■第46話「“料理当番”は戦闘より平和なはずなのに、なぜか一番事故率が高い」
料理というのは、本来平和な作業のはずだ。
火を使い、食材を切り、味を整えて、最後に食べる。流れは単純で、目的も明確で、戦う必要もない。剣も魔法もいらない。
だが不思議なことに、“料理当番”というものは、時として戦闘よりも事故率が高くなる。
理由は簡単だ。
普段料理をしない人間が、やるからである。
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「今日は料理当番を決めます!」
ミレナが言った。
昼前、受付前で、いつもより少し明るい声で。
「なんでですか」
リオが即座に聞く。
「なんでって……」
ミレナは一瞬だけ言葉に詰まる。
「食材が余ってるんです」
「余ってる?」
「はい」
カウンターの下から、大きな籠を引き出す。
中には野菜、肉、パン、果物。
「これ、今日中に使わないとダメなんです」
「保存は?」
「できるものはしてます。でも全部は無理です」
なるほど。
理屈は分かる。
だが――
「嫌な予感しかしないです」
リオは正直に言った。
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「じゃあ俺は食う側でいいな」
ガルドが言う。
いつもの椅子に沈んだまま、完全にやる気がない。
「ダメです」
ミレナが即答する。
「なんでだ」
「絶対に作る側に回ってください」
「なんでだ」
「絶対にやらせた方が面白……じゃなくて、必要だからです」
「今“面白い”って言いかけたな」
「言ってません!」
言っていた。
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「料理くらいなら大丈夫じゃないですか」
セリアが言う。
穏やかな声。
だが、その“くらい”が危ない。
「セリアさん、その言い方が一番危ないです」
リオが言う。
「なんでですか?」
「料理は“くらい”じゃないんです」
「そうか?」
ガルドが言う。
「切って焼くだけだろ」
「その“だけ”で事故るんです!」
経験談だった。
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「分担します」
ミレナが紙を出す。
「切る人、焼く人、味を見る人」
「役割分ける必要あります?」
リオが聞く。
「あります!」
ミレナが言い切る。
「一人でやると危険です!」
「全員でも危険な気がしますけど」
「それは否定しません!」
だめだ。
最初から事故前提だ。
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結局、こうなった。
ガルド:焼く担当
リオ:切る担当
セリア:味見担当
ナナ:補助
カイン:監視
ミレナ:全体管理
「監視ってなんですか」
リオが聞く。
「暴走防止だ」
カインが言う。
真顔だった。
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調理場は酒場の奥にある。
普段はナナが中心に使っている場所だ。
「今日は任せた」
ナナが腕を組む。
「任せないでください」
リオが言う。
「怖いです」
「大丈夫でしょ」
「大丈夫じゃないです」
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「まず切る」
リオが包丁を持つ。
「これは普通です」
「普通だな」
ガルドが言う。
「切るくらいならできる」
「僕がやります!」
即座に言った。
「ガルドさんは触らないでください!」
「なんでだ」
「なんででもです!」
絶対に触らせない。
これは守るべきラインだ。
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リオは野菜を切る。
普通に。
丁寧に。
問題ない。
「うまいな」
ガルドが言う。
「普通です」
「普通にできるのが一番だ」
珍しくまともなことを言った。
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「次、焼く」
ガルドが言う。
「火、つけるぞ」
「慎重にお願いします」
リオが言う。
「火ですからね」
「分かってる」
火をつける。
普通。
ここまでは普通。
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「肉乗せるぞ」
ジュウ、と音がする。
いい音だ。
「いい感じですね」
セリアが言う。
「だろ」
ガルドが言う。
「こういうのは得意だ」
「なんでですか」
「なんとなく」
怖い理由だった。
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数分後。
「焦げてません?」
リオが言う。
「焦げてねえ」
「焦げてます!」
完全に黒い。
「これくらいがうまいんだ」
「絶対違います!」
「焼けてるだけだ」
「焼けすぎです!」
やはりダメだった。
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「火、弱めてください!」
「弱める?」
「はい!」
「こうか」
ガルドが火を弱める。
だが――
弱めすぎた。
「消えてます!」
「弱めたぞ」
「消えてます!」
「極端ですね!」
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「味見しますね」
セリアが一口食べる。
止まる。
数秒。
「……どうですか」
リオが聞く。
「……うん」
セリアは優しく言った。
「焦げの味がします」
「でしょうね!」
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「塩足すか」
ガルドが言う。
「やめてください!」
リオが叫ぶ。
「ここで足すとさらにおかしくなります!」
「足りねえだろ」
「味の問題じゃないです!」
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「貸せ」
ガルドが調味料を取る。
「やめてください!」
リオが止める。
「ここから崩壊します!」
「もう崩壊してるだろ」
「まだギリギリです!」
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結果――
さらに悪化した。
「……これは」
セリアが言う。
「新しい味ですね」
「フォローが苦しいです!」
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「代わる」
ナナが言った。
ついに。
「お願いします!」
リオが即答した。
「最初からそうしてください!」
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ナナは手際が違った。
火加減を整え、焦げた部分を削り、味を整える。
数分で“料理”に戻った。
「すごいですね……」
リオが言う。
「普通」
ナナが言う。
「普通がすごいんです」
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「じゃあ次」
ミレナが言う。
「スープです」
「まだやるんですか!?」
「食材が余ってるんです!」
終わらない。
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「水入れて、野菜入れて、煮るだけです」
ミレナが言う。
「簡単ですね」
セリアが言う。
「簡単だ」
ガルドが言う。
「やめてください」
リオが言う。
「その“簡単”は危ないです」
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鍋に水を入れる。
野菜を入れる。
ここまではいい。
「火、強めるか」
ガルドが言う。
「普通でいいです!」
リオが言う。
「強めた方が早い」
「早くなくていいです!」
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数分後。
鍋が吹きこぼれた。
「だからです!」
リオが叫ぶ。
「だから言ったじゃないですか!」
「強すぎたな」
「最初からです!」
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最終的に。
料理はなんとか完成した。
見た目は……まあ、食べられる。
味は……まあ、食べられる。
だが――
「疲れました……」
リオが言う。
「戦闘より疲れてます」
「分かる」
カインが言う。
「精神が削れる」
「それです!」
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テーブルに並べる。
全員で食べる。
「……」
ガルドが一口食べる。
「どうですか」
リオが聞く。
「……普通だな」
「普通ならいいです!」
成功だ。
これは成功だ。
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「料理当番」
ナナが言う。
「もうやらなくていいんじゃない?」
「賛成です!」
リオが言う。
「でも食材が余ったら」
ミレナが言う。
「またやります」
「やめてください!」
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料理は平和な作業のはずだ。
だが、人が集まると、なぜか戦場になる。
そしてたぶん――
次に料理当番が回ってきた時も、同じことが起きる。
そういうものなのだ。




