■第38話「“少数精鋭”って言葉を掲げると、だいたい精鋭が好き勝手やる免罪符になる」
“少数精鋭”という言葉は、外から見れば格好がいい。
人数は少ないが、一人一人が高い能力を持ち、無駄がなく、連携も取れていて、どんな依頼でも的確にこなす。
そういう理想像がそこにはある。
だが――
実際に“少数精鋭”で組織を回すと、問題は別のところから出てくる。
人数が少ない分、個々の影響力が大きくなり、そして“強い人間の自由度”がそのまま組織全体の空気を決めてしまう。
つまり、
強いけど自由な人間が複数いると、組織はだいたいカオスになる。
その日のギルドは、その“外からの理想”と“中の現実”が衝突する日だった。
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「本日、視察が入ります」
ミレナが言った。
朝一番である。
「帰るか」
ガルドが言った。
「帰らせません」
即答だった。
「なんでだ」
「外から人が来るんです!」
ミレナが言う。
「ちゃんとした姿を見せてください!」
「ちゃんとしてるだろ」
「してません!」
断言だった。
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「誰が来るんですか」
リオが聞く。
「王都のギルド監査官です」
空気が一瞬だけ変わった。
「……面倒だな」
ガルドが言う。
「面倒です!」
ミレナが言う。
「だからちゃんとしてください!」
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「何を見られる」
カインが聞く。
「運営状況、依頼処理、連携、あと――」
ミレナが一拍置く。
「“少数精鋭として機能しているか”です」
その言葉に、全員が微妙な顔をした。
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「……少数は間違ってないな」
ガルドが言う。
「精鋭も間違ってはいない」
カインが言う。
「問題は“まとまり”だな」
リオが言う。
「まとまりはあります!」
ミレナが言う。
「あります!」
やや強引だ。
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「とにかく!」
ミレナが言う。
「今日は静かに、普通に、ちゃんとしてください!」
「条件が多いな」
ガルドが言う。
「全部大事です!」
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数時間後。
監査官が来た。
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「本日はよろしくお願いします」
スーツのような服を着た、いかにも真面目そうな男だった。
背筋が伸びている。目も鋭い。
完全に“ちゃんとしている側の人間”だ。
「こちらこそ」
アルが対応する。
落ち着いている。
この人だけは大丈夫だ。
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「ここが、少数精鋭で運営されているギルドですか」
「そうだ」
アルが言う。
「少人数だが、問題なく機能している」
「楽しみです」
監査官が言う。
「ぜひ実態を見せていただきたい」
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(終わった)
リオは思った。
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「ではまず、日常の様子を見せてください」
「分かった」
アルが言う。
「普段通りでいい」
それが一番危ない。
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ギルド内。
静かだ。
誰も騒いでいない。
リオは書類を整理し、カインは依頼票を確認し、セリアは治療の準備をしている。
ドーガは入口に立ち、ナナはカウンターで静かに対応している。
ガルドは――
寝ていた。
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「……あの方は」
監査官が聞く。
「ガルドだ」
アルが言う。
「現場担当だ」
「寝ているようですが」
「休憩だ」
「朝ですよね」
「柔軟な運用だ」
強引だ。
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その時、
ガルドが起きた。
「……客か」
「監査官です!」
ミレナが小声で言う。
「ちゃんとしてください!」
「してるだろ」
「してません!」
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「あなたがガルドですか」
監査官が言う。
「そうだ」
「役割は?」
「だいたい何でもやる」
「具体的には」
「必要なこと」
「曖昧ですね」
「状況による」
会話が成立しているようでしていない。
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「では、連携の様子を見たい」
監査官が言う。
「簡単な依頼を出すので、対応していただけますか」
「問題ない」
アルが言う。
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依頼内容はシンプルだった。
“倉庫から荷物を運び、指定位置に置く”。
つまり、普通の作業だ。
普通にやればいい。
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「では、お願いします」
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「リオ、倉庫」
カインが言う。
「はい」
リオが動く。
「ドーガ、補助」
「了解」
ドーガが動く。
「セリア、確認」
「はい」
セリアが動く。
完璧だ。
流れるような連携。
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「……素晴らしい」
監査官が言う。
「無駄がない」
「当然だ」
アルが言う。
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だが――
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「重いな」
ガルドが言った。
「三つまとめて持つか」
「やめてください!」
リオが言う。
「順番でいいです!」
「早い方がいい」
「崩れます!」
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「俺も持つ!」
ライルが入ってきた。
「二つ持つ!」
「やめてください!」
リオが叫ぶ。
「増やさないでください!」
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「効率だ」
ユーンが言った。
目が危ない。
「……やめてください」
リオが言う。
「今は違います」
「でも速くすれば――」
「ダメです!」
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荷物が崩れた。
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「ほら!」
