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第9話:最高級の晩餐会も、『修理』すれば家飲み(宅飲み)になる

1. タキシードとジャージの境界線

 世界を救った翌週。俺――サトシとリィエル様は、世界政府が主催する「人類救済感謝祭」の主賓として、海上浮遊都市の超豪華パーティ会場にいた。

「サトシよ……この『どれす』という布は、なぜこんなに動きにくいんじゃ。肩が出るし、裾は長いし、これではポテチを食う時に袖が油まみれになるではないか!」

「リィエル様、今日だけは我慢してください。そのドレス、世界最高のデザイナーがあなたのために一晩で縫い上げた『神話級のシルク』なんですから」

 サトシは苦笑いしながら、自分自身の安物のスーツに手をかざす。

「【概念修復リペア・ワークス】――対象:このスーツ。素材のポテンシャルを『王族の正装』級へ引き上げ、着用感を『パジャマ』へ修復」

 淡い光がサトシを包む。見た目は非の打ち所がない完璧なシルエットの高級タキシード。しかし、サトシ本人の体感は、最高にリラックスできるスウェットそのものだ。

『【悲報】サトシ、ついに「着心地」まで概念修復し始める』

『女神様のドレス姿、神々しすぎて直視できないんだが!?』

『でも右手にはしっかり「コンビニの袋」持ってて安心した』

 ドローンが捉えるリィエルの姿は、まさに絶世の美女。しかし、彼女が左手に持つシャンパングラスの中身は、サトシが持ち込んだ『メロンソーダ』だった。

2. 傲慢な「勇者」の乱入

 パーティの中盤、会場の空気がピリついた。

 現れたのは、隣国の第一王子にして、自称「真の聖勇者」――レオナール。

「君が噂の修理屋か。フン、画面越しに見ていたが、所詮は地味な裏方作業だな。女神様を隣に置くには、華が足りないと思わないか?」

 レオナールが、腰に下げた宝剣をこれ見よがしに見せつける。

「この『太陽の聖剣』を見ろ。数千年前の英雄が使い、今は私が魔力でさらに強化したものだ。君のような『直すだけ』の男には、一生理解できない領域の武器だよ」

 周囲の貴族たちがヒソヒソと囁き合う。レオナールの聖剣は確かに凄まじい圧を放っていた。だが、サトシの目には、その剣が「今にも爆発しそうなポンコツ」に見えていた。

「……あの、王子。その剣、無理な魔力強化のせいで、刀身の内部に致命的な『金属疲労ストレス』が溜まってますよ。今すぐ修復しないと危ないです」

「ハッ! 私の最強の剣が壊れているだと? 無能の分際で、私にアドバイスをしようなどと――」

「サトシよ。放っておけ。その男の頭脳も、修復不能なほど『故障』しておるようじゃからな」

 リィエルが冷たく言い放ち、メロンソーダを飲み干す。

3. 完璧なる『再定義』

「言わせておけば……! ならば、私の剣の輝き、その目に焼き付けるがいい! ――『太陽よ、来たれ!』」

 レオナールが抜刀し、魔力を込めた瞬間。

 キィィィィン! という不快な音が会場に響き、聖剣の刀身に無数のヒビが入った。

「なっ、バカな!? 私の魔力に剣が耐えきれない……!?」

 爆発的な魔力の逆流。会場がパニックに陥りかける中、サトシが静かに一歩踏み出した。

「仕方ないな。……【概念修復リペア・ワークス】」

 サトシが空中に指で円を描くと、飛散しようとしていた聖剣の破片が磁石に吸い寄せられるように元に戻った。

 それだけではない。

「ついでに『聖剣』の定義を書き換えます。――対象:太陽の聖剣。付与概念:『主人の傲慢さを吸収し、切れ味(謙虚さ)に変える』」

 金色の光が収まった時、王子の手には、鈍く銀色に輝く「一本の包丁」のような短い剣が握られていた。

「……え? 私の聖剣が、こんな……短く……?」

「おめでとうございます。その剣は今、あなたの『器の小ささ』に合わせて最適化されました。あなたが謙虚になればなるほど、元の長さに戻る仕組みです」

『【速報】王子、サトシに性格をデバッグされるwww』

『「謙虚さ」をエネルギー源にする剣とか、あの王子には一生使えないじゃん』

『サトシさん、煽りスキルもSSSランクだな』

4. 結局、コンビニが一番

 会場中がサトシの神業に呆気にとられ、レオナールが膝をついて絶望する中、リィエルはサトシの袖をぐいぐいと引っ張った。

「サトシ……もう良いだろう。この会場の料理、見た目ばかり凝っておって腹に溜まらん。妾は今猛烈に、あの『脂っこい焼きそば』が食べたいのじゃ!」

「ああ、屋台とかコンビニのやつですね。……じゃあ、行きますか。正直、俺も肩が凝りました」

 サトシはギルド長や国王たちの呼びかけを「あ、お疲れ様ですー」と適当に受け流し、指をパチンと鳴らした。

 【概念修復:空間の接続】。

 パーティ会場の豪華な扉を開けた先は、宿泊先のホテルのすぐ隣にある、いつものコンビニ『サンシャイン・マート』に繋がっていた。

「いらっしゃいませー」

 店員の気の抜けた声。

 ドレス姿の女神と、タキシード姿の英雄が、慣れた手つきで『Lチキ』と『大盛り焼きそば』をカゴに入れていく。

「ふぅ……やはりここが、妾にとっての真の神殿じゃ。サトシ、早く戻ってこの『濃いソース』の概念を堪能するぞ!」

「はいはい。ビール……じゃなくて、コーラも買いましたからね」

 世界を救い、王子の鼻を明かしても、二人が行き着くのは結局、深夜のコンビニ。

 その光景を配信で見守る世界中の人々は、呆れながらも、そんな二人にどうしようもなく惹かれていくのだった。

次回予告:『旧友との再会。――お前、まだそんなことやってんの?』

 コンビニの帰り道、サトシの前に現れたのは、かつて彼を「才能がない」と切り捨てた元パーティの仲間たち。

 彼らは今、サトシの力を利用しようと卑劣な計画を立てていたが……。

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