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栄光の中年、ただ生きる  作者: vastum


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■第78話「依頼人が強すぎる」

 依頼人というものは、基本的に守る対象である。


 護衛依頼なら特にそうだ。


 依頼人を目的地まで安全に送り届ける。魔物が出れば前に立ち、盗賊が出れば追い払い、道が悪ければ手を貸し、荷物が重ければ運ぶ。


 冒険者が前。


 依頼人が後ろ。


 それが普通だ。


 だが、世の中にはたまにいる。


 守られる側に立っているはずなのに、どう考えても守る側より強い人間が。


 その日の依頼人は、まさにそれだった。


「今日は護衛依頼です」


 ミレナが受付で依頼書を掲げた。


 朝のギルドは、いつもより少しだけ落ち着いていた。


 昨日、倉庫からガルドの黒歴史装備が発掘された影響で、ギルド内にはまだ妙な余韻が残っている。


 エインは朝から何度も「漆黒の断罪者……」と呟き、ガルドに睨まれていた。


 ナナは何か言いたくて仕方なさそうな顔をしている。


 リオは、今日一日はその話題を避けた方がいいと本能で理解していた。


「護衛ですか」


 リオが依頼書を見る。


「はい。依頼人は街の外れに住むご年配の女性です。北の丘にある古い祠まで付き添ってほしいとのことです」


「祠?」


「年に一度、お参りしているそうです。ただ、最近は周辺に小型の魔物が出るので、念のため護衛を頼みたいと」


「なるほど」


 リオは頷いた。


 内容としては普通だ。


 高齢の依頼人を、少し離れた場所まで護衛する。


 危険度は低め。


 ただし油断はしない。


 最近は、そういう依頼ほど変なことが起きる。


「同行は?」


 ガルドが椅子から聞いた。


 昨日の件で心が折れているのか、いつもよりさらにだらけている。


 猫はいない。


 その代わり、ナナが置いた茶がある。


「リオくん、カイルさん、エインくん、メイナさん」


 ミレナはそこで少し間を置いた。


「それと、ガルドさん」


「俺?」


「はい」


「なんでだ」


「依頼人から指名が入っています」


 ギルド内が少し静かになった。


 ガルドが眉をひそめる。


「俺を?」


「はい」


「誰だ、その婆さん」


「お名前はマーサさんです」


「……」


 ガルドは一瞬だけ黙った。


 ほんの一瞬。


 だが、リオは気づいた。


「知ってるんですか?」


「知らん」


「今、間がありましたよ」


「気のせいだ」


「絶対知ってますよね」


「知らん」


 ナナが笑った。


「ガルドが“知らん”って三回言う時は大体知ってるよ」


「余計なこと言うな」


「じゃあ知ってるんだ」


「知らんと言ってる」


 完全に知っている顔だった。


「何者なんですか?」


 エインが目を輝かせる。


「昔の仲間ですか?」


「違う」


「昔の恋人ですか?」


 空気が止まった。


 ガルドがゆっくりエインを見る。


「お前、死にたいのか」


「すみませんでした!」


 エインは即座に頭を下げた。


 ナナは笑いをこらえている。


 ミレナはこらえきれずに咳払いした。


「とにかく、依頼人はガルドさんを知っているようです。指名なので行ってください」


「面倒だな」


「断りますか?」


 ミレナが聞く。


 ガルドは少しだけ黙った。


「いや」


 珍しく即答しなかった。


「行く」


 その一言に、リオはますます気になった。


 ガルドが面倒くさがりながらも断らない相手。


 しかも、指名で呼んできた高齢女性。


 ただ者ではない気がする。


 依頼人の家は、街の外れにあった。


 小さな家だった。


 庭には薬草や野菜が植えられ、玄関の横には薪が積まれている。


 手入れが行き届いていて、静かで、生活の匂いがした。


 扉を叩くと、中から声がした。


「開いとるよ」


 その声だけで、リオは少し背筋を伸ばした。


 別に大きな声ではない。


