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第1話:奈落の底の引きこもり女神 ――F級探索者の『概念修復』が、世界のバグをデバッグし始めた件

「サトシ、今日でお前はクビだ。このボロ剣と一緒に、地上へでも何でも失せな」

 湿ったダンジョン22層。パーティーリーダーのゼノンが、研ぎ直されたばかりの長剣を地面に放り捨てた。

 俺――佐藤聖サトシは、その泥に汚れた剣を黙って見つめる。

 俺のスキル【概念修復リペア・ワークス】は、壊れたものを「あるべき姿」に戻すだけの地味なものだ。戦闘スキルを持たない俺は、彼らの装備を整え、ゴミを拾い、ポーションの空き瓶を再生させることでなんとか食い繋いできた。

「ゼノンさん、その剣……中心核の歪みまで直しておきましたから。乱暴に扱うと――」

「うるせえよ! 時代は『使い捨て』なんだよ。一々修理を待つより、新しい魔剣を買った方が攻略効率がいい。お前みたいな『過去を直すだけ』の無能は、うちには要らねえんだ」

 仲間の聖女も、魔術師も、俺を「便利な道具」とすら見なさなくなったらしい。

 俺は静かに、愛用の古い小型ドローンと、拾い集めたガラクタを背負った。

 F級探索者としての唯一の副業――『ゴミ拾い配信』のスイッチを、半ば自嘲気味に入れる。

『【F級】今日もダンジョンの隅っこでお片付け……あれ?』

 視聴者はゼロ。だが、配信を開始した直後だった。

 ダンジョンが、悲鳴を上げるように震えた。

 

「なんだ……!? 空間が、歪んで――」

 逃げる間もなかった。足元の地面が「消滅」したのだ。

 俺は絶叫と共に、光の届かない奈落へと吸い込まれていった。

 ***

 どれくらいの時間が経っただろうか。

 背中を叩く柔らかな芝生の感触で、俺は目を覚ました。

「……生きてる、のか?」

 視界に飛び込んできたのは、神話の世界のような光景だった。

 天井には巨大な水晶が瞬き、星空のような光を放っている。だが、その幻想的な空間の中央に、あまりにも不釣り合いな「生活感」が鎮座していた。

 大理石の豪華なソファの上には、脱ぎ散らかされたジャージ。

 黄金の宝箱はポテトチップスのゴミ箱にされ、伝説の聖杯には飲みかけのコーラが注がれている。

 そして――。

「あああああ! クソ! また死んだ! このボス、攻撃パターンが理不尽すぎるのじゃ! わらわの神力をもってしても、この『レトロゲーム』は攻略不能なのか!?」

 銀髪を乱雑にお団子に結び、ジャージを羽織った美少女が、古いブラウン管テレビの前で身悶えしていた。

 彼女がコントローラーを激しく叩いた瞬間、テレビが「バチン!」と火を噴いた。

「ああ……ああああ……妾の数千年の楽しみが……。地上から拾ってきた最後の暇つぶしがぁぁ……!」

 少女――リィエルが床に突っ伏して号泣し始める。

 俺は呆気に取られながらも、職業病が勝った。

「……直しましょうか? それ」

「ひゃあああ!? に、人間!? なぜこんな場所に……」

「通りすがりの修理屋です。ちょっと貸してください」

 俺は煙を上げるテレビに手をかざした。

 意識するのは、時間の逆行ではない。この物体が本来持っていた「映像を映す」という概念の、究極的な完成形への更新だ。

「【概念修復リペア・ワークス】」

 金色の光が粒子となってテレビを包む。

 次の瞬間、ひび割れたブラウン管は消失し、極薄の、それこそ空間に映像が浮き出るような超高精細ディスプレイへと「進化」した。ついでに側に転がっていた、俺の壊れたドローンにも光が伝播する。

「なっ……なんじゃこの輝きは!? 画面の中に、本物の世界があるみたいではないか!」

「ついでに、そのドローンも直しておきました。……あ」

 修復されたドローンが、勝手に俺の顔を捉えた。

 電波。最下層のはずなのに、修復された「通信概念」が、地上の衛星を直接ハッキングして接続を確立している。

『視聴者数:1人……100人……1万人……10万人……!?』

「サトシよ、これはいったい何なのじゃ!? 画面の横に、文字が滝のように流れておるぞ!」

 リィエルがドローンに顔を近づける。その銀髪の美貌が、超高画質で全世界に発信された。

 

『待て、今の光なんだ!?』

『あの美少女……教会の隠し壁画に描かれてる「終焉の女神」にそっくりなんだが……』

『背景のゴミ箱、あれ「オリハルコンの聖杯」じゃねーか! 100億はするぞ!』

「サトシ……これは、妾が世界中に見られておるということか?」

「ええ、まあ……そういうことになりますね」

 リィエルは一瞬、頬を赤く染めたが、すぐにジャージの襟を正してドヤ顔を作った。

「ふむ! 全世界の民よ、よく聞け! 妾こそが終焉と再生を司る女神、リィエルである! そしてこのサトシは、妾のテレビを直した功績により、今日から『一番の下僕』に任命してやったのじゃ!」

 コメント欄が、見たこともない速度で爆発した。

 俺は、スマホに表示された【投げ銭:合計1,000万円】という通知を見て、遠い目をした。

 俺の静かなゴミ拾い生活は、この日、文字通り「概念」から書き換えられてしまったらしい。

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