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終焉の魔法少女 ~ひび割れた13のウィッチ~  作者: キハ
Fate2 少女は夢を願った
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第38話 星を見る

 持ち上げていた頬を下した。どこか抜け落ちたような顔で彼女は歩き続ける。

 ふと彼女の足元の影が蠢く。


 先刻言われた言葉が、脳内に蘇る。


 風が、強まった気がした。どこからか気配を感じユイカは顔を上げた。


「やっとみつけたわ」


 見覚えのある黒髪が視界に入り彼女はゆっくりと笑みを浮かべる。その名を呼び疑問を口にする。


「どうやって私を見つけたの?」


 目の前に立つのはエルザだった。風貌こそ変わらないが魔法少女としてではなく学生服を身につけていた。


「今それは話すべきことではないわ。それよりよ、弁解を聞かせて頂戴」


「……そっか」


 ユイカはそれでも笑みを浮かべている。


「貴方は知っているのでしょう? 貴方の監視役が私だということを」


「まさか。そもそも監視がいたのも知らなかったな」


「もっと上手な嘘をついた方がいいわよ」


 ユイカの言葉を即座に切り捨てるとエルザは「どこから話せばいいのかしら」とつぶやく。


「……そうだね、ねえエルザ」


 ユイカがこれからしようとしている話を感じさせないほどの穏やかな声音で続けた。


「星を、見ない?」




 日はすっかり沈んでいる。

 青に染まった地面に一歩踏み入れると、正面から風が吹き抜けエルザの髪を靡かせた。

 既に数歩先にいたユイカが振り返る。笑みを浮かべて手を振った。


「ね、いい気分でしょ?」


 返事など重要ではないのだろう。エルザはため息をつくとユイカの立つ場所へ歩みを進めた。

 フェンス越しに明かりが宿った家が連なるのが見える。


「話がしたい、と言っただけのはずよ」


「いいじゃん。こういうところで秘密の話をするの」


 風が再び吹き付ける。地面が遠く見えるここは学校の屋上だった。しかも、既に使われていない学校である。


「私ね久しぶりに母校に来たかったんだ」


 視界を少し下に向けると芝生が既にあれてしまっているグラウンドが映る。


「ユイカが通っていた学校かしら?」


「そう。小学生の時だね。卒業した後にすぐになくなっちゃって。近いうちに取り壊すって聞いたから」


 誰にも忘れ去られているのか鍵の手入れも行き届いていなかった。それこそ校門は勿論屋上への扉でさえも簡単に開けてしまったのだ。


「……そう」


「あそこの校庭でよく、遊んだんだ」


 懐かしい口調でユイカは語る。


「今思えば普通の小学生が魔法少女なんてやってるからわからないもんだよね」


 しかも裏切りまで、とはさすがに口をしなかった。エルザはユイカの口から語られるのを待っている。


「まだ、星見えないね」


「そもそも私は星を見るのを目的にしてないわ」


「つれないなあエルザは」


 ユイカは声を上げて笑った。先程からずっと笑みを浮かべている。


「……ねえ、さっきのこたえ」


「何のことかしら?」


「エルザが私を見張ってたのに気づいたかっていう話。もしかして、あの時もエルザはいたの?」


「該当することが多くていつの話か分からないわ」


「最初に私があのビルに行った日だよ」


 ユイカの方からすぐに話の本筋に触れたのは意外だった。妙に爽やかな表情でいる彼女の横顔を伺いながらエルザは思う。


「あの時確かに気配がしたんだよね。でも全然見当たらなくて。エルザだったら納得だなーって、びっくりしちゃった」


「おそらく私だと思うわ」


「やっぱそうなんだ。ちょっと怖かったかも」


 茶化すように肩をすくめて見せる。先程から調子が合わない。


「一つ確認させて頂戴」


 エルザの方から話を切り出す。間を埋めるかのように風が通り二人の髪を揺るがしていく。


「怪物を意図的に生かしたことは事実かしら?」


「生かした、かぁ。どうだろう」


 ユイカはうーんと首をひねる。


「でも、とどめを戸惑って生きちゃった子もいるかもしれないね。覚悟もできない人間だから」


 曖昧な返しをするとねえ、とユイカは続ける。


「知ってた? 怪物って元人間なんだって」


 その言葉に含まれる重さなど感じさせないぐらい軽快な口調だった。他愛のない話を振るかのような、雰囲気を持つ。


「それは初めて聞いたけれど……情報源はどこかしら」


「大事なことを忘れてるよ。私は裏切り者でしょ?」


 明るい声で笑い声をあげる。


「怪物側の人間だよ」