リオが言う。
「だからです!」
「もう一回だ」
ガルドが言う。
「順番でやります!」
リオが言う。
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監査官は見ていた。
黙って。
じっと。
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「……もう一度お願いします」
監査官が言う。
「今度は“そのまま”で」
意味深だ。
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二回目。
今度は――
ガルドを除いた。
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結果、
完璧だった。
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「……なるほど」
監査官が言う。
「一部の方が自由に動くと崩れる」
全員がガルドを見る。
「俺のせいか?」
「あなたです!」
ミレナが言う。
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「では次に」
監査官が言う。
「判断力を見たい」
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状況が与えられる。
“想定外の問題が発生した場合、どう対応するか”。
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「リオ」
「はい」
「対応は」
「状況確認、優先順位決定、連携して処理します」
「良い」
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「カイン」
「排除」
「具体的に」
「原因を潰す」
「簡潔だ」
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「ガルド」
「その場で決める」
「具体的に」
「その時次第だ」
「曖昧ですね」
「曖昧じゃない」
「説明してください」
「面倒だ」
「説明してください」
「……やって見せた方が早い」
嫌な流れだ。
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「では実演を」
監査官が言う。
「やめてください!」
ミレナが言う。
「やります」
ガルドが言う。
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その瞬間、
ユーンが動いた。
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「問題発生!!」
叫んだ。
どこからか持ってきた箱を投げる。
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「なんでですか!!」
リオが叫ぶ。
「実演です!」
ユーンが言う。
「やめてください!!」
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ガルドが動く。
箱を受ける。
バランスを取る。
そのまま置く。
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「終わりだ」
「早いですね……」
監査官が言う。
「状況対応は早い」
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だが、
問題を作ったのも同じチームだった。
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「……なるほど」
監査官が言う。
「非常に興味深い」
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しばらくの沈黙。
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「結論を言います」
監査官が言う。
「このギルドは、確かに“少数精鋭”です」
ミレナが少しだけ安心する。
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「ただし」
監査官が続ける。
「“精鋭が自由すぎる”」
全員が黙った。
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「通常の組織では制御が必要ですが」
監査官は言う。
「ここは――」
一拍。
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「その自由が機能している」
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「え?」
リオが言う。
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「崩れるが、戻る」
監査官が言う。
「問題が起きるが、処理が早い」
「無駄が多いが、結果が出る」
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「……つまり?」
ミレナが聞く。
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「問題はあるが、成立している」
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「褒められてますか?」
リオが聞く。
「半分です」
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「総評としては」
監査官が言う。
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「“少数精鋭(制御不可)だが実用上問題なし”」
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「複雑ですね……」
ミレナが言う。
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視察は終わった。
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「……どうだった」
ガルドが言う。
「通りました」
ミレナが言う。
「通ったのか」
「通りました」
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「よかったじゃねえか」
「よくないです!」
ミレナが言う。
「褒められてません!」
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“少数精鋭”という言葉を掲げると、だいたい精鋭が好き勝手やる免罪符になる。
だがその好き勝手が結果を出してしまうと、誰も止められなくなる。
その日の話題は、その日で終わった。
評価は微妙だったが、否定はされなかった。
ただ一つだけ確かなのは――
このギルドは、たぶん“正しい意味での少数精鋭ではない”が、
“間違った意味での少数精鋭としては完成している”ということだった。




