■第35話「ギルドの“イベント”をちゃんとやろうとすると、だいたい競技じゃなくて事故になる」
“イベントをやろう”という発想は、だいたい善意から始まる。
日々の業務に変化をつけたいとか、親睦を深めたいとか、ギルド全体の雰囲気をよくしたいとか、そういう前向きな理由だ。
だが、その善意は往々にして、現場にいる人間の性質を考慮していない。
競争が好きな人間、勝ち負けにこだわる人間、面白ければいい人間、ルールをねじ曲げる人間、そして“勝手に盛り上げる”人間が混ざると――
イベントはだいたい競技ではなく事故になる。
その日のギルドは、朝からやる気に満ちていた。
そしてそれは、だいたい嫌な予感しかしない種類のやる気だった。
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「今日はですね!」
ミレナが言った。
声が明るい。これは危ない。
「ギルド内イベントを開催します!」
「帰るか」
ガルドが言った。
「帰らせません!」
いつもの流れだが、今日は一段階テンションが高い。
「なんでイベントなんですか」
リオが聞く。
「最近ちょっと空気がピリついてるので!」
ミレナが言う。
「親睦を深めるためです!」
「深まるか?」
ガルドが言う。
「深まります!」
言い切った。
だいたいこういう時は深まらない。
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「内容は?」
カインが聞く。
「三つです!」
ミレナが指を立てる。
「①チーム対抗荷物運びリレー
②目隠し指示ゲーム
③即席料理対決」
「嫌な予感しかしない」
リオが言う。
「全部、地味に危険じゃないですか」
「危険じゃありません!」
ミレナが言う。
「ちゃんとルールを守れば安全です!」
「その“ちゃんと”が一番怪しいんですよ」
リオは心からそう思った。
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「チーム分けを発表します!」
ミレナが紙を取り出す。
「Aチーム:ガルド、セリア、ユーン
Bチーム:リオ、ライル、カイン
Cチーム:ドーガ、ナナ、カイル」
「偏ってませんか?」
リオが言う。
「何がですか?」
「Aチームに爆発物がいます」
ユーンが静かに手を挙げた。
「……僕ですか」
「そうです!」
ミレナが言う。
「今日は乗り物禁止です!」
「努力します……」
「努力じゃなくて守ってください!」
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「じゃあ最初の競技です!」
ミレナが言う。
「荷物運びリレー!」
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ルールは簡単だった。
倉庫から箱を持ってきて、指定の位置に置く。それをチームで繰り返し、早く終わったチームの勝ち。
単純だ。
単純だが――
「よーい、スタート!」
その瞬間、すべてが崩れた。
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「任せろ!」
ライルが叫んで走り出す。
「早すぎる!」
リオが言う。
「箱持ってないです!」
「今取りに行く!」
「順番守ってください!」
完全に崩壊している。
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一方Aチーム。
「……」
ガルドがゆっくり歩く。
「急がないんですか?」
セリアが言う。
「急ぐと崩れる」
「なるほど……」
理にかなっている。
だがその横で、
ユーンが箱を見ていた。
じっと。
長く。
危険な気配。
「ユーンさん?」
「……持ちます」
普通に持った。
「よかった……」
リオが遠くから言う。
だが安心は早かった。
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「軽いですね」
ユーンが言う。
「もう少し速くても――」
「ダメです!!」
ミレナが叫ぶ。
「普通に運んでください!」
「……はい」
なんとか抑えた。
ギリギリだ。
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Cチームは――
「一個ずつでいい」
ドーガが言う。
「安定だ」
「地味すぎません?」
ナナが言う。
「勝てばいい」
ドーガは真顔だった。
その結果、
Cチームだけめちゃくちゃ安定していた。
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だが問題はBチームだった。
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「まとめて持てば早い!」
ライルが言う。
「無理です!」
リオが言う。
「崩れます!」
「やってみろ!」
ライルが三つ持つ。
崩れる。
「だからです!!」
「もう一回!」
「学習してください!」
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「リオ、指示を出せ」
カインが言う。
「僕ですか!?」
「お前が一番まともだ」
「この状況で!?」
リオは叫びながら指示を出す。
「一人一個!順番守って!」
「了解!」
ライルが走る。
速い。
そして――
転ぶ。
「だからです!!」
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結果、
Cチーム圧勝。
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「次いきます!」
ミレナが言う。
「目隠し指示ゲーム!」
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これは、目隠しした人に対して、他のメンバーが指示を出して目的地まで誘導するゲームだ。
そして、これは最悪の相性だった。
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「Aチーム、ユーンさんが目隠しです!」
「やめてください!」
リオが言う。
「指示と合わさると危険です!」
