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栄光の中年、ただ生きる  作者: vastum


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35/54

■第35話「ギルドの“イベント”をちゃんとやろうとすると、だいたい競技じゃなくて事故になる」

 “イベントをやろう”という発想は、だいたい善意から始まる。


 日々の業務に変化をつけたいとか、親睦を深めたいとか、ギルド全体の雰囲気をよくしたいとか、そういう前向きな理由だ。


 だが、その善意は往々にして、現場にいる人間の性質を考慮していない。


 競争が好きな人間、勝ち負けにこだわる人間、面白ければいい人間、ルールをねじ曲げる人間、そして“勝手に盛り上げる”人間が混ざると――


 イベントはだいたい競技ではなく事故になる。


 その日のギルドは、朝からやる気に満ちていた。


 そしてそれは、だいたい嫌な予感しかしない種類のやる気だった。



「今日はですね!」


 ミレナが言った。


 声が明るい。これは危ない。


「ギルド内イベントを開催します!」


「帰るか」


 ガルドが言った。


「帰らせません!」


 いつもの流れだが、今日は一段階テンションが高い。


「なんでイベントなんですか」


 リオが聞く。


「最近ちょっと空気がピリついてるので!」


 ミレナが言う。


「親睦を深めるためです!」


「深まるか?」


 ガルドが言う。


「深まります!」


 言い切った。


 だいたいこういう時は深まらない。



「内容は?」


 カインが聞く。


「三つです!」


 ミレナが指を立てる。


「①チーム対抗荷物運びリレー

 ②目隠し指示ゲーム

 ③即席料理対決」


「嫌な予感しかしない」


 リオが言う。


「全部、地味に危険じゃないですか」


「危険じゃありません!」


 ミレナが言う。


「ちゃんとルールを守れば安全です!」


「その“ちゃんと”が一番怪しいんですよ」


 リオは心からそう思った。



「チーム分けを発表します!」


 ミレナが紙を取り出す。


「Aチーム:ガルド、セリア、ユーン

 Bチーム:リオ、ライル、カイン

 Cチーム:ドーガ、ナナ、カイル」


「偏ってませんか?」


 リオが言う。


「何がですか?」


「Aチームに爆発物がいます」


 ユーンが静かに手を挙げた。


「……僕ですか」


「そうです!」


 ミレナが言う。


「今日は乗り物禁止です!」


「努力します……」


「努力じゃなくて守ってください!」



「じゃあ最初の競技です!」


 ミレナが言う。


「荷物運びリレー!」



 ルールは簡単だった。


 倉庫から箱を持ってきて、指定の位置に置く。それをチームで繰り返し、早く終わったチームの勝ち。


 単純だ。


 単純だが――


「よーい、スタート!」


 その瞬間、すべてが崩れた。



「任せろ!」


 ライルが叫んで走り出す。


「早すぎる!」


 リオが言う。


「箱持ってないです!」


「今取りに行く!」


「順番守ってください!」


 完全に崩壊している。



 一方Aチーム。


「……」


 ガルドがゆっくり歩く。


「急がないんですか?」


 セリアが言う。


「急ぐと崩れる」


「なるほど……」


 理にかなっている。


 だがその横で、


 ユーンが箱を見ていた。


 じっと。


 長く。


 危険な気配。


「ユーンさん?」


「……持ちます」


 普通に持った。


「よかった……」


 リオが遠くから言う。


 だが安心は早かった。



「軽いですね」


 ユーンが言う。


「もう少し速くても――」


「ダメです!!」


 ミレナが叫ぶ。


「普通に運んでください!」


「……はい」


 なんとか抑えた。


 ギリギリだ。



 Cチームは――


「一個ずつでいい」


 ドーガが言う。


「安定だ」


「地味すぎません?」


 ナナが言う。


「勝てばいい」


 ドーガは真顔だった。


 その結果、


 Cチームだけめちゃくちゃ安定していた。



 だが問題はBチームだった。



「まとめて持てば早い!」


 ライルが言う。


「無理です!」


 リオが言う。


「崩れます!」


「やってみろ!」


 ライルが三つ持つ。


 崩れる。


「だからです!!」


「もう一回!」


「学習してください!」



「リオ、指示を出せ」


 カインが言う。


「僕ですか!?」


「お前が一番まともだ」


「この状況で!?」


 リオは叫びながら指示を出す。


