表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
栄光の中年、ただ生きる  作者: vastum


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/53

■第46話「“料理当番”は戦闘より平和なはずなのに、なぜか一番事故率が高い」

 料理というのは、本来平和な作業のはずだ。


 火を使い、食材を切り、味を整えて、最後に食べる。流れは単純で、目的も明確で、戦う必要もない。剣も魔法もいらない。


 だが不思議なことに、“料理当番”というものは、時として戦闘よりも事故率が高くなる。


 理由は簡単だ。


 普段料理をしない人間が、やるからである。



「今日は料理当番を決めます!」


 ミレナが言った。


 昼前、受付前で、いつもより少し明るい声で。


「なんでですか」


 リオが即座に聞く。


「なんでって……」


 ミレナは一瞬だけ言葉に詰まる。


「食材が余ってるんです」


「余ってる?」


「はい」


 カウンターの下から、大きな籠を引き出す。


 中には野菜、肉、パン、果物。


「これ、今日中に使わないとダメなんです」


「保存は?」


「できるものはしてます。でも全部は無理です」


 なるほど。


 理屈は分かる。


 だが――


「嫌な予感しかしないです」


 リオは正直に言った。



「じゃあ俺は食う側でいいな」


 ガルドが言う。


 いつもの椅子に沈んだまま、完全にやる気がない。


「ダメです」


 ミレナが即答する。


「なんでだ」


「絶対に作る側に回ってください」


「なんでだ」


「絶対にやらせた方が面白……じゃなくて、必要だからです」


「今“面白い”って言いかけたな」


「言ってません!」


 言っていた。



「料理くらいなら大丈夫じゃないですか」


 セリアが言う。


 穏やかな声。


 だが、その“くらい”が危ない。


「セリアさん、その言い方が一番危ないです」


 リオが言う。


「なんでですか?」


「料理は“くらい”じゃないんです」


「そうか?」


 ガルドが言う。


「切って焼くだけだろ」


「その“だけ”で事故るんです!」


 経験談だった。



「分担します」


 ミレナが紙を出す。


「切る人、焼く人、味を見る人」


「役割分ける必要あります?」


 リオが聞く。


「あります!」


 ミレナが言い切る。


「一人でやると危険です!」


「全員でも危険な気がしますけど」


「それは否定しません!」


 だめだ。


 最初から事故前提だ。



 結局、こうなった。


 ガルド:焼く担当

 リオ:切る担当

 セリア:味見担当

 ナナ:補助

 カイン:監視

 ミレナ:全体管理


「監視ってなんですか」


 リオが聞く。


「暴走防止だ」


 カインが言う。


 真顔だった。



 調理場は酒場の奥にある。


 普段はナナが中心に使っている場所だ。


「今日は任せた」


 ナナが腕を組む。


「任せないでください」


 リオが言う。


「怖いです」


「大丈夫でしょ」


「大丈夫じゃないです」



「まず切る」


 リオが包丁を持つ。


「これは普通です」


「普通だな」


 ガルドが言う。


「切るくらいならできる」


「僕がやります!」


 即座に言った。


「ガルドさんは触らないでください!」


「なんでだ」


「なんででもです!」


 絶対に触らせない。


 これは守るべきラインだ。



 リオは野菜を切る。


 普通に。


 丁寧に。


 問題ない。


「うまいな」


 ガルドが言う。


「普通です」


「普通にできるのが一番だ」


 珍しくまともなことを言った。



「次、焼く」


 ガルドが言う。


「火、つけるぞ」


「慎重にお願いします」


 リオが言う。


「火ですからね」


「分かってる」


 火をつける。


 普通。


 ここまでは普通。



「肉乗せるぞ」


 ジュウ、と音がする。


 いい音だ。


「いい感じですね」


 セリアが言う。


「だろ」


 ガルドが言う。


「こういうのは得意だ」


「なんでですか」


「なんとなく」


 怖い理由だった。



 数分後。


「焦げてません?」


 リオが言う。


「焦げてねえ」


「焦げてます!」


 完全に黒い。


「これくらいがうまいんだ」


「絶対違います!」


「焼けてるだけだ」


「焼けすぎです!」


 やはりダメだった。



「火、弱めてください!」


「弱める?」


「はい!」


「こうか」


 ガルドが火を弱める。


 だが――


 弱めすぎた。


「消えてます!」


「弱めたぞ」


「消えてます!」


「極端ですね!」



「味見しますね」


 セリアが一口食べる。


 止まる。


 数秒。


「……どうですか」


 リオが聞く。


「……うん」


 セリアは優しく言った。


「焦げの味がします」


「でしょうね!」



「塩足すか」


 ガルドが言う。


「やめてください!」


 リオが叫ぶ。


「ここで足すとさらにおかしくなります!」


「足りねえだろ」


「味の問題じゃないです!」



「貸せ」


 ガルドが調味料を取る。


「やめてください!」


 リオが止める。


「ここから崩壊します!」


「もう崩壊してるだろ」


「まだギリギリです!」



 結果――


 さらに悪化した。


「……これは」


 セリアが言う。


「新しい味ですね」


「フォローが苦しいです!」



「代わる」


 ナナが言った。


 ついに。


「お願いします!」


 リオが即答した。


「最初からそうしてください!」



 ナナは手際が違った。


 火加減を整え、焦げた部分を削り、味を整える。


 数分で“料理”に戻った。


「すごいですね……」


 リオが言う。


「普通」


 ナナが言う。


「普通がすごいんです」



「じゃあ次」


 ミレナが言う。


「スープです」


「まだやるんですか!?」


「食材が余ってるんです!」


 終わらない。



「水入れて、野菜入れて、煮るだけです」


 ミレナが言う。


「簡単ですね」


 セリアが言う。


「簡単だ」


 ガルドが言う。


「やめてください」


 リオが言う。


「その“簡単”は危ないです」



 鍋に水を入れる。


 野菜を入れる。


 ここまではいい。


「火、強めるか」


 ガルドが言う。


「普通でいいです!」


 リオが言う。


「強めた方が早い」


「早くなくていいです!」



 数分後。


 鍋が吹きこぼれた。


「だからです!」


 リオが叫ぶ。


「だから言ったじゃないですか!」


「強すぎたな」


「最初からです!」



 最終的に。


 料理はなんとか完成した。


 見た目は……まあ、食べられる。


 味は……まあ、食べられる。


 だが――


「疲れました……」


 リオが言う。


「戦闘より疲れてます」


「分かる」


 カインが言う。


「精神が削れる」


「それです!」



 テーブルに並べる。


 全員で食べる。


「……」


 ガルドが一口食べる。


「どうですか」


 リオが聞く。


「……普通だな」


「普通ならいいです!」


 成功だ。


 これは成功だ。



「料理当番」


 ナナが言う。


「もうやらなくていいんじゃない?」


「賛成です!」


 リオが言う。


「でも食材が余ったら」


 ミレナが言う。


「またやります」


「やめてください!」



 料理は平和な作業のはずだ。


 だが、人が集まると、なぜか戦場になる。


 そしてたぶん――


 次に料理当番が回ってきた時も、同じことが起きる。


 そういうものなのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