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栄光の中年、ただ生きる  作者: vastum


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■第74話「寝る場所がおかしい」

 冒険者という仕事は、体力を使う。


 剣を振る。


 走る。


 荷物を運ぶ。


 魔物と戦う。


 だから当然、休息は大事だ。


 寝る。


 食べる。


 休む。


 それができない冒険者は長生きしない。


 ただし。


 このギルドには、寝る場所がおかしい人間が多かった。



「なんでそこで寝てるんですか」


 朝。


 ギルドへ来たリオは、開口一番そう言った。


 理由は単純。


 ガルドが寝ていた。


 受付前の長椅子で。


 しかも完全に横になって。


「……」


 リオはしばらく無言になる。


 毛布まである。


 どこから持ってきた。


「おはようございます」


 ミレナが普通に挨拶した。


「いや普通じゃないですよね!?」


「何がですか?」


「なんでガルドさん寝てるんですか!」


「昨日寝落ちしました」


「説明が雑!」



「酒飲んで」


 ナナが言う。


「そのまま寝た」


「止めてくださいよ!」


「止めたよ?」


「止めたんですか!?」


「“風邪引くぞ”って」


「もっとちゃんと止めてください!」



「……うるせえな」


 ガルドが毛布の中から言った。


「起きてたんですか」


「今起きた」


「絶対嘘です」



「帰らなかったんですか?」


 リオが聞く。


「面倒だった」


「理由が終わってる」


「外寒かった」


「子どもですか」



「でも」


 エインが少し感心した顔で言う。


「なんか冒険者っぽいですね」


「どこがだ」


 カイルが即座に言う。


「ただのだらしないおっさんだろ」


「辛辣!」



「いやでも」


 ルーカスが小声で言う。


「なんか強者感ありますよ」


「ギルドで寝る強者感ってなんだ」


 リオが真顔になる。



「ちなみに」


 ナナが言う。


「前は酒場の机で寝てた」


「前科あるんですか」


「あと階段」


「なんで!?」


「寝やすかった」


「絶対嘘です!」



「ガルドだけじゃないぞ」


 ベルクが笑う。


「昔はドーガも門で寝てた」


「仕事場!」


「見張りながら寝れるとか言ってたな」


「怖いですね」



「実際寝れてた」


 ドーガが入口から入ってくる。


「え」


「門番時代は浅く眠る癖がつく」


「本当にできるんですか」


「できる」


 短い。


 でも説得力はあった。



「俺も昔やってたな」


 グレンが壁際から言う。


「馬車の上」


「落ちません?」


 リオが聞く。


「一回落ちた」


「落ちてる!」



「お前ら」


 ガルドが起き上がりながら言う。


「冒険者ってのはな」


「はい」


「どこでも寝れるようにならんと駄目だ」


「長椅子で偉そうに言わないでください」



「じゃあ逆に聞くけどな」


 ガルドが指を立てる。


「一番寝心地悪かった場所は?」


「なんの話ですか」


「いいから答えろ」



「僕は木の上です」


 エインが即答した。


「落ちなかったのか」


「落ちました」


「やっぱり」



「私は荷車の荷物の間ですね」


 メイナが言う。


「揺れて全然寝れませんでした」


「でも寝たんですね」


「移動長かったので……」



「俺は洞窟」


 カイルが言う。


「湿気が最悪だった」


「分かる」


 リオが頷く。


「洞窟、寝れないですよね」


「音も気になる」


「分かります」



「リオは?」


 ナナが聞く。


「僕ですか」


 リオは少し考える。


「依頼帰りで、雨の日に小屋使った時ですね」


「あー」


 エインが頷く。


「床硬いやつ」


「硬いし寒いし、隙間風すごいし」


「寝れた?」


「途中で諦めました」



「ユーンは?」


 ナナが聞く。


 全員少し不安になる。


「僕はですね!」


 嫌な予感しかしない元気な声だった。


「移動式高速」


「もう嫌だ」


「簡易睡眠」


「聞きたくない」


「回転型」


「回転?」


 空気が止まる。



「昔、荷車に寝台を固定してですね」


「やめろ」


 ガルドが真顔になる。


「移動しながら寝れるように」


「嫌な未来しか見えません」


 リオが頭を抱える。



「結果!」


 ユーンが胸を張る。


「遠心力で飛びました!」


「でしょうね!!」


 ギルド中に声が響いた。



「怪我は!?」


 セリアが慌てる。


「軽傷です!」


「軽傷で済んだのが奇跡ですよ!」



「ちなみに」


 ユーンが続ける。


「二回目は改良して」


「二回やったの!?」


「もっと飛びました!」


「なんで悪化してるんですか!」



「お前」


 ガルドが頭を押さえる。


「本当に死ぬぞ」


「大丈夫です!」


「その言葉禁止にしろ」



 朝から疲れた。


 リオはそう思った。



 だが。


 問題はここからだった。



「ところで」


 ミレナが書類を見ながら言う。


