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第8話:神速の回線で『バグ』をダウンロードしてしまった件

1. 推しのライブがノイズに染まる時

「きた、きたぞサトシ! わらわの推し、セント・アイリスの結成3周年ライブ配信じゃ! 見よ、この4Kをも超える神画質……もはや、そこにアイリスがおるかのようではないか!」

 ホテルの特大モニターの前で、リィエルはサイリウム(コンビニで箱買いした)を激しく振り回していた。

 サトシが直した「神話級マナ・グリッド」により、世界中の配信は遅延ゼロ、ノイズゼロ。まさに理想の娯楽環境が実現していた。

 だが、その最高潮の瞬間。

 アイリスがサビに入ろうとした直後、画面が不気味にドロリと歪んだ。

「……? なんじゃ、演出か?」

「いや、違います。これは――」

 画面から、どす黒い「ノイズ」が溢れ出し、実体を持ってリビングの床に滴り落ちた。

 それは、バグメーカーが放った**『概念ウイルス:シャドウ・プログラム』**。

 サトシが広げた高速回線という「道」を通り、世界中の魔導端末から一斉にモンスターが「ダウンロード」されるという、未曾有のサイバー・テロだった。

2. 世界同時多発バグ(パンデミック)

『【緊急】スマホから黒いネバネバが出てきた!』

『テレビからゴブリンが這い出してきたぞ!?』

『助けて、サトシさん! 爆速回線が仇になってる!』

 ドローンのコメント欄は、一瞬で阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わった。

 バグメーカーの嘲笑が、世界中のスピーカーからノイズ混じりに響く。

「……フフ。便利さは脆さと表裏一体だ。君が直した美しい回線は、今や絶望を運ぶ大動脈パイプラインだよ」

 目の前で、リィエルの大切なモニターから巨大な黒い腕が伸び、彼女のタピオカミルクティーをなぎ倒した。

「……。…………」

 リィエルが、無言で立ち上がる。

 その瞳からハイライトが消え、絶対零度の殺気が部屋を支配した。

「サトシ……。こやつ、妾のアイリスのライブを止めただけでなく……タピオカまでこぼしおったぞ」

「……リィエル様、落ち着いて。今すぐ『修理』しますから」

3. 『概念修復』:ファイアウォール構築

 サトシは、ノイズを吐き出し続けるモニターに直接手を突っ込んだ。

 普通なら精神を汚染される行為だが、彼の【概念修復】にとって、これは「ひどく散らかった配線」に過ぎない。

「……なるほど。回線そのものを壊すんじゃなく、流れるデータに『敵意』を混ぜてるのか。なら、入り口で弾けばいい(デバッグすればいい)」

 サトシは目を閉じ、世界中に張り巡らせた自らの魔力網にアクセスする。

 彼は、インフラそのものを「一つの巨大な盾」として再定義した。

「【概念修復リペア・ワークス】――対象:全域魔力伝導網。付与概念:『不浄を拒む絶対障壁ファイアウォール』」

 サトシの体から放たれた金色の波動が、光の速度で世界中のマナ・グリッドを駆け抜ける。

 

 それは、ただの修理ではない。

 世界中の通信規格に**「悪意あるデータを自動的に消滅させる」**というパッチ(修正プログラム)を強制的に適用する神業だった。

「――消えろ」

 指を鳴らした瞬間。

 世界中の端末から這い出していた黒いノイズが、一斉に金色の炎に包まれ、塵となって消滅した。

 歪んでいた画面は一瞬で清流のような透明感を取り戻し――。

『――みんな、お待たせ! アイリス、歌うよ!』

 モニターの中では、アイリスが何事もなかったかのように満面の笑みで歌い始めた。

4. 女神の追撃

「……サトシ。回線は直ったな?」

「ええ、もう二度と同じ手は食いません。世界中の端末に、俺の『修復概念』が常駐するようにしておきましたから」

「うむ。ならば……次は犯人探しじゃ」

 リィエルが虚空を睨むと、その視線の先――数百キロ離れた廃ビルに潜んでいたバグメーカーの隠れ家が、物理的に「ベコン」と凹んだ。

「……なっ!? 私の潜伏座標を、通信経路を辿って特定したというのか!?」

 驚愕するバグメーカー。

「サトシが直した道は、妾の道でもある。……逃がさぬぞ、タピオカの恨みは深い」

 リィエルが指を突き出すと、黄金の雷光がモニターを突き抜け、回線を通じてバグメーカーの元へ直接突き刺さった。

「ぐあああああ!? 回線越しに神罰だと!? ふざけるな、こんな規格外……!」

 バグメーカーは、這う這うの体で闇の中へと消えていった。

 致命傷ではないが、その魂に「女神の恐怖」を刻み込むには十分な一撃だった。

5. 結末:平和なアンコール

 嵐が去ったリビング。

 サトシは新しいタピオカミルクティーを(概念修復で冷たさと鮮度を完璧にして)リィエルに差し出した。

「はい、リィエル様。新しいのです」

「……うむ。お主の気遣い、褒めて遣わす。……ふふ、やはりアイリスの歌声は、この爆速回線で聞くのが一番じゃな」

 リィエルは機嫌を直し、再びサイリウムを振り始める。

 

『【神】サトシ、一瞬で世界を救って草』

『今、回線越しに物理攻撃したの女神様? 怖すぎるww』

『俺のスマホ、サトシさんの壁紙にしたら動作がサクサクになったんだけど!』

 コメント欄には、サトシを「世界の守護神」として崇める声が溢れていた。

 

「……まあ、喜んでもらえてるならいいか」

 サトシは苦笑いしながら、自分用のコーラを開ける。

 バグメーカーとの戦いはこれから本格化するだろうが、今のサトシには、隣で「アンコール!」と叫ぶ女神の笑顔があれば、世界中を何度でも『修理』できる自信があった。

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