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第13話:伝説の隠れ湯を『修理』したら、神の雫に変わった件

1. 女神、浴衣に萌える

 遊園地での騒動から数日。俺たちは、ギルドから「休養」という名目で招待を受け、山奥にある歴史ある温泉宿『極楽亭』へとやってきた。

「サトシよ……。この『ゆかた』という布、ジャージに匹敵するリラックス感ではないか! それにこの帯……腰が締まって、心なしかわらわの神威が増した気がするぞ!」

 リィエルは、紺地に小花柄の浴衣を器用に着こなし、鏡の前でくるくると回っている。少しはだけた襟足が妙に色っぽいが、本人は手に持った「温泉まんじゅう」を口に放り込むことに夢中だ。

「似合ってますよ、リィエル様。……でも、この宿、なんだか活気がないですね」

 それもそのはず、この『極楽亭』はかつて「万病を治す聖水」と謳われた名湯だったが、数ヶ月前の地震(という名のバグ)以来、源泉が枯れ、今ではただの「お湯を沸かした風呂」を出すだけの寂れた宿になっていた。

2. 枯れた源泉と、老主人の涙

「……申し訳ありません。女神様をお迎えしたというのに、こんな『ただのお湯』しかお出しできず……」

 老主人が、枯れ果てた岩場の源泉跡で肩を落としていた。

「バグの影響で、地脈の魔力がねじ曲がってしまったんです。もう二度と、あの『肌を白磁のように変える霊泉』は湧き出ないでしょうな……」

 リィエルが、ぬるくなったお湯を指先で突っつき、顔をしかめた。

「サトシ……これは不快じゃ。この水には『生命の躍動』が微塵も感じられぬ。まるで、一週間放置した炭酸の抜けたコーラのようではないか!」

「例えがリィエル様らしいですが……。わかりました。せっかくの温泉旅行ですし、『お湯』そのものを修理しましょう」

3. 『概念修復』:神の雫、再定義

 サトシは、カサカサに乾いた源泉の噴出口に手を置いた。

 彼の目には、地下深くで魔力の奔流が「渋滞」を起こし、ドロドロに腐敗しているのが見えていた。

「……地下のマグマ成分と、古代の治癒魔法が混ざるポイントが壊れてる。ここを直して……ついでに『美肌効果』と『疲労回復』のパラメーターを最大値まで上げますね」

「【概念修復リペア・ワークス】――対象:極楽亭・第一源泉。付与概念:『神域の霊泉エリクサー・スパ』」

 サトシの腕から放たれた金色の光が、地底深くへと突き刺さった。

 

 ゴゴゴゴ……! という地鳴りと共に、乾いていた岩場から、白濁した、それでいて真珠のように輝くお湯が、凄まじい勢いで噴き出した。

 立ち上る湯気は、吸い込むだけで肺の汚れが浄化されるような、神聖な香りを纏っている。

「なっ……! お湯が、お湯が生きているようだ! それにこの成分……浸かるだけで寿命が延びるぞ!」

 老主人が腰を抜かして叫ぶ。

『【速報】サトシ、温泉を「エリクサー」に作り替えるwww』

『今すぐそこ行きたい! 1泊100万でも払う!』

『女神様の入浴シーン配信はまだですか!?(切実)』

4. 混浴の誤解と、神の肌

 修復が終わった後。

「サトシよ! 準備が整ったぞ。さあ、共に『こんよく』という名の儀式に挑もうではないか!」

「……はい?」

 リィエルが、バスタオル一枚を体に巻き(神力でガードされているが)、堂々と脱衣所から現れた。

「さっき読んだ観光雑誌に書いてあったぞ。『愛しき者と共に湯に浸かることで、絆を修復する』とな! 妾とお主の絆、ここで完璧にデバッグしてやろう!」

「いや、それ誤解ですから! 雑誌のキャッチコピーを鵜呑みにしないでください!」

 結局、衝立ついたて越しに、隣り合って入ることに落ち着いた。

 チャプン、とお湯に浸かる音。

「……はぁぁぁぁ……。サトシ……これは、凄まじいな……。肌の毛穴一つ一つに、お主の『優しさ』が染み込んでくるようじゃ……」

「……リィエル様、変な表現しないでください」

 衝立の向こう側から、リィエルの白い肌がさらに輝きを増していく気配が伝わってくる。

「サトシよ。……お主がこの世界を直すたびに、妾は少しだけ、この退屈な世界が好きになる。……お主、ずっと妾の隣で『修理』を続けてくれるか?」

「……ええ。リィエル様がポテチを喉に詰まらせない限り、ずっと隣で見てますよ」

「……ふん。余計な一言じゃ。……だが、今日だけは許してやろう」

5. 結末:コーヒー牛乳の至福

 風呂上がり。

 腰に手を当て、瓶のコーヒー牛乳を一気に飲み干すリィエル。

「ぷはぁー!! これじゃ! この『茶色いミルク』こそが、温泉の真の報酬であったか!」

「おじさん臭いですよ、リィエル様」

 二人の平和なやり取りを、ドローンは温かく(そして少しだけリィエルの艶やかな姿を多めに)映し出していた。

 

 一方、ネット上では宿の予約が向こう100年分埋まるという異常事態が発生。

 さらに、バグメーカーが、浄化された温泉のエネルギーを察知して舌打ちをしていた。

「……ふん。聖水か。ならばそのお湯を、『沸騰する地獄の釜』に変えてやれば、君たちはどんな顔をするかな?」

 不穏な影をよそに、サトシはリィエルに「卓球」でボコボコにされながらも、心からの安らぎを感じていた。

 

 「温泉を修理したら、自分の心も少しだけ直った気がする」

 サトシはそんなことを考えながら、リィエルの放った高速スマッシュを顔面で受け止めるのだった。

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