表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
栄光の中年、ただ生きる  作者: vastum


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
57/95

■第55話「“情報を共有しよう”って言い出すと、だいたい一番大事な情報ほど雑に扱われる」

 情報というのは、扱い方次第で価値が変わる。


 正確に共有されれば、判断は早くなり、無駄は減り、危険も回避できる。だが、曖昧なまま伝われば、誤解が生まれ、余計な動きが増え、場合によっては致命的なズレにも繋がる。


 だから、情報はきちんと共有すべきだ。


 誰が見ても分かる形で、同じ内容が伝わるように。


 ……のだが、“情報を共有しよう”と話し始めた瞬間、なぜか一番大事な部分だけが曖昧なまま流れていくことがある。


 その日、ギルドで起きたのはまさにそれだった。



「最近、情報共有が甘いです!」


 ミレナが言った。


 昼過ぎ、受付前で、はっきりとした声で。


「また始まりましたね」


 リオが言う。


「またってなんですか!」


「いや、内容は正しいです」


 リオは手を上げて言う。


「でも絶対どこかでズレるやつです」


「ズレません!」


 ミレナが言う。


「今回はちゃんとやります!」


 その“今回は”が怪しい。



「具体的に何があったんですか」


 セリアが聞く。


「依頼の内容です!」


 ミレナが紙を持ち上げる。


「“軽い護衛”って書いてあったのに、実際は野盗三十人です!」


「軽くないですね」


 リオが言う。


「全然軽くないです!」


「誰が書いた」


 ガルドが言う。


「受付の記録では“軽度の警戒”になってます」


「書いたやつの“軽い”の基準おかしいだろ」


 完全にそうだ。



「それだけじゃありません!」


 ミレナが続ける。


「“危険な生物あり”って書いてあった依頼、実際はただの犬です!」


「それは逆ですね」


 リオが言う。


「振れ幅がすごい」


「極端すぎます!」


 ミレナが言う。



「つまり」


 リオが言う。


「言葉が曖昧なんですね」


「そうです!」


 ミレナが頷く。


「だから統一します!」


「また来た」


 ガルドが言う。


「統一」


「必要です!」


 ミレナが言う。



「基準を決めます!」


 ミレナが紙を広げる。


「危険度、敵数、難易度、全部!」


「……」


 リオは少し考える。


 これは理屈としては正しい。


 だが――


「絶対現場でズレますよ」


「ズレません!」


「ズレます!」


 断言した。



「じゃあやってみましょう」


 ミレナが言う。


「例です!」


 紙を見る。


「“敵が五人”」


「はい」


 リオが頷く。


「これは?」


「少ない」


 ガルドが言う。


「普通ですね」


 リオが言う。


「油断はできませんが」


「まあ軽め」


 ナナが言う。


「……」


 ミレナが止まる。


「バラバラじゃないですか!」


 もう崩れている。



「じゃあ十人」


 ミレナが言う。


「普通」


 ガルド。


「やや多い」


 リオ。


「危険寄り」


 セリア。


「……」


「ほら!」


 ミレナが言う。


「全然違います!」


 そりゃそうだ。


 基準は人によって違う。



「じゃあ“危険度A”とかで」


 リオが言う。


「ランクで」


「それいいですね!」


 ミレナが言う。


「分かりやすいです!」


「でも」


 ガルドが言う。


「そのAの中身が曖昧だろ」


「……」


 止まる。


 核心だった。



「結局、言葉変えただけだな」


 ガルドが言う。


「中身決めないと意味ない」


「う……」


 ミレナが詰まる。


 正しい。


 完全に正しい。



「じゃあ具体的に書きます!」


 ミレナが言う。


「人数、武装、場所!」


「それはいい」


 カインが言う。


「情報が増える」


「増えすぎません?」


 リオが言う。


「読むの大変ですよ」


「大事です!」


 ミレナが言う。



「読むか?」


 ガルドが言う。


「全部」


「……」


 ミレナが止まる。


「読みます!」


「嘘だな」


 ガルドが言う。


「必要なとこだけ見る」


「……」


 否定できない。



「じゃあ重要なとこだけまとめます!」


 ミレナが言う。


「要点!」


「それでいい」


 アルが言う。


 奥から。


「全部書いて、要点を抜く」


「なるほど」


 リオが言う。


「読む人は要点だけ見ればいい」


「そうだ」


「それなら現実的です」



「じゃあやります!」


 ミレナが言う。


 紙に書く。


「敵数:十人、武装あり、場所:森、要点:複数、警戒必要」


「……」


 全員が少し黙る。


「どうですか!」


「普通だな」


 ガルドが言う。


「普通ですね」


 リオも言う。


「分かりやすい」


 セリアも言う。


 いい感じだ。



 その時だった。


「おーい」


 入口から声がした。


 サーシャだった。


「情報あるよ」


「ちょうどいいです!」


 ミレナが言う。


「教えてください!」


「南の森、ちょっと荒れてる」


「ちょっとってどれくらいですか」


 リオが聞く。


「んー」


 サーシャが考える。


「まあ、そこそこ?」


「そこそこ!?」


 ミレナが言う。


「具体的に!」


「人はいる」


「何人ですか」


「いる分だけ」


「答えになってません!」


 完全にそうだった。



「武装は?」


「ある」


「何がですか」


「武器」


「具体的に!」


「色々」


「雑です!」


 全部曖昧だ。



「……これです」


 リオが言う。


「これが問題です」


「だな」


 ガルドが言う。


「情報源が曖昧」


「だってそんなもんだよ」


 サーシャが言う。


「全部正確に分かるわけじゃないし」


「……」


 ミレナが止まる。


 それも正しい。



「だから」


 アルが言う。


「“分かっていること”と“分からないこと”を分ける」


「……あ」


 リオが言う。


「確かに」


「曖昧なまま書くな」


 アルが続ける。


「曖昧なら曖昧と書け」


「なるほど」


 ミレナが頷く。


「それならズレない」



「じゃあ書きます」


 ミレナが紙に書く。


「敵:複数(正確不明)、武装:あり(詳細不明)、場所:南の森、要点:不確定要素多い、警戒強め」


「いいな」


 ガルドが言う。


「分からん部分が分かる」


「そうですね」


 リオも頷く。


「判断しやすい」



「……」


 ミレナが少し息を吐く。


「やっとまとまりました」


「最初からこうすればいい」


 ガルドが言う。


「最初は分からないんです!」


 ミレナが言う。



「でも」


 ナナが言う。


「結局さ」


「なんですか」


「一番大事なの、“分かってないとこ分かること”だよね」


「……」


 全員が少し黙る。


「確かに」


 リオが言う。


「それが一番重要かも」



 “情報を共有しよう”って言い出すと、だいたい一番大事な情報ほど雑に扱われる。

 でも、“分からないことを分からないままにしない”だけで、だいぶ変わる。


 問題は、それを毎回ちゃんとできるかどうかだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