第43話 魔法の石
「先に事実確認をしておきましょう。わたくしは紛れもなく魔法少女マナですわ。元ですけれど」
「脱退したっていうこと……?」
「いいえ」
笑みを浮かべたままマナは語る。
「脱退はできませんわ」
「できないって何? 魔法少女を辞めていく人が今までもいたじゃない!」
「貴方は知らないでしょう。魔法少女は脱退しようとすると、死にかけますわ」
「……は?」
間が抜けた声を上げるユイカの表情を見ると面白そうにマナは手を叩いた。
「やはりご存知ではなかったのですね。嬉しいですわ! わたくしも知って驚きましたもの!」
「ちょっとまって、ちゃんと説明をして」
「仕方ないですわね、するに決まっているでしょう。まず、わたくしは魔法少女を辞めようとしましたわ。ですが何ということでしょう! わたくしは首が閉まり、言葉が言えなくなるのです。不思議でしょう? 面白い事実でしたわ」
「……それって、魔法少女を辞めようとしてもやめられない、っていう、こと……?」
理解が追い付けないのか困惑した表情を浮かべるユイカ。
「簡単に言えばそういうことですわね。魔法少女はなってしまったら辞めることができないことに気づいたのですわ。唯一残る方法は、死ぬことですわね」
「死ぬっ……!?」
突如、死という言葉がマナの口から簡単に放り出されユイカは困惑した。同時に、ユイカの脳内にミライの死が思い出される。
「魔法少女ミライがそれですわね。死ねばわたくしたちが使っているペンダントは壊れ魔法少女との契約は切れたことになりますわ」
魔法少女になる際に渡されるペンダント。そして変身する際に使い、ミライの時のように魔法少女が死ぬと砕けるペンダント。魔法少女と深く結びついているアイテムだ。
「そこでわたくしは考えましたわ。死ねば魔法少女であることを辞められるならば死ねばいいのでは! と」
「し、死んでまでして魔法少女を辞めたかったの……!?」
「ええ」
即答。
「冷静に考えてほしいですわ。怪物との戦いに巻き込まれ死と隣り合わせというのに死ぬことでしかその運命から逃れられないなんて酷な話でしょう?」
「そ、うだけど」
これにはさすがにユイカも否定はできなかった。
未だにマナの語ることは受け止められないが、ミライのように死ぬことでしか怪物と戦うことから逃れられないのだとしたら。
「ここからが大事ですわね。死ぬと言っても一瞬だけですわよ。でなければわたくしはこうして生きていませんわ」
既にユイカは話についていけていなかった。返事をする余裕もないままマナの語りは続く。
「ペンダントの中に埋め込まれている石。あの石には変身に必要な通り、魔法少女が扱う魔法と繋がっていますわ。いえ、魔法本体と言ってしまってもいいかもしれませんわね」
そう言い、一呼吸置くとマナはゆっくりと口を開く。
「では、この石の中身はなんだとお考えでしょう?」
「……なにっって……魔法の……」
「言い方を変えますわ。魔法の根源はなんでしょう」
「こんげん……?」
「よく考えてほしいですわね。人間が急に魔法を扱えるようになる自体おかしな話でしょう? どこからか魔法の元となるものを利用しているに決まっていますわ。わたくしは天才ですからこの読みは当たりましたのよ」
笑みをたたえたままだが、その言葉に続くものに強烈な違和感を覚えていた。嫌な予感のままユイカの表情が強張る。
「魔法少女の扱う魔法は怪物からの輸入品ですわ」
「輸入品……? 何を言って」
「わたくしたちの持っていた力は怪物の力ですわよ。お気づきになりました?」
「……え?」
未だにその言葉を飲み込めないユイカに対してマナは笑みを一層強める。控えめな笑い声から、面白そうに高笑いへと変わっていく。
「つまり! わたくしたちは魔法少女になった時点で人間であることを半分やめているのですわ!」
言葉の内容とは裏腹に昂揚した声によって吐き出された真実をひたすらに脳が拒否をしていた。
「驚きました? 石の中には怪物の幼体が埋め込まれていますのよ。そこから魔法を引き出すということですわね」
「……どういう、」
「人間と怪物の生命を結びつける役目がそのペンダントの中の石ですわ。まさに、一心同体。逆を言えば石の中の怪物が死ねば魔法少女は死に、魔法少女が死ねばその怪物も死にますわね」
かつて魔法少女ミライが死んだ瞬間にペンダントの中の石は砕かれた。あれもおそらく、怪物が死んだことだったのだろう。しかしこれはユイカが知ることはない。
マナの語りはさらに高められる。その熱意においていかれユイカの脳は追うだけで精一杯だ。
「さあ、ここからが大事ですわね。魔法少女が脱退しようとすると何故死にかけるのでしょう? 答えは簡単。契約を破棄すると中にいる怪物が死に、一緒に魔法少女も死ぬからですわ」
「死ぬ……?」
「実感が湧きませんわね? でも真実ですわ。怪物側としても死にたくない。人間の本能としても死にたくない。しかし契約を破棄してしまえたばお互いが死ぬことになる、事を予感して契約破棄文を言えないように働くのですわ」
「言えないってどういうこと!? 魔法少女をやめたいっていうだけでも……っがぁ!?」
その言葉を発したとたん、ユイカの声はさえぎられうめき声が喉の隙間からこぼれる。ほどなくして喉を抑えていた圧迫感は消え、浅い呼吸を繰り返す。
「貴方は馬鹿ですわね」
それを冷ややかにマナは見下ろす。
「ですがこれで貴方もお分かりになったでしょう? 絶対に魔法少女はやめられない。でもこれを上手く利用して私は魔法少女であることを辞めたのですわ」
「……え? だって、やめられない、んでしょ?」
息を吸い込みながらユイカは心底不思議そうに問う。
「……いいえ、やめられますわよ、ある方法でしたらね」
マナは勿体ぶるようにゆっくりと口の端を持ち上げた。