「一人一個!順番守って!」


「了解!」


 ライルが走る。


 速い。


 そして――


 転ぶ。


「だからです!!」



 結果、


 Cチーム圧勝。



「次いきます!」


 ミレナが言う。


「目隠し指示ゲーム!」



 これは、目隠しした人に対して、他のメンバーが指示を出して目的地まで誘導するゲームだ。


 そして、これは最悪の相性だった。



「Aチーム、ユーンさんが目隠しです!」


「やめてください!」


 リオが言う。


「指示と合わさると危険です!」


「大丈夫です!」


 ミレナが言う。


「乗り物じゃないので!」


「そこじゃないです!」



「スタート!」


 目隠しユーンが動く。


「右です!」


 セリアが言う。


「右!」


 ガルドが言う。


「ちょっと右!」


 セリア。


「もっと右!」


 ガルド。


「どっちですか!」


 ユーンが叫ぶ。


 すでに崩壊している。



「前です!」


「前!」


「少し前!」


「止まれ!」


 全部違う。


 ユーンが混乱する。


 そして――


 全力で前に出た。


「なんで全力なんですか!!」


 リオが叫ぶ。


「判断しました!」


「判断しないでください!」


 ドン。


 壁にぶつかった。


「大丈夫ですか!」


「……はい」


 無事だった。


 だが精神的に危険だ。



 Bチーム。



「リオが目隠しだ」


 カインが言う。


「僕ですか」


「お前が一番冷静だ」


「プレッシャーがすごいです」



「スタート!」


「前!」


 ライルが言う。


「前だ」


 カインが言う。


「少し左!」


 ライル。


「右だ」


 カイン。


「どっちですか!!」


 リオが叫ぶ。


 結局、


 壁にぶつかった。



 Cチーム。



「ナナが目隠し」


 ドーガが言う。


「え、私?」


「指示は俺とカイル」


「大丈夫?」


「問題ない」



「スタート」


「三歩前」


 ドーガ。


「はい」


「二歩右」


「はい」


「止まれ」


「はい」


 完璧だった。


「怖っ」


 ナナが言った。


「怖いけどすごい」



 結果、


 またCチーム勝利。



「最後です!」


 ミレナが言う。


「即席料理対決!」


「やめとけ」


 ガルドが言う。


「火が絡む」


「禁止事項守れば大丈夫です!」


「守るか?」


「守ります!」


 不安しかない。



 材料が並ぶ。


 簡単な料理を作るだけだ。


 のはずだった。



「任せろ!」


 ライルが火をつける。


「強すぎる!」


 リオが言う。


「弱くしろ!」


「弱いと美味くない!」


「強すぎると燃えます!」



 一方Aチーム。



「適当に混ぜるか」


 ガルドが言う。


「適当はダメです!」


 セリアが言う。


「分量が大事です!」


「だいたいでいい」


「だいたいは危険です!」



 ユーンが鍋を見ていた。


「……火力、足りますか?」


「足りてます!」


 セリアが言う。


「これ以上はダメです!」


「……少しだけ」


「ダメです!」



 だが――


 火力が上がる。


 ゴォッ。


「なんでですか!!」


「調整です!」


「調整じゃないです!」



 Cチーム。



「普通にやる」


 ドーガが言う。


「普通って一番難しいよね」


 ナナが言う。


 だが、


 普通に切って、普通に焼いて、普通に味付けした。


 一番まともだった。



 結果発表。



「優勝は――」


 ミレナが言う。


「Cチームです!」


「だろうな」


 全員が思った。



「なんで勝てないんだ」


 ガルドが言う。


「普通にやらないからです!」


 リオが言う。


「普通が一番強いんですよ!」


「つまらん」


「勝ちましょうよ!」



「でも楽しかったですね!」


 セリアが言う。


「……そうか?」


 ガルドが言う。


「はい」


「まあ、悪くはない」



 その瞬間、


 ユーンが呟いた。


「……馬車があれば」


「ダメです!!」


 全員が叫んだ。



 イベントをちゃんとやろうとすると、だいたい競技じゃなくて事故になる。

 だがその事故が、結果的に笑いになることもある。


 その日の話題は、その日で終わった。

 優勝はCチームだったし、誰も大怪我はしなかった。


 ただ一つだけ確かなのは――


 このギルドで“普通にやる”のが一番難しいということだった。

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