第18話 聖騎士なんて聞いてない
「ということでだ、とおる」
突如としてリディア・アルヴェインの執務室へ呼び出され、重厚な執務机の向こう側から、親愛の情がいくらか含まれているように聞こえなくもない一方で、扉にも窓にも天井裏にも床下にも逃走経路だけは一切残していない、いわば柔らかな布で包んだ鋼鉄製の命令書のような声で下の名前を呼ばれた壁山とおるは、椅子へ腰掛けるより先に、これは間違いなくろくでもない話の始まり方であり、今すぐ腹痛を訴えて医務室へ逃げ込むべきなのではないか、と心の中で極めて冷静に、しかし実行へ移す勇気だけを欠いたまま結論づけた。
白華隊の詰所へやって来てから、すでに一ヶ月が過ぎている。
その一ヶ月が穏やかだったかと問われれば、とおるは遠い目をしながら、穏やかという日本語にはいつから「夜明け前に叩き起こされ、朝食前に王都外周を走らされ、食後には木剣で殴られ、昼には術式理論を頭へ詰め込まれ、午後には盾を持って転がされ、夕方には報告書の書式を間違えて副官から睨まれ、夜には全身の筋肉が会議を開いて翌日の反乱計画を立てる」という意味が加わったのだろう、と逆に質問しただろう。
最初の一週間では、全身の筋肉がそれぞれ独立した人格と政治思想を獲得し、右腕は訓練続行に反対し、左腕は即時休養を要求し、両脚は白華隊からの離脱を主張し、腹筋に至ってはそもそも自分が存在していたことを今さら知らせてきたうえ、翌朝になると全員が結託して一斉蜂起するという最悪の労働争議が起きた。
二週間目には、第三席ゾロの笑顔を見ただけで、その日の訓練負荷が「少し厳しい」「かなり厳しい」「今夜は寝返りを諦めろ」の三段階のどれに該当するかを判別できるようになり、三週間目には、ミレイユの眉間へ刻まれた皺の本数、深さ、角度、左右差から、彼女の機嫌と疲労度と空腹具合、それから自分がこの後どの程度怒鳴られるのかをかなり正確に算出できるようになり、四週間目には、木剣を振りながら夕食の献立を考え、盾で攻撃を受け流しながら洗濯物の乾き具合を気にし、魔力弾を避けながら食堂で最後に残っていた焼き菓子を誰が食べたのか推理できる程度には、白華隊の日常へ順応していた。
もちろん、本人が望んだ順応ではない。
望んでいないにもかかわらず、身体と精神が生命維持のため勝手に適応してしまっただけであり、つまり人間という生物は恐ろしいもので、地獄へ放り込まれても、一ヶ月が経つ頃には拷問器具の配置を覚え、鬼の勤務交代時刻を把握し、食堂のおすすめ献立を比較検討できるようになるらしい。
その一方で、星の塔に関する王国上層部の対応は、表面上こそ静かでありながら、水面下では巨大な魚が何匹も互いの尾を噛み合っているような、慎重なのか混乱しているのか分からない状態のまま進められており、とおるは現在も、白華隊の臨時協力員という、響きだけ聞けば少し立派だが、実態としては「重要人物なので勝手にどこかへ行かせるな、ただし囚人扱いすると隊長が怒るため丁寧に監視せよ」という非常に扱いづらい立場で詰所に留まり続けていた。
外出には届け出が必要。
王都の書庫を使用する場合は、原則として白華隊員の同行が必要。
王宮魔導院による魔力および肉体測定は、痛みや後遺症を伴わない低侵襲のものに限定。
第六華隊による採血、毛髪採取、爪の切片採取、呼気採取、唾液採取、足跡採取、寝具からの皮膚片採取、睡眠時魔力波の測定、夢の内容を誘導する精神術式の使用、ならびに本人へ無断での食事内容変更は禁止。
最後の二行だけ異様なほど具体的なのは、ノクス・ヴァルドレインという人間が実際に何を申請し、リディアによって何を却下されたのかを余すところなく示しており、とおるはその禁止事項一覧を初めて読んだ時ほど、自分が白華隊の管理下に置かれていることをありがたいと感じたことはなかった。
もっとも、ありがたい管理と逃げられない管理は、外から見るとだいたい同じ形をしている。
「お前も一緒に聖騎士試験を受けたらどうだ」
リディアは、まるで「今日の昼食は食堂で構わないか」あるいは「窓を開けてもいいか」と確認する程度の自然さで、壁山とおるという一人の人間がこれまで慎重に、静かに、できるだけ他人へ気づかれないよう組み上げてきた人生設計を、基礎から丸ごと掘り返す提案を口にした。
とおるは黙った。
耳を疑った。
より正確には、一ヶ月に及ぶ訓練疲労によって自分の聴覚と言語認識機能が深刻な損傷を受け、本来ならば「干し芋試食会へ参加しないか」と言われたところを、脳が誤って「聖騎士試験を受けないか」と変換してしまった可能性を考えた。
