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栄光の中年、ただ生きる  作者: vastum


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■第75話「誰が一番強いんですか?」

 新人という生き物は、だいたい同じことを考える。


 誰が強いのか。


 どの依頼が危険か。


 どの武器がかっこいいか。


 誰が有名か。


 そして。


 このギルドで、一番強いのは誰なのか。


 その日、その話題を最初に口にしたのは、登録したばかりの新人だった。



「すみません」


 昼前。


 受付前で、新人の少年がミレナへ聞いた。


「このギルドって、一番強い人誰なんですか?」


 ギルド内が少し静かになった。


 リオは依頼票を整理しながら、嫌な予感を覚える。


 こういう話題は、だいたい面倒になる。


「基準によります」


 ミレナは冷静に答えた。


「剣技、魔法、経験、対人、対魔物、総合力。何を基準にするかで変わります」


「えっと……じゃあ総合で」


「曖昧ですね」


「すみません」



「でも気になるよな」


 ベルクが笑う。


「新人は特に」


「そうなんです!」


 別の新人も頷く。


「やっぱり元勇者のアルさんですか?」


 その瞬間。


「違う」


 ガルドが即答した。


 全員がそちらを見る。


「いやお前が言うのか」


 ナナが笑う。



「アルは強い」


 ガルドが茶を飲みながら言う。


「でも総合なら別だ」


「じゃあ誰なんですか?」


 新人が聞く。


 ガルドは少し考える。


「ドーガ」


「えっ」


 入口で門番帰りだったドーガが止まった。


「俺か」


「お前死ににくいだろ」


「まあ」


「基準が渋い!」


 リオが言った。



「いやでも」


 ベルクが笑う。


「ドーガは実際おかしいぞ」


「そんなにですか?」


 エインが聞く。


「昔、大盾ごと崖から落ちて生きてた」


「なんで!?」


「運が良かった」


 ドーガは短く答える。


「いや絶対違いますよね」



「じゃあ剣なら?」


 新人が聞く。


「カイルさんですか?」


「俺?」


 カイルが眉を上げる。


「違うだろ」


「いや強いじゃないですか!」


「上がいる」


 カイルは即答した。


 視線は自然とガルドへ向く。


「俺はおっさんだ」


「説得力がない」


 リオが言う。



「でも実際」


 カイルが腕を組む。


「剣だけならガルドだと思う」


「おっ」


 ナナが笑う。


「珍しく素直」


「事実だからな」


「へえ」


 新人達がガルドを見る。


 だが。


 今のガルドは。


 椅子でだらけて茶を飲みながら、猫を撫でていた。


「……」


「……」


「本当に?」


 新人の顔に書いてあった。



「分かる」


 リオが頷く。


「僕も最初そうでした」


「だろ?」


「ただのだらけたおっさんにしか見えないですよね」


「失礼だなお前」


「でも強いんですよね?」


 新人が恐る恐る聞く。


「強い」


 カイルが即答する。


「めちゃくちゃ」


 リオも頷く。


「嫌になるくらい」



「じゃあ魔法は?」


 新人が聞く。


「バルドレイさんですか?」


「たぶんな」


 ベルクが言う。


「あの爺さん、たまに意味分からん魔法使うし」


「昔、空飛ぶ塔止めたらしいぞ」


 ナナが言う。


「何それ怖い」


 エインが引いた。



「でも一番怖いのは」


 ナナが笑う。


「セリアかもね」


 全員少し黙る。


「……分かる」


 リオが頷いた。


「怒らせたくない感じあります」


「私は普通ですよ?」


 セリアが笑う。


「その笑顔が怖い時あるんですよ」



「じゃあ結局誰なんですか!」


 新人が頭を抱える。


「決まらない!」


「そもそも」


 アルが奥から言った。


「強さを一つで測ろうとするな」


 静かだった。


 でも、全員少し背筋が伸びる。


「魔物討伐で強い者もいれば、護衛で強い者もいる。生き残るのが上手い者もいる。指揮が上手い者もいる」


 アルは書類を置く。


「一番、という考え方は分かりやすい。だが、それだけで見ると間違える」


「……はい」


 新人が小さく頷く。



「例えば」


 アルが続ける。


「今ここで一番危険なのは誰だと思う?」


 空気が止まる。


 新人達が考える。


「ガルドさん?」


「違う」


「アルさん?」


「違う」


「じゃあ……」


 誰も分からない。


 アルは静かに言った。


「ユーンだ」


 ギルド中が頷いた。


「分かる」


「納得」


「危険」


「やめてください!?」


 ユーンだけが抗議した。



「実際」


 ガルドが言う。


「こいつ、敵味方関係なく危険だ」


「そんな広範囲あります!?」


「ある」


 全員即答だった。



「じゃあ逆に」


 ナナが笑う。


「一番安心感あるの誰?」


「ドーガさん」


 リオが即答した。


「分かる」


 エインも頷く。


「なんか倒れなさそう」


「実際倒れない」


 ベルクが笑う。



「アルさんも安心感あります」


 ルーカスが言う。


「全部対処してくれそう」


「実際かなりしてる」


 ミレナが頷いた。



「ガルドさんは?」


