第33話 偽装された死
「まず、みんなが集まったところで言っておきたいことがあります」
ルイの言葉が夢の中で響き渡る。珍しく口数が絶えない少女たちも、その声音に真剣に聞き入ろうと決めたのか話を止めた。
「……謝らせてください。私が、あの時にルヴァルトさんを殺していれば、あれ以上傷つかなかったです。本当にもうしわけ──」
「ルイ先輩のせいじゃないっすよ!」
謝罪を遮るかのように一声を上げたのはルナだった。
「それを言うなら全然戦力にならないどころか守ってもらってたわたしが謝るべきです! 誰のせいでもないです!」
「──そうよ。あたしも、足手まといだったし? むかつくわほんとに! あたしの顔面に傷をつけやがって」
ヒメカが敵意のこもった声で吐き捨てると、でも、と続ける。
「そもそも、あたしたちがこうなったのもあいつのせいでしょ?」
あいつ。その言葉に魔法少女たちの間で空気が重くなった。
誰も何を言おうとしない中ヒメカの悪態が続く。
「ねえなんで、あいつを呼び出せないの? あの時も来なかったわけだし戦犯でしょ」
「ヒメカちゃん、関連付けるにはまだ早いね。そもそも私たちを全滅させようとしたらユイカちゃんは黙って連れられてこないんじゃない?」
この場に似つかわしくない軽い口調でユキが入るとヒメカはわかりやすく舌打ちをした。
「そんなの知らないわよ。どっちにせよあいつがこないから死にかけたんでしょ、実際死んでるし」
「……まって、そういうことを言いたかったんじゃないんです私は!」
ルイが慌ててはいるものの、ヒメカは「あー今すぐ出てきてほしいわね、ぶん殴ってやるのに」とヒートアップが止まらない。
「ちょっとさすがに穏やかになりましょう皆さん。話を聞かない限り断定するのは早いでしょう?」
穏やかな声で聡しに入ったのが一人。カノンは「私も一言言わなければ気が済みませんが、殴るはちょっと……」と苦笑した。
「あんたが一番目の前で見てたのにそんなこと言うんだね、薄情すぎんでしょ」
「中々きついなぁ……ヒメカちゃん。怒れば情があるというわけではないですよ」
ふふっ、と微笑むと「でもまあ殺すとは言わないのはヒメカちゃんなりの優しさですね」と続けた。
「みんな! ユイカちゃんに関しては私が後で話を聞いてくるよ! 説得もする! とにかく今は私たちの数を減らさないことが大事だと思う」
ヒカリが場を仕切るように大声を上げると「そうだよね?」と同意を求める。
『……そう、エマがいてくれたからよかったものの、ここで下手に揉めてまた集まらなくなったら良くない』
その言葉にずっと見守っていたエマはどこか気恥ずかしそうに肩に力を入れる。
ヒカリは「そうそう!」と頷くものの再びヒメカが「はー?」と声を上げた。
「敵か味方かわからない人間に何求めてんのよ? 頭おかしいんじゃないの?」
「き、気持ちはわかるけど現状ユイカちゃんがいなくなったら困るし、私としてもちゃんと向き合いたいんだ」
「向き合いたい? 向き合うって言ったって限度があるでしょ」
「おい、言い合いはどうでもいい。一つ確認したいことがある」
ヒメカとヒカリの間に入ったのはレンだった。どこか険しい顔で続ける。
「ミライは死んだんだよな?」
あまりにも直接的な表現だったのか、再び一同が静まり返った。
「ニュース見たか? なんだよミライ引退って。デマなのかあれは、それともあたしたちが見たものが幻って言いたいのか? ふざけんじゃねえぞ」
「たしかに……」
「わたしもレン先輩と確認しました!
「あ、あの、わたしも見たんですけど……!」
先程まで会話には入れていなかったエマが思わず、といったように声を上げた。
「もしかして、過去の引退魔法少女も亡くなってる可能性とかあるのかな……って、それともミライさんはどこかで生きているんですか! メルルさん!」
『……残念ながら、ミライはもう』
「ならなんで引退なんだよ、てめぇ舐めてんのか? そもそもミライの家族にはなんて説明してんだ」
レンの怒りの矛先はメルルに向く、しかしそれを静かにいさめるためにエルザはため息をつくと口を開いた。
「大前提、まともな親なら私たちが魔法少女をやっている時点で止めているはずよ」
「あんた! あたしの親がまともじゃないとでも言いたいの? こんなに可愛い姿の娘が見れるなら嬉しいってもんでしょ親も!」
「そのつもりはないんでしょうけど、間接的に言われると複雑なものがありますね、もう少し柔らかい表現にしましょうかエルザちゃん」
感情的になるレン、ヒメカと対照的にカノンはどこか落ち着いていた。眉を下げて微笑みまでたたえている。
「おそらく、エルザちゃんは古参ですので知ってますよね。魔法少女の死は異常なまでも隠されていることを。おそらく、偽装ではないかと踏んでいます」
「偽装? これまたきなくせぇ話じゃねえか、何で知ってんだよてめぇは」
「私たちは何度か仲間が消えるところを見ていますので。目の前で消えてしまったのはさすがに初めてですが」
「まって!」
どこか他人事のように語るカノンに対してヒカリが話に入り、
「今まで引退だといった魔法少女たちはし、死んでる可能性なんてないよね!?」
と聞くとカノンは瞳を伏せた。
『全部がそうではない、けど……』
「あ? 何ごちゃごちゃ言ってんだよ白黒つけようぜ。あたしたちの目の前で仲間一人死んでんだ。隠し事はもう終わりだ」
「ちょっとま、まってください!」
「そうですよレンさん、ここにはまだ入ったばかりのエマさんが……」
「は?」
ルイが会話にも参加できずに呆然としているエマを気にかけたのが声を上げるもののレンににらまれる。
「ならなおさら必要だろ」
「ま、待って一回みんな待とう? うちは馬鹿だからわからないんだけどさ、これエマちゃんの歓迎も兼ねてでしょ? こんな思い話やめようよ」
「そうね、本来ユイカの話とエマ……ちゃん? に関しての話だったはずよね、はじめからこんな話したら戸惑うじゃない」
先程まで黙っていたアオイとサラが声を上げる者の今度は笑顔を浮かべて聴いていたユキが「まあまあー」と一声を上げる。
「下手に会話して不安がるのも馬鹿な話じゃないー? ここはひとつ、聞きたいことを全部メルルにぶつけよう。君たちは会話を止めるの禁止。 エマちゃんも聞きたいことたくさんあるだろうしねー?」
「そうですね、さすがユキちゃん。私も頭を冷やさなければいけません」
続けて微笑みを浮かべたのはカノン。この場において笑みを浮かべていられているのはこの二人のみだった。
彼女二人の笑みは強がりかはたまた自然の産物か。
「じゃあ、私からねー。単刀直入に聞くけど、今までも魔法少女の死亡事例はあったでしょう? 例えばミライちゃんが入る前に魔法少女が空いていたことがあったよねー?」
笑顔のまま気になっていても言いづらいことを簡単に聞いてのけるのはユキ自身の肝の太さと言ったところだろう。
『……事実から言うと、そうだね。あの時も運がよくミライが入ってくれて怪物を倒すことができた』
いとも簡単に肯定されてしまっては魔法少女たちの顔色が失われていく。そんな中ユキはあっけらかんと笑い声をあげた。




