閑話2 結界魔法と備蓄怪物
結界魔法。文字の響きでは身構えたものの、そこまでの相手ではなかった、とエルザは目の前に立つムッシュボルトを見つめ思考をめぐらす。
魔法少女をはじく結界は成功していた。しかし、内部での爆発で簡単に解いてしまうほど相手の魔法練度は低い。
そう結論付けてしまうのは簡単だった。あまりにも簡単すぎる。自身の体を結界で固め防御壁としているその技術を見るには違和感が生まれていた。
周囲の怪物は一瞬で片付けることができる。しかし、永遠に石のストックがあるのかなかなか距離を詰めることができない。
「お前は気づいているのか」
突如、声をかけてきたムッシュボルトに対してエルザは冷たい双眸を向けた。
「気づいているわ、とでも言おうかしら」
「そうか、やはりそうか」
不快な笑い声をあげるとムッシュボルトはエルザに向き直る。お互いむやみに手を出せない状況。自然と会話というのは生まれる。
「それなら私がここにいる意味はない。勘の鋭いお前ならわかるだろう」
表情一つ動かさずに目前のムッシュボルトに視線を向け続ける。エルザの内心では、既にわかっていた。
分かっているが故に。
「敵前逃亡でもするの?」
エルザの背後にそなわる影が持ち上がる。
「冗談はよせ。お前はわかっているのだろう? あの魔法少女は、そのうち死ぬ」
「その筋書きを書いたのはどこの誰かしら。心配はいらないわよ、ユイカを責める前に貴方たちを潰すから」
「筋書き? 何を言っている。私の話に了承した時点で仲間を見殺しにした時点であの女の自業自得だ」
エルザの返答はなかった。代わりに周囲の影がゆらりと揺れたかと思うと一斉にムッシュボルトのもとへ向かう。
結界での防御がどれほどかはわからない。一歩踏み出しエルザはさらに距離を詰める。対話は無駄なのだ。
影がムッシュボルトに触れるものの、ダメージを受けた様子はない。やはり、彼の結界魔法はあれほど簡単に破れるものではないのだろう。
(……これは、乗せられたというべきかしら)
距離を詰めた分だけ相手を覆う影の面積は増える。新たに出現した怪物ですら一瞬で切り裂く。あと数歩。ムッシュボルトに届く──その時。
「……時間切れだ、魔法少女エルザ」
伸ばした指先は空中でぶつかったかのようにムッシュボルトに届かなかった。
結界、そう気づいたその時には周囲に怪物が宿った石が投げられていた。孵化した怪物が視界を覆う。
影が舞う。石は二度切りつけられる。一度目は石に打撃を、二度目はそこから生まれた怪物を切り裂く。
しかし、その一瞬の間でムッシュボルトは消えていた。
「……あら」
最後の石が、地面に触れる前にエルザはその意思をつかみ取った。影を発動させる前に掴んだ理由は、単なる興味本位なのか。
「それにしても孵化前の怪物を閉じ込めておくなんて粋な技術があるのね」
薄暗い照明に照らされる中、黒き光を放つ石はどこか禍々しく、幻想的に映った。
そっと握りしめると、エルザはそれを胸元にしまった。意識を公園にひそかにおいてきた影分身に向ける。
影の間ならば、彼女は移動できるのだ。風が舞った、と思ったその時には影に溶けるようにエルザの姿は消えていた。
お読みいただきありがとうございました。閑話はこれにて終わりです。
まもなく閑話休題……と言いたいところながらも、私事で恐縮ですが一週間ほど更新を遅らせていただきます(二度の報告となりますが)
数話ほどはすでに書き上げていますがストックがすぐに尽きてしまうと思われますので、学業と両立させながら十分な確保を図ろうと思います。
本当にここまでお読みいただきありがとうございました。これからもどうぞよろしくお願いします。




