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第15話:五月の雪と、女神の「胃袋」デバッグ

1. 祭りのあとの「重力」

 お祭りから一夜明けた、温泉宿の朝。

 俺――サトシが目覚めると、隣の布団(リィエル様が「一人で寝るのは心細い」とゴネて並べさせたものだ)から、地響きのような唸り声が聞こえてきた。

「……うう……サトシよ……。世界が……世界がわらわを押し潰そうとしておる……。これは、もしやバグメーカーによる高重力攻撃か……?」

 銀髪をボサボサにしたリィエルが、お腹を押さえながら悶絶している。

 サトシは冷静に、枕元に散乱した「イカ焼きの串」と「チョコバナナの皮」の山を指差した。

「リィエル様、それは攻撃じゃなくて『食べ過ぎによる消化不良』です。神様なら自分の代謝くらいコントロールしてくださいよ」

「……無茶を申すな。あの屋台のソース……あれは、抗えぬ魔力が宿っておったのじゃ……。サトシ、早く、早く妾の胃袋を『全盛期(空腹時)』に修理せよ……!」

「そんなことにスキルを使わせないでください」

2. 五月の吹雪メイ・ブリザード

 サトシがリィエルに胃薬を飲ませようとしたその時、窓の外が急激に暗くなった。

 五月。新緑が美しいはずの季節に、窓の外では猛烈な「吹雪」が吹き荒れ始めたのだ。

「……雪? 温泉街の気温が、一気に氷点下まで落ちてる」

 スマホを確認すると、ネット上はパニックに陥っていた。

『【異常気象】東京で積雪30cm!?』

『ブラジルが凍結してるんだが……世界が終わるぞ』

『バグメーカーの声明:「春は飽きたから、今日から永久に冬にするよ」』

 どうやらバグメーカーは、世界の基幹システムの一つである**『季節シーズン・サイクル』**のプログラムを書き換え、世界を永久的な氷河期へ叩き落としたらしい。

「サトシ……。このままでは、各地の農園が全滅し……妾の愛する『期間限定・春のイチゴフェア』が中止になってしまうではないか……!」

 胃痛を根性でねじ伏せ、リィエルが立ち上がる。その瞳には、かつてないほどの殺意(食欲への執着)が宿っていた。

3. 『概念修復』:地球のサーモスタット

 サトシたちは、街外れにある地脈の集積ポイント――『龍の首』へと向かった。

 そこには、巨大な氷の結晶に包まれた「世界の季節時計」が、どす黒いノイズを放ちながら凍りついていた。

「……なるほど。大気の循環フローを凍結させて、無理やり『冬』の変数を固定してるのか。……リィエル様、周囲の氷の魔物を抑えてください。一気にデバッグします」

「うむ! 妾のイチゴを邪魔する氷塊どもめ、ちりすら残さず溶かしてくれよう!」

 リィエルが神聖な炎を放ち、迫り来る氷のゴーレムを「アイスを食べるような手軽さ」で粉砕していく。その隙に、サトシは季節時計に手を置いた。

「【概念修復リペア・ワークス】――対象:地球大気循環システム。付与概念:『巡る命の芽吹き(スプリング・リバイバル)』」

 サトシの手から、春の陽光を凝縮したような温かな光が、地脈を通じて世界中へ広がった。

 

 凍りついていた大気が、サトシの「修理」によって本来の熱伝導率を取り戻していく。

 雪は瞬時に溶けて恵みの雨となり、枯れかけていた花々が、スローモーションを巻き戻すように鮮やかに開花していく。

「――さらに、バックアップを強化。二度と『季節』が書き換えられないよう、概念の根幹にセキュリティ(俺の魔力)を埋め込む」

 空を見上げると、厚い雲が割れ、透き通るような五月の青空が戻ってきた。

『【神】一瞬で冬が終わったww』

『サトシさん、気象神社に祀られるレベルだろ』

『今、世界中のイチゴ農家が命を救われたぞ!』

4. 結末:ご褒美は「春の色」

 事件解決後。

 温泉街のカフェテラスで、リィエルは念願の『春のイチゴパフェ・特盛り』を前に、至福の表情を浮かべていた。

「……ふむ。やはり春の味は、お主が直した後の空の下で食べるのが一番じゃな。サトシ、褒めて遣わすぞ」

「リィエル様がパフェを食べたいがために、世界を修理させられた気がしなくもないですが……」

 リィエルはパフェの大きなイチゴをスプーンですくい、不意にサトシの口元へ差し出した。

「ほら、お主も食べよ。……世界を直した男への、神からの特別報酬じゃ」

「……。いただきます」

 イチゴの甘酸っぱさが口に広がる。

 それを見守るドローンの向こう側では、世界中の人々が「尊い……」「もう結婚しろよ」と、平和なコメントを流し続けていた。

 

 一方、北極の彼方でバグメーカーは自らの端末が「アクセス拒否(Access Denied)」を繰り返すのを見て、苛立ちを露わにしていた。

「……サトシ。私の『季節』すら拒絶するか。なら、次は君自身の『過去』をバグらせてあげよう。君がひた隠しにする、あの『失敗』の記憶をね……」

 サトシの穏やかな日常に、過去の影が忍び寄ろうとしていた。

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