↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
栄光の中年、ただ生きる  作者: vastum


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
48/102

■第46話「“料理当番”は戦闘より平和なはずなのに、なぜか一番事故率が高い」

 料理というのは、本来平和な作業のはずだ。


 火を使い、食材を切り、味を整えて、最後に食べる。流れは単純で、目的も明確で、戦う必要もない。剣も魔法もいらない。


 だが不思議なことに、“料理当番”というものは、時として戦闘よりも事故率が高くなる。


 理由は簡単だ。


 普段料理をしない人間が、やるからである。


⸻


「今日は料理当番を決めます!」


 ミレナが言った。


 昼前、受付前で、いつもより少し明るい声で。


「なんでですか」


 リオが即座に聞く。


「なんでって……」


 ミレナは一瞬だけ言葉に詰まる。


「食材が余ってるんです」


「余ってる?」


「はい」


 カウンターの下から、大きな籠を引き出す。


 中には野菜、肉、パン、果物。


「これ、今日中に使わないとダメなんです」


「保存は?」


「できるものはしてます。でも全部は無理です」


 なるほど。


 理屈は分かる。


 だが――


「嫌な予感しかしないです」


 リオは正直に言った。


⸻


「じゃあ俺は食う側でいいな」


 ガルドが言う。


 いつもの椅子に沈んだまま、完全にやる気がない。


「ダメです」


 ミレナが即答する。


「なんでだ」


「絶対に作る側に回ってください」


「なんでだ」


「絶対にやらせた方が面白……じゃなくて、必要だからです」


「今“面白い”って言いかけたな」


「言ってません!」


 言っていた。


⸻


「料理くらいなら大丈夫じゃないですか」


 セリアが言う。


 穏やかな声。


 だが、その“くらい”が危ない。


「セリアさん、その言い方が一番危ないです」


 リオが言う。


「なんでですか?」


「料理は“くらい”じゃないんです」


「そうか?」


 ガルドが言う。


「切って焼くだけだろ」


「その“だけ”で事故るんです!」


 経験談だった。


⸻


「分担します」


 ミレナが紙を出す。


「切る人、焼く人、味を見る人」


「役割分ける必要あります?」


 リオが聞く。


「あります!」


 ミレナが言い切る。


「一人でやると危険です!」


「全員でも危険な気がしますけど」


「それは否定しません!」


 だめだ。


 最初から事故前提だ。


⸻


 結局、こうなった。


 ガルド:焼く担当

 リオ:切る担当

 セリア:味見担当

 ナナ:補助

 カイン:監視

 ミレナ:全体管理


「監視ってなんですか」


 リオが聞く。


「暴走防止だ」


 カインが言う。


 真顔だった。


⸻


 調理場は酒場の奥にある。


 普段はナナが中心に使っている場所だ。


「今日は任せた」


 ナナが腕を組む。


「任せないでください」


 リオが言う。


「怖いです」


「大丈夫でしょ」


「大丈夫じゃないです」


⸻


「まず切る」


 リオが包丁を持つ。


「これは普通です」


「普通だな」


 ガルドが言う。


「切るくらいならできる」


「僕がやります!」


 即座に言った。


「ガルドさんは触らないでください!」


「なんでだ」


「なんででもです!」


 絶対に触らせない。


 これは守るべきラインだ。


⸻


 リオは野菜を切る。


 普通に。


 丁寧に。


 問題ない。


「うまいな」


 ガルドが言う。


「普通です」


「普通にできるのが一番だ」


 珍しくまともなことを言った。


⸻


「次、焼く」


 ガルドが言う。


「火、つけるぞ」


「慎重にお願いします」


 リオが言う。


「火ですからね」


「分かってる」


 火をつける。


 普通。


 ここまでは普通。


⸻


「肉乗せるぞ」


 ジュウ、と音がする。


 いい音だ。


「いい感じですね」


 セリアが言う。


「だろ」


 ガルドが言う。


「こういうのは得意だ」


「なんでですか」


「なんとなく」


 怖い理由だった。


⸻


 数分後。


「焦げてません?」


 リオが言う。


「焦げてねえ」


「焦げてます!」


 完全に黒い。


「これくらいがうまいんだ」


「絶対違います!」


「焼けてるだけだ」


「焼けすぎです!」


 やはりダメだった。


⸻


「火、弱めてください!」


「弱める?」


「はい!」


「こうか」


 ガルドが火を弱める。


 だが――


 弱めすぎた。


「消えてます!」


「弱めたぞ」


「消えてます!」


「極端ですね!」


⸻


「味見しますね」


 セリアが一口食べる。


 止まる。


 数秒。


「……どうですか」


 リオが聞く。


「……うん」


 セリアは優しく言った。


「焦げの味がします」


「でしょうね!」


⸻


「塩足すか」


 ガルドが言う。


「やめてください!」


 リオが叫ぶ。


「ここで足すとさらにおかしくなります!」


「足りねえだろ」


「味の問題じゃないです!」


⸻


「貸せ」


 ガルドが調味料を取る。


「やめてください!」


 リオが止める。


「ここから崩壊します!」


「もう崩壊してるだろ」


「まだギリギリです!」


⸻


 結果――


 さらに悪化した。


「……これは」


 セリアが言う。


「新しい味ですね」


「フォローが苦しいです!」


⸻


「代わる」


 ナナが言った。


 ついに。


「お願いします!」


 リオが即答した。


「最初からそうしてください!」


⸻


 ナナは手際が違った。


 火加減を整え、焦げた部分を削り、味を整える。


 数分で“料理”に戻った。


「すごいですね……」


 リオが言う。


「普通」


 ナナが言う。


「普通がすごいんです」


⸻


「じゃあ次」


 ミレナが言う。


「スープです」


「まだやるんですか!?」


「食材が余ってるんです!」


 終わらない。


⸻


「水入れて、野菜入れて、煮るだけです」


 ミレナが言う。


「簡単ですね」


 セリアが言う。


「簡単だ」


 ガルドが言う。


「やめてください」


 リオが言う。


「その“簡単”は危ないです」


⸻


 鍋に水を入れる。


 野菜を入れる。


 ここまではいい。


「火、強めるか」


 ガルドが言う。


「普通でいいです!」


 リオが言う。


「強めた方が早い」


「早くなくていいです!」


⸻


 数分後。


 鍋が吹きこぼれた。


「だからです!」


 リオが叫ぶ。


「だから言ったじゃないですか!」


「強すぎたな」


「最初からです!」


⸻


 最終的に。


 料理はなんとか完成した。


 見た目は……まあ、食べられる。


 味は……まあ、食べられる。


 だが――


「疲れました……」


 リオが言う。


「戦闘より疲れてます」


「分かる」


 カインが言う。


「精神が削れる」


「それです!」


⸻


 テーブルに並べる。


 全員で食べる。


「……」


 ガルドが一口食べる。


「どうですか」


 リオが聞く。


「……普通だな」


「普通ならいいです!」


 成功だ。


 これは成功だ。


⸻


「料理当番」


 ナナが言う。


「もうやらなくていいんじゃない?」


「賛成です!」


 リオが言う。


「でも食材が余ったら」


 ミレナが言う。


「またやります」


「やめてください!」


⸻


 料理は平和な作業のはずだ。


 だが、人が集まると、なぜか戦場になる。


 そしてたぶん――


 次に料理当番が回ってきた時も、同じことが起きる。


 そういうものなのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。