 新人が聞く。


 少し空気が止まる。


「……」


「……」


「……」


「安心感はある」


 リオが言う。


「ただ」


「ただ?」


「絶対途中で面倒くさがる」


「分かる!」


 ギルドに笑いが広がった。



「お前らなぁ」


 ガルドが呆れる。


「でも実際そうじゃないですか」


 リオが言う。


「戦う時は頼りになるのに、途中で“帰りてえ”とか言うじゃないですか」


「帰りたいものは帰りたい」


「素直すぎる」



「じゃあ」


 エインが目を輝かせる。


「最強決定戦しましょう!」


「始まった」


 カイルが嫌そうな顔をした。



「内容は!」


 エインが拳を握る。


「腕相撲!」


「小学生か」


 リオが即答した。



「いやでも」


 ベルクが腕を見る。


「それなら俺強いぞ」


「ドーガさんも強そうです!」


「ロッドも強いな」


 ナナが笑う。


 ロッドは鍛冶場から顔だけ出した。


「面倒だ」


「参加拒否!」



「ガルドさんは?」


 エインが聞く。


「嫌だ」


「なんでですか!」


「疲れる」


「腕相撲で!?」



「じゃあアルさん!」


「やらん」


「即答!」



「こういうのはな」


 ガルドが茶を飲みながら言う。


「だいたい途中で壊れる」


「何がですか」


「机」


「嫌なリアルさ!」



 だが。


 なぜか開催された。



 酒場机。


 周囲に集まる冒険者。


 ベルク、ドーガ、カイル、ライル。


 なぜかユーンもいる。


「絶対壊れますよね」


 リオが真顔で言う。


「大丈夫だ!」


 ベルクが笑う。


「その言葉、最近信用できないんですよ」



 第一戦。


 ベルク対ライル。


「うおおおおお!!」


「ぬおおおお!!」


 三秒。


 どん。


「ぐわぁぁぁ!!」


 ライル敗北。


「早っ」


「ベルクさん普通に強いですね」


「伊達に重戦士じゃねえぞ!」



 第二戦。


 ドーガ対ベルク。


「おっ」


 空気が少し変わる。


「これは気になる」


 リオも前のめりになる。


「始め!」


 ナナが叫ぶ。


 どん。


「……」


「……」


「……」


 動かない。


「怖っ」


 エインが引いた。


 机がみしみし鳴る。


 ベルクの額に汗。


 ドーガ無表情。


「なんでドーガさん無表情なんですか」


「慣れてる」


 ガルドが言う。


「何に」


「押し合い」


「人生?」


「たぶんな」



 結果。


 どごん。


 机が壊れた。


「ほらぁぁぁ!!」


 ガルドが叫んだ。


「言っただろ!」


「机ぇぇぇ!!」


 ミレナが頭を抱えた。



「すみません!」


 ベルクが謝る。


「だからやめろって言ったんだ」


 ガルドが呆れる。



「じゃあ次!」


 エインが元気だった。


「まだやるの!?」


 リオが叫ぶ。



「カイルさん!」


「嫌だ」


「えー!」


「疲れる」


「ガルドさんと同じこと言ってる」



「じゃあガルドさん!」


「嫌だ」


「逃げました!」


「逃げじゃねえ。回避だ」


「同じです!」



「……」


 そこで。


 アルが静かに立ち上がった。


 空気が止まる。


「え」


「まさか」


「アルさん?」


 アルは壊れた机を見る。


 そして。


「……修理代は経費から引く」


 それだけ言って座った。


「参加じゃない!」


 全員ズッコケた。



「でも」


 ナナが笑う。


「結局、一番強いって難しいよね」


「そうですね」


 リオが頷く。


「戦い方も違いますし」


「そういうことだ」


 ガルドが言う。


「剣が強くても、護衛向いてねえ奴いる。逆もいる。生き残る奴が強い時もある」


「……はい」


「あと」


 ガルドが新人を見る。


「強さだけ見てると、足元すくわれるぞ」


「え?」


「冒険者はな。だいたい変なとこで死ぬ」


 空気が少し静かになる。


「強い弱いより、帰ってくる方が大事だ」


 その言葉には妙な重みがあった。


 新人達も黙って聞いていた。



 しばらくして。


「でも」


 エインが小さく言う。


「やっぱり、いつかガルドさんと模擬戦見たいです」


「やめとけ」


 ガルドが即答した。


「なんでですか」


「面倒だから」


「絶対それだけじゃないですよね」


「あと疲れる」


「やっぱりそれか!」



 夕方。


 壊れた机を前に、ミレナがため息を吐いていた。


「なんで腕相撲で壊れるんですか……」


「ドーガとベルクだからだろ」


 ガルドが言う。


「納得はできますけど!」



 リオは少し笑う。


 一番強いのは誰か。


 たぶん、答えは出ない。


 ガルドは剣が強い。


 アルは全部がおかしい。


 ドーガは倒れない。


 バルドレイは意味が分からない。


 セリアは怒らせたくない。


 ユーンは別方向で危険。


 それぞれ違う。


 だから面白いのかもしれない。


「でも」


 リオは壊れた机を見ながら言う。


「とりあえず分かったことあります」


「なんだ」


 ガルドが聞く。


「このギルド、机弱いですね」


「そこかよ」


 ギルドに笑い声が広がった。

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