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終焉の魔法少女 ~ひび割れた13のウィッチ~  作者: キハ
Fate1 少女は微笑み返した
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第26話 埋め合わせ

 浮遊感。爆発の影響で床が壊れたのかユイカは足元から落ちていく。一階ほど落下して床に叩きつけられるものの、彼女は魔法少女。それほどの痛みは負わずに多少の擦り傷を自身の魔法で回復させる。


 咳込みながら辺りを見渡す。幸い怪我は負わなかったが周囲から崩れ落ちる音がする。


「……大丈夫ですか!?」


 数歩先の足元。倒れこむ人影を見つけユイカは駆け付ける。


「ムッシュボルトさん! ムッシュボルトさん……?」


 ムッシュボルトだと思い駆け付けた直後にユイカは気づく。見覚えのない少女が力なく横たわっている。


「だ、大丈夫?」


 魔法少女として反射的にユイカは少女に片手をかざした。浄化の魔法が彼女を包み傷を癒していく。


「……あ、ありがとうございます……あの」


 彼女は荒い呼吸をしながら顔を上げユイカを視界に移すと表情が硬くなった。

 ユイカが首をかしげると彼女は焦ったように口を開く。


「魔法少女ユイカさん……助けてください」


「助けるって、何を」


 彼女が再び口を開こうとした時だった。


「まさかこの結界を通るとはな。……いや、魔法少女ではないのか」


 ムッシュボルト。彼の重圧的な声がユイカの背後から響いた。

 煙が晴れ、恵麻ごしにそのシルエットが現れてくる。


「誰だお前は。私と魔法少女ユイカの密談を邪魔しようとは良い覚悟だな」


「ユイカさん……お願いだから聴いてください、エルザさんが」


「エルザ? その名を知っているということは魔法少女の知り合いなのだろう? 名乗ってもらおうか」


「わたしは、緑野恵麻です。ただの一般人です……あのユイカさん」


 状況をつかめていないユイカが声を掛けられはっとする。


「今大変な状況なんです。今すぐ来てくれないと」


 その緊迫感のある声にただならぬものを感じたユイカは聞き返した。


「大変ってどういうこと!?」


「魔法少女ユイカ。その者の言葉には耳を貸すな」


 ムッシュボルトの声が重なり、ユイカの表情に戸惑いが増した。


「そこをどけ。私がその者を追い出しておく」


「言われなくとも出ていくわ。貴方を殺して」


 凛とした声が響く。ムッシュボルトが辺りに視界をめぐらすと同時に彼の足元の影が蠢いた。

 咄嗟に彼が後ろに退くとその場には影から現れた少女が毅然と立っていた。


「誰かしら? ユイカにいらぬことを叩きこんだのは」


 少女は静かに首を傾げ、その目は鋭くムッシュボルトを睨んでいた。黒いドレス、腰まで伸びる黒髪、鋭い眼光。


「魔法少女エルザか。何故、ここにいる」


「……何故? なるほど、結界に自信があったのね。でも残念。貴方は爆発で動揺して結界を解除してしまうほどには弱い」


 エルザの足元の影がゆっくりと持ち上がる。


「私も急いでいるの。出来れば目の前から消えてくれると助かるわ」


「それは出来ぬ約束だ」


「そう」


 エルザはそう言うなり、一気に踏み込みムッシュボルトに接近した。エルザの動きに合わせて影たちが実態となりムッシュボルトに襲い掛かる。


「……ほう」


 ムッシュボルトは身を翻し避け切ると胸元からきらりと光る尖った石を取り出した。


 着地したエルザの目の前に石が投げられる。しかしそれでも動じずに彼女は傍らの影で切り裂いた。


 しかし、その石は影に触れ細かい破片となった瞬間に闇を吐き出した。広がった暗闇から何かの生物が飛び出してくる。


 エルザは宙返りをして難なくその生物から避ける。床に叩きつけられた”それ”は、大量の目玉と歯に覆われている怪物そのものだった。

 いつも見る怪物よりは少し小さく感じるものの、その凶悪そうな見た目は魔法少女が対峙している怪物で見間違えはない。