しかし、残念ながら執務室のどこにも干し芋は見当たらなかった。
机の上にあるのは、報告書、隊員配置表、封印の施された書簡、王樹中枢院からの通達、星の塔に関する調査記録、それから壁山とおるの人生を本人の了承なく危険な方向へ折り曲げようとする話だけである。
「いや、“ということでだ”じゃないんですよ」
「何がだ」
「接続がおかしいでしょう。前段階の説明が何もないまま、俺の人生が聖騎士試験へ接続されました」
「今、説明している」
「まだ勧められただけです」
「ならば、これから説明する」
「順番が逆なんですよ。普通は説明をして、最後に提案するんです。最初に結論だけ置かれると、人は驚くんです」
「驚いたか」
「見れば分かりませんか」
「いつもとあまり変わらん」
「俺は普段からこんなに人生へ絶望した顔をしています?」
リディアは数秒、とおるの顔を真剣に観察した。
「している時はある」
「白華隊へ来てからですよ、それ」
「環境へ適応した証拠だな」
「絶望顔への適応を成長として数えないでください」
とおるは大きく息を吸い、落ち着け、と自分へ言い聞かせてから、改めて姿勢を正した。
「俺は、聖騎士試験を受けたいなんて一度も言っていません」
「だから今、勧めている」
「勧め方が、かなり命令文へ寄っています」
「提案だ」
「では、その提案を断った場合は?」
リディアは少し考えた。
その沈黙が短かったことを、とおるは喜ぶべきか悲しむべきか分からなかった。
「説得する」
「ほら、拒否権が形だけです」
「お前が納得するまで話すだけだ」
「それを世間では、逃げ道を塞いでから行う説得と呼びます」
「扉は開いている」
「物理的な話ではありません」
「窓もある」
「二階ですよ」
「お前なら壁を使えるだろう」
「逃走方法まで提案しないでください!」
とおるは首をぶんぶん横へ振った。
かなり強く振った。
意思表示としては、これ以上なく明確である。
人間は言葉で意志が伝わらない場合、最終的に身体表現へ頼るしかないのだが、目の前の隊長に対しては、これほど全力で首を振っても「首周りの筋力が少しついたな」「今度の訓練へ組み込めそうだ」程度に処理されるのではないかという不安があった。
そもそも、ここで断ったところで、どうせリディアは、「お前は自分の立場を考えろ」「村で起きたことを忘れたわけではないだろう」「星の塔の封鎖扉を開いた人間が、いつまで一般人の顔をしているつもりだ」などと、言葉の切れ味だけなら王国騎士団支給の長剣より鋭い、身も蓋もない現実を並べてくるに違いない。
自分の立場が危ういことは、とおる自身も理解している。
王国側から見れば、壁山とおるは身元不明の異邦人であり、魔力の存在しない世界から来たと主張しながら、その説明の途中では「電気」「飛行機」「携帯電話」「インターネット」「家庭用ゲーム機」など、聞き手にとって古代呪文より理解困難な言葉を連発し、王国でも開けられなかった古代遺構の封鎖扉を素手で開き、星骸巨躯から謎の声を聞き、前例のない境界干渉系能力を保有し、しかも本人はその危険性をあまり理解していない観察対象である。
並べれば並べるほど、辺境の村で壁を修理し、空いた時間には干し芋を食べ、夕暮れには一人で壁際へ座っていてよい人間には見えない。
本人の希望だけは、辺境の村で壁を修理し、干し芋を食べ、夕暮れには一人で壁際へ座ることなのに。
「聖騎士というのは、王国へ正式に仕える騎士ですよね」
「そうだ」
「王命を受ければ、魔物災害、国境紛争、反乱鎮圧、古代遺跡、危険な護衛任務などへ行かされるんですよね」
「任務による」
「白華隊なんて、王都でも一、二を争う激務部署ですよね」
「誰から聞いた」
「一ヶ月も暮らせば、聞かなくても分かります」
朝は早い。
夜番はある。
訓練は厳しい。
書類は多い。
外勤は危険。
緊急招集は突然。
隊長は真面目。
副官も真面目。
見習いは真面目を通り越して融通が利かず、第三席は笑顔で地獄の訓練計画を作り、食堂の料理人は隊員の消費熱量を基準に盛りつけるため、少食を訴えると「体調不良か」と医務室へ送られかける。
業務予定のどこを探しても、「一人で静かに壁を眺める時間」という項目は正式に設けられていない。
とおるが人生において大切にしてきた、「人とできるだけ交わらない」「目立たない」「平穏に暮らす」という三箇条は、白華隊へ正式加入した瞬間、王都外郭の廃品回収所へまとめて運ばれ、粉砕処理された後で建築資材として再利用されるだろう。
