第12話:廃墟の遊園地を『修理』したら、夢の国が爆誕した件
1. 女神、聖地を渇望する
「サトシよ。妾は決めたぞ。次の『遠征』の目的地はここじゃ!」
リィエルがスマホの画面を突きつけてくる。そこに映っていたのは、色鮮やかなパレードと、巨大なネズミ……ではなく、可愛らしい魔獣のキャラクターたちが踊るテーマパーク『マジカル・ファンタジア』の紹介動画だった。
「あー、そこ有名ですよね。でもリィエル様、そこは一ヶ月前の『バグ』の発生で今は閉鎖されて、廃墟になってるはずですよ」
「なんじゃと!? 妾がこの『揚げたてチュロス(シナモン味)』を食べるために、わざわざ昨日からジャージを洗濯して備えておったのにか!? 許せん……世界のバグめ、妾の食欲を阻むとは万死に値する!」
リィエルの絶望が深まると、ホテルの天井がミシミシと鳴り始める。
「わかりました、わかりましたから! 直しに行きましょう。……ついでに、そのチュロスも『修理』すれば食べられるかもしれませんし」
「……! さすがは妾のサトシじゃ。話がわかるではないか!」
2. 絶望の遊園地と、強欲な開発者
現地に到着すると、そこは見る影もない惨状だった。
華やかだったはずの城は黒い霧に侵食され、観覧車は不気味に軋み、地面にはひび割れたキャラクターの石像が転がっている。
「ひどいな……。魔力汚染がひどすぎて、浄化の専門家も匙を投げたと聞いていましたが」
サトシが周囲を見渡していると、一台の高級車が乗り付けてきた。中から出てきたのは、成金趣味のスーツを着た男――大手開発企業の代表、バロン。
「おやおや、今をときめく『修理屋』さんじゃないか。無駄だよ、ここはもう我々が買い取って、カジノビルに建て替えることが決まっているんだ。こんな『ゴミ溜め』、直せるはずがないからね」
バロンは、壊れたメリーゴーランドを蹴り飛ばしながら笑う。
「夢なんてものは、金にならないんだよ。さあ、女神様もそんな貧乏くさい男は捨てて、私のカジノで遊びませんか?」
「サトシ……。この男、妾のチュロスを『ゴミ』と呼んだぞ。……今すぐ、この男の『存在』を不燃ゴミとして処理してもよいか?」
「リィエル様、落ち着いて。……バロンさん、一つ提案です。もし僕がここを『今すぐ』直せたら、カジノの話は白紙にしてもらえますか?」
「はっ! 冗談を。この広大な敷地を一人で? いいだろう、やってみるがいい!」
3. 『概念修復』:夢と魔法の再定義
サトシは、園内の中央にある、今にも崩れそうな『シンボル・キャッスル』の壁に手を触れた。
彼の目には、建物だけでなく、そこに溜まっていた「子供たちの笑顔」や「期待感」といったポジティブな概念が、バグによってバラバラに引き裂かれているのが見えた。
「……これ、建物だけ直しても意味がない。この場所が持っていた『ワクワクする気持ち』を修理しないと」
「【概念修復】――対象:マジカル・ファンタジア全域。付与概念:『永遠に色褪せない夢の世界』」
サトシから解き放たれた金色の波動が、一瞬で園内を駆け抜けた。
黒い霧は虹色の光へと反転し、錆びついていた遊具は新品以上の輝きを取り戻す。
それだけではない。
壊れていた石像は命を吹き込まれたかのように動き出し、スピーカーからは陽気な音楽が流れ、噴水からは宝石のような水飛沫が舞い上がった。
「……な、なんだと!? 工事車両も、資材もなしに……一瞬で!? それに、この空気……吸うだけで幸せな気分になるだと……!?」
バロンが腰を抜かす。
『【神回】廃墟が一瞬で「ディズニー超え」のクオリティにww』
『サトシさん、これもう建設業界の神だろ』
『女神様、もうチュロスの列に並んでるんだがww仕事が早いww』
4. チュロスと女神の微笑み
「サトシ! 見よ! チュロスじゃ! しかもサトシが直したおかげで、一口食べるごとに魔力が回復し、幸福感で脳がとろけそうになるぞ!」
リィエルは、両手にチュロスの束を持ち、頬をリスのように膨らませて感動していた。
サトシも一本受け取り、口にする。
「……本当だ。これ、『美味しい』っていう概念まで上限突破してますね」
「サトシ……お主は、最高の男じゃ。妾、ここに住んでもよいぞ?」
「それは勘弁してください。……さて、バロンさん。約束通り、カジノの話は無しですよ」
「う、うう……。こんな、こんな素晴らしい場所を壊せるはずがない……。私はなんて愚かなことを……」
バロンは、サトシが修復した「幸福の概念」に当てられ、すっかり毒気が抜けて号泣していた。
5. 結末:夕暮れのパレード
夕暮れ時、修復された園内を二人で歩く。
ドローンは、夕陽に照らされたリィエルの横顔と、少し照れくさそうに歩くサトシの姿を映し出していた。
「サトシ……。今日は、悪くなかった。お主が直したこの世界、妾は案外、気に入っておるのかもしれぬ」
「……そうですか。なら、またどこかが『故障』したら、二人で直しに行きましょう」
その時、リィエルが不意にサトシの腕をギュッと組んだ。
「うむ! 次は『温泉』という、全裸で混ざり合う謎の儀式を修理しに行くぞ!」
「それ、ただの温泉旅行ですよね!? 混ざり合いませんからね!?」
平和な笑い声が、修復されたばかりの遊園地に響き渡る。
一方、ネット上ではまた一つ、伝説が生まれていた。
『サトシが直したチュロスを食べると恋が叶う』
『世界一幸せな廃墟再生ライブ』
そして、バグメーカーの嘲笑が再び響く。
「……フフ。夢の国、か。なら、その夢が『悪夢』に変わる瞬間を、特等席で見せてもらおうかな」




