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栄光の中年、ただ生きる  作者: vastum


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■第82話「山が動いた」

 第一報というものは、大体雑である。


 慌てている人間が、慌てたまま言葉を投げてくるからだ。


 何が起きたのか。


 どこで起きたのか。


 誰が見たのか。


 本当に危険なのか。


 そういう大事な情報が、だいたい抜ける。


 そして、抜けた情報の隙間には、人間の想像が入り込む。


 その想像が厄介だ。


 最悪の可能性を考えるのは悪くない。


 だが、最悪だけを見て走り出すと、大体ろくなことにならない。


 その日、ギルドに飛び込んできた第一報も、まさにそうだった。


「山が動いた!」


 昼前。


 ギルドの扉を勢いよく開けて、マルクが叫んだ。


 ギルド内の空気が止まる。


 受付で書類を書いていたミレナが顔を上げる。


 酒場側で皿を拭いていたナナが手を止める。


 椅子でだらけていたガルドが片目だけ開ける。


 リオは風邪明けから完全復帰し、ちょうどレオンに依頼票の見方を教えていたところだった。


「……山が?」


 リオが聞き返す。


「動いたんです!」


 マルクは息を切らせている。


「東の山が!」


「山が動いたって、どういう意味ですか」


「だから、山がぐわって!」


「ぐわって!?」


 説明が雑すぎる。


 だが、マルクは普段から雑用係としてギルド中を走り回っている男だ。変なことを言うタイプではあるが、完全な嘘をつくタイプではない。


 その言葉だけで、ギルド内に緊張が走った。


「大型魔物か?」


 カイルが壁際から言う。


「山が動いたように見えるほど巨大な魔物……」


 エインの目が輝きかける。


「やめろ」


 カイルが即座に止めた。


「今わくわくする場面じゃない」


「すみません!」


「東の山って、見張り小屋を直した方角ですよね」


 メイナが言う。


「そうです」


 ミレナが立ち上がる。


「マルクさん、落ち着いてください。どこで聞きましたか?」


「市場です!」


「誰から?」


「荷運びのおじさんが!」


「その人は直接見たんですか?」


「えっと……その人は、別の人から」


 ギルド内の緊張が少しだけ別方向へずれた。


「伝聞じゃねえか」


 ガルドが言う。


「でも、みんな騒いでました!」


 マルクが言う。


「東の山の一部が動いて、土煙が上がったって!」


「土煙」


 リオが呟く。


「地滑りじゃないですか?」


 レオンが真面目に言った。


 登録からまだ日が浅いが、彼はいつも冷静に情報を整理する。


「山が動いた、という表現だけだと判断できませんが、土煙が伴うなら斜面崩落の可能性が高いです」


「まともな意見だ」


 ガルドが言う。


「このギルドで最初にまともなことを言ったな」


「僕も地滑りって言いましたよ!」


 リオが抗議する。


「お前は二番だ」


「微妙に悔しい!」


「でも、大型魔物の可能性もあります」


 エインが言う。


「山みたいに大きい魔物が、地面からこう」


「想像で話を進めるな」


 カイルが言う。


「だが、確認は必要だ」


 アルが奥の机から立ち上がった。


 いつも静かな声だが、その一言で全員が切り替わる。


「東の山の麓には作業道がある。もし地滑りなら、街道に土砂が流れている可能性がある。人が巻き込まれていないか確認する」


「はい」


 ミレナがすぐに書類を取る。


「確認班を出します。ガルドさん、リオくん、カイルさん、レオンさん、エインくん、メイナさん」


「俺もか」


 ガルドが嫌そうに言う。


「行ってください」


「山が動いたんだろ。山に頼め」


「山に依頼は出せません」


「じゃあ俺に出すな」


「出します」


「強いな」