「生まれたばっかの……怪物!?」


 見ていただけったユイカが驚いた声を上げる。


「怪物ってストックできるのね」


 そんな軽口を叩きながらエルザは一直線に向かってくる怪物に向かって片手を伸ばす。

 そして、怪物と触れるその刹那、手の真下に控えていた影が真っ二つに切り裂く。

 黒い霧が両者から噴き出し、力なく床に落下した。


「なかなかやるな、魔法少女エルザ」


「お褒めいただき光栄だわ。もっと言ってくれたって良いのよ」


 エルザは目ざとくまた胸元に手を忍ばせようとしているムッシュボルトに気づくと、すぐに足元の影が胸元に向かって迫る。


「おっと失敬。これはいけない」


 ムッシュボルトが身を翻す。影は標的を失って漂い、そしてまた向きを変えムッシュボルトへ向かう。


「なかなか手荒だな」


「怪物を手駒にする貴方ほどではなくてよ」


 ムッシュボルトは素早い身のこなしで再び回避すると既に石を取り出していた。


 しかし、エルザの片手から何かが投げ放たれる。一直線にムッシュボルトへ進む。


「……なんだ?」


 身に力を入れようとしたムッシュボルトの目の前でそれは閃きを放ち、爆音を鳴らした。

 強風がエルザの髪を揺らす。煙が再びあたりに立ち込めた。


「それって……」


「恵麻。私が本気で魔法少女のペンダントを渡すとでも思って? 残念ながらこれは小型爆弾よ」


 エルザの何とも思っていない平然とした声が恵麻の耳を通り抜ける。

 ペンダントだと思い込んでいた恵麻は爆発に巻き込まれたわけだが今こうしてユイカがいることで傷は消えているのは不幸か幸か。


「一言、先に言ってください……」


 恵麻の悲痛な声とともに煙が徐々に晴れていく。しかし、先程に立っていたはずの場所にムッシュボルトはいなかった。


 足音。


 エルザが背を向けている恵麻とユイカの方。そこからかすかな音が聞こえエルザが振り向く。

 そこには、案の定二人に接近するムッシュボルトがいた。


 エルザの足元の影が奔る。それよりも先にムッシュボルトがその手に持つ石を投擲していた。


 刹那。エルザの目の前に一人の少女が現れすぐに消えた。


 そして瞬きをする間に少女は恵麻とユイカの傍らに現れ、二人に触れる。


 ムッシュボルトの放った石が触れるその前に三人の姿は目の前から消えた。


 地面に石が落ちる。鈍い音と同時に石が砕け、怪物が出現する。

 怪物が雄叫びをあげた即座にエルザの影が両断し、最後の断末魔と化した。


「人使いが、荒いです……!」


 エルザの隣に肩で息をするハンナが立っていた。その傍らには立ち上がったばかりの恵麻とユイカがいた。


「上出来じゃない。感謝を言わせて頂戴」


「……だる」


 ボソッと呟いたハンナの魔法、瞬間移動によるものだ。さすがにここまで数秒の間に何回も使うと消耗は激しい。


「ハンナ。先にその二人を送れるかしら? 恵麻も戦場に送って構わないわ。ねえそうでしょう、恵麻」


「え、え、わたし」


「エルザさん。この子は一般人です……」


 呆れたかのように呟くハンナに対してエルザは動じずに答える


「何かあった場合の切り札よ」


 ムッシュボルトの石が再び放たれる。その瞬間にも影が呼応し怪物を無慈悲に切り裂き続ける。


「切り札って……そんなのあんまりじゃ」


「エルザ!? そうだよ、この子は」


「……あの、エルザさん」


 ハンナとユイカを遮ったのは恵麻自身であった。


「それが、わたししかできないことなら、わたしやります」


「ちょっと待って、一般人にできることなんて」


「あるわ」


 ユイカの言葉を静かにエルザはさえぎる。


「分かっているでしょう。ミライの、埋め合わせよ」


 ハンナが息をのむ音が聞こえた。一方、恵麻とユイカは理解が出来ていないようだ。それもそうだろう、彼女たち二人はミライの死を知らないのだから。


 ムッシュボルトの口元がゆがんだのにエルザは気づいた。


 気づけばハンナの目の前に現れた怪物が、影によって切り捨てられる。