 だが、妙に通る。


 ガルドが扉を開ける。


 中にいたのは、小柄な老婦人だった。


 白髪を後ろでまとめ、背筋はまっすぐ。


 年齢は七十を越えているだろう。


 だが、目が異様に鋭い。


 杖を持っている。


 ただし、その杖はどう見ても歩行補助用ではなく、殴るためのものに見えた。


「遅い」


 老婦人が言った。


「時間通りだろ」


 ガルドが答える。


「わしが待ったら遅いんじゃ」


「昔から理不尽だな」


「お前は昔から口が減らん」


 リオ達は固まった。


 やっぱり知り合いだった。


「マーサ婆さん」


 ガルドが言う。


「まだ生きてたのか」


「お前より先に死ぬ気はないわ」


「元気そうで何よりだ」


「お前は老けたな」


「ほっとけ」


「腹も出た」


「ほっとけ」


「昔はもう少し見られた顔をしとったのに」


「帰るぞ」


「依頼放棄か」


「くそ」


 完敗だった。


 リオは思わずカイルを見る。


 カイルも珍しく目を丸くしている。


 メイナは口元を押さえて笑いをこらえていた。


 エインは完全に尊敬の目でマーサを見ている。


「ガルドさんを普通に圧倒してる……」


「聞こえてるぞ」


「すみません!」


 マーサはリオ達を見る。


「若いのが多いね」


「護衛です」


 リオが頭を下げる。


「リオです」


「カイルです」


「エインです!」


「メイナです」


 マーサは順番に見た。


 目が鋭い。


 値踏みされているようで、リオは自然と姿勢を正す。


「ふん」


 マーサが言う。


「リオは真面目。カイルは固い。エインはうるさい。メイナはよく見てる」


 全員が微妙に刺された。


「初対面でそこまで分かるんですか」


 リオが驚く。


「年寄りは人を見るのが仕事みたいなもんじゃ」


「エイン、うるさいって」


 メイナが小声で言う。


「否定できない……」


 エインが沈む。


「で、婆さん」


 ガルドが言う。


「祠だったな」


「ああ」


「足は?」


「見て分からんか」


「元気すぎるくらいだな」


「なら聞くな」


 マーサは小さな荷物を背負った。


 動きが速い。


 年齢を感じさせない。


 リオは少し不安になる。


「荷物、持ちましょうか?」


「いらん」


「でも」


「自分の荷物を自分で持てんほど弱っとらん」


「……はい」


 すごい。


 依頼人なのに、すでにこちらが押されている。


 出発してすぐ、リオ達はさらに思い知った。


 マーサは歩くのが速かった。


「ちょ、ちょっと待ってください」


 エインが息を切らす。


「なんじゃ若いの。もう疲れたか」


「いや、速いです!」


「丘へ行くだけじゃろ」


「登りです!」


「足腰が弱いのう」


「若者に言う台詞じゃないです!」


 マーサは杖をつきながら、ずんずん進む。


 杖をつくと言っても、体を支えているのではない。


 地面を叩いて確認している。


 足場の硬さ、石の位置、ぬかるみの有無。


 まるで道を読んでいるようだった。


「ガルドさん」


 リオが小声で聞く。


「本当に普通のおばあさんですか?」


「普通じゃねえな」


「ですよね」


「あの婆さん、昔からああだ」


「昔って、どういう知り合いなんですか」


「俺が若い頃に世話になった」


「世話?」


「飯食わせてもらった」


 少し意外だった。


 ガルドが誰かに世話になっていた。


 しかも、この老婦人に。


「その頃から強かったんですか?」


「強かった」


「戦える人なんですか?」


 ガルドは少しだけマーサを見る。


「戦わない方が怖い」


「どういう意味ですか」


「見てれば分かる」


 またそれだ。


 ガルドはこういう時、詳しく説明しない。


 実物を見ろ、ということなのだろう。


 北の丘へ向かう道は、途中から細くなった。


 街道ではなく、古い参道に近い。


 草が伸び、石段が欠け、ところどころ木の根が道を押し上げている。


 高齢者が歩くには危なそうな道だ。


 だが、マーサは迷わない。


