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第29節 無謀の代償

痛てっ!


体育館の外まで連れ出され、背中から勢いよく突き飛ばされた。そのまま地面に両手を突く。


「二度と瑞沢に近づくんじゃねーぞ!」ギロリとひと睨みして連中は引き返していった。


姿が見えなくなってから立ち上がる。


……乱暴に扱いやがって。手のひらがヒリつく。ズボンの砂をパンパンと払う。


さて、これからどーしたもんかな。もう会場には戻れねーし。


そうだ。まず彩乃に連絡を取らないと。あんなバカな真似をして、きっと困ってるはずだ。


彩乃の番号を呼び出し、LINEの通話ボタンを押そうとしたところで思いとどまる。試合中に邪魔しちゃ悪い。ハーフタイムまで待とう。


ぼんやりと画面を見つめていると、着信音が鳴った。彩乃だ。


「……もしもし」


『彩乃です』電話の向こうから歓声は聞こえない。席を立ったらしい。


『……追い出されちゃったね』


「ごめん。バカなことして……」


『ううん。わたしのことは気にしないで。なっちゃんのためにしたことだもの。きっと、なっちゃんには伝わったよ』


「いや、別にあいつのためにやったわけじゃないんだ。何か見てたらイライラして、つい」


力なくうなだれる。


『もっと、胸を張って!』凛とした声に思わず背筋を伸ばす。


『しょぼくれてちゃダメ。じゃないと、なっちゃんに笑われちゃうよ?』


確かに彩乃の言うとおりだ。俺がこんなだと、試合に勝った夏希が「ざまあ!」って言えないもんな。いや、あいつなら言うか?


『そうそう。拓也くんは堂々としてなきゃ』


「だね」


――彩乃、近くにいる? 


キョロキョロと周囲を見回すと、入場口の柱の陰から、ひょっこり彩乃が姿を見せて、小さく手を振った。


俺たちは日差しを避けるために体育館の入場口から少し離れた建物の陰に移動した。


「ホントにいいの? 試合を観てなくて」


「うん。拓也くんと一緒にここで待ってる」


「せっかく来たのに……。まあ、ワンサイドでつまんない試合だけどさ」


彩乃はふふっと口元を緩めた。


「俺、なんかヘンなこと言った?」


「拓也くんはなっちゃんが勝つのを信じきってるのに、口ではそんなことばかり言うんだもの」


「や、そんなことぜんぜん思ってないって! 相手のほうが戦力は上だし、あれだけの点差を取り返すのは簡単じゃないから」


「でも、無理だとは思ってないんでしょう?」


うっ、それでも夏希なら……夏希ならきっと何とかする。心のどこかでそう思ってるのは事実だ。


口ごもると、彩乃は「ほら、やっぱり」って顔で微笑んだ。


「拓也くんは優しいね……」


「そんなんじゃないよ」手を振り、否定する。


「何ていうか……。俺はさ、ただあいつが俺以外のやつに舐められたり、バカにされてるのがムカついただけなんだ。どうしてそう思うのかは、自分でもよくわかんないけど……」


「それは……きっと――」


彩乃は何か言いかけて、口をつぐんだ。


その瞳に、一瞬、怯えが差す。


「どうかした?」


視線の先を追うと、ガラの悪い連中がこちらに歩いてくるところだった。数は……三人。真ん中のロン毛を筆頭に、どいつも分かりやすい不良面。彩乃が身じろぎして、わずかに肩をこわばらせる


見知った顔をひとり見つけ、ギクリとする。先頭を切るチャラ男――真田だ。前に彩乃にしつこく言い寄って、投げ飛ばされ、捨て台詞を吐いて逃げた。


悪い予感がした。大急ぎで彩乃の手を取り、向きを変える――が、そっちの方向からも二人、仲間と思しき男が進路をふさぐように立っていた。


連中は俺たちを取り囲む。ニヤニヤと嫌な笑み。彩乃へ向けられる下品な視線が、とにかく気に入らない。


「よう。こんな場所で見せつけてくれんじゃねーの。俺たちも混ぜてくれよ」


……最悪。

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