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第11話:伝説の職人と、壊れたフィギュアの涙

1. 神の指先、職人の意地

 元パーティーとの決別から数日。ホテルのロビーには、各国の要人ではなく、一人の「頑固そうな老人」が居座っていた。

 ボロボロの作業着に、火花で焼けたような無数の傷跡がある手。世界最高の鍛冶師として名高い**「神鉄のムラマサ」**だ。

「……アンタが、概念を直すっていう若造か。笑わせるな、道具ってのはな、叩いて、焼いて、魂を込めて直すもんだ。指先一つで直るほど、鉄は甘かねえんだよ!」

 ムラマサがドスンと机に置いたのは、真っ二つに折れた漆黒の大剣だった。

 かつての英雄が使い、今は「修復不能」として博物館に眠っていたはずの、呪われた魔剣『デス・ブリンガー』だ。

「これを見な。数多の鍛冶師が挑み、誰一人として刃を繋げられなかった。アンタのその……『デバッグ』だか何だかで、これが直せるってのか?」

 サトシは無言でその魔剣を見つめる。

 彼の目には、折れた断面から「未練」と「悔しさ」という名の黒いノイズが漏れ出しているのが見えた。

2. リィエル様の『大惨事』

 一方その頃、スイートルームでは悲痛な叫びが上がっていた。

「あああああ! わらわの! 妾の限定1/7スケール、セント・アイリス様(特典ポーズVer.)がぁぁ!」

 リィエルが、届いたばかりのフィギュアの「羽」の部分を、組み立て中にうっかりポキリと折ってしまったのだ。

 

「サトシ! サトシはどこじゃ!? この『接着剤』という安直な液体では、アイリス様の神々しさが継ぎ接ぎになってしまう! 早く、早くこの『絶望』を修理するのじゃ!」

 ドローンが捉える映像には、涙目でフィギュアの欠片を抱える女神の姿。

 

配信コメント欄:

『女神様、全財産注ぎ込んだ限定フィギュアを即破壊ww』

『全オタクが泣いた。その悲しみ、痛いほどわかるぞ』

『下の階では伝説の鍛冶師がキレてるし、サトシさんの負担がデカすぎる』

3. 『概念修復』:対話の果てに

 サトシはロビーで、ムラマサの魔剣にそっと手を添えた。

「ムラマサさん。これ、金属が壊れてるんじゃないんです。剣が『もう、誰も斬りたくない』って、心を折ってるだけですよ」

「……何だと?」

「【概念修復リペア・ワークス】――対象:魔剣デス・ブリンガー。付与概念:『守るためのガーディアン・エッジ』への再定義」

 サトシの言葉と共に、部屋中に清涼な風が吹き抜けた。

 漆黒の刃は、内側から溢れ出す純白の光によって再構成され、禍々しいオーラは消失。代わりに、持つ者を優しく包み込むような、温かな輝きを放つ「聖護剣」へと生まれ変わった。

 断面は完全に消失し、もはや「繋げた」跡すら見当たらない。

「……バカな。呪いを浄化しただけじゃない。鉄の『意志』を書き換えやがったのか……」

 ムラマサは、震える手でその剣を握りしめた。

 彼はサトシに向かって深く頭を下げ、その場に崩れ落ちた。

「負けだ。俺が一生かけても辿り着けなかった『鉄との対話』を……アンタは一瞬でやり遂げちまった」

4. 女神の救済(と、ついでに)

 ムラマサを納得させたサトシは、大急ぎで部屋に戻り、今にも消滅しそうなほど落ち込んでいるリィエルの元へ駆け寄った。

「リィエル様、お待たせしました。……そのフィギュア、貸してください」

「サトシ……。もう、アイリス様は元には戻らぬのか……? 妾は、神として失格じゃ……」

「大げさですよ。――『修復』」

 サトシが指をパチンと鳴らす。

 折れた羽が魔法のように吸い付き、傷跡一つ残さず一体化した。

 さらに、サトシは少しだけサービスを加えた。

「ついでに『耐久概念』を強化しておきました。あと、リィエル様が触れた時だけ『少しだけ表情が微笑む』ようにしておきましたよ」

「……! アイリス様が……妾を見て微笑んでおる!? サトシ、お主……! お主は、神か!?」

「いや、俺はただのF級探索者ですよ。……あ、でもリィエル様の『掃除嫌い』の概念は、どうしても直せないみたいですね」

 足の踏み場もないほど散らかった段ボールを見て、サトシはため息をつく。

5. 結末:職人と女神の共鳴

 その夜、ロビーではムラマサが酒を飲みながら、ドローンのライブ配信を眺めていた。

 画面の中では、修理されたフィギュアを愛おしそうに眺める女神と、その横で黙々とゴミを片付けるサトシの姿。

「……ふん。世界の修理屋、か。あいつがいれば、この壊れかけた世界も、案外悪くない形に直るかもしれねえな」

 一方、ネット上では新たな伝説が刻まれていた。

 『世界最強の鍛冶師を弟子にした男』

 『女神の涙を1秒で止める修理神』

 そして、バグメーカーの潜伏先。

「……フフ、面白い。剣の『意志』すら書き換えるか。ならば、君が守ろうとしているその『日常』の意志も、私が少しずつ壊してあげよう」

 物語の歯車は、サトシの望まぬ方向へと大きく、ゆっくりと動き始めていた。

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