■第33話「誰もやりたがらない仕事を公平に決めようとすると、だいたい公平じゃなくなる」
ギルドには、目立つ仕事と目立たない仕事がある。
魔物討伐、護衛依頼、希少素材の回収。そういうものは分かりやすく“やりがい”があって、報酬も高く、やる側の気分もいい。
だが一方で、誰も積極的にはやりたがらない仕事もある。
例えば掃除。例えば点検。例えば“とりあえず見てきてくれ”という曖昧な依頼。危険は少ないが、面倒で、地味で、達成感も薄い。
そういう仕事をどうやって回すかは、どこの組織でも悩みどころになる。
そしてその日、ギルドはついにその問題に向き合うことになった。
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「今日はですね」
ミレナが言った。
「“誰もやりたがらない仕事”の担当を決めます」
「帰るか」
ガルドが言った。
「帰らせません!」
即座に返された。
「なんで俺がいる」
「いるからです!」
「理由になってない」
「なってます!」
なっていないが、もう止まらない。
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「何の仕事なんですか」
リオが聞く。
ミレナは紙を取り出した。
「今回対象になるのはこの三つです」
書かれているのは――
①倉庫の整理
②ギルド裏の排水溝掃除
③旧街道の見回り(特に異常なしの確認)
「うわ……」
リオが素直に声を漏らした。
「どれもやりたくないですね」
「でしょう?」
ミレナが頷く。
「でもやらないと困るんです!」
その通りだ。
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「公平に決めます」
ミレナが言う。
「誰かに押し付けるのではなく、全員で納得できる形にします」
「無理だろ」
ガルドが即答した。
「無理じゃありません!」
「全員が納得する時点で幻想だ」
「やる前から諦めないでください!」
だが、ガルドの言っていることも現実的だった。
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「方法は?」
カインが聞く。
「いくつか考えました」
ミレナが紙をめくる。
「①くじ引き
②じゃんけん
③ポイント制
④能力適正で振り分け」
「四つもあるんですか」
リオが言う。
「選べます」
「余計に揉めそうですね」
「揉めません!」
たぶん揉める。
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「くじでいいだろ」
ガルドが言う。
「一番早い」
「それだと不満が出ます!」
「出るのが普通だ」
「普通にしないでください!」
すでに平行線だ。
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「能力適正はどうだ」
カインが言う。
「掃除が得意な者が掃除をする」
「それだと固定されます!」
ミレナが言う。
「同じ人ばかりやることになります!」
「合理的だ」
「不公平です!」
価値観の衝突だった。
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「じゃあポイント制?」
リオが言う。
「どういう仕組みですか?」
「やりたくない仕事をやったらポイントが貯まって、後で好きな依頼を優先的に選べるようにします」
「それは……」
ガルドが少し考える。
「後で面倒だな」
「管理が大変そうですね」
セリアも言う。
「そうなんです……」
ミレナがしゅんとする。
現実的ではあるが、運用が重い。
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「じゃあくじだな」
ガルドが言う。
「結局そこに戻るんですか!」
「一番楽だ」
「楽だからダメなんです!」
「楽でいいだろ」
「よくないです!」
議論が回り始めた。
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「じゃあこうしよう」
アルが言った。
「まずは“やりたい者”がいるか確認する」
一瞬、全員が止まる。
そして――
誰も手を挙げなかった。
「いないな」
アルが言う。
「当然です!」
ミレナが言う。
「じゃあ、やりたくない度を聞く」
「それ、意味あります?」
リオが言う。
「順位をつける材料にはなる」
たしかに。
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「じゃあ聞きます」
ミレナが言う。
「①倉庫整理」
手が挙がる。
全員。
「②排水溝掃除」
全員。
「③見回り」
全員。
「……差がないですね」
リオが言う。
「そうですね……」
ミレナが沈む。
意味がなかった。
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「じゃあ俺が決める」
ガルドが言った。
「ダメです!」
「なんでだ」
「適当だからです!」
「適当じゃない」
ガルドは指を折る。
「倉庫はリオ」
「なんでですか!?」
「真面目だから崩れない」
「理由がちゃんとしてるのが腹立ちます!」
「排水はライル」
「なんで俺だよ!」
「勢いがある」
「意味がわからない!」
「見回りはユーン」
「……はい?」
ユーンが顔を上げた。
「乗らなきゃ大丈夫だろ」
「そこは安心できますね……」
リオが言う。
「ちょっと待ってください!」
ミレナが叫ぶ。
「勝手に決めないでください!」
「じゃあどうする」
「公平に決めるんです!」
振り出しに戻る。
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「じゃんけんにしましょう」
リオが言う。
「一番単純ですし」
「それだな」
カインが頷く。
「納得はしやすい」
「……わかりました」
ミレナも渋々了承した。
「ではじゃんけんで決めます!」
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結果はこうなった。
最初のじゃんけんで負けたのは――
ガルド、ライル、ユーンの三人だった。
「なんでだよ!」
ライルが叫ぶ。
「知らん」
ガルドが言う。
「運だ」
「納得いかねえ!」
「じゃんけんです!」
