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第5話:世界のバグ、デバッグ承ります。

1. 翌朝、神聖なる「ポチり」の儀

 翌朝、俺――サトシが目覚めると、視界の先には地獄……もとい、物欲の極致が広がっていた。

 ホテルのスイートルームの床は、Amazonや楽天の段ボール箱で埋め尽くされている。

「リィエル様……これ、全部昨日ポチったんですか?」

「おお、サトシ! 目覚めたか。この『ねっとつうはん』という魔術は恐ろしいな! わらわが画面を触るだけで、翌朝には供物が玄関に届くのじゃ。天界の伝令神ヘルメスよりも仕事が早いわ!」

 銀髪をボサボサに乱した女神様は、届いたばかりの『家庭用わたあめ製造機』に夢中だ。

 昨夜の投げスパチャで得た数億円。彼女はそれを、一晩で現代のガジェットへと変換し始めていた。

『【速報】女神様、一晩でAmazonの在庫を枯らすwww』

『配送業者が「神の加護」で過労死しそう』

『サトシ、頼むから彼女に「課金」を教えないでくれ。日本経済が壊れる』

 ドローンは今日も今日とて、女神の自堕落な日常を全世界に垂れ流していた。

2. 世界修理依頼ワールド・デバッグ

 平和な朝食(リィエル様はピザポテトとコーラ)を食べていると、部屋のドアが控えめにノックされた。

 現れたのは、国際ダンジョン管理局(IDMO)の事務局長。世界中のダンジョンを統括する、実質的な世界のトップの一人だ。

「サトシ殿、そして女神リィエル様。……お食事中に失礼します。単刀直入に申し上げます。世界を『修理』していただきたいのです」

 彼が差し出したホログラム映像には、不気味な黒い霧に包まれた巨大なダンジョンの姿があった。

「数年前から発生している『汚染ダンジョン』です。そこは物理法則が壊れ、入った者は二度と戻れず、周囲には毒素バグが漏れ出しています。既存の聖魔法や浄化術では、一時的な足止めが限界なのです」

 サトシは映像を凝視する。

 俺の目には、その黒い霧が「真っ黒なノイズ」に見えていた。

 それは魔力ではない。世界のシステムそのものが書き換えられた、致命的なエラーコードだ。

「サトシよ。これは……少し『不潔』じゃな」

 わたあめを口の周りにつけたリィエルが、珍しく真面目な顔で映像を見据えた。

「世界のことわりが歪んでおる。このまま放置すれば、この星の『美味いもの』が全て腐ってしまうぞ」

「……それは困りますね。リィエル様、ついでに買い出しにも行けますし、行ってみますか」

「うむ! 妾が、あの汚い霧をポテチの袋ごと吹き飛ばしてくれようぞ!」

3. 『概念修復』の真骨頂

 数時間後。俺たちは汚染ダンジョンの最前線、通称『絶望の門』の前に立っていた。

 周囲には各国のメディアと軍隊が展開し、サトシの「修理」が本当に通用するのかを見守っている。

「……行きますよ」

 サトシは黒い霧――バグの渦に手を伸ばす。

 普通なら、触れた瞬間に細胞が崩壊する死の霧。

 だが、サトシの指先が触れた瞬間、霧は「ガラスが割れるような音」を立てて静止した。

「【概念修復リペア・ワークス】――全域スキャン。不純物、および異常定数の削除」

 金色の光が、サトシを中心に半径数キロメートルに及ぶ波動となって放たれた。

 それは破壊ではなく、「整地」。

 複雑に絡まり、腐敗していた魔力のコードを、サトシのスキルが力技で「本来の正しい数式」へと繋ぎ直していく。

「嘘だろ……。解析不能だった汚染領域が、リアルタイムで書き換えられていく……!」

 観測班の悲鳴のような報告。

 黒い霧が晴れ、現れたのは、エメラルドグリーンに輝く美しい森のダンジョンだった。

 枯れていた木々は一瞬で芽吹き、淀んでいた水はクリスタルのように澄み渡る。

「……ふぅ。これでよし。……あ、ついでに」

 サトシはさらに、ダンジョンの入り口にある「古びた石碑」に触れた。

「ここ、案内板がないと不便ですよね」

修復リペア

 石碑は一瞬で、**『多言語対応・観光ガイド機能付き・デジタルサイネージ』**へと進化し、周辺の地図を空中投影し始めた。

『……は?』

『今、ダンジョンの汚染を直したついでに「観光地化」しなかったか?』

『サトシさん、それもう「修理」っていうレベルじゃない。世界の創造主だろ』

4. 女神の裁定おやつタイム

「サトシ! 素晴らしいぞ! 森の空気が美味しくなったおかげで、この『ハニーバターチップス』の風味が増した気がする!」

 リィエルが、浄化されたばかりの森のど真ん中で、ピクニックシートを広げてくつろいでいる。

「……リィエル様、世界中の人が見てるんですから。もう少し神様らしく……」

「これが神の休息じゃ! 文句があるなら、この美味いポテチを一袋食べてから言え!」

 リィエルはサトシの口に、強引にポテチを突っ込んだ。

 その様子をドローンがしっかり捉え、コメント欄には『世界一平和な除染作業』『公式カップリング確定』という文字が溢れかえる。

 その様子を、遥か遠くで見つめる影があった。

 漆黒の法衣を纏い、片目にバグの紋章を宿した男――。

「……イレギュラーか。世界の『故障』を直す者が現れるとはな。だが、修復パッチが追いつかぬほどの絶望を与えてやろう」

 物語の裏側で、**世界のバグを意図的に引き起こす『デバッグを拒むバグメーカー』**の存在が浮き彫りになる。

 しかし、今のサトシとリィエルにとって、最大の関心事は――。

「サトシよ! 次の汚染地域の近くに『期間限定のパンケーキ屋』があるのを見つけたぞ! 直ちに転移の準備をせよ!」

「はいはい。パンケーキのためなら、世界中どこでも修理しに行きますよ」

 二人の「世界デバッグ・ツアー」は、こうして賑やかに幕を開けた。

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