかった。なんだか照れちゃいますね』


「だ、だね……」


それからしばらくの間、二人して言葉が出なくなってしまった。


『……じゃ、じゃあ、声も聞けて満足したし、これくらいで切りますね。妹さんによろしく』


「ああ、明日また学校で」


『うん、バイバイ』


言い知れぬ幸福感に包まれながら、俺は通話を切った。


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