第6話:確率は『修理』すれば100%になるのじゃ!
1. 課金という名の絶望
「サトシよ……。この『すまほげー』という遊戯は、神に対する冒涜ではないか……?」
豪華客船のスイートルーム。移動中の暇つぶしにとサトシが教えたスマホゲームを手に、リィエルがこの世の終わりを告げるような顔で震えていた。
画面には、最高レア(SSR)が一切出なかった無慈悲なリザルト画面。
「リィエル様、それは運ですよ。神様なんだから、確率操作とかできないんですか?」
「……無理じゃ。この箱の中の『がちゃ』とやらは、妾の管轄外の理で動いておる。……くっ、妾の数千年分の威厳を賭けても、この銀髪の美少女キャラが出ぬとは!」
リィエルは涙目でスマホをサトシに差し出した。
「サトシ、直せ! この『壊れた確率』を、妾が勝つ世界に修理するのじゃ!」
「いや、それは修理じゃなくて不正です。……あ、そろそろ目的地に着きますよ」
『【悲報】女神様、爆死してサトシに八つ当たりww』
『神の加護(物理)でガチャ回そうとするの草』
『サトシ、俺の口座も「修理」してくれ。残高が故障してるんだ』
配信ドローンは、今日も順調に視聴者のコメントを拾い上げていた。
2. 確率が死んだカジノ・ダンジョン
今回の目的地は、砂漠のど真ん中に突如出現した**『黄金都市ダンジョン』**。
ここは特殊なバグが発生しており、内部にある「スロット」や「ルーレット」の罠にかかると、生存率が極端に下がるという、悪趣味なギャンブル・ダンジョンだ。
「サトシ殿、お待ちしておりました。ここの『乱数』は完全に狂っています。ベテラン探索者たちが、期待値1%未満の罠に次々と嵌まり、全滅しているのです」
現地の責任者が青い顔で説明する。
サトシは一歩、黄金に輝くダンジョンの床を踏んだ。
彼の目には、空間そのものが「ノイズ」でザラついて見えていた。
ただの運が悪いのではない。「幸運」という概念が、外部からのウイルスによって強制的に「絶望」へ書き換えられているのだ。
「……これ、中枢のメインサーバー(魔法核)がバグってますね。リィエル様、適当にその辺のレバー引いてみてください」
「む? これか? ほい」
リィエルが適当にスロットのレバーを引くと、画面には不気味なドクロマークが並んだ。同時に、天井から巨大なプレス機が猛スピードで降下してくる。
「ひゃあああ!? やはり妾は今日、運が最悪なのじゃ!」
「落ち着いてください。【概念修復】――対象:この空間の『期待値』」
サトシが床に手を触れると、金色の回路が蜘蛛の巣のようにダンジョン全体へ広がった。
ガガガ、と異音が響き、降下していたプレス機が途中でピタリと止まる。
「『修理』完了。……リィエル様、もう一度どうぞ」
「……? えいっ」
リィエルが再びレバーを引くと、リールが高速で回転し――。
【777】
眩い光と共に、天井からプレス機ではなく、山のような金貨と「最高級ポテトチップス(特選塩味)」が降ってきた。
3. バグメーカーの影
「おおお! 出た! 出たぞサトシ! 妾の運が直ったのじゃ! 妾はやはり選ばれし女神……!」
降り注ぐポテチの袋を抱えて踊るリィエル。
だが、サトシは笑っていなかった。
「……やっぱり。誰かが意図的に、このダンジョンの『報酬概念』を書き換えていた跡があります」
サトシが修復した魔力回路の端に、不気味な黒い紋章が刻まれていた。
それは、第5話で現れた『バグメーカー』の刻印。
『おいおい、今の見たか? 罠を「当たり」に作り替えたぞ!?』
『サトシさん、それもうパチンコ屋の店長以上の権限だろ』
『女神様、ポテチで買収されててかわいいwww』
その時、ドローンのカメラが、ダンジョンの影に立つ「誰か」を捉えた。
「……フフ。やはり君のスキルは素晴らしい。世界の不具合を直すその手……実に『デバッグ』のしがいがある」
黒い法衣を纏った男が、ゆっくりと姿を現す。
彼の周囲では、空間がモザイク状に欠落し、触れるもの全てを消滅させていた。
「バグメーカー……!」
サトシが構える。
「サトシよ、下がれ。……こいつは、不味い。コンビニの弁当を床に落とした時のような、不快な気配がする」
リィエルが手に持っていたポテチを置き、神々しいオーラを放つ。
「リィエル、君は相変わらず食欲に忠実だね。だが、この世界は一度、完全に『初期化』される必要がある。……サトシ君、君には期待しているよ。君が直せば直すほど、私はより『深い絶望』を思いつけるのだから」
男は不気味な笑い声を残し、空間のノイズに溶けるように消えていった。
4. 結末:そしてガチャへ
ダンジョンは浄化され、奪われていた探索者たちの幸運も戻った。
地上に戻ったサトシは、疲れ果ててソファに倒れ込む。
「……ふぅ。これでしばらくは静かになりますかね」
「サトシ! 大変じゃ! 大変なのじゃ!」
リィエルが、スマホを持って飛びついてくる。
「どうしました、また敵ですか?」
「違う! さっきの『確率修理』の効果が残っておるのか、単発でSSRが出たのじゃ! しかも、このキャラ……サトシにどこか似ておる!」
画面に映っていたのは、地味な見た目ながらも『世界を救う修理屋』という設定の限定キャラ。
リィエルはそれを見て、顔を林檎のように真っ赤にしながら、サトシのジャージをギュッと握った。
「……よし、今夜の夕食は妾が奢ってやろう! この『はいしん』で稼いだ金で、一番高い牛丼を買うのじゃ!」
「牛丼ですか。……まあ、リィエル様らしいですね」
世界を揺るがすバグメーカーの出現。
だが、サトシの隣で幸せそうに牛丼(特盛)のメニューを選ぶ女神を見ていると、この「バグだらけの世界」も、直して回る価値があるように思えるのだった。