「そうか。……そうか、やはり魔法少女ミライは死んだのか」


 ユイカと恵麻に驚愕が走った。


「ミライ……が!?」


「ミライさんが死んだ……?」


「そこの二人は知らなかったのか。無理もない。特にユイカ、お前。そのために私はここに呼んだのだから」


 ユイカの瞳が大きく見開かれる。それを見て楽しむかのようにムッシュボルトは口端を持ち上げた。


「魔法少女ユイカ。お前は魔法少女が戦い苦しむ中能天気に私と話していた。魔法少女ミライを見殺しにするためだったのだろう?」


「違う! だって貴方は言ったじゃない!」


 魔法少女を傷つけない。そして、戦いはヒメカによって勝利した、と。

 しかし、そのあとの言葉は口にすることができなかった。


 乾いた音とともにユイカの頭が揺れたからだ。目の前には平手打ちをしたハンナが怒った表情でユイカを見ていた。


「ハンナ。待ちなさい」


「ユイカさん……は、やっぱり怪物と繋がってたんですか? 私たちを裏切って」


「何を言って……?」


「ハンナ!」


「貴方がいれば! 私たちは13人揃って負けることもミライさんが死ぬことも……」


 なかった、と消え入りそうな声でハンナが呟く。


「そうだ。確かに、魔法少女ユイカは私に怪物のことを知りたい、といった」


「それはそういう意味じゃなくて!」


 ユイカが叫べば叫ぶほどにムッシュボルトはくぐもった笑いを起こした。


「じゃあどういう意味だっていうの? 私たちが戦っている間は貴方はこいつと怪物の話でもしてたんでしょ?」


「待って、私のせいでミライが死んだ……のは認める、けど戦ってるとは知らなかったの!」


 ユイカのその弁論でさえも目の前でミライの死を見たハンナにとっては届かなかった。嘘、という言葉がユイカの脳内を回る。


「口ではいいこと言えるよね。だって、貴方は戦ってないもの」


「お願い、私の話を聞いて!」


 その叫びすらも、頭に血が上っているハンナには届かない。

 ムッシュボルトの笑い声は続いている。


「……随分と楽しそうね」


 ため息をついたエルザは強く地面を蹴った。


「ハンナ、ユイカ、恵麻。貴方たちは今何をすべきか考えなさい」


 ムッシュボルトが再び石を掴む。宙を舞うエルザの影が自在に形を広げる。


「今はまず、目の前の敵を倒すことよ。ハンナは二人を連れて移動して頂戴。ユイカ、貴方はみんなの傷を治して」


 目の前で怪物が孵化する。今度はいつもより大きさがある、怪物に向かって影が再び襲い掛かる。


「私はこいつを殺した後に向かう。ハンナ。二人をよろしく頼むわ」


 怪物が目の前で霧散する。そのままムッシュボルトの目の前にエルザは着地すると影が鎌首をもたげムッシュボルトへ迫る。


 しかし、ムッシュボルトに触れたはずの影は攻撃に至らなかった。


「結界というのは私を守る鎧にもなるのだ」


 防いだその瞬間にムッシュボルトは再び石を取り出す。阻止しようとエルザの影がうねる。


「爆発程度で切れた結界なんて鎧にもならないわよ」


 影が石をとらえる。しかし、数個通り抜けた石が三人の付近に落下し、生まれた怪物が取り囲む。


「時間はないわ、ハンナ。行ってちょうだい」


 ユイカへの恨み。恵麻という一般人の扱い。それらすべてで頭がいっぱいだというのに。

 ハンナはエルザを人使いが荒い、と恨む。


「大丈夫よ。私は後で影分身でも使って戻るわ」


 エルザのその声と同時に、視界から三人の姿が消えた。同時に爆発音。エルザの投げた、石に模した爆弾が弧を描いた。

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― 新着の感想 ―
ムッシュくんのやってる事って(;゜Д゜) ブッチャケ真人の改造人間の使役に近いんじゃ(;゜Д゜) アゲてけよ魔法少女! なんて台詞が聞こえそうですが幻聴ですねハイ。 そんで……爆弾も使う魔法少女だ…
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