第21話:海が『カチコチ』で泳げない件。――波の概念を修理せよ!
1. 女神、禁断の『みずぎ』を選ぶ
「サトシ! 見よ! 妾が選び抜いたこの聖衣……『びきに』という名の戦闘装束じゃ! これでお主の視線をデバッグ(固定)してやろう!」
南国のリゾート地、サンシャイン・ビーチ。
眩い太陽の下、リィエルが披露したのは、眩い白のフリルがついたビキニ姿だった。普段のジャージ姿からは想像もつかないほど完璧なスタイルに、ビーチ中の観光客(とドローンの視聴者)が釘付けになる。
「……リィエル様、それ、紐が細すぎて概念的に危ういですよ。あと、戦闘装束じゃなくて水着です」
「ふん、お主の顔が林檎のように赤いぞ。……まぁよい。それよりサトシ、早くあの『波打ち際』へ行くぞ! 妾は今、海水の塩分を浴びて『焼きそば』の味を引き立てたい気分なのじゃ!」
相変わらずの食欲と共に駆け出すリィエル。だが、海に飛び込もうとした彼女は、次の瞬間「コンッ!」という硬質な音と共に、海面で跳ね返された。
2. 『濡れない海』とバグの正体
「……痛いではないか! サトシ、この水はどうなっておる!? 液体のはずなのに、まるで強化ガラスのように硬いぞ!」
サトシが海面に触れてみる。見た目は透明で波も立っているが、手を入れることができない。
腕時計型レーダーが、異常な数式を弾き出す。
Warning: Physical Logic Error [FLUIDITY]
Current State: Viscosity = \infty (無限大)
Status: 液体が「個体」として定義されています。
「……これ、水から『流動性』の概念が消されてる。バグメーカーが、世界中の海を『人が立ち入れない場所』に書き換えたんだ」
そこへ、最新の潜水型ドローンを抱えたカイが歩み寄ってきた。
「やれやれ、これじゃ僕の最新型サブマリンもただの『置物』だ。サトシ、これは物理エンジンの根本的な故障だよ。僕の『更新』でも、海全体の粘性を一度に書き換えるのはリソースが足りない」
「カイさん。なら、僕が海に『穴』を開けます。……一時的に、この場所の水の概念を『修理』して、流動性を取り戻させる」
3. 『概念修復』:流体物理の再構築
サトシはカチコチになった海面に両手を突いた。
彼の指先から金色の回路が広がり、凍りついた物理法則を解きほぐしていく。
「【概念修復】――対象:指定座標の海水。定義修復:粘性係数の正常化、および『波のゆらぎ』の再付与!」
サトシの声と共に、パキパキと空間が割れる音が響き、サトシの周囲数百メートルの海が一気に「水」へと戻った。
ザザーッ、と心地よい波音が戻り、リィエルが勢いよくダイブする。
「おおお! 冷たくて気持ち良いぞ! これぞ海じゃ! ……あ、サトシ! ついでにこの奥に潜んでいる『巨大なカニ』も、食べやすいように殻を柔らかく修理しておけ!」
「勝手なこと言わないでください! ……ん? 巨大なカニ?」
サトシが視線を向けると、修復された海の中から、バグの塊である**『データ・クラーケン』**が、無数の触手を蠢かせて姿を現した。
4. ビーチのデバッグ・バトル
「……なるほど。海を硬くして、獲物を逃げられなくしてから狩る。……バグメーカーらしい、効率的な罠だね」
カイがドローンのミサイルを起動させる。
「サトシ、君が海を『柔らかく』保ってくれ。その隙に僕が、この古臭いイカを『お造り』に更新してやる!」
「了解! ……リィエル様、危ないから下がって――」
「何を言うか! あの脚……あれは絶対に美味い! サトシ、妾の『箸』を修理せよ! 物理法則を無視して、あの触手を掴めるようにするのじゃ!」
リィエルは逃げるどころか、巨大なクラーケンを「巨大な食材」としてしか見ていなかった。
サトシはため息をつきながら、リィエルの手に「概念強化」を施す。
「【概念修復】――付与概念:『全ての事象を掴み取る神の掌』!」
「おほっほっほ! 逃がさぬぞ、特大のゲソ焼きよ!」
女神の正拳突き(という名の食材採取)が、海を引き裂きクラーケンに直撃した。
5. 結末:砂浜の豪華絢爛パーティー
一時間後。
ビーチには、サトシが修理した「絶妙な火力」で焼かれたクラーケンの触手と、地元の名産品が並んでいた。
「……ふむ。苦労した甲斐があったぞ。この適度な弾力、お主の修理の賜物じゃな、サトシ」
リィエルは水着の上に薄いシャツを羽織り、焼き立てのゲソを頬張っている。
カイも、自分の「高性能炭火焼き機」がサトシの概念修復で「炭の持ち」を無限にされたことに驚きつつ、ビール(ノンアルコール)を飲んでいた。
『【神回】女神様の水着姿で視力回復したww』
『クラーケンを「ゲソ焼き」にする英雄初めて見たわ』
『カイ君、もう完全にサトシさんのペースに巻き込まれてるな』
賑やかなビーチ。だが、サトシは腕時計の奥底に、リィエルの深層意識から漏れ出る「小さなノイズ」を感じ取っていた。
バグメーカーが言った『初期不良』。
それが、この広大な海のように、静かに、しかし確実に深まっていく予感がしていた。
「……まぁ、今はリィエル様が楽しそうだから、いいか」
サトシは、リィエルが差し出してきた「一番大きなゲソ」を受け取り、夏の太陽の下で笑った。




