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第2話:一億人の視聴者が、神の陥落を目撃する

「サトシよ……この『スパチャ』という供物は、いつになったらポテトチップスに変わるのじゃ?」

 配信開始から数時間が経過した最下層。

 女神リィエルは、ホログラムで空中に映し出されたコメント欄を、猫が蝶を追うような手つきで突っついていた。

「リィエル様、お金は後でまとめて口座に振り込まれるんです。数千万単位になってますから、一生分のポテチを買ってもお釣りが来ますよ」

「いっ、一生分だと!? 人間界の経済とは、これほどまでに妾に優しいのか……!」

 リィエルは感動に震え、俺のジャージの袖をギュッと掴んだ。

「よし、サトシ! お主を妾の『専属供物調達係デリバリー』に任命する! 今すぐ地上へ戻り、あの『暴力的なまでに美味い茶色の塊』を買ってくるのじゃ!」

「ああ、からあげのことですね。でも、ここからどうやって戻るか……」

 俺は周囲を観察する。この神殿の奥には、ひび割れた巨大な「鏡」が安置されていた。

 本来は地上を映し出す神具だったのだろうが、今は煤けて何も映っていない。

「リィエル様、あの鏡を使えば地上と繋がれるんじゃありませんか?」

「無理じゃ。あれは数百年前に妾が椅子をぶつけて壊して以来、沈黙したまま。神の力をもってしても、一度死んだ概念は元には戻らん」

「……試してみます」

 俺は鏡に手を置いた。

 思考を研ぎ澄ます。単にひびを塞ぐのではない。

 鏡の持つ「真実を映す」という概念を、現代の「超高速通信」と「座標転移」の概念に接続し、修復する。

「【概念修復リペア・ワークス】」

 バキバキと音を立て、鏡が再構成されていく。

 煤けていた表面が、吸い込まれるような純白の光を放ち、そこには——現在の地上、探索者ギルドの騒乱が鮮明に映し出された。

「なっ……!? 神具を、お主、人間の身で『修正デバッグ』したというのか!?」

「ただの、修理ですよ」

 鏡には、俺を追放したゼノンたちが、ギルドで「サトシのせいでドローンが故障し、俺たちの貴重な戦闘シーンが撮れなかった!」と嘘を並べ立てている姿が映っていた。

『あ、追放した奴らだ。最低だな』

『女神様の鏡は嘘をつけないからな。全部バレてるぞww』

『サトシさん、こいつらの武器も「修理」してあげてくださいよ(暗黒微笑)』

 コメント欄の熱狂を横目に、俺はふと、リィエルの様子がおかしいことに気づいた。

 彼女は、鏡に映る地上の「コンビニ」の看板を、食い入るように見つめていた。

「サトシ……。あの光り輝く店には、あの茶色の塊が山ほど積んであるのか?」

「ええ、選び放題ですよ。他にも、甘いスイーツとか、キンキンに冷えた炭酸とか」

「……。…………。サトシよ、妾は、決めたぞ」

 リィエルが、決然とした表情で俺の手を握った。

 その瞳には、世界の終焉を司る女神らしい冷徹さは微塵もなく、ただ「食欲」という名の純粋な衝動が燃え盛っていた。

「妾も、地上へ行く! そして、あの『コンビニ』という名の神殿を制圧するのじゃ!」

「制圧じゃなくて買い物です。……まあ、いいですよ。リィエル様がいれば、帰り道も安全そうですし」

「うむ! 妾がついているからには、どんな魔王も敵ではないわ! さあ、行くぞサトシ! 妾に最高の『ポテチ』を捧げるが良い!」

 その宣言がドローンを通じて全世界に流れた瞬間、地上の探索者ギルドはパニックに陥った。

 伝説の女神が、ポテトチップスのために最下層から這い上がってくる。

 それがどれほど歴史を揺るがす大事件か、俺と、そして当の女神様だけが、まだ理解していなかった。

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