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栄光の中年、ただ生きる  作者: vastum


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■第39話「“できる人にお願いしたい”って言われると、だいたいできる人以外も全力でやりに来る」

 “できる人にお願いしたい”という言葉は、だいたい善意と信頼でできている。


 相手の能力を評価し、任せれば安心だと思っているからこそ出る言葉だ。


 だが、その言葉が不特定多数の前で発せられた場合、意味は少し変わる。


 “できる人”の定義が曖昧なまま広がり、なぜか“やる気のある人”や“面白そうだと思った人”や“たまたま近くにいた人”まで含まれるようになる。


 そして最終的には、本来頼みたかった人以外が一番張り切るという現象が起きる。


 その日のギルドは、まさにその状態だった。


⸻


「すみません、少しお願いがありまして」


 昼前、見慣れない男がギルドに入ってきた。


 服装からして冒険者だが、この街の人間ではない。


「他所の方ですね」


 ミレナが対応する。


「はい、南のギルドから来ました」


 男は丁寧に頭を下げた。


「こちらのギルドは“少数精鋭”と聞いていまして」


 その言葉に、数人が反応した。


 主に、ガルドとライルだ。


⸻


「精鋭、ね」


 ガルドが言う。


「そうらしいぞ」


「そうらしいですね」


 リオが言う。


 あまり触れない方がいい話題だ。


⸻


「ぜひ、その中でも“腕の立つ方”にお願いしたいことがありまして」


 男が続ける。


 この言い方が良くなかった。


⸻


「任せろ」


 ガルドが言った。


「俺がやる」


「俺もやる!」


 ライルが言った。


「やめてください!」


 リオが言う。


「話まだ終わってません!」


⸻


「内容を聞いてからにしてください」


 ミレナが言う。


「そうですね……」


 男が少し困った顔をする。


 すでに空気がおかしい。


⸻


「実は、少し特殊な運搬依頼でして」


「運搬か」


 ガルドが言う。


「いいな」


「いいですね!」


 ユーンが言った。


 目が光っている。


「ダメです!」


 リオが即座に言う。


「まだ何も聞いてません!」


⸻


「ええと……」


 男が説明を始める。


「壊れやすい魔導器具を、隣町まで運んでほしいんです」


「繊細なやつか」


 カインが言う。


「振動や衝撃に弱いタイプです」


「……」


 全員がユーンを見る。


「……大丈夫です」


 ユーンが言う。


「ゆっくり行けば」


「ゆっくり行けます?」


 リオが聞く。


「……努力します」


「不安です!」


⸻


「慎重に運べる方が理想です」


 男が言う。


「振動を最小限に抑えて」


「それならリオだな」


 カインが言う。


「え、僕ですか」


「一番丁寧だ」


「まあ……そうですけど」


⸻


「いや俺だろ」


 ガルドが言う。


「調整できる」


「雑なイメージしかないです!」


 リオが言う。


「やればできる」


「やらない時の方が多いじゃないですか!」


⸻


「俺もいける!」


 ライルが言う。


「気合で!」


「気合でどうにかするものじゃありません!」


⸻


「私も行きます」


 セリアが言う。


「万が一の時に対応できますし」


「それは助かります」


 男が言う。


 ようやくまともな流れだ。


⸻


「……では」


 ミレナがまとめる。


「リオさん、セリアさんを中心に」


「待て」


 ガルドが言う。


「俺も行く」


「なんでですか!」


「暇だ」


「理由が最低です!」


⸻


「俺も行く!」


 ライルが言う。


「ダメです!」


 ミレナが言う。


「増やさないでください!」


⸻


「……僕も」


 ユーンが言う。


「運搬ですし」


「だからです!」


 リオが言う。


「今回は繊細なんです!」


⸻


「多くないですか?」


 男が言う。


 正論だった。


⸻


「最初は“できる人に”だったんですが」


「できるぞ」


 ガルドが言う。


「全員」


「自信はありますけど!」


 リオが言う。


「方向が違うんです!」


⸻


「……では三人くらいで」


 男が言う。


 妥協案だ。


⸻


「リオ、セリア、あと一人だな」


 カインが言う。


「ガルドか?」


「俺だ」


「却下です!」


 ミレナが言う。


⸻


「ユーンか?」


「ダメです!」


 リオが言う。


⸻


「ライルか?」


「論外です!」


⸻


「……」


 沈黙。


⸻


「じゃあカインさんで」


 リオが言う。


「一番安心です」


「それがいい」


 セリアも言う。


「そうですね……」


 男も頷いた。


⸻


 こうして、メンバーは決まった。


 リオ、セリア、カイン。


 完璧だ。


 誰もがそう思った。