 ナナが笑った。


「で、ユーンさんは?」


 リオが聞く。


 その瞬間、ユーンが勢いよく手を上げた。


「行きます!」


「待機で」


 ミレナが即答した。


「なぜ!?」


「山が動いたかもしれない場所に、ユーンさんを連れていくのは危険だからです」


「僕が危険みたいじゃないですか!」


「そうです」


 全員が即答した。


「ひどい!」


「もし本当に地滑りだった場合、追加で何か崩れる可能性があります」


 レオンが真面目に言う。


「そこにユーンさんが何か装置を持ち込むと、二次災害の確率が上がります」


「レオンさんまで!?」


「事実かと」


「理論で殴られるの、地味に痛いですね!」


 ユーンは胸を押さえた。


 結局、ユーンは待機。


 ただし「救援物資の準備を手伝う」という仕事を与えられ、少しだけ機嫌を取り戻した。


「では準備します!」


「変な工夫はしないでください」


 ミレナが釘を刺す。


「はい!」


 その返事も信用しきれないが、今は急ぐ必要がある。


 東の山へ向かう道中、空気は少し張り詰めていた。


 天気は悪くない。


 だが、昨日の夜に少し雨が降っている。


 地盤が緩んでいてもおかしくない。


「本当に山みたいな魔物だったらどうします?」


 エインが聞く。


「逃げる」


 ガルドが即答した。


「戦わないんですか!?」


「山みたいにでかい魔物とこの人数で戦うわけねえだろ」


「でも、ガルドさんなら」


「俺を何だと思ってる」


「漆黒の断罪者」


 エインが言った瞬間、リオが「あ」と思った。


 遅かった。


 ガルドの足が止まる。


 エインの顔から血の気が引く。


「すみませんでした」


「まだ何も言ってねえ」


「でも目が言ってます」


「分かるなら言うな」


 メイナが小さく笑い、レオンは不思議そうに首を傾げる。


「漆黒の断罪者とは?」


「聞かない方がいいです」


 リオが真顔で言う。


「ガルドさんの精神的安全のために」


「精神的安全」


 レオンは真面目に頷いた。


「分かりました。聞きません」


「良い新人だ」


 ガルドが少しだけ安心した顔をした。


 しかし、エインが小声でレオンに説明しようとして、カイルに後頭部を軽く叩かれた。


「やめろ」


「はい……」


 道を進むにつれて、遠くに土煙の跡が見えてきた。


 完全に晴れた煙ではない。


 山の斜面の一部が崩れ、茶色い土が露出している。


「……地滑りですね」


 レオンが言う。


「大型魔物じゃないのか」


 エインが少し残念そうに言う。


「残念そうにするな」


 カイルがまた言う。


「地滑りでも十分危険だ」


「はい」


 近づくと、被害の規模が見えてきた。


 山の斜面が大きく崩れている。


 木が数本倒れ、土砂が下の作業道まで流れていた。


 幸い、街道本線までは届いていない。


 だが、作業道は完全に塞がっている。


「人影は?」


 リオが周囲を見る。


「見えません」


 メイナが答える。


「足跡はあります」


 レオンが地面を指す。


「新しいですね。崩落前か後かは判別が難しいですが」


 ガルドがしゃがみ込んで足跡を見る。


「荷運びの足跡だな。二人か三人。荷車はない。崩れる前に通った可能性がある」


「巻き込まれた可能性は?」


 リオが聞く。


「ゼロじゃねえ」


 ガルドは立ち上がる。


「声をかける。だが斜面に近づきすぎるな。二次崩落が怖い」


「はい」


 全員が返事をする。


 リオは大きく息を吸った。


「誰かいますか!」


 声が山に反響する。


 返事はない。


 もう一度。


「誰か!」


 今度は、かすかに声が返ってきた。


「……おーい!」


 全員が反応する。


「いました!」


 エインが叫びかけ、カイルが肩を掴んで止める。


「走るな」


「あ、はい!」


 声の方向は、土砂の向こう側。


 作業道の先、倒木の陰だった。