 リオ達よりよほど安定していた。


「足元、右側の石が浮いとる」


 マーサが前を向いたまま言う。


「あ、本当だ」


 エインが踏む直前で止まる。


「若いの。目だけで歩くな」


「はい!」


「返事がでかい」


「はい……」


「小さすぎる」


「どうしろと!?」


「普通にせい」


 完全に先生だった。


 しばらく進むと、ガルドが止まった。


「リオ」


「はい」


「前方、左の草むら」


 リオは目を凝らす。


 草が不自然に揺れている。


「いますね」


「何だと思う」


「小型の魔物……牙兎か、野犬系?」


 ガルドは何も言わない。


 代わりに、マーサが言った。


「野犬じゃな。三匹」


 リオが驚く。


「分かるんですか?」


「草の揺れが低い。あと匂いがする」


「匂い?」


「鼻も鍛えんか」


「すみません……」


 なぜか叱られた。


 草むらから野犬が三匹出てくる。


 痩せていて、目がぎらついている。


 人を襲うというより、荷物を狙って近づいてきたのだろう。


「追い払います」


 リオが剣に手をかける。


「待て」


 マーサが言った。


 そして、杖で地面を強く叩いた。


 乾いた音が響く。


 野犬が一瞬止まる。


 マーサはさらに一歩前へ出た。


「しっ」


 短い声。


 鋭い。


 野犬が怯む。


 さらに杖を横に振る。


 魔物でもない野犬相手に、まるで大きな獣を扱うような圧だった。


 三匹は一度唸ったが、結局後ずさりして逃げていった。


「……」


 エインが口を開けている。


「戦わずに追い払った……」


「腹を減らしただけの犬を斬る必要がどこにある」


 マーサが言う。


「でも危なくないですか」


「危ないから追い払った」


「剣も使わずに」


「剣がなければ何もできんのか?」


 エインが黙る。


 リオにも刺さった。


 ガルドが少しだけ笑っている。


「何笑ってるんじゃ」


 マーサが言う。


「懐かしいなと思って」


「昔のお前はもっとひどかった」


「言うな」


「剣がなければ死ぬ顔をしておった」


「言うな」


「実際、包丁一本で盗賊に突っ込もうとしたこともあった」


「言うなって言ってるだろ」


 リオ達が一斉にガルドを見る。


「包丁?」


「若かったんだよ」


「便利に使いすぎですよ、その言葉」


 それから少し進むと、道が崩れていた。


 大雨で土が削れたらしい。


 そのままではマーサが渡るには危ない幅だった。


「迂回しますか?」


 カイルが聞く。


「いや、少し補助すれば渡れます」


 リオが言う。


「マーサさん、手を」


「いらん」


「いや、でも」


「ガルド」


「あ?」


「お前、先に行って踏み場を作れ」


「俺かよ」


「若いのにやらせるな。お前が一番こういうの慣れてる」


「くそ、正しい」


 ガルドは文句を言いつつ、崩れた道の端へ進む。


 石を動かし、足場を確認する。


 手早い。


 無駄がない。


 若手がやれば少し時間がかかるところを、あっという間に通れる形へ整えた。


「ほら」


「相変わらず器用じゃの」


 マーサが言う。


「褒めても何も出ねえぞ」


「褒めとらん。事実を言っただけじゃ」


「なら余計出ねえ」


 マーサは足場を渡る。


 ゆっくりだが、迷いはない。


 リオは横で支えようと構えていたが、結局手を貸す場面はなかった。


「見事ですね」


 メイナが小さく言う。


「足元を見るのがうまい」


「年を取るとな」


 マーサが答える。


「転ぶと治りが遅いんじゃ。だから転ばんようになる」


「説得力がすごい」


 リオは思わず呟いた。


 北の丘の祠は、思ったより小さかった。


 古い石造り。


 苔むしていて、扉もない。


 中には小さな石像があり、花が供えられる場所があった。


 マーサは荷物から布と小さな花束を取り出す。


 丁寧に石像の周りを拭き、古い花を下げ、新しい花を置いた。


 その動きは静かだった。


 さっきまでの強い言葉とは違う。


