第40話 魔法のペンダント
「……まって、まってください! える、ざはころさないで」
ユイカの弱弱しい声が聞こえた。その声に「うるせぇ」男は答える。
「おねがい、します。おねがい、します……だに、さん……あ……、りさん」
名前を呼ばれたのか女の方が視線をユイカに向けた。
「その願いのためにお前は何をする」
「なん、でも」
ユイカの声が弱弱しく響く。エルザの喉が押しつぶされていく。
「わかった。おいダニー離してやれ」
「ちっ、つまんねーの」
乱暴にダニーと呼ばれた男は手を離した。エルザの体がどさり、と音を立てて床に放り投げられる。
「ユイカに免じてお前は助けてやる。感謝しろ、エルザ」
そういう女の姿は白を基調としたドレスを身にまとっていた。白いうなじに一つ結びにされた髪が触れている。
「……お前」
女を見上げながらエルザは低い声を上げた。
「どこかで会ったことがあるかしら?」
「……無駄口は叩かない方が命のためだ」
女はそう吐き捨てるとユイカの方へ手を伸ばす。抵抗する様子を見せないユイカに触れようとした、その手が何かに叩き落された。
「……なんだ」
背後に殺気。とっさに手元から光を放ち女は後ろを振り向く。
光によって黒い霧のようなものが切り分けられた。
その先に、エルザが立っている。
「……速い? いや」
エルザの足元が異質なほどに黒い。それは蠢くと持ち上がり女へ迫る。
エルザがルヴァルトに対しても使った、影分身を使った最短の移動手段。影の魔法を元から知っていた女は今更動揺しない。しかし。
「なぜ、魔法が使える……?」
エルザは血をにじませながらも未だ制服姿だった。魔法少女は、変身してやっと魔法を使える。
目の前に傷が広がるのも気にせず変身もせずに影を使役する少女は。
「これは、どういうことだ……」
彼女の手にはもうペンダントは握られていない。
影が奥行きを作り、広がった。咄嗟に女は光の剣を形成する。そしてそのまま振り下げるものの、エルザの姿は消えている。
「あっ、これって変身に必要ってやつか?」
ダニーが先程エルザが落としたペンダントを拾い上げた。それを見た女は声を上げる。
「ダニー! そいつを壊せ!」
「へいへーい」
魔法少女の生命と連動しているそれ。
ダニーがペンダントを握りしめる手に力を籠める。そのまま破壊するつもりだろう。しかし、ダニーの目の前で真っ白な光が出現した。
遅れて、何かが爆発するような音が響き渡る。煙が発生し思わず、それを見ていた女は目を細めた。
「……なるほど」
女は静かに呟く。そして、煙の狭間から現れる人影が二つ。
「やはりエルザ、お前は……」
「ちっ爆弾かよ!」
女の呟きを遮るようにダニーの声が響き渡った。
女の目の前にエルザが現れる。長い黒髪が爆風になびき、女の視界を覆う。血を流しているというのに表情は変わらず女を見つめていた。
影が、舞う。
「……今の魔法少女にこれほどの人間がいるとは思わなかった」
「ご冗談が上手いのね。元から私はこうよ。──知っているでしょう?」
光と影が交差する。お互い表情を変えずに二人は向き合う。
「人違いじゃないか? 私の記憶にはお前みたいなガキは存在しない」
「年齢差も変わらないでしょう、魔法少女アカリ」
その名を呼ばれた瞬間、女は不快そうに顔を歪めた。
「その名は捨てた」
「面白いものね。貴方こそ私より積極的に活動していたというのに?」
光が強まる。吐き捨てるように、アカリは語気を強める。
「それ以上は慎め、エルザ」
「ヒカリが、泣くわよ」
「……っ!」
エルザの影が浮遊した。アカリの立つ場所に迫り、思わずその場を立ち退く。顔を歪めたままアカリはその手に浮かべる光に力を込めた。
その時だった。ダニーの張り上げた声が響き渡る。
「アカリ! これいいんだよな?」
煙が晴れる。
そこにはユイカを拘束したまま持ち上げるダニーの姿があった。エルザとアカリの手が止まり視線が集う。
「よくやった。エルザはこの際どうでもよい。お前は早く行け」
「……ユイカ!」
エルザは一歩を踏み込む。影が地面を走り、ダニーに迫る。しかし、ダニーの姿は闇に溶けるように消えていく。
「……エルザ」
その手を伸ばし影が伸びるもののそれは届かない。
消えゆく中、ユイカはエルザに向けて微笑みかけた。かすかに目を見開くエルザの瞳が闇に染まる。笑顔を焼き付けたままユイカとダニーの姿はすぐに消えてしまった。
エルザの影が行き場所を失い霧散する。
「なるほど、ね」
二人が消えた後、エルザは静かに呟いた。そして、目の前に立つアカリの方へ視線を向ける。
そういえば10万字超えましたね。我ながらおめでとう。




