第23節 夏希の異変
「それでね、それでね。そのとき紗南がね――」
俺たちが家を訪ねたあの日以来、彩乃は積極的に喋るようになっていた。家族の話なんかをされると、気のおけない関係になったんだなあって気がして実に感慨深い。
その代わりと言ってはなんだが……。
視線を移す。
一方、夏希は変だ。終始無言で弁当を食っている。箸を置くたび、怪我でもしたのか親指でテーピングをいじっては離す。モシャモシャと口を動かしている様はさながら草食動物のようだ。
なんだかボーッとしていて、話がちゃんと耳に入っているのかすら怪しい。以前は一人で一方的にペラペラしゃべりまくっていたくせに、ここんところは三人でいても口数がほとんどない。
「ごちそうさま……」
夏希はまだ半分近く残っている弁当箱を閉じ、そっと脇に置いた。
「おいおい。そんなに残して晩飯まで持つのかよ。練習、遅くまでやってんだろ?」
「……食べ過ぎると動きが鈍るから。八分目にしてるの」
「八分目って、半分以上残っていたじゃねーか」
「なっちゃん大丈夫? 体調が優れないのなら、保健室に行く?」
「大丈夫だって。ちょっと残したくらいで、二人とも大げさすぎ」
夏希は両手を水平に広げ、シュタッと跳ねるように立ち上がった。くるりと向き直る。
「じゃあ、あたし先に戻るね。練習のことで先輩と話すことがあるんだ」
「あ、だったら私も教室に……」
立ち上がろうとした彩乃を押しとどめるように、夏希は手のひらを突き出す。
「いいって。あやのんは拓也と一緒にいなよ」
またねと手を上げ、貼りついた笑顔のまま、足早に校舎の中へ消えた。
食事を終え、彩乃は弁当箱をしまうと、夏希が座っていた場所に視線を落とす。
「なっちゃん……本当にどうしたのかな」
「もうすぐベスト4を懸けた試合があるらしいから、それでピリピリしているんじゃないかな。相手は例の強豪らしいし」
我が戸有高校女子バスケ部は順調に勝ち上がり、見事ベスト8まで駒を進めている。美咲の話だと、夏希はエースとして立派にチームを牽引しているって話だが……。
「そう、なのかな?」
彩乃は釈然としない様子で呟く。
「うん。武者震いってやつだって」
口ではそう言いつつも本音は違う。夏希は緊張してメシが喉を通らないなんてタマじゃない。むしろ相手が強ければ強いほど闘志を燃やすタイプだ。どうしちまったんだ、あいつ。
「ねえ、拓也くん。放課後、時間ある?」
「え? 特に用事はないけど」
「良かったら、バスケットボール部の練習を見学にいかない?」
「ああ。いいよ」
二つ返事で答えた。例の賭けの件もあるし、チームの仕上がりを確認しておきたいところだ。
「じゃあ、わたし六時限目は移動教室で、ホームルームが遅くなりそうなの。拓也くんは先に体育館に行ってくれる? わたしもできるだけ急いで行くから」
「りょーかい。じゃあ、放課後に」
俺は紙パックのカフェオレを一気に飲み干した。