人生において、壁と向き合うことこそ幸福への第一歩であり、壁は話しかけてこない、壁は突然訓練予定表を渡してこない、壁は早朝に寝台から引きずり出さない、と本気で信じている人間が、何が悲しくて王都でも有数の働き者集団へ転職しなければならないのか。
しかも転職前の職業は、辺境村における便利な壁係である。
福利厚生、社会的信用、危険手当、死亡率、精神的平穏など、比較すべき項目が多すぎて、どちらが好待遇なのか判断が難しい。
「いや、リディアさんが最近、俺を名字ではなく下の名前で呼んでくれるようになったこと自体は、その、率直に言えば嬉しいというか、男として少し胸を張りたいというか、ちょっとだけ距離が縮まったような気がして、昨夜なんか思い出して一人で――」
「何の話だ」
「気にしないでください。心の声が、文章の途中から外へ漏れました」
「漏らすな」
「最近、表情だけでなく音声にも情報漏洩が起きています」
「訓練の疲労ではないのか」
「白華隊に来てから、あらゆる異常が訓練疲労で説明されるようになりましたね」
リディアは呆れたように目を細めた。
とおるとしても、呼び方が「壁山」から「とおる」へ変わったことには、多少なりとも感慨がある。
彼女なりに信頼してくれているのかもしれない。
少なくとも、村で初めて会った頃の「王命へ逆らい、騎士団長へ決闘を申し込み、正体不明の壁を出現させる得体の知れない村人」から、「王都まで連れてきて一ヶ月ほど観察した結果、口数が多く逃げ腰ではあるものの、一応は話の通じる得体の知れない臨時協力員」くらいには昇格している。
得体の知れなさは残っているものの、人間関係としては前進である。
その前進した先に、なぜか聖騎士試験の受付机が設置されているとは、さすがに予想していなかった。
リディアは椅子から静かに立ち上がると、執務机の脇へ回った。
窓の外では、世界樹の巨大な枝が王都の空を覆い、その葉の隙間からこぼれ落ちた午後の光が、執務室の床へ淡い模様を描いている。
白銀の甲冑ではなく、執務用の白い上着をまとった彼女は、戦場で剣を振るう時よりも幾分か柔らかく見えるものの、その立ち姿には若くして一隊を預かる者の揺るぎない芯があり、整った顔立ちの美しさと、部下の命を背負う者の厳しさが、矛盾することなく同居していた。
とおるは、こういう時のリディアが少し苦手だった。
怒鳴られるだけなら、「怖い」「理不尽だ」「帰りたい」と心の中で三段階の防壁を築ける。
しかし、真面目な顔で正面から向き合われると、こちらも冗談や言い逃れだけでは返せなくなり、普段は壁の向こうへ隠しているものを引っ張り出されるようで、どうにも落ち着かない。
「正式に白華隊へ迎え入れたいと思っている」
リディアは言った。
「お前の話を、今でもすべて信じたわけではない。魔力が存在しない世界、電気という力、鉄の塊でありながら空を飛ぶ巨大な乗り物、遠く離れた者同士が瞬時に言葉を交わせる小型の道具、世界中の知識を集めた見えない網、そして遊戯用の円盤を起動したことで、この世界へ飛ばされたという話もだ」
「ゲームソフトです」
「私には、どう聞いても遊戯用の円盤だ」
「円盤の中に遊戯用の情報が入っているので、完全には否定できないのが悔しい」
「お前の言う世界には、不可解なものが多すぎる」
「こちらの世界も、木が王都より大きい時点でかなり不可解です」
「世界樹を木と呼ぶな」
「木では?」
「話を逸らすな」
「はい」
リディアは小さく息を吐いた後、再び真っ直ぐにとおるを見た。
「それでも、お前が悪意を持って我々を欺いているわけではないことは、今では分かっている。お前は自分が危険に晒されると理解したうえで村人を守ろうとした。星の塔でも、逃げたいと言いながら我々を守るために力を使った。クルム村の避難にも協力し、自分の処遇より先に住民の家や畑や生活を気にかけた。言葉と態度には問題があるが、行動には一定の信用を置ける」
「最後に一度刺しましたね」
「褒めている最中だ」
「褒め言葉へ毒針を混ぜる流儀なんですか」
「事実を述べただけだ」
とおるは口を閉じた。
褒められることに慣れていない。
真正面から評価されると、どう反応すればよいか分からない。
前の世界でも、教師に褒められれば「いえ、別に」と小さく答え、周囲から注目される前に席へ戻り、友人に「嬉しくないのか」と尋ねられても「そういうわけではない」と視線を逸らすような人間だった。
異世界へ来たからといって、人間の根本構造が都合よく作り変わるわけではなく、ましてやリディアのように、自分の言葉へ責任を持つ人間から真剣な顔で評価されると、心の奥へ小さな火種を落とされたように、くすぐったく、居心地が悪く、それでいて少し嬉しいという、非常に処理しづらい感情が生まれる。
