第33節 拓也たちは、たどり着けるか不安よな。太田、動きます。
「おーい、待ってくれよぉ!」
後から太田が手を振りながら追ってくる。
「そんな状態じゃあ、会場までたどり着けねぇだろ? 俺が車で送ってやるよ!」
その手には大量のカギのついたキーホルダーが握られていた。ドサクサに紛れて連中の車のキーをくすねてきたらしい。
「お前、車の運転なんて出来るのか? つーか、そもそも免許ないだろ?」
「だいじょーーーぶ! 田舎でじいちゃんのトラクターを何度も運転してっから」
「いやそれ、回答になってないから!」
「お願いします!」彩乃がペコリと頭を下げる。
「えっ、マジで乗るの?」
「今の拓也くんがあそこまで歩くのは大変でしょ? タクシーもすぐには捕まらないと思うし」
「かしこまり! じゃあ、待ってて」
太田はキーホルダーをぐるぐる回しながら走っていった。
「やっぱり、やめといたほうが……。あいつの運転なんて、危なっかしいって」
「大丈夫だよ。今日は車も人通りも少ないし」
いつもの優等生はどこに行ったのやら……。
あ、そういえば訊きたいことがあったんだ。
「ねえ、彩乃。どうして俺がここにいるってわかったの?」
「あ、それはね――」彩乃は俺のズボンに手を伸ばし、スッとなにかを抜き取るとニコリとした。
「スマートフォンのGPS」
なんでさっき放り投げたスマホが?
目をぱちくりして、よく見るとそれは俺のスマホではなかった。彩乃のスマホだ。いつの間に……。
あっ! すぐにあることに思い当たり、ハッとする。
歩道橋の上でキスしたときだ!
「拓也くんが遠くに連れて行かれなくて本当によかった……」
彩乃は少し瞳を潤ませる。
「太田さんに位置を調べてもらったら、どんどん遠ざかっていくんだもの。きっと車に乗せられたんだと思って気が気じゃなかった」
……やっぱり、この子はすごい。あんな切羽詰まってるときに、一瞬でそこまで考えていたなんて。
しばらくの間、見つめ合っていると、クラクションがけたたましく鳴った。太田の運転する黒いバンがカーブしてこっちに向かってくる。
バンは大きく曲がりすぎて、バンパーを縁石に思いっきりこすりながら停車した。
そして、何事もなかったように顔を出す。
「さ、乗った! 乗った!」
「お前……本当に運転大丈夫なんだろうな?」
バンパーにデカデカとついた傷を見つめる。
「殴られた分のお礼だから、へーき、へーき」
こいつもいい性格してやがるな。
俺たちが車に乗り込むと、太田は意気揚々と発進させた。
「とばすぜぇーーーー!」
言葉どおりに太田は、けっこうなスピードを出していた。
「お、おい。ちゃんと制限速度守ってんだろうな」
「うん。守ってる、守ってる」太田は棒読みで答える。
嘘だ、ぜってー嘘だ。
「あ、ちょっとマズいかも……」
突然、太田が焦った声でつぶやいた。
「どうした?」
「後ろから……パトカーがついてきた」
「おいおいおい! マズいなんてもんじゃねえぞ!」
無免許、速度オーバー。それだけじゃない、ぜったいこの怪我のことも聞かれる!
まずい、まずいって! くそっ、肝心なときにいなかったくせに今さら出てくんなよ、ケーサツ!
捕まったら試合どころじゃない。俺や太田はともかく、彩乃やB組の連中にまで迷惑が……。
心配そうにしている彩乃に視線を移す。
「拓也、小早川さん……すまねぇ……」
「いや、いいんだ。こうなっちまったらなるようにしか――」
「そうじゃねー!」
太田はアクセルを踏み、さらにスピードを上げた。
「お、おい! 逃げ切るつもりか? 無茶はよせ!」
「ちげえよ! 頭下げてろっ!」
太田はそのまま黄に変わりかけていた信号をギリギリで抜け、交差点をすばやく左折すると、車を急停止させた。
「ここで降りろ。ここまで来れば会場はもうすぐだ。わりぃが、こっからは歩いてもらうぜぇ」
「え!? お前はどうすんだよ!」
「俺はもう少しドライブを楽しんでくるわ」
太田はぐっと親指を立てる。
「そんな、太田くんも一緒に!」彩乃の訴えに、太田は首を振った。
「三人とも出たら見つかっちまう」
「すまん……」
「いいってことよ。そのかわり、俺の分も楓ちゃんのこと応援しといてくれよ!」
「ああ、任せろ」
俺たちが降りると、太田は車を急発進させた。近くのビルの入口に身を隠し、パトカーをやり過ごす。
パトカーが完全に見えなくなったのを確認してから、俺たちは会場を目指して歩き出した。