 近づきたいが、土砂の上を不用意に歩くのは危険だ。


「迂回しますか」


 レオンが地形を見ながら言う。


「右側の斜面は緩いですが、足場が悪いです。左は崩落箇所に近すぎます」


「右だな」


 ガルドが言う。


「ただし一人ずつ。間隔空けろ。足元を見ろ。滑ったら叫ぶ前に手をつけ」


「叫ぶ前に?」


 エインが聞く。


「叫んでも止まらん」


「現実的!」


 右側へ回り込む。


 泥が深い。


 木の根が浮き、草が滑る。


 リオは前回の失敗を思い出しながら、足元を確認して進んだ。


 焦らない。


 声が聞こえたからといって走らない。


 状況を見て動く。


 何度も学んだことだ。


 土砂の向こう側に出ると、二人の男がいた。


 荷運びの作業員らしい。


 一人は無事。


 もう一人は足を挟まれていた。


 倒木が足の上に乗っている。


「助けてくれ!」


 無事な男が叫ぶ。


「動かすな」


 ガルドが低く言う。


「無理に抜くな。足がどうなってるか分からねえ」


 リオがすぐに近づき、状態を見る。


 足は倒木と土に挟まれている。


 血は多くない。


 だが、かなり痛そうだ。


「意識はありますか」


「ある……くそ、痛え」


「今助けます。でも動かないでください」


「早くしてくれ」


 焦る声。


 当然だ。


 だが、こちらが焦るわけにはいかない。


「レオン、倒木の重さ見れるか」


 ガルドが言う。


「はい」


 レオンが倒木の位置を見る。


「このまま持ち上げると、下の土が崩れる可能性があります。まず周囲の土を少し除く必要があります」


「いい」


 ガルドが頷く。


「リオ、メイナ、土をどけろ。エインは支え。カイルは周囲警戒」


「はい!」


 作業が始まる。


 手で土を掘る。


 石をどける。


 倒木の下に隙間を作る。


 エインは今にも力任せに持ち上げたそうだったが、ぐっと我慢している。


「エイン」


 リオが言う。


「力を入れるのは合図してから」


「はい!」


「勝手に持ち上げない」


「はい!」


「勢いでやらない」


「はい!」


「リオ先輩、今日細かいです!」


「必要だから!」


 レオンが木の角度を確認する。


「少しなら持ち上げられそうです。ただし、長くは無理です」


「よし」


 ガルドが倒木に手をかける。


「ベルクがいれば楽だったな」


「呼びますか?」


 リオが聞く。


「時間がかかる。俺とエインでいける」


「俺、やります!」


 エインが気合を入れる。


「気合だけで持つな。腰を落とせ」


「はい!」


「腕じゃなくて足だ」


「はい!」


「声は小さく」


「はい」


「それは別にいい」


「はい!」


 結局大きくなった。


 ガルドとエインが倒木を持ち上げる。


 少しだけ。


 リオとレオンが挟まれた足元の土をどけ、メイナが布を入れて保護する。


 作業員の男が歯を食いしばる。


「もう少し」


 リオが言う。


「いけます」


 レオンが支点を調整する。


「今です」


 カイルが男の体を引く。


 足が抜けた。


「抜けた!」


 エインが叫ぶ。


「まだ下ろすな」


 ガルドが言う。


「下に手ぇ入ってねえな」


「大丈夫です!」


「下ろせ」


 倒木が地面に落ちる。


 鈍い音。


 全員が息を吐いた。


「痛みますか」


 リオが足を確認する。


「痛え……でも動く」


「骨は……たぶん」


「たぶんを使うな」


 ガルドが遠くから言う。


「医者じゃないので!」


「折れているかは断言できません。固定して運びます」


 レオンが冷静に言い直した。


「良い言い方」


 メイナが言う。


 応急処置をし、足を固定する。


 セリアほどの治療はできないが、運ぶための処置ならできる。


 救助は成功した。


 だが、まだ終わっていない。


「戻るぞ」


 ガルドが言う。


