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第14話:温泉街の祭りを『修理』したら、屋台が奇跡の味になった件

1. 浴衣と食欲の行進曲マーチ

 温泉で心身ともにデバッグされた俺たちは、さらに賑やかさを増した温泉街のメイン通りへと繰り出していた。

 今夜はこの街の例大祭。昨日までは閑古鳥が鳴いていたはずの通りが、俺の『源泉修復』の噂を聞きつけた観光客と、活気を取り戻した地元民で埋め尽くされている。

「サトシ! 見よ、あの赤き提灯の列! まるでわらわを歓迎する儀式の灯火のようではないか!」

 リィエルは浴衣の裾を気にすることもなく、小走りで屋台の列へ突っ込んでいく。

 彼女が最初に見つけたのは、定番中の定番――**『りんご飴』**だった。

「サトシ、この赤い宝玉は何じゃ? 外側は硬質なる結界で覆われ、中には瑞々しい果実……もしや、古代の魔力回復薬の類か?」

「いえ、ただのリンゴに飴を塗ったお菓子ですよ。……あ、でもその屋台、飴が少しベタついてますね。作り置きで湿気を吸っちゃってるんだ」

 サトシは店主の許可を得て(というか、女神の美貌に圧倒された店主が勝手に差し出してきた)、リンゴ飴に指を触れた。

「【概念修復リペア・ワークス】――対象:この屋台のリンゴ飴。状態を『最高級の結晶化』と『もぎたての鮮度』に修復」

 パキッ、とクリスタルが鳴るような心地よい音が響く。

 リィエルがそれを一口齧ると、瞳をこれでもかというほど見開いた。

「なっ……! 歯応えは極上の宝石のごとく軽やか、そして溢れ出す蜜は……天界のしずくか!? サトシ、これをおかわりじゃ! 10個……いや、100個ほど概念修復せよ!」

「そんなに食べたら虫歯も修理しなきゃいけなくなりますよ」

2. 射的の『闇』をデバッグする

 次にリィエルが目を付けたのは、古びた景品が並ぶ**『射的』**だった。

 彼女は、最上段にある『超限定アイリス様・黄金フィギュア』を見つけ、吸い寄せられるようにコルク銃を握る。

「サトシよ、これぞ神の試練! 妾の『推し』が、あのような不安定な棚の上に鎮座しておる。妾の弾丸コルクで、無事に救い出してみせよう!」

 だが、結果は散々だった。

 リィエルの放った弾は、何度見ても完璧に命中しているはずなのに、フィギュアは微動だにしない。

「……おかしい。妾の神眼しんがんが捉えた軌道に狂いはないはず。なぜ、あの黄金の像は倒れぬのだ!? あの棚には、もしや重力操作の結界が張られておるのか!?」

 サトシは苦笑いしながら、棚の「概念」を観察した。

「リィエル様、あれは結界じゃなくて『底面に接着剤を塗る』っていう、物理的なバグ(イカサマ)ですね。あと、その銃のコルクも湿ってて威力が落ちてます」

「……何だと!? 聖なる祭りの場で、妾をたばかったというのか!?」

 リィエルの背後から黒いオーラが立ち上り、店主が「ひっ……!」と腰を抜かす。

「リィエル様、ストップ。……僕が『公平なルール』に修理しますから」

 サトシが棚と銃に同時に手をかざした。

「【概念修復】――付与概念:『必中・必倒の真実フェアプレイ』。あと、コルクの推進力を『超電磁砲レールガン』級に再定義」

「……よし、リィエル様。次は当たれば倒れますよ」

「うむ! 参るぞ――神罰ショット!」

 パーン! という乾いた音。

 放たれたコルクは、音速を超えて空間を震わせ、フィギュアどころか背後の棚ごと木っ端微塵に吹き飛ばしそうになったが、サトシが寸前で「衝撃波の範囲」を修復して抑え込んだ。

 黄金のフィギュアは、優雅に舞い上がり、リィエルの手のひらへと収まった。

『【速報】サトシ、射的を「レールガン」に改造ww』

『店主が白目剥いてて草』

『女神様の喜びの舞、かわいすぎだろ……』

3. 花火の修理と、本当の願い

 夜も更け、祭りのクライマックスである『打ち上げ花火』が始まった。

 しかし、不運なことに湿気と老朽化のせいで、上がった花火はどれも色が薄く、途中で消えてしまうものばかり。観客からは溜息が漏れていた。

「サトシ……。これは、寂しいのう。光が天に届く前に消えてしまうとは。まるで……かつての、忘れ去られた神殿のようじゃ」

 寂しそうに空を見上げるリィエル。

 サトシは自分の懐から、修理済みのドローンを飛ばした。

「リィエル様。……世界で一番綺麗な光、お見せしますよ」

 サトシは空中に放たれた次の花火玉に向けて、魔力のポインターを飛ばした。

「【概念修復】――対象:この空に咲く全ての火花。定義を『宇宙の創造』と『永遠の輝き』へ書き換え」

 ドォォォォン!!

 次の瞬間、温泉街の夜空が爆発した。

 それはただの花火ではなかった。

 七色に輝く星屑が、まるで生き物のように夜空を泳ぎ、リィエルの推しキャラ『アイリス』の形や、見たこともない幻想的な星座を描き出していく。

 光の粉が地上まで降り注ぎ、肌に触れるたびに人々の疲れが消えていく。

「……おお……。サトシ、これは……」

「これなら、神様への供物として合格ですか?」

 リィエルは、輝く夜空を見つめたまま、不意にサトシの隣へと歩み寄った。

 そして、周囲にバレないよう、浴衣の袖の中でサトシの指先をそっと絡めた。

「……合格じゃ。……サトシ。お主のこの『修理』、世界中を直すのも良いが……時々は、こうして妾の『心』の綻びも、直してくれぬか?」

「……。努力します、リィエル様」

4. 結末:そしてバグは忍び寄る

 最高の花火が終わり、人々が歓喜に包まれる中、サトシはふと、遠くの山のに「不自然な影」を見た。

 

 花火の光に照らされて一瞬だけ見えた、空間のノイズ。

 バグメーカーが、今夜の『神域の光』を不快そうに見つめていたのだ。

「……光が強まれば、影もまた深まる。サトシ……君が直したその美しい夜空を、次は『絶望の黒』で塗り潰してあげよう」

 そんな予兆を知ってか知らずか、リィエルは「次はイカ焼きじゃ!」とサトシの腕を引っ張り、再び屋台の喧騒へと消えていった。

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