「仮にそうだとしても貴方に本当のことを話す可能性は低いでしょう?」


「……そっかぁ、たしかにね」


 気づかなかったな、とユイカはつぶやいた。


「でも、元人間でも何でも私はさ、怪物を助けたかったんだよね。助けたかっていうのかな」


「同情でもしたということ?」


「同情って言われたらそうなっちゃうのかも。でも本気で思ってるよ」


 でもそれであんなことになっちゃったなら意味ないね、と彼女は乾いた笑いを浮かべた。


「ただの独り言だと思ってほしいんだけど、私が怪物を浄化するときに何となくわかるの。それが勘違いなんて言われたらそうかもしれないんだけど、なんだろうね」


「……──」


「消えるというのに、なんだか苦しみがなくなったような落ち着いた感じで怪物が消えていく感じ。それこそ文字通り浄化というか。成仏?」


 エルザは黙ったままだ。


「そんなこと思ってからさ怪物にも心あるんじゃないかなーとかだったら何考えてるのかな、とか。怪物が苦しみから解き放たれるなら浄化して成仏させるのも救いなのかなとか」


「怪物は霊的存在でもないでしょう」


「あっはは、比喩だよ。いや比喩にしても感覚的に成仏に近いなーとか本気で思ってるよ」


 ユイカを少しずつ言葉を選ぶように続ける。


「怪物と対話が可能かなって考えてたの。上手くいけばお互い闘わずに共生できるでしょ。夢物語じゃんって諦めてたんだけどさそんなときに出会ったのかムッシュボルトさんだったの」


 ムッシュボルト。彼の口ぶり的にそこまで信頼するべき人間ではない、とユイカはわかっていた。わかっていたがなお。


「ぶっちゃけ怪しいでしょ? でも少しでも話ができる人がいたら聴きたいと思って話をすることにしたんだ」


「私が来る前まではそいつと長話をしていたというわけ?」


「悔しいけど、そうなるね。今思えば怪しむべきだったな。怪物を研究している人って聞いたんだよね」


 怪物を結晶体に閉じ込めている男。その時点で疑問を抱くべきだったが、怪物対策省の人間だと名乗ったという。魔法少女の存在を黙認し怪物による事件を防ぐために存在している組織。そして、怪物の研究をしているといわれる。


「……確かに、対策省自体は存在しているわね」


 対策省自体の存在は公にはしられていない。しかし、エルザは魔法少女の中でもかなり長い期間残っている一人である。魔法少女のバックアップのような存在がいることは知っていた。


「まぁ信じる私も馬鹿だったんだろうね……。頭を冷やして考えてみたの。あの人は私に魔法少女なら心配ないと言ってた。それを信じていたらミライが……っ、私本当にどうしてあの場にいなかったんだろうって」


 先程まで軽やかに話していたが少しだけ語気が乱れた。無理やり笑みを浮かべようとしている気配がする。


「そういえば、あの時任務終わったんだねって送ろうとしたんの」


「……私たちが、最初の怪物を倒した時かしら?」


「たぶん、そう。映像を見せてもらってたんだけどヒメカが倒してた時だったかな。連絡は来てたの知ってたから返そうとしたけど電波が悪くてだからあれほど迷惑かけてるなんて知らなくて……今更、いまさら」


「ユイカ」


 エルザは落ち着いた口調でその名を呼んだ。


「それならまだ、やるべきことはあるわ。貴方は今のところ裏切り者ではない」


「……やるべきことね。どっちにしろミライをあんな目に遭わせた原因だから私は、」


「まずは状況を正確に私たちに伝えることよ。ルイがそうしようとしていたけれど貴方は来なかったじゃない」


「……ルイ? いつの話?」


 心底分からないのかユイカは眉をひそめた。


「……夢での招集がかかったの。貴方にも届いているはずよ。そもそも、ルイの魔法ならば拒否はできないはずだから」


「届いていた……? 最近? それにしてもおかしいな……ルイの招集って強制だからもし私が拒否しようとしてもできないわけだし」


「……そう。忘れて頂戴」


 埒が明かないのかエルザはそういった。しかし、同時に二人の心には疑問が浮かんでいるのだろう。

 しかし、それを破るかのように再びユイカは口を開く。


「もし、怪物を人間に戻せるって言ったらどうする?」


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― 新着の感想 ―
夢の招集に気づかなかった???? これまた謎が一つ……ユイカちゃんがそもそも魔法を使えるのか、もしくはまだ人間なのか疑問に思うような事態ですねぇ。 そんで……人間に、ねえ。 そうなれば理想的だけど魔…
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