第24節 戸有高校女子バスケットボール部
放課後、体育館に着いたときには、すでに多くのギャラリーで賑わっていた。
新聞部の記事によれば、うちの学校の運動部が大きな大会でここまで勝ち上がったのは初めてのことらしい。さらに無名の公立校の快進撃ってことで、学校の外でも少しずつ話題になっているのだそうだ。
群衆の中に見覚えのある後ろ姿を見つけた。太田だ。
そっと近づき、肩をポンポンと叩くと、ビクッとして振り向く。
「な、なんだ拓也かよ。なんでお前がこんなとこにいるんだ」
「それはこっちのセリフだ。女子バスの見学だなんて、いったいどういう風の吹き回しだよ?」
「そんなもん応援に決まってるだろ。俺は愛校精神にあふれる男だからな」
「嘘つけ。どうせ校内新聞の写真で可愛い子を見つけて、その子目当てに来たんだろ?」
ギクッ。そんな擬音が聞こえてきそうなくらい、太田は実にわかりやすい。
「ち、ちげーよ! そんな不純な気持ちはこれっぽちもねー!」
「そっか。なんなら夏希か美咲に紹介を頼んでやろうと思ったんだが」
くるりと向きを変える。
「一年D組の萩原楓ちゃんです! オナシャス!」
太田は俺の腕に必死にすがりついてきた。
「ええい、離れろ。うっとーしい!」
「友達だろ! 親友だろ! 心の友だろ!」
「てか冗談だよ。そもそも紹介を頼んだところで、あの二人がOKすると思うか?」
「はーつっかえ」
太田は舌打ちして、腕から手を放す。
「なんだよなんだよ。ちょっと小早川さんとつき合ってるからってチョーシに乗りやがって! カァー、ムカつくね、その上から目線!」
周囲の女子生徒たちの冷たい、蔑むような視線が突き刺さる。それはまるで、テレビの雛壇タレントが“痛いオタク”の動画を見ているときのよう。声なんてかけなきゃよかった。
「キャー!」
突然、女子生徒たちの黄色い声がした。どうやら女子バス部員たちが続々とやってきたらしい。が、たちまち人垣ができてしまい、よく見えない。太田も俺のことなど捨ておいて、人ごみの中へと突入する。
「萩原さーん! がんばってーー!」
その中でも一際大きな声援を受ける子がひとり。萩原さんと呼ばれたその子は背が高く、俺の位置からでも顔がよく見えた。ショートヘアで整った顔立ち。中性的な雰囲気を醸し出しており、美人というよりは“ハンサム”という言葉が似合う女の子だ。
前にこっそり見に行った試合でも、夏希にも引けを取らないほど活躍していた。夏希と美咲が話していた“一年のスゴイ子”とは彼女にちがいない。
しばらくして人ごみから弾き出された太田が、ぼやきながら戻ってきた。
「まったく、どいつもこいつもミーハーで、やんなっちゃうね!」
「自分のことを棚に上げてよく言う。それに結果を出せば注目を浴びる。当然のことだろ」
「チッチッチッ」太田は指を振る。
「あんな連中と一緒にすんなよな。俺は楓ちゃんのことを、入学式のときから“新入生でトップクラスの逸材”だと――」
太田は言いかけ、目を見開き硬直した。視線の先を目で追うと、彩乃がやって来たところだった。
手を上げて彩乃を呼ぶ。すると彼女は人懐っこい笑顔を浮かべてやってきた。
「遅くなっちゃった。思っていたより、片づけに手間取ってしまって」
彩乃は入口前の人だかりを見て、「すごい人。ごめんね。わたしがもっと早く来ていれば……」と申し訳なさそうにする。
「いや、俺が来たときはすでにいっぱいだったから、変わんないよ」
「そうだったんだ。あ、お友達?」
彩乃は太田の存在に気がついた。
「はじめまして。小早川彩乃と言います」
彩乃が会釈した瞬間、太田は急速解凍された。
「は、はじめまして。拓也の大親友で、太田、太田寛治!」
「太田さんはA組の人ですよね」
「え!? 俺のこと知ってるの!?」
「よく拓也くんと一緒にいるところ、お見かけするので。二人は古いお友達なんですか?」
「こいつとは中学からのつき合いでね。会った瞬間から意気投合してさ! 水魚の交わりってヤツ!」
太田は腕を俺の首に回し、親指をグッと立てる。すげー交わりたくねえ。
「そうだったんですね」
彩乃はふふっと、楽しげに笑う。他方、太田は彩乃に顔を覚えられていたと知り有頂天だ。
「それじゃあ、なっちゃ……瑞沢さんともお友達なんですよね。今日は応援に?」
「へ? あ、ええ、もちろん応援にね! 瑞沢の応援団長だから、俺は!」
おいおい、お前の目当ては萩原さんだろうが。なんて調子のいいやつだ。
「でも、残念ですけど今日は見学できそうにないですね」
「いいや、だいじょーぶ! この太田寛治に任せて! いい方法を知ってるから!」
「いい方法? なんか手だてがあるのか?」
「まあな。任せておけよ」
太田は自信満々に、胸を拳で叩いた。