「ここは長居する場所じゃねえ」


「二次崩落ですか」


 リオが聞く。


「ああ」


 まるでその言葉を待っていたように、山の上で小さく土が崩れた。


 ざらざら、と嫌な音がする。


 全員が止まる。


「急げ」


 ガルドの声が低くなる。


「ただし走るな」


 その矛盾したような指示が、今は一番正しい。


 急ぐ。


 でも走らない。


 怪我人を運びながら、足場を確認し、間隔を取り、土砂から離れる。


 途中、エインが肩を貸していた作業員の体勢が崩れかけた。


 すぐにレオンが反対側から支える。


「大丈夫ですか」


「助かりました!」


「足元、右に根があります」


「はい!」


 レオンの細かさは、こういう時に本当に役立つ。


 リオはその姿を見て少し笑った。


 普通の新人。


 でも、もうちゃんとこの場で役に立っている。


 そしてエインも、前なら勢いで走っていたかもしれないが、今日は何度も足元を確認している。


 成長している。


 少しずつ。


 泥だらけで、必死で、格好よくはないけれど。


 無事に安全圏まで戻ると、リオはすぐに合図を送った。


 メイナが持ってきていた信号笛を吹く。


 少しして、街道側から別の救援班が来た。


 ギルドに連絡を送るため、マルクが走る。


 作業員二人は街へ運ばれることになった。


 地滑りの確認も、追加の人員で行う必要がある。


「山が動いたって聞いた時は、何かと思ったけど」


 エインが泥だらけの顔で言う。


「本当に山が動いたみたいでしたね」


「地滑りだ」


 カイルが言う。


「でも、第一報としては間違ってなかったのかも」


 リオが言う。


「山が動いた、って」


「雑だけどな」


 ガルドが答える。


「雑すぎる情報は危ない。だが、全部無視するのも危ない」


「確認が大事ですね」


 レオンが言う。


「情報源、場所、被害、目撃者」


「お前は本当に真面目だな」


 ガルドが言う。


「ありがとうございます」


「褒めてるかは微妙だぞ」


「そうなのですか」


 リオが笑った。


「半分くらい褒めてます」


「では半分受け取ります」


「真面目!」


 ギルドへ戻ると、入口でミレナが待っていた。


「怪我人は?」


「作業員一名、足を負傷。固定して治療棟へ運ばれています。命に別状はなさそうです」


 リオが報告する。


「他は?」


「地滑りです。作業道が塞がっています。街道本線への影響は今のところありませんが、追加崩落の可能性があります」


「分かりました」


 ミレナがすぐに記録する。


「アルさんには伝えています。追加の確認班を編成します」


 奥ではアルがすでに地図を広げていた。


 対応が早い。


 こういう時、このギルドは本当に頼りになる。


「山みたいな魔物じゃなかったんですね」


 ユーンが少し残念そうに言った。


「残念そうにするな」


 リオとカイルが同時に言った。


 その揃い方に、ナナが笑う。


「リオくん、カイルに似てきた?」


「それはどうなんでしょう」


 リオが微妙な顔をする。


「悪いことじゃない」


 カイルが言う。


「でも複雑です」


「なぜだ」


「カイルさん、たまに硬いので」


「お前に言われたくない」


 ギルド内に少し笑いが起きた。


 救助が成功したこともあり、空気は重すぎない。


 ただ、全員が分かっている。


 これは笑い話だけでは済まない。


 第一報が雑でも、そこには本当の危険があった。


「しかし」


 ナナが言う。


「“山が動いた”って、なかなか強い言葉だよね」


「市場ではもう広まってます」


 マルクが言う。


「大変です! 山が歩いたことになってます!」


「歩いた!?」


 リオが叫ぶ。


「誰が増やしたんですか!」


「分かりません! でも“山が立ち上がった”って言ってる人もいました!」


「立ち上がった!?」


「あと、“山がくしゃみした”って」