「今の世の中がどういう状況にあるかを考えた時、私としても、信頼できる部下を一人でも多く育てておきたい」
「部下」
「不満か」
「いえ、言葉の重みを確認しています。今まで村で壁を直していた人間が、騎士団長の部下候補として話を進められている現実へ、心が追いついていません」
「ならば身体だけでも追いつけ」
「そういうところですよ」
「センターブルーとの緊張は高まり続けている。星の塔の異常も収まっていない。黒いフードの構成体が、本当に青の大陸側によって作られたものなのか、現時点では断定できない。王国内部にも、古代遺構や星骸を巡って異なる思惑を持つ者がいる。白華隊だけで、そのすべてを解決できるとは思っていない」
そこでリディアはわずかに視線を落とし、机上に積まれた報告書へ目をやった。
「それでも私は、自分の目で見て、自分で信頼できると判断した者を、できる限り手元へ置いておきたい」
「俺、そんなに信頼されるようなことをしました?」
「少なくとも、逃げたいと言い続けながら、最後には逃げなかった」
「逃げる機会を見失ったとも言います」
「本当に逃げる者は、機会がなくとも逃げる」
「経験者の言葉みたいですね」
「騎士団には色々な者がいる」
「急に重い背景を匂わせないでください。聞きづらいでしょう」
「聞く必要はない」
「では匂わせないでください」
リディアは、ごくわずかに口元を緩めた。
本当にわずかであり、窓から差す光が一瞬だけ変わったのだと言われれば、そうかもしれないと納得してしまう程度の変化だった。
しかし、とおるはこの一ヶ月の白華隊生活により、リディアの眉が半分ほど下がれば疲労、視線が右へ逸れれば思案、口元が一厘上がれば機嫌が良い、という微細な表情変化を読み取る能力まで獲得している。
訓練項目には存在しない。
生存本能が生んだ副産物である。
「それに、お前の能力には正直に言って興味がある」
「リディアさんまで、ノクスさんと同じことを」
「一緒にするな」
「すみません。そこは明確な地雷でした」
「私が言っているのは、研究材料としてではない。騎士としての可能性だ。お前の〈壁〉は、単に攻撃を防ぐだけの力ではない。人を守り、進路を作り、敵を分断し、術式を乱し、封印へ干渉し、状況によっては敵の攻撃そのものを利用できる。使い方を誤れば危険である一方、正しく鍛え、正しく扱えば、多くの命を救える能力だ」
彼女は、逃げ道を与えないためではなく、その言葉だけは絶対に誤解させないためというように、とおるの目を真っ直ぐ見据えた。
「この私が、お前には素質があると認めているんだ。その才能を伸ばすきっかけとしても、聖騎士試験は良い機会になる」
言葉は強かった。
迷いがなく、自信に満ちている。
リディアが自分の目を信じているからこそ、その目で下した評価にも揺らぎがない。
彼女は、誰に対しても気休めで素質があると言う人間ではない。
訓練場でミレイユへ向ける視線を見ていれば分かる。
才能を認める時にも、欠点を指摘する時にも、余計な甘さを混ぜず、褒めるべき箇所は褒め、足りない部分は容赦なく突きつける。
その彼女から、自分には騎士としての素質があると告げられた。
とおるは、ほんの少しだけ納得しかけた。
ゾロの訓練を受け、自分の〈壁〉がこれまで感覚任せで用いられてきた、便利ではあるが危うい能力であることを理解した。
ミレイユとの立ち合いでは、対人戦闘における干渉の危険性と、一歩判断を誤れば相手の術式や肉体へ重大な損傷を与えかねないことも知った。
魔力回路、術式展開、境界固定、干渉率、展開面積、持続時間、複数展開時の相互干渉。
これまで独学、より正確には勘と勢いと「出ろ」と念じるだけで使用していた能力を、体系的に学ぶ必要があることは自分でも感じている。
聖騎士試験へ向けた訓練へ参加すれば、白華隊の基礎教練を正式に学べる。
王国の記録や訓練設備も利用できる。
能力の安全な使い方を身につければ、将来的に村を守る力へつながる可能性も高い。
理屈は通っている。
腹立たしいほど通っている。
問題は、理屈が通っている話ほど、適当な言い訳で断りづらいということだった。
この人の部下になった瞬間、自分が長年守ってきた人生三箇条は、正式な埋葬先すら与えられないまま行方不明になる。
人とできるだけ交わらない。
目立たない。
平穏に暮らす。
白華隊の聖騎士になれば、人と関わる。
隊列を組む。
報告する。
命令を聞く。
部下や同僚の顔色を読む。