ミレナが言う。
「公平です!」
たしかに公平だ。
だが納得はしにくい。
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「じゃあ三人で三つやればいい」
カインが言う。
「それでいいだろう」
「……そうですね」
ミレナも頷く。
「では――」
その瞬間、問題が発生した。
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「俺は見回りがいい」
ガルドが言った。
「楽だから」
「言い方!」
リオが突っ込む。
「俺も見回りがいい!」
ライルが言う。
「外だし!」
「……僕も、見回りがいいです」
ユーンが言った。
一瞬、空気が止まる。
「なんでですか」
リオが聞く。
「……乗らないので」
「それは正しいですね」
完全に正しい。
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「じゃあ見回りは一人です!」
ミレナが言う。
「また決めてください!」
「またかよ」
ガルドが言う。
「面倒だな」
「公平にです!」
やり直しだ。
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第二回じゃんけん。
勝ったのは――
ユーンだった。
「……え」
ユーンが固まる。
「見回りです!」
ミレナが言う。
「……はい」
ユーンは静かに頷いた。
「乗らないなら大丈夫です」
リオが言う。
「大丈夫だな」
ガルドも言う。
「問題ない」
カインも頷く。
この時点では、全員が安心していた。
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残りはガルドとライル。
「排水と倉庫か」
ガルドが言う。
「どっちも嫌だな」
「俺も嫌だ!」
ライルが言う。
「じゃあまたじゃんけんだ」
結果――
ガルドが排水、ライルが倉庫になった。
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「じゃあ開始です!」
ミレナが言う。
「それぞれ持ち場へ!」
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リオは様子を見に回ることになった。
まずは倉庫。
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「なんでこんな多いんだよ!」
ライルが叫んでいた。
箱が積み上がっている。
「整理だからです!」
リオが言う。
「崩して並べ直すんですよ!」
「面倒くせえ!」
「だから仕事なんです!」
だがライルは意外とちゃんとやっていた。
雑だが、進んでいる。
「意外ですね」
リオが言う。
「やればできる」
「その通りです」
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次に排水溝。
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「……」
ガルドが黙々と掃除していた。
「静かですね」
リオが言う。
「面倒だ」
「やってますよね」
「終わらせたいだけだ」
理にかなっている。
「でもちゃんとしてますね」
「適当にやると詰まる」
「そこはちゃんとしてるんですね」
「後が面倒だからな」
結局、全部そこに行き着く。
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最後に見回り。
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「……」
ユーンが歩いている。
静かに。
普通に。
「大丈夫そうですね」
リオが言う。
「はい……」
ユーンが頷く。
「歩きなら問題ありません」
「ですよね」
その瞬間、
遠くで馬車の音がした。
ガラガラ、と。
ユーンの足が止まる。
「……」
振り向く。
目が変わる。
「待ってください!!」
リオが叫ぶ。
だが遅い。
ユーンが走り出す。
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「触らないでください!!」
リオが叫ぶ。
ユーンが馬車に手をかける。
「ちょっとだけ……」
「ダメです!!」
しかし――
手綱を握った。
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「――行くぞォ!!」
始まった。
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「見回りはどうしたんですか!!」
リオが叫ぶ。
「ついでだ!!」
「何のついでですか!!」
完全に破綻した。
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結局、見回りは途中で終了。
ドーガが止めに入り、ユーンは引き戻された。
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夕方、結果報告。
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「倉庫、完了です!」
ライルが言う。
「思ったよりちゃんとしてますね」
ミレナが言う。
「だろ!」
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「排水、完了」
ガルドが言う。
「問題なしです!」
ミレナが確認する。
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「見回り……途中で終了です」
リオが言う。
「なんでですか!」
ミレナが叫ぶ。
「ユーンさんが――」
「やっぱりですか!!」
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誰もやりたがらない仕事を公平に決めようとすると、だいたい公平じゃなくなる。
そして最後は、結局“適性”に近い形に落ち着く。
その日の話題は、その日で終わった。
仕事は一応終わったし、大きな問題もなかった。
ただ一つだけ確かなのは――
ユーンに見回りを任せると、見回り以外のことが起きるということだった。




