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栄光の中年、ただ生きる  作者: vastum


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■第37話「“効率よくやろう”とすると、だいたい一番効率が悪い人の案が採用される」

 効率という言葉は、聞こえがいい。


 無駄を減らし、時間を短縮し、労力を最小限にして最大の成果を出す。理屈としては正しく、誰もが一度は「もっと効率よくできないか」と考える。


 だが、その“効率”を複数人で考えた場合、問題は一気に複雑になる。


 それぞれが思う“効率”は違うし、短期的な効率と長期的な効率も違う。さらに、“面白さ”や“楽さ”や“勢い”を効率と混同する人間が混ざると――


 議論はだいたい混乱し、最終的には一番声の大きい、もしくは一番面倒な案が採用される。


 その日のギルドは、まさにその状態だった。


⸻


「今日は、“効率改善会議”を行います」


 ミレナが言った。


 その声はやる気に満ちている。危険だ。


「帰るか」


 ガルドが言った。


「帰らせません」


 即答だった。


「なんでだ」


「必要だからです!」


 ミレナが言う。


「最近、無駄が多すぎます!」


「無駄か?」


「無駄です!」


 机に紙を叩きつける。


「“ついでに別の依頼を増やす”

 “途中で別のことを始める”

 “一回で済むものを三回に分ける”

 “わざわざ遠回りする”」


「心当たりしかないな」


 ガルドが言った。


「全部あなたです!」


 ミレナが即答した。


⸻


「効率よくすれば、仕事はもっと楽になります」


 ミレナが言う。


「時間も余りますし、トラブルも減ります!」


「トラブルは減るな」


 カインが頷く。


「だが、どうやる」


「それを今から決めます!」


 ミレナが紙を掲げた。


⸻


 紙にはこう書かれていた。


 ■効率改善案 募集


「各自、改善案を出してください!」


「めんどくせえ」


 ガルドが言う。


「出さないと終わりません!」


「出しても終わらんだろ」


「終わります!」


 たぶん終わらない。


⸻


「じゃあ俺から」


 ライルが手を挙げた。


 この時点で嫌な予感しかしない。


「全部まとめてやればいい!」


「どういう意味ですか」


 リオが聞く。


「依頼も作業も全部まとめて一気にやる!」


「雑すぎません?」


「効率いいだろ!」


「途中で崩壊します!」


 確実にする。


⸻


「次」


 ミレナが言う。


「ガルドさん」


「寝る」


「却下です!」


「無駄な動きを減らす」


「極端すぎます!」


「動かなきゃミスもない」


「仕事もしません!」


 成立していない。


⸻


「次、リオさん」


「えっと……」


 リオは少し考えた。


「事前に計画を立てて、順番通りに進めるのがいいと思います」


「いいですね!」


 ミレナが言う。


「一番まともです!」


「つまらん」


 ガルドが言う。


「効率はいいが面白くない」


「面白さはいらないです!」


⸻


「次、ユーンさん」


「……」


 ユーンが静かに手を挙げた。


「移動を速くすれば……全部解決します」


「却下です!!」


 ミレナが即答した。


「速度で解決しないでください!」


「でも速いと……」


「ダメです!」


⸻


「次、カインさん」


「無駄を減らす」


「具体的に」


「無駄な会話を減らす」


 全員が静かになった。


「……たしかに」


 リオが言う。


「今も無駄ですね」


「無駄だな」


 ガルドが言う。


「でも必要な無駄もあります!」


 ミレナが言う。


「全部削ると空気が悪くなります!」


「空気より効率だ」


「それは違います!」


⸻


「次、ドーガ」


 カインが言う。


「順番」


 ドーガが言った。


「それだけですか?」


「守る」


「シンプルですね……」


 だが、たしかに重要だ。


⸻


「次、ナナ」


「うーん……」


 ナナが考える。


「人に任せる?」


「それは効率いいですね」


 リオが言う。


「でも誰にですか?」


「え?」


 ナナが笑う。


「誰でもいいんじゃない?」


「ダメです!」


 ミレナが言う。


「それで押し付け合いになります!」


「なるね」


 ナナはあっさり認めた。


⸻


 案が出揃った。


⸻


「……」


 ミレナが紙を見る。


 しばらく黙る。


「まとまらないですね」


 リオが言う。


「まとまりません!」


 ミレナが言う。


「方向がバラバラです!」


⸻


「じゃあ投票だ」


 ガルドが言う。


「多数決」


「それでいいんですか」


 リオが言う。


「一番楽だ」


「また楽で決めるんですね」


「効率だ」


「それ違います!」


⸻


 結果――


 なぜか一番票を集めたのは、


 ユーンの“移動を速くする”案だった。


⸻


「なんでですか!?」


 ミレナが叫ぶ。


「速いと楽だろ」


 ガルドが言う。


「早く終わるしな」


「危険です!」


「でも効率はいい」


 カインが言う。


「認めるんですか!?」


「効率だけならな」


⸻


「じゃあ試してみましょう」


 ガルドが言う。


「やめてください!」


 ミレナが叫ぶ。


「試さないと分からん」


「分かってます!」


「じゃあ確認だ」


「確認しなくていいです!」


⸻


 だがもう遅かった。


⸻


「ユーン」


「はい」


「やってみろ」


「分かりました」


「やめてください!!」


⸻


 数分後。


⸻


「乗るなああああ!!」


 リオが叫ぶ。


 ユーンが馬車に乗っていた。


⸻


「効率だ!!」


 ユーンが叫ぶ。


「全部一回で終わらせる!!」


「そのために壊れます!!」


 馬車が走る。


 荷物を載せる。


 無理やり積む。


 バランスが崩れる。


「落ちる!!」


「落とさない!!」


 ユーンが叫ぶ。


 だが落ちる。


⸻


「ほら!!」


 ミレナが叫ぶ。


「非効率です!!」


「もう一回やればいい!」


「回数増えてます!!」


⸻


「止めろ」


 カインが言う。


 ドーガが前に出る。


 止まる。


 いつもの流れだ。


⸻


 結果――


 荷物は散乱し、作業はやり直しになり、時間は倍かかった。


⸻


「……どうですか」


 ミレナが言う。


「効率よくないですよね」


「よくないな」


 ガルドが言う。


「認めるんですね」


「実際にやった結果だ」


「最初から分かってました!」


⸻


「じゃあリオの案だな」


 カインが言う。


「順番を決めてやる」


「それが一番です」


 リオが言う。


「最初からそれでいいんです!」


 ミレナが言う。


⸻


 その後、普通に作業をした。


 順番通りに、無駄なく、丁寧に。


 時間はかかったが、やり直しはなかった。


⸻


「……」


 ガルドが言う。


「普通だな」


「普通が一番なんです!」


 ミレナが言う。


⸻


 効率よくやろうとすると、だいたい一番効率が悪い人の案が採用される。

 そして一度失敗してから、ようやく普通に戻る。


 その日の話題は、その日で終わった。

 結論は出たし、実験も終わった。


 ただ一つだけ確かなのは――


 このギルドでは、“普通”にたどり着くまでが一番遠いということだった。

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