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第27節 VS天宮学園

結局、夏希の異変の理由はなにもわからないまま時間だけが過ぎ、ベスト4進出をかけた天宮学園との試合の日がやってきた。


約束どおり、俺と彩乃は試合会場の県立明神体育館へ応援に駆けつけた。


冷房の効いた体育館に入り、二階席につながる階段を上っていくと、ボールをダムダムする音や、シューズの軋む音が聞こえてきた。前に一回戦を見に行ったときはガラガラだったのに、すでにかなりの座席が埋まっている。単に天宮学園が注目されているだけかもしれない。


二階中段の見やすい席を確保して並んで座る。我が戸有高校も今回は応援に力を入れており、俺たち以外にも多くの生徒が集まっていた。


やっぱり萩原さん目当てと思われる女子が多い。宝塚的な人気ってやつだろう。カッコいいもんな彼女。


その中に交じって声援を送る太田が、なんとも浮いていた。必勝と書かれた変なハチマキをしている。


あと、浮いてるといえばB組体育会系軍団だ。「炎の女なっちゃん」なるお手製の垂れ幕まで用意して二階の最前列に陣取っている。さすがにあれはハズい。夏希にちょっと同情する。しかし、クラスメートとはいえ、なんであんな熱烈に応援してんだ?


「拓也くん、知らないの? なっちゃんはクラスの男の子にすごく人気があるんだよ。気さくで、明るくって、優しくって、ホント素敵だもの」


独り言のつもりが、口に出てたらしい。気さくと明るいはともかく、優しいと素敵ってのは違うんじゃないか。ま、人気っていっても、漢が漢に惚れるみたいなもんだろ。


不意に視線を感じて振り返ると、髪をセンター分けにしたチャラい男の姿があった。真田だ。アイツまで来るとは予想外。


とはいえ、相手はバリバリのスポーツ校。応援の数では比べものにならない。会場の八割くらいは天宮側の色に染まっている。


普段なら、こういう状況で一番燃えるのが夏希だが、今度ばかりはどうも心もとない。


――って、なんで俺はあいつの心配をしてんだ。天宮が勝ってくれないと俺は酷い目にあうってのに。そうだ。みんなには悪いが、今日の俺は天宮の応援に来てるんだ。


「なっちゃん……大丈夫かな。このあいだは調子が悪かったみたいだったけど」


ウォーミングアップ中の夏希を、彩乃は心配そうに見つめる。


「大丈夫だって。あいつ、勉強以外では土壇場に強いし」


そう答えたものの自信はない。公園での出来事以来、夏希は露骨に俺を避けていて、あれから話ができていなかった。


スタメン落ちもありえる。そもそも、試合に出してもらえるのか?

また夏希の心配をしている自分に気づき首を振る。


練習が終わり、アナウンスで両校のスタメン紹介が始まった。


『戸有高校のスターティング5を紹介いたします。4番、奈津川麻里絵さん――』


ワーッと歓声があがる。


『5番、相原美姫さん。7番、田中美優さん』


次々と名前が呼ばれていく。


あと二人……。萩原さんは間違いなく選ばれるはず。次に呼ばれなかったら夏希はスタメン落ちだ――。


無意識に膝の上のこぶしを固くする。隣で彩乃が目を瞑り、祈るように手を合わせていた。


『10番、瑞沢夏希さん』


やれやれ、なんとかスタメン落ちは免れた。


最後に、ひときわ大きな歓声とともに14番、萩原楓さんと紹介され、うちのスタメン紹介は終わる。


『続きまして、天宮学園のスターティング5の紹介です』


その瞬間、さっきまでとは段違いの大歓声が轟いた。


ひとり呼ばれるたびに割れんばかりの拍手と歓声。見たところ、天宮のスタメンは最初に呼ばれた桜庭という人を除いて、長身が揃っている。


戸有高校で長身といえるのは萩原さんと五番の相原さんくらいで、その二人ですら桜庭さん以外の誰よりも背が低い。あの高さには相当苦戦するだろう。


『――十五番、ンディ・マティさん』


ぶっ! なんじゃそりゃ!


