第30話 十三の魔法少女
思わずそのまばゆい光に戦闘が中断されるほど皆は目を覆う。
ルヴァルトが思わず目を見開いた。魔法少女の各々は喜びにも悲しみにもとれるような複雑そうな表情を浮かべていた。
それを吹き飛ばすかのようにエマの周囲に木々が振動しながらしなやかに伸びていく。
「えっ、わたしあの!」
『キミは、先代魔法少女ミライの魔法を継承した。それは植物を、操る魔法』
どこかマニュアルめいた口調なメルルと見比べながらエマは戸惑ったかのように周囲を見渡す。
植物が、揺れている。
「なるほどね。これが君たちの奥手ということ? 覚醒したばっかりの魔法少女なんて敵にもならないね」
先に動いたのはルヴァルトだった。固まっていた魔法少女を振り切り一瞬でエマの目の前に距離を詰める。
目を見開くエマの目の前でルヴァルトの全身が急に地面にもぐりこんだ。
「こちらの敵を忘れているわよ」
ルヴァルトの着地した地面が影に飲み込まれている。背後からの殺気。
「恵麻! 今のうちよ」
ルヴァルトの背後に刃が出現し一斉にエルザへと襲い掛かる。エルザの影も浮かびあがり叩き落すが、エルザの頬を一つの刃がかすめていく。
同時に、ルヴァルトを拘束する影も解けてしまった。
「……っ! わたしも!」
エマがそう叫んで念じただけだった。
ルヴァルトをとらえるように周囲の木々が呼応しルヴァルトへ向かう。繊細な扱いはできないのか近くの木々が一斉に向かうだけだったがそれでもエマにとっては十分だった。
木々に気を取られたルヴァルトの背後にいる魔法少女たちが顔を上げる。
やっと、揃った。13人が、やっとこの場に揃ったのだ。やることは一つ。
「魔法少女ミライのようにはいかないみたいだね、魔法少女……エマでいいのかな」
ルヴァルトがつまらなそうに木々を切り落としたその時だった。爆発音が響き渡る。エマの視界に映ったのはエルザが自身に手渡していたものと同じ、魔法少女の持つペンダントもどき。
メルルの声が響く。
『みんな! 今だよ! 魔法少女たちの! 力を見せるんだ!』
みんな決まったかのようにその首元から魔法少女の変身の鍵となるペンダントを抜き取った。中央に埋め込まれている石たちが輝きを放ち始める。
エマの持つペンダントも光を帯びていた。思わず目を細めるとその光は一直線に頭上に持ち上がる。
知っている。魔法少女が大好きな少女は、この後のことも知っている。そのことが初めて今まで何もできずに魔法少女に憧れていた気持ちを救ってくれた気がした。
エマはペンダントを握りしめ胸に寄せる。爆風が晴れ、ルヴァルトがゆっくりと視線を動かすのが見えた。
ルヴァルトを囲むように魔法少女たちが立っていた。
ペンダントから放たれた十三の光が空中を進み、頭上で一点に集まる。
──13人が揃う意味。魔法少女の本領が。
ルヴァルトの瞳が大きく見開かれた。その瞳に鮮明に光が映りこむ。
「……まって」
エマの耳が弱弱しい女の子のかすかな小声を拾った。しかしその声は続かずに光は強まる。
ルヴァルトはなぜか身動きできないのか光を見つめたまま表情を固まらせていた。
無慈悲にも光の勢いは強まる。
思わず、エマはその光景から目をそむけたくなった。勿論、自分が魔法少女になったからにはそのつもりでいた。憧れた、魔法少女ミライのためにも。
彼女は知っているのだ。この後に起きることを。
魔法少女エマとしての初めての使命だ。力を込めてその光の行方を見守る。
「……あーあ」
ルヴァルトがどこか諦めたように軽い息を吐いた。周囲の刃が光に照らされ薄く消えていく。
力を抜いた見えたルヴァルトの身体は、一気に光に貫かれた。
辺りがまばゆい光に照らされる中、最後に彼はゆっくりと口角を持ち上げた。
その唇は何を形どったのかわからない。その前に光が広がりルヴァルト自身を包み込む。
そして、ゆっくりと光が収束していく。
「……終わった」
誰かが呟いたその言葉が空気に溶けていく。光がゆっくりと弱まっていく。先程まで彼が経っていた場所には誰もいなかった。
魔法少女エマは知っている。
13人が集った魔法は、怪物の存在を消す魔法だと。
疲労だったのか安堵だったのか。エマは視界がぼやけるのを感じたと同時にどさりとその場に倒れこんだ。
「恵麻ちゃん!」
ミライの声がどこか遠く聞こえる。これが魔法少女の魔力切れなのかとエマは回らない頭で思い出す。
──そっか、わたしは魔法少女なんだ。
気づけば自身の口角が上がっていた。視界の端に心配そうなミライの顔が映った時にはそのまま意識を手放していた。