「大丈夫です!」
ミレナが言う。
「乗り物じゃないので!」
「そこじゃないです!」
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「スタート!」
目隠しユーンが動く。
「右です!」
セリアが言う。
「右!」
ガルドが言う。
「ちょっと右!」
セリア。
「もっと右!」
ガルド。
「どっちですか!」
ユーンが叫ぶ。
すでに崩壊している。
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「前です!」
「前!」
「少し前!」
「止まれ!」
全部違う。
ユーンが混乱する。
そして――
全力で前に出た。
「なんで全力なんですか!!」
リオが叫ぶ。
「判断しました!」
「判断しないでください!」
ドン。
壁にぶつかった。
「大丈夫ですか!」
「……はい」
無事だった。
だが精神的に危険だ。
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Bチーム。
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「リオが目隠しだ」
カインが言う。
「僕ですか」
「お前が一番冷静だ」
「プレッシャーがすごいです」
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「スタート!」
「前!」
ライルが言う。
「前だ」
カインが言う。
「少し左!」
ライル。
「右だ」
カイン。
「どっちですか!!」
リオが叫ぶ。
結局、
壁にぶつかった。
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Cチーム。
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「ナナが目隠し」
ドーガが言う。
「え、私?」
「指示は俺とカイル」
「大丈夫?」
「問題ない」
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「スタート」
「三歩前」
ドーガ。
「はい」
「二歩右」
「はい」
「止まれ」
「はい」
完璧だった。
「怖っ」
ナナが言った。
「怖いけどすごい」
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結果、
またCチーム勝利。
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「最後です!」
ミレナが言う。
「即席料理対決!」
「やめとけ」
ガルドが言う。
「火が絡む」
「禁止事項守れば大丈夫です!」
「守るか?」
「守ります!」
不安しかない。
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材料が並ぶ。
簡単な料理を作るだけだ。
のはずだった。
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「任せろ!」
ライルが火をつける。
「強すぎる!」
リオが言う。
「弱くしろ!」
「弱いと美味くない!」
「強すぎると燃えます!」
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一方Aチーム。
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「適当に混ぜるか」
ガルドが言う。
「適当はダメです!」
セリアが言う。
「分量が大事です!」
「だいたいでいい」
「だいたいは危険です!」
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ユーンが鍋を見ていた。
「……火力、足りますか?」
「足りてます!」
セリアが言う。
「これ以上はダメです!」
「……少しだけ」
「ダメです!」
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だが――
火力が上がる。
ゴォッ。
「なんでですか!!」
「調整です!」
「調整じゃないです!」
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Cチーム。
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「普通にやる」
ドーガが言う。
「普通って一番難しいよね」
ナナが言う。
だが、
普通に切って、普通に焼いて、普通に味付けした。
一番まともだった。
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結果発表。
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「優勝は――」
ミレナが言う。
「Cチームです!」
「だろうな」
全員が思った。
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「なんで勝てないんだ」
ガルドが言う。
「普通にやらないからです!」
リオが言う。
「普通が一番強いんですよ!」
「つまらん」
「勝ちましょうよ!」
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「でも楽しかったですね!」
セリアが言う。
「……そうか?」
ガルドが言う。
「はい」
「まあ、悪くはない」
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その瞬間、
ユーンが呟いた。
「……馬車があれば」
「ダメです!!」
全員が叫んだ。
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イベントをちゃんとやろうとすると、だいたい競技じゃなくて事故になる。
だがその事故が、結果的に笑いになることもある。
その日の話題は、その日で終わった。
優勝はCチームだったし、誰も大怪我はしなかった。
ただ一つだけ確かなのは――
このギルドで“普通にやる”のが一番難しいということだった。