住民を守る。
敵の前へ立つ。
当然、目立つ。
任務へ赴き、危険へ飛び込み、場合によっては王国の危機という、普通なら遠くから煙だけ眺めていたい種類の事件へ、最前線の関係者として参加する。
平穏という言葉は、訓練場の靴底で踏まれ、泥と汗にまみれ、最後には洗濯係から「この布はもう使えません」と廃棄されるだろう。
できるだけ壁に近づいて生きていたいのに、その壁から最も遠い激務へ、自分から歩いて入るなど絶対に嫌だった。
「……俺、聖騎士には向いていないと思います」
「なぜだ」
「集団行動が苦手です」
「訓練で直せ」
「人前へ出るのも苦手です」
「慣れろ」
「命令されるのも苦手です」
「今も聞いている」
「朝が早いのも苦手です」
「早く寝ろ」
「運動も苦手です」
「鍛えろ」
「勉強も好きではありません」
「覚えろ」
「知らない人と話すのも」
「話せ」
「会話が全部二文字か三文字で処理されている」
「問題が明確だからだ」
「休みの日は十五時間ほど一人で部屋へ籠もり、誰とも会話せず、壁を眺めたり干し芋を食べたりして過ごしたいです」
「非番なら好きにしろ」
「そこは認められるんですか」
「非番の過ごし方まで管理する気はない」
「少し希望が出てきました」
「ただし、緊急招集には応じろ」
「希望の扉が閉まりました」
「任務なら当然だ」
「俺の希望、開閉が早いな」
現実というものは、だいたいこちらの希望や準備を待たず、土足で部屋へ上がり込んできて、勝手に椅子へ座り、勝手に茶を飲み、帰り際には予定表まで置いていく。
断れば済む話なら、とおるはとうに断っている。
村での一件以来、自分がもう、ただの村人ではいられなくなったことは嫌というほど理解していた。
王国にとって自分は、得体の知れない異邦人であり、前例のない〈壁〉を扱う能力者であり、星の塔の封鎖扉を開き、星骸巨躯から言葉を受けた重要人物である。
王都を離れ、「では村へ帰ります。何かあれば手紙をください」と気軽に手を振れる立場ではない。
だからこそ、リディアは勧誘という形を取ってくれている。
王命で拘束することも、法的な名目をつけて王宮魔導院へ預けることも、第六華隊へ研究協力者として引き渡すことも、監視対象として地下施設へ閉じ込めることも、立場と状況を利用すれば可能だったかもしれない。
しかし、リディアはそうしなかった。
白華隊の臨時協力員として自分を保護し、詰所の客室を用意し、ノクスから提出された、採取対象一覧というより人間解体手順書に近い申請を片端から却下し、能力を安全に扱うための訓練機会を与え、今は自分が王国の中で立っていられる正式な所属先を作ろうとしている。
少なくとも彼女は、とおるを利用価値だけで測る人間ではない。
それだけは、この短い付き合いの中でも十分に伝わっていた。
だからこそ、余計に断りづらい。
「……」
とおるは天井を見上げ、小さく息を吐いた。
執務室の天井は高い。
白華隊の詰所は、訓練棟も食堂も会議室も、どの部屋も妙に天井が高い。
高潔な騎士たる者、常に上を向いて生きよ、という設計思想でもあるのかもしれない。
とおるは上を向いても神託も回答も干し芋も降ってこないことを確認すると、ゆっくりと視線をリディアへ戻した。
「受ければ、必ず白華隊へ入隊しなければならないんですか」
「試験に合格してから決めればいい」
「もう合格前提の話になっていませんか」
「お前なら可能性はある」
「ミレイユさんみたいな、生まれた時から剣を握っていそうな天才と同じ試験ですよね」
「生まれた時から剣は握らん」
「比喩です」
「試験は、単純な強さだけを測るものではない。基礎魔力、術式制御、状況判断、連携能力、護衛技術、精神耐性、王国法、騎士規範、武器適性、それぞれを総合的に見る。お前の剣術は未熟だ」
「はい」
「身体能力も騎士候補者の平均以下だ」
「はい」
「長距離走では後半になるほど姿勢が崩れ、木剣を握る力も弱く、近接戦闘では相手の視線へ釣られやすい」
「褒める話は終わったんですか」
「反面、防御、観察、危機判断、術式応用、地形利用については評価できる」
「褒められている部分と刺されている部分が交互に来るので、感情が上がったり下がったり忙しいです」
「事実だ」
「便利ですね、その言葉」
「それに、受験資格を得るためには騎士団幹部の推薦が必要だ。私が推薦する」
「隊長推薦」
「不満か」
「不満というより、重いです。肩へ置かれた瞬間、姿勢が二センチほど沈みました」
「軽い推薦などない」
「それはそうでしょうけど」
とおるは再び黙った。
