第20話:女神の『仕様(スペック)』が書き換わる? ――壊れた神性を修理せよ!
1. 完璧すぎる女神の違和感
温泉街の朝。サトシが目を覚ますと、そこには異様な光景が広がっていた。
いつもなら、ジャージ姿でポテトチップスの袋に手を突っ込みながら寝ているはずのリィエルが――。
「おはようございます、サトシ。朝食の準備を整えておきました。栄養バランスを完璧に計算した、神界最高峰のメニューです」
純白の神衣を隙なく纏い、慈愛に満ちた微笑みを浮かべるリィエル。
部屋は塵一つなく清掃され、空気は神聖な芳香に満ちている。
「……リィエル様? 昨日のトリュフの食べ残しは? あと、その……ポテチは?」
「そのような下俗なものは、女神の定義に相応しくありません。私は今、本来あるべき『完璧な偶像』へとアップデートされたのです」
サトシの腕時計が、狂ったように警告を吐き出した。
Warning: Target [RIEL] - Metadata Overwritten
Current Status: [GODDESS_V2.0_PURE]
Error: [Individuality_Data] is missing.
2. カイの診断とサトシの予感
騒ぎを聞きつけたカイが、診断ドローンを飛ばしながら部屋に踏み込んでくる。
「おいサトシ、これを見ろ! 彼女のパーソナリティ・データが、外部からの強制パッチで『汎用的な女神像』に置き換えられている。バグメーカーの仕業だ。彼女の『自堕落だけど人間臭い部分』を、システムが『不具合』と判断して削除しやがった!」
「削除……? あのワガママも、食い意地も、全部ですか?」
「ああ。このままだと、彼女は君の知っているリィエルじゃなくなる。ただの『願いを叶えるだけの自動機械』に更新されて終了だ。……これこそ僕の苦手な分野だ。最新が『最善』とは限らない典型例だよ」
リィエルは無機質な笑みを浮かべたまま、サトシに手を差し出す。
「さあサトシ、世界を救うための次のタスクを入力してください。私は完璧に、それを遂行いたします」
3. 『概念修復』:心の深淵へ
サトシは、リィエルの冷たい指先を握りしめた。
彼の目には、彼女の魂の奥底で、泣きながらポテチの袋を抱えている「本当のリィエル」が、黒いノイズの檻に閉じ込められているのが見えた。
「……リィエル様。あなたは、完璧なんかじゃなかった。でも、その『ダメなところ』全部含めて、僕が直して、守ってきた世界の一部なんです」
サトシは、リィエルの額に自分の手を当て、精神世界へとダイブした。
「【概念修復】――対象:リィエル・パーソナル・コア。定義修復:『完璧な神性』の拒絶、および『愛すべき欠陥(個性)』の復元!」
深層意識の中で、サトシは巨大な「真っ白な壁(完璧な仕様書)」を、腕時計の機能を使って物理的に破壊していく。
Conflict Resolution:
Repair(Personality) > Update(Generic\_Model)
Variable [Laziness] : Restoring...
Variable [Appetite] : Restoring...
4. 女神の帰還と「怒りの鉄拳」
バリィィィィン!!
精神世界を覆っていた白い殻が砕け散り、部屋中に強烈な「ポテチの匂い」と「いつものダラけた空気」が爆発的に戻ってきた。
「……ぷはぁ!! 苦しかったぞサトシ! なんじゃあの『清潔で礼儀正しい地獄』は! 妾からポテチと二度寝を奪うとは、バグメーカーめ、神罰では生ぬるい、絶滅させてくれるわ!」
リィエルが床に転がり、ジャージ姿に戻りながら叫ぶ。
髪のノイズは消え、いつもの勝気で活き活きとした瞳が戻っていた。
「……おかえりなさい、リィエル様。やっぱり、あなたはそうでなきゃ」
「ふん! お主に『ダメなところ』と言われたのは心外じゃが……まぁ、妾を元の姿に『修理』した功績に免じて、今回は特別にハグを……いや、ポテチの袋を開ける権利を授けてやろう!」
5. 結末:バグメーカーの計算違い
カイは呆れたように肩をすくめた。
「……やれやれ。あんなバグだらけの女神を必死に直すなんて、世界中で君一人だけだよ、サトシ。でも、まぁ……バージョン2.0よりは、今の1.0の方が『見てて飽きない』のは確かだ」
『【神回】サトシさん、女神の「ダメなところ」を全肯定ww』
『「愛すべき欠陥」って名言すぎだろ……』
『結局ポテチに戻る女神様、安心感が半端ない』
その時、空中にバグメーカーのホログラムが歪んで現れた。
「……フフ、面白い。概念そのものを破壊するのではなく、『修復』することで個性を守るとはね。だがサトシ君、彼女を『元に戻した』ということは、彼女に宿る**『世界を滅ぼす初期不良』**もそのまま残したということだよ?」
「初期不良……?」
「君が直したその女神が、いつか世界を壊すその時……君は自分の『修理』を後悔することになるだろう。――では、また次の不具合で会おう」
不穏な言葉を残し、影は消えた。
だが、リィエルはそんなことはお構いなしに、サトシの腕時計を「鏡代わり」にして前髪を整えていた。
「サトシよ。次は『海』じゃ。海に行って、あの『大きなカニ』を修理(調理)して食べるのじゃ!」
不穏な予言すら、食欲で塗り潰していく。
サトシは、新しくなった腕時計の針を見つめ、静かに決意を新たにするのだった。