 リオ達も自然と黙る。


「毎年来てるんですか」


 リオが小さく聞く。


「ああ」


 マーサは石像を見たまま答える。


「ここに、昔の仲間を置いてきた」


 空気が少し変わる。


「仲間……」


「戦友みたいなもんじゃな」


 マーサは言う。


「わしは冒険者ではなかったが、若い頃は荷運びも、炊き出しも、治療の手伝いも、何でもやった。戦があると、人手はいくらあっても足りん」


 ガルドは黙っていた。


 マーサは続ける。


「ここは昔、負傷者を休ませる場所だった。助かった者もおる。助からんかった者もおる」


「……」


「だから年に一度来る。顔を忘れんように」


 リオは何も言えなかった。


 ただの護衛依頼だと思っていた。


 高齢の女性が祠に参るだけの依頼。


 だが、その裏にはちゃんと理由があった。


 誰かを忘れないために歩く道。


 だからマーサは、速く、強く、まっすぐ歩いていたのかもしれない。


「ガルド」


 マーサが言った。


「お前も手を合わせろ」


「俺はいい」


「いいから」


「……」


 ガルドは少しだけ抵抗する顔をした。


 だが結局、祠の前に立った。


 手は合わせない。


 ただ、少しだけ頭を下げた。


 マーサはそれでよしとしたのか、何も言わなかった。


 リオはその横顔を見る。


 ガルドの昔には、こういう場所がいくつもあるのだろう。


 言葉にしないだけで。


 帰り道、少し雲が出てきた。


「急ぎますか」


 カイルが空を見る。


「降る前には戻れるじゃろ」


 マーサが言う。


「本当ですか」


「膝が痛まん」


「天気予報が膝……」


「馬鹿にしたな」


「してません!」


「した顔じゃ」


 メイナが笑った。


「でも、年配の方って天気が分かるって言いますよね」


「当たる時もある」


 マーサはあっさり言う。


「外れる時もあるんですか」


「そりゃある」


「正直ですね」


「全部当たるなら占い師になっとるわ」


 その会話に、少しだけ空気が和らいだ。


 だが、丘を下り切る前に、問題は起きた。


 道の先に、三人の男がいた。


 服は旅人風。


 だが、立ち方がおかしい。


 道を塞ぐように立っている。


 リオはすぐに剣の柄へ手をかけた。


 カイルも同じ。


 エインとメイナも身構える。


「通行料」


 男の一人が言った。


 分かりやすすぎる。


 小物の盗賊だった。


「古いな」


 ガルドが呟く。


「もう少しひねれ」


「うるせえ!」


 男が短剣を抜く。


「金と荷物置いてけ。婆さん連れてんだろ。怪我したくなきゃ」


 そこまで言った瞬間。


 マーサが前へ出た。


「どきな」


「おい婆さん」


「どきなと言った」


 声が低い。


 リオは止めようとした。


「マーサさん、下がって」


「黙って見とれ」


 そう言われた。


 なぜか逆らえなかった。


 男が笑う。


「元気な婆さんだな」


「口が軽いのう」


「何?」


「腕も軽そうじゃ」


 男が怒って一歩踏み込んだ。


 その瞬間、マーサの杖が動いた。


 速い。


 杖の先が男の手首を打つ。


 短剣が落ちる。


 次に膝。


 男が崩れる。


 最後に肩を軽く押されただけで、男は地面に転がった。


 リオ達は固まった。


「えっ」


 エインが声を漏らす。


 残り二人も固まっている。


「何しとる」


 マーサがリオ達を見る。


「護衛じゃろ」


「あ、はい!」


 リオとカイルが動く。


 だが、もう遅い。


 マーサが二人目の懐に入っていた。


 杖が腹に入る。


 男が息を詰まらせる。


 三人目が慌てて逃げようとしたところを、メイナの矢が足元に刺さって止める。


 カイルが剣を突きつけ、リオが縄を出した。


 結局、盗賊三人は大した抵抗もできず縛られた。


「……」


 リオはマーサを見る。


「強すぎませんか?」


「弱い者いじめじゃ」


「どっちがですか」


「向こうが弱すぎる」


 ガルドがぼそっと言った。


「だから言ったろ。戦わない方が怖いって」