⸻


 出発直前までは。


⸻


「……準備できました」


 リオが言う。


 魔導器具は丁寧に梱包され、衝撃吸収もされている。


「問題ない」


 カインが確認する。


「では行きましょう」


⸻


「待て」


 ガルドが言った。


「やっぱり俺も行く」


「なんでですか!」


 リオが言う。


「面白そうだ」


「面白さはいりません!」


⸻


「俺も行く!」


 ライルが言う。


「ダメです!」


⸻


「……僕も」


 ユーンが言う。


「ダメです!!」


 全員が叫んだ。


⸻


「人数増やすと揺れます!」


 リオが言う。


「重量バランスも変わります!」


「たしかに」


 カインが頷く。


「今回は少人数がいい」


⸻


 ようやく止まった。


 はずだった。


⸻


 馬車に乗る。


 リオが手綱を持つ。


 慎重に。


 ゆっくりと進む。


⸻


「いいですね」


 セリアが言う。


「安定してます」


「このまま行きます」


 リオが言う。


 順調だ。


 完璧だ。


 静かだ。


⸻


 数分後。


⸻


「おーい」


 後ろから声がした。


⸻


「来るなああああ!!」


 リオが叫ぶ。


⸻


 ガルドが走ってきていた。


 普通に速い。


「乗せろ」


「乗せません!」


「暇だ」


「帰ってください!」


⸻


「俺も!」


 ライルが後ろから来る。


「ダメです!!」


⸻


「……」


 さらに後ろ。


 ユーンが歩いている。


 静かに。


 だが――


 近くに馬車がある。


⸻


「止まれ!!」


 リオが叫ぶ。


「触るな!!」


⸻


 ユーンが止まる。


 ギリギリで。


「……大丈夫です」


「信用できません!」


⸻


「無視して進むぞ」


 カインが言う。


「はい!」


 リオが進む。


⸻


 しばらくして。


⸻


 静かだ。


 安定している。


 順調だ。


⸻


「……これなら」


 リオが言う。


「いけますね」


「問題ない」


 カインが言う。


⸻


 その瞬間。


⸻


 ドン。


⸻


「え?」


 リオが振り返る。


⸻


 ガルドが荷台に乗っていた。


⸻


「なんでですか!!」


「乗れた」


「乗らないでください!」


⸻


「面白そうだった」


「だからです!!」


⸻


「降りろ」


 カインが言う。


「重さが変わる」


「問題ない」


 ガルドが言う。


「バランス取れる」


⸻


 その時。


⸻


「いいなそれ!!」


 ライルが飛び乗った。


⸻


「増えたああああ!!」


 リオが叫ぶ。


⸻


 さらに。


⸻


「……」


 ユーンが近づく。


⸻


「来るなああああ!!」


 全員が叫ぶ。


⸻


 ユーンは――


 止まった。


 ギリギリで。


⸻


「……我慢します」


「えらいです!!」


 リオが言う。


 初めて褒めた。


⸻


 だが――


⸻


 馬車が揺れる。


 ガルドとライルのせいだ。


⸻


「揺れてます!」


 リオが言う。


「降りてください!」


「大丈夫だ」


 ガルドが言う。


「慣れろ」


「慣れません!」


⸻


「任せろ!」


 ライルが言う。


 荷物を押さえる。


 雑に。


⸻


「雑です!!」


 リオが言う。


⸻


 ガタッ。


⸻


 箱が傾く。


⸻


「止まれ!!」


 カインが言う。


⸻


 停止。


⸻


 静寂。


⸻


「……」


 全員が箱を見る。


⸻


 ギリギリで無事だった。


⸻


「……」


 リオが深呼吸する。


「降りてください」


「分かった」


 ガルドが言う。


 降りる。


 ライルも降りる。


⸻


「最初からそうしてください!」


⸻


 その後は平和だった。


 本当に平和だった。


 揺れもなく、問題もなく、無事に到着した。


⸻


「ありがとうございました」


 依頼主が言う。


「完璧でした」


「……はい」


 リオが言う。


 疲れている。


⸻


 帰り道。


⸻


「結局、できる人だけでやるのが一番だな」


 カインが言う。


「そうですね……」


 リオが言う。


⸻


 後ろから声がした。


⸻


「やっぱり俺もやればよかったな」


 ガルドが言う。


「ダメです」


「なんでだ」


「分かってるでしょう」


⸻


 “できる人にお願いしたい”と言われると、だいたいできる人以外も全力でやりに来る。

 そして本当に必要な人だけでやるには、周りを止める力が必要になる。


 その日の話題は、その日で終わった。

 依頼は成功したし、問題も最小限だった。


 ただ一つだけ確かなのは――


 このギルドでは、“やる気”と“適性”は別物だということだった。

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