できるだけ人と関わらず、目立たず、平穏に暮らす。
異世界へ来て以来、誰に宣言したわけでもなく、心の奥で密かに掲げ続けてきた人生三箇条は、どうやら今日、盛大な音を立てて崩れようとしている。
いや、正確には、とっくに崩れていたのかもしれない。
最初に村を守るため、王国騎士団長であるリディアへ決闘を申し込んだ時点で、一つ目は土台から傾いていた。
壁を使って騎士団長を足止めし、周辺一帯で噂になった時点で、二つ目は完全に息を引き取った。
星の塔へ入り、古代の巨神を思わせる星骸巨躯を目撃し、その声まで聞いた時点で、三つ目はすでに葬儀を終え、親族への挨拶回りまで済ませている。
三箇条は、とっくに瓦礫だった。
本人だけが、その瓦礫の前で、「柱は残っています」「屋根も一部あります」「少し風通しが良くなっただけです」と言い張り、倒壊を認めていなかっただけなのかもしれない。
「……試験を受けるだけ、なら」
とおるは、契約書の隅に潜む小さな文字を警戒する商人のように、慎重に言った。
リディアの目元が、ほんの少しだけ柔らかくなる。
「それでいい」
「合格しても、入隊するかどうかは改めて考えます」
「構わない」
「村へ戻る選択肢も、完全には消さないでください」
「状況が許せばな」
「条件付き」
「当然だ」
「あと、ノクスさんの部署へ配属される可能性だけは絶対に」
「ない」
「即答、助かります」
「お前を黒蓮へ渡す気はない」
その言葉に、とおるはわずかに目を見開いた。
リディアは言い切った。
迷いも、政治的な濁し方も、状況次第という但し書きもなかった。
自分を守るという意志が、その短い一言の中にはっきりと込められている。
とおるは、少しだけ視線を横へ逸らした。
こういうところだ。
この人の、こういうところが断りづらいのだ。
「分かりました。受けます」
「そうか」
「ただし、落ちても怒らないでください」
「落ちる前提で受けるな」
「もう始まりましたね、受験指導」
「受けると決めた以上は合格を目指せ」
「心の準備期間を一日くらい」
「時間は有限だ」
「この隊で、優しさより時間のほうが貴重な資源として扱われている理由が分かりました」
リディアの口元が、ごくわずかに上がった。
「ゾロには伝えておく。訓練内容も試験向けに調整させる」
「今より増えるんですか」
「必要な範囲でな」
「“必要な範囲”という言葉をゾロさんへ渡すと、その範囲が地平線まで広がるんですよ」
「彼女は優秀だ」
「優秀な鬼軍曹です」
「聞こえているぞ」
「ここにはいないですよね?」
「比喩だ」
「最近、この隊の比喩が全部怖い」
執務室を出ると、廊下の壁際にミレイユが立っていた。
偶然通りかかったという様子ではなく、明確に待っていた者の姿勢で腕を組み、いつものように眉間へ薄い皺を寄せ、扉から出てきたとおるをじっと見ている。
とおるは扉を閉めた直後から視線を浴び、今しがた執務室で交わされた会話が、窓や壁を通じてすでに彼女へ伝わっているのではないかと疑った。
白華隊の情報伝達速度は、辺境村の井戸端会議に負けていない。
むしろ、重要度の高い話については、伝令術式と人間の好奇心が組み合わさることで、井戸端会議を上回る。
「話は終わったか」
「はい」
「隊長から、聖騎士試験を受けるよう勧められたのだろう」
「やっぱり知っている」
「事前に聞いていた」
「本人より先に」
「私は貴様の指南役だ」
「指南役の情報権限、思っていたより強いですね」
ミレイユは、少しだけ誇らしげに胸を張った。
「隊長から直々に入隊を打診されることなど、滅多にない。光栄に思え」
「光栄は光栄なのでしょうけど、誘う人間を百八十度ほど間違えている気がします」
「何が不満だ」
「俺は集団生活が苦手で、目立つのも苦手で、人前へ出るのも苦手で、命令されるのも苦手で、運動も剣も早起きも勉強も苦手です」
「苦手が多すぎる」
「得意分野は、壁際待機です」
「騎士試験の項目にはない」
「試験制度の改善が必要ですね」
「必要ない」
「即答」
「貴様は、自分を低く見積もりすぎる」
ミレイユの言葉に、とおるは思わず目を瞬かせた。
「珍しく褒めました?」
「褒めていない。事実を述べた」
「リディアさんと同じ言い方ですね」
「隊長の言葉は正しい」
「そこも一貫している」
ミレイユは踵を返し、廊下を歩き始めた。
とおるも半歩遅れて、その横へ並ぶ。
向かう先は、ゾロから指定されている午後の訓練場所、詰所裏手に設けられた第二訓練棟である。
本来の予定では、術式展開速度の測定、盾を保持した状態での回避訓練、魔力障害物を使用した進路確保訓練が組まれていたはずだ。