「意味が分かりました」


 エインは目を輝かせていた。


「すごいです! マーサさん、冒険者になれますよ!」


「今さら面倒じゃ」


「ガルドさんと同じこと言ってる!」


「一緒にするな」


 ガルドとマーサが同時に言った。


 息が合っていた。


 盗賊達を近くの巡回兵に引き渡し、ギルドへ戻った頃には夕方だった。


 ミレナは報告を聞いて、しばらく固まった。


「依頼人が盗賊を制圧したんですか?」


「はい」


 リオが答える。


「護衛は?」


「一応しました」


「一応?」


「マーサさんが強すぎました」


「……」


 ミレナは頭を押さえた。


「最近、依頼人が強い案件多くないですか?」


「多いな」


 ガルドが言う。


「でも今回はお前の知り合いだろ」


 ナナが笑う。


「責任取って」


「なんのだ」


 マーサは酒場の椅子に座り、茶を飲んでいた。


 ナナが出した菓子も普通に食べている。


「うまいね」


「ありがと」


「この店、昔より良くなった」


「昔来たことあるの?」


「あるよ。ガルドが若い頃、腹を空かせて転がり込んできた場所じゃ」


「詳しく」


 ナナの目が輝いた。


「話すな」


 ガルドが即座に言う。


「いや、話して」


「やめろ」


「昔のガルドが腹を空かせて転がり込んだ話、絶対面白いでしょ」


「面白いぞ」


 マーサが言う。


「婆さん!」


「まず、こいつはな」


「やめろ!」


 ギルド内が一気に盛り上がった。


 結局、マーサは少しだけ話した。


 若い頃のガルドは今よりずっと痩せていて、目つきが悪く、腹を空かせているのに意地を張って「腹は減ってない」と言い、マーサに鍋ごとスープを出されて無言で三杯食べたらしい。


「今と変わらないじゃないですか」


 リオが言う。


「今より可愛げがなかった」


 マーサが言う。


「今もないですけど」


 ガルドがリオを見る。


「お前、最近遠慮なくなったな」


「このギルドのせいです」


「責任転嫁するな」


 夜が近づく頃、マーサは帰ることになった。


「送ります」


 リオが言う。


「いらん」


「いや、依頼ですし」


「ここから家までなら一人で帰れる」


「でも」


 マーサはリオを見る。


「心配するのは悪くない。だが、相手を見て判断せい」


「……はい」


 最後まで教わっている気分だった。


 ガルドが立ち上がる。


「俺が送る」


 ギルド内が少し静かになった。


 マーサも少しだけ目を細める。


「珍しいのう」


「ついでだ」


「何の」


「散歩」


「下手な嘘じゃ」


 でもマーサは拒まなかった。


 二人は並んでギルドを出ていく。


 リオはその背中を見送った。


 高齢の依頼人と、面倒くさがりの中年冒険者。


 だが、その間には長い時間があった。


 リオ達がまだ知らない、昔のガルドを知る時間が。


「強い人でしたね」


 メイナが言う。


「本当に」


 リオは頷く。


「剣とか魔法じゃない強さでした」


「年季だな」


 カイルが言った。


「年季」


「生きてきた時間の強さだ」


 その言葉に、リオは納得した。


 マーサはたぶん、冒険者ではない。


 だが、たくさんの人を見て、たくさんの道を歩き、たくさんの場面を越えてきた。


 だから強い。


 守られるだけの人ではなかった。


 ギルドには、今日もまた一つ話が増えた。


 依頼人が強すぎて、護衛側が押される話。


 ガルドが若い頃スープを三杯食べた話。


 そして、強さにはいろいろな形があるという話。


 リオはその日、また少しだけ学んだ。


 守る相手だから弱いとは限らない。


 年を取っているから遅いとは限らない。


 杖を持っているから支えが必要とは限らない。


 世の中には、こちらが勝手に決めつけた瞬間に、杖一本で全部ひっくり返してくる人がいる。


 そして、そういう人はだいたい。


 ガルドより口が強い。

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