「もう意味分からない!」


 ギルド内が一気に騒がしくなる。


「噂って怖いですね」


 レオンが真面目に言う。


「情報が伝達される過程で誇張と解釈が加わるのですね」


「それを今、目の前で見てますね」


 メイナが苦笑する。


「どうしますか?」


 ミレナが頭を押さえる。


「このままでは街中に変な噂が広がります」


 アルが静かに言った。


「正確な掲示を出す」


「内容は?」


「東の山で地滑り。作業道一部封鎖。街道本線は通行可。ただし近づくな。以上」


「分かりました」


「“山は歩いていない”も入れた方がいいですか?」


 マルクが真顔で聞く。


 全員が黙った。


 アルは少しだけ考えた。


「……入れなくていい」


「でも」


「入れると余計に広がる」


「確かに」


 リオは深く頷いた。


 否定すると逆に怪しまれるやつだ。


 夕方には、掲示が出された。


 それでも、酒場ではしばらくその話題で持ちきりだった。


「山が動いたんだって?」


「地滑りです」


 リオが訂正する。


「でも動いたんだろ?」


「まあ、土は動きましたけど」


「じゃあ山が動いたんじゃねえか」


「言い方!」


 エインが横から言う。


「俺、現場見ました! すごかったです!」


「お前が言うと大きくなるからやめろ」


 カイルが止める。


「でも本当にすごかったんですよ!」


「すごかった、はいい。巨大魔物っぽく言うな」


「はい!」


 レオンは隣で真面目に報告書を書いている。


 メイナはそれを見ながら言う。


「レオン、報告書に“山が動いた”って書かないでね」


「書きません」


「でもタイトルには?」


「東山斜面崩落および作業員救助報告、とします」


「固い」


 ナナが笑う。


「でも安心する固さ」


「ありがとうございます」


「褒めてるよ」


「分かりました。全部受け取ります」


「半分じゃないんだ」


 リオはそのやり取りを見て笑った。


 普通の新人だったレオンも、少しずつこのギルドの会話に巻き込まれている。


 本人はまだ真面目だ。


 でも、その真面目さのまま少し面白くなってきている。


 夜になり、ギルドの騒ぎが落ち着いた頃。


 ガルドはいつもの椅子で酒を飲んでいた。


 リオは隣に座る。


「今日は大変でしたね」


「まあな」


「山が動いたって聞いた時、少し焦りました」


「焦るのはいい」


 ガルドが言う。


「走り出さなきゃな」


「前なら走ってたかもしれません」


「今は?」


「確認します」


「それでいい」


 短い言葉だった。


 でも、リオにはちゃんと届いた。


 第一報は雑だった。


 山が動いた。


 それだけ聞けば、笑い話にも大騒ぎにもなる。


 でも、その裏に本当に助けを待っている人がいた。


 だから、笑って終わらせることも、慌てて突っ込むことも違う。


 まず確認する。


 見る。


 聞く。


 考える。


 それから動く。


 たぶん、いや、確かに。


 リオは少しずつ、その大事さを覚えてきていた。


 外では、夜の街にまだ噂が歩いているかもしれない。


 山が歩いたとか。


 山が立ち上がったとか。


 山がくしゃみしたとか。


 明日には、山が酒を飲んだことになっているかもしれない。


 それを考えて、リオは少し笑った。


「何笑ってる」


 ガルドが聞く。


「いや」


 リオは答える。


「明日には、山がガルドさんの黒歴史装備を着て歩いたことになってるかもと思って」


 ガルドの目が据わった。


「お前、熱ぶり返したか?」


「すみません」


「本当にすみませんと思ってる顔じゃねえな」


 ナナが遠くで笑い声を上げた。


 ギルドの夜は、いつも通り騒がしい。


 山は歩いていない。


 だが、噂は今日も勝手に歩いていた。

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