いや、少なくとも執務室へ呼び出される前までは、その予定だった。
聖騎士試験の受験を決めたことで、何か追加される可能性は極めて高い。
とおるは、まだ見ぬ新しい訓練予定表に対し、心の中で静かに合掌した。
「それで、受けるのか」
ミレイユが正面を向いたまま尋ねた。
「受けるだけ受けます」
「歯切れが悪い」
「合格してから白華隊へ入るかどうか考える、という条件です」
「受ける以上は、合格を目指せ」
「もちろん、積極的に落ちたいわけではありません」
「ならば、今日から訓練の密度を上げる」
「どうしてミレイユさんが決めるんですか」
「私も受験者だ。試験は二ヶ月後、残された時間は少ない」
「二ヶ月?」
とおるは足を止めかけた。
元々は三ヶ月後だと聞いていた聖騎士試験も、とおるが白華隊で本人の意思とは無関係に鍛えられている間に一ヶ月が経過し、今や残り二ヶ月となっていた。
本人の知らない場所で、試験までの砂時計はすでに三分の一ほど落ちていたことになる。
受験を決意したその日に残り日数の少なさを知らされる。
学習計画としては最悪に近い。
「待ってください。俺、受験科目すら詳しく知らないんですけど」
「今日教える」
「王国法や騎士規範もあるんですよね」
「ある」
「術式理論も」
「ある」
「実技も」
「ある」
「剣術も」
「ある」
「連携も」
「ある」
「護衛も」
「ある」
「精神耐性も」
「ある」
「筆記試験も?」
「ある」
「二ヶ月で?」
「二ヶ月で」
「無理では?」
「無理と言う暇があるなら覚えろ」
「ミレイユさん、試験前になると教育熱心な母親みたいですね」
「誰が母親だ!」
「比喩です!」
廊下へミレイユの怒声が響き渡った。
すれ違いかけた隊員たちは、驚いて立ち止まるどころか、「また始まったか」という、朝食の鐘でも聞いたような顔をして自然に壁際へ寄り、二人へ道を譲った。
一ヶ月も経つと、とおるとミレイユの言い合いは、白華隊の日常風景として認識されつつある。
とおるはその事実に気づき、少しだけ恐ろしくなった。
自分は人と関わらない人生を望んでいたはずなのに、今では隊舎の廊下で誰かと騒いでいる姿が、壁の傷や窓から差す光と同じように、風景の一部へ組み込まれている。
「今の発言は訂正しろ」
「教育係のようですね」
「最初からそう言え」
「言葉の選択を誤りました」
「試験でも言葉の選択は命取りになるぞ」
「会話問題まで厳しい」
「騎士は誤解一つで、住民や部下の命を危険へ晒すことがある」
「急に正論で斬らないでください」
「正論だから斬れるのだ」
「言葉の剣術まで強い」
第二訓練棟へ到着すると、入口の前でゾロが待っていた。
いつもの笑顔で。
それはもう、春の日差しのように柔らかく、咲き始めた花のように美しく、何も知らない者が見れば「きっと優しい人なのだろう」と信じて疑わないほど穏やかな笑顔であり、その実態を知っているとおるにとっては、猛獣が食事前に見せる機嫌の良さと同じくらい警戒すべき笑顔だった。
そして彼女の手には、新しい訓練予定表が握られていた。
しかも一枚ではない。
重なっている。
とおるは一目見ただけで分かった。
ゾロの持つ三種類の笑顔のうち、訓練内容を増量し、それを相手へ告知する瞬間に見せる笑顔である。
「あら、来たわね。隊長から連絡は受けたわ」
「早い」
「聖騎士試験を受けるそうね、とおる君」
「情報が人間の歩行速度を大幅に超えている」
「おめでとう」
「まだ何も達成していません」
「受けると決めたことは、大切な一歩よ」
「その一歩の先に、予定表が何枚あります?」
「今日は三枚」
「訓練量を紙の枚数で数える時点で不穏なんですよ」
ゾロは楽しそうに予定表を広げた。
紙の擦れる音が、死刑執行書を読み上げる前触れのように聞こえる。
「残り二ヶ月。基礎体力、術式理論、騎士規範、連携実技、武器適性、防御判断、護衛試験、王国法、魔物知識、それから面接対策。忙しくなるわね」
「今までも十分忙しかったです」
「今までは準備運動よ」
「一ヶ月を使った準備運動」
「身体は温まったでしょう?」
「温まりすぎて、全身が一ヶ月ほど熱を持っています」
「よろしい」
「何がよろしいんですか」
「冷えていないということよ」
「人の身体を鍛冶場の炉みたいに扱わないでください」
ミレイユはゾロから予定表を受け取り、冗談の入り込む隙間など最初から存在しない真剣な顔で目を通し始めた。
とおるも嫌な予感に背中を押され、隣から紙面を覗き込む。
そして最初の項目で、早くも目を疑った。
