■第30話「まとめて頼めば楽になると思ったやつは、だいたい途中で後悔する」
まとめてやる、という発想はだいたい善意から始まる。
個別に動くより効率がいいし、手間も減るし、誰か一人が窓口になれば全体がすっきりする。理屈だけ見れば、たしかにその通りだ。
だが、その“全体”の中に面倒な人間が混ざっている場合、話は変わる。
好みが多い。注文が細かい。途中で気が変わる。人の皿がよく見える。ついでを勝手に足す。勝手に引く。頼んだ覚えがあると言い張る。頼んでないのに食う。
そういう人間が二人、三人といるだけで、まとめるという善意はあっという間に泥沼へ変わる。
その日のギルドで起きた騒ぎは、まさにそういう種類のものだった。
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「今日は昼食をまとめて注文します」
朝の受付前で、ミレナが言い切った。
その声には、いつもの“断らせない圧”がきっちり乗っていた。ギルドにいた何人かが、依頼票から顔を上げる。リオも掲示板の前で手を止めたし、椅子に沈んでいたガルドも片目だけ開けた。
「なんでだ」
第一声は当然ガルドである。
「毎日毎日、昼になるたびに誰かが出たり入ったりして、受付前を横切って、ついでに“これも頼んで”だの“やっぱりやめる”だの言うからです!」
ミレナが机を軽く叩く。
かなり溜まっていたらしい。
「最近、近くの食堂の人まで困ってるんですよ。注文がばらばらすぎて!」
「困ってるのは向こうか?」
ガルドが言う。
「こっちもです!」
ミレナは迷いなく即答した。
「今日は昼前に注文を取りまとめて、一回でまとめて頼みます。個別注文は禁止。後出し変更も禁止。追加も禁止。横取りも禁止です」
「最後のやつ、人として当然のことなのに今さら禁止事項に入るんですね」
リオが言う。
「入れないと起きるからです」
ミレナは真顔だった。
反論が難しい。
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「いいですね」