最後に呼ばれたのは、180センチは優にありそうな黒人の女の子だ。動きも軽快で、ただ背が高いだけじゃなく身体能力抜群って感じ。


「ずりぃー! あんな助っ人入れるのありかよ!」


「セネガルからの留学生だって。天宮学園って、毎年ンディさんみたいな留学生を入れてくるらしいの。他のメンバーも桜庭さん以外はみんな県外からのスポーツ推薦だし」


「そ、そうなんだ……」


彩乃は前もって調べてきたらしい。


なんか、戦うために集められた傭兵軍団って感じだな。監督も鬼軍曹みたいなオッサンで、偉そうにふんぞり返って座ってる。――うん、監督については潤子先生のうちが圧勝だな!


それにしても……天宮に勝ってもらわないと俺的には詰むんだが、心情的には応援したくねーな、あの学校……。


『それでは天宮学園と戸有高校の試合をはじめます』


大歓声のなか、いよいよ試合がはじまる――。


ジャンプボールは萩原さんと、あの留学生の子。高さでは不利だが、萩原さんのジャンプ力なら、あるいは……。


審判がボールを放り投げ、二人が跳躍した。


制したのは留学生。全身がバネって感じで、明らかに萩原さんより高く跳んでいた。


天宮の4番にボールが渡り、ゆっくりとボールを運ぶ。マークについたのは夏希だ。

向こうはみんな大きいのに、彼女だけが小柄。それでも4番ってことは相当の実力者ってことだろう。


「桜庭さん。エースでキャプテン。全国でもトップクラスの選手なんだって」


相手エースのマークを任せたってことは、潤子先生は夏希にまだ期待してる。夏希の調子が上がらなければ、そもそも勝ち目がないってことでもあるけど。


桜庭さんはドリブルしていないほうの手でフォーメーションの指示を出す。それを受けて、天宮の各選手は彼女から大きく距離を取った。


一対一で勝負するってのか? どこを攻めても高さの優位があるのに。


十分にスペースが空くのを待って、桜庭さんが仕掛ける。それを後押しするように天宮側応援団の大声援がこだまする。


「なっちゅわーん!」負けじとB組男子が野太い声援。すぐ隣では彩乃が「がんばって!」と声を出していた。


桜庭さんは緩急を巧みに使い、前後左右に揺さぶる。

ここで相手エースの出鼻をくじけばデカい。逆にやられたら勢いづかせる。


桜庭さんのモーションが一瞬大きくなる。夏希はその隙を突いて手を伸ばす。


あっ、バカ!


それは誘いだった。桜庭さんはボールを背中越しにまわして夏希の手を躱し、一気に抜き去る。他の選手がカバーに入るが、逆にマークが外れた選手へ絶妙のパス。ゴール下のシュートが決まり、あっさり天宮が先制。


んな簡単に抜かれんなよ! みえみえのフェイクに引っかかりやがって!


ハッ。何を熱くなってんだ俺は。


「ナイスアシスト!」パチパチと手を叩くと、近くの生徒から白い目。


……ごめんなさい。


気を取り直して今度は戸有高校のオフェンス。キャプテンの奈津川さんがボールを運ぶ。


天宮のディフェンスはマンツー……じゃない。萩原さんには二人がべったり。ノーマークになったのは夏希だ。完全に舐められてるぞ。


奈津川さんは無理に萩原さんへは出さず、フリーの夏希へ。


だが夏希は、せっかくノーマークなのに判断が鈍い。


シュートを打つでもなく、切り込むでもなく、無駄にダムダムとドリブルで時間を食う。そして桜庭さんがカバーに来ると、焦ってパスを出そうとして、天宮の8番にスティールされてしまった。バカ、なにやってんだ!


8番はそのまま速攻で無人のリングへ――これで4対0。そう思った、その瞬間。


矢のようなスピードで追いかけた萩原さんが背後から手を出して奪い返す。


そのまま敵陣に持ち込み、ディフェンスを二人をかわして、強引にリングへねじ込んだ。


このプレーには戸有高校側だけでなく、天宮側の観客も大いにどよめく。特に太田、女子に混じってキャーキャーうるさいったらない。ってかあいつ、どさくさに紛れて隣の女子とハグしようとしてやがる!


それにしても、やっぱ……彼女スゲーな。夏希が戦力になってない以上、勝敗の行方は彼女の出来にかかってる。


そこから試合は一進一退。


天宮は高さを生かした桜庭さんのゲームメイクで着々と加点し、戸有高校は萩原さんの個人技で食らいつく。第1ピリオド終了時のスコアは24対18。強豪相手に善戦と言っていい。


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