「早朝外周走、距離増加」
「試験では持久力も確認されるもの」
「崖登り、装備重量追加」
「護衛任務では自分の装備だけでなく、物資や負傷者も運ぶでしょう?」
「夜間座学、週三回」
「王国法と騎士規範は、覚えることが多いの」
「模擬面接、週二回」
「あなたは余計なことを口走る傾向があるから、必要でしょう?」
「否定できないのが悔しい」
「休日は?」
「半日あるわ」
「半日しかない!」
ゾロは、何の悪意もないように微笑んだ。
「大丈夫。人間、慣れるものよ」
「その言葉を信じた結果、一ヶ月後の俺が今ここにいるんです」
「少し逞しくなったでしょう?」
とおるは自分の腕へ目をやった。
確かに、以前より筋肉はついている。
足腰も強くなり、少し走った程度では息が上がらなくなった。
木剣を持つ姿勢も、初日にミレイユから「薪を拾いに来た村人」と評された頃よりは多少ましになっている。
〈壁〉の展開速度も上がり、以前は一枚出すだけで集中を要したところを、今では状況によっては三枚を素早く配置できる。
複数展開時の相互干渉も、完全ではないものの抑えられるようになった。
成長している。
明らかに成長している。
成長しているからこそ、ゾロの訓練が理不尽なだけではなく、相応の効果を持っていることを完全には否定できない。
否定できないことが、何よりも悔しい。
「さあ、始めましょうか」
ゾロが軽く手を打った。
「今日からは、二人とも正式に聖騎士試験を目指す受験者として扱います」
「正式騎士候補である私と、この男を同列に扱うのですか」
「試験前は、同じ受験者よ」
「ミレイユさん、仲間ですね」
「馴れ馴れしくするな」
「早くも連携試験に暗雲が」
「私の足を引っ張るな」
「俺としては、誰かの足を引っ張らず、同時に自分の足も引っ張られない、安全な後方へいたいです」
「前へ出ろ」
「開始前から戦術方針が真逆ですね」
ゾロの笑顔が、さらに深くなった。
「それなら、最初の課題は二人一組で行う護衛歩法にしましょう。互いの位置を崩さず、魔力障害物を越え、襲撃役の攻撃から護衛対象を守りながら、訓練棟の最奥まで進むこと。連携を乱した場合、護衛対象を見失った場合、どちらかが勝手な行動を取った場合、そして途中で喧嘩をした場合は、入口からやり直し」
「入口から?」
「ええ」
「何回までですか」
「できるまで」
とおるとミレイユは、ほとんど同時にゾロを見た。
笑顔。
美しい。
穏やか。
怖い。
「仲良くしなさいね」
柔らかな口調だった。
しかし、命令だった。
こうして壁山とおるは、前の世界でも、この世界へ来てからも、本人の人生計画へ一度として記載されたことのない聖騎士試験を、二ヶ月後に受けることとなった。
人とできるだけ交わらない。
目立たない。
平穏に暮らす。
その三箇条は、もはや修繕不可能な瓦礫である。
しかも今、その瓦礫の上には、聖騎士試験対策訓練予定表が三枚、風で飛ばないよう重石のように置かれていた。
とおるは訓練用の盾を受け取り、護衛対象に見立てた木製人形の前でミレイユの隣へ立つと、これから始まる試練の数々を想像し、小さく、深く、魂まで抜け出しそうなため息を吐いた。
「村で壁を直していた頃に戻りたい……」
「何か言ったか」
「いいえ。合格へ向けた、極めて前向きな独り言です」
「顔が完全に後ろ向きだ」
「口と身体は前を向けられても、顔面の感情表現までは制御できません」
「騎士ならば顔にも気を配れ」
「受験科目へ表情管理まで追加しないでください」
ミレイユは呆れたように鼻を鳴らしたものの、それでも、とおると歩幅を揃えるため、普段よりほんの少しだけ足の運びを緩めた。
とおるは、その小さな変化に気づいた。
気づいたものの、口にすれば「貴様が遅いからだ」と怒鳴られることも、その後で歩調が元へ戻されることも容易に想像できたため、賢明にも何も言わず、盾を持ち直した。
二人は肩を並べ、魔力障害物と模擬敵、それから笑顔で退路を塞ぐゾロの待つ訓練棟へ足を踏み入れる。
聖騎士になるつもりなど、一度もなかった。
今も、積極的になりたいとは思っていない。
できることなら、試験の存在そのものを見なかったことにして、村の壁際へ帰りたい。
それでも、聖騎士試験へ向かう道だけは、本人の意志を待つことなく、すでに彼の足元から真っ直ぐに伸び始めていた。
できることなら〈壁〉を置き、全面通行止めにしたいところである。
しかし残念ながら、その道の入口にはリディアが立ち、途中にはゾロが待ち構え、隣にはミレイユが並んでいる。
三枚の〈壁〉では、とても足りそうになかった。