「今日、宿がいっぱいみたいですね」


「え?」


 リオが振り返る。


「街に商隊が来ていて、宿が埋まってるそうです」


「へえ」


「つまり」


 ナナが笑う。


「今日はギルド寝が増えるね」


「嫌な予感」



「若手組、どうする?」


 ベルクが聞く。


「俺は普通に帰ります」


 リオが即答した。


「賢い」


 カイルが頷く。



「でも」


 エインが少し困る。


「僕、今借りてる部屋、商隊用に空ける約束で」


「あ」


「今日だけ泊まれなくて」


「マジか」



「俺もです」


 ルーカスが言う。


「私も……」


 メイナまで手を挙げた。


「うわ」


 リオが嫌そうな顔をする。


「ギルド宿泊会始まるやつじゃないですか」


「嫌そうだな」


 ガルドが笑う。


「絶対騒がしくなるので」



「問題ありません」


 ミレナが言う。


「ギルド二階の簡易宿泊室を使ってください」


「そんなのあるんですか」


「あります」


「初めて知りました」


「普段使わないので」



「でも数足ります?」


 メイナが聞く。


 ミレナは少し止まる。


「……足りませんね」


「ですよね」



「じゃあ」


 ナナが笑う。


「誰か酒場で寝る?」


「嫌な流れ!」



 そして夜。


 本当にギルド宿泊会が始まった。



「狭っ」


 エインが言う。


 二階の簡易宿泊室。


 簡易とは聞いていた。


 だが想像以上だった。


 ベッド数が足りない。


 毛布が微妙。


 空気が暑い。


「冒険者用だからな」


 カイルが言う。


「最低限だ」


「最低限ですね……」



「僕床で寝ます!」


 エインが言う。


「やめとけ」


 リオが即答した。


「翌朝死ぬぞ」


「じゃあリオ先輩は」


「僕は帰る」


「ずるい!」


「家あるので!」



「ガルドさんは?」


 ルーカスが聞く。


「下」


「また長椅子!?」


「落ち着く」


「なんでですか!」



「おっさんになるとな」


 ガルドが酒場の椅子に座る。


「変な場所の方が寝やすい時ある」


「分かりたくない感覚ですね」



「ちなみに」


 ナナが笑う。


「この前は樽の横で寝てた」


「なんで!?」


「静かだった」


「絶対嘘です!」



「グレンなんか昔」


 ベルクが笑う。


「馬小屋で寝てたぞ」


「理由!」


「暖かかった」


「馬基準!」



「でも実際」


 グレンが言う。


「冬は悪くない」


「経験者の顔やめてください」


 リオが引いた。



 そこへ。


「完成しました!」


 ユーンだった。


 全員止まる。


「何をですか」


「簡易吊り下げ式」


「嫌だ」


「安眠装置です!」


「もっと嫌だ!」



「これを使えば!」


 ユーンがロープを見せる。


「空中で揺られながら」


「絶対落ちる」


「落ちません!」


「信用できない!」



「試します!」


「やめろぉぉぉ!!」


 遅かった。


 ユーンが柱にロープを固定。


 布を張る。


 乗る。


 一瞬安定。


「おお!」


 エインが感心する。


「普通にすご」


 みし。


 嫌な音。


「……」


「……」


「……」


 ばきん。


 柱が折れた。


「ですよねぇぇぇ!!」



 二階が揺れる。


 ミレナが飛んできた。


「何やってるんですか!?」


「安眠を!」


「安眠できなくなります!」



「大丈夫か」


 ガルドが覗く。


「ユーン」


「はい……」


「お前、寝る才能ないな」


「そんな才能あります!?」


「お前は地面で寝ろ」


「はい……」



 結局。


 寝る場所はぐちゃぐちゃになった。


 エインとルーカスは二階。


 メイナは女性側簡易室。


 ユーンは監視付きで床。


 ガルドは長椅子。


 グレンは壁際。


 ベルクは「どこでもいい」と言って酒場机。


 ドーガは普通に帰宅。


「ドーガさんが一番まともですね」


 リオが呟く。


「結婚してるからな」


 ガルドが答えた。


「説得力ある」



 夜も更ける。


 ギルドは少し静かになった。


 静か。


 本当に静か。


 そのはずだった。



「……先輩」


 二階からエインの声。


「なんだ」


「ルーカスが寝言で剣振ってます」


「なんで!?」



「うおっ!?」


 どたん。


「落ちた!」


「何してるんですか!」



「……」


 リオは遠い目をする。


「帰ります」


「逃げるな」


 ガルドが笑った。



 外へ出る。


 夜風が気持ちいい。


 ギルドの中は騒がしい。


 でも、どこか安心感がある。


 リオは少しだけ振り返る。


 窓から灯りが漏れていた。


 ガルドが長椅子でだらけている。


 ナナが笑っている。


 ミレナが頭を抱えている。


 ユーンがまだ何か作ろうとして止められている。


 いつものギルドだった。


 寝る場所はおかしい。


 騒がしい。


 落ち着かない。


 でも。


 なんだかんだ、悪くない。


 リオは小さく笑って、夜道を歩き出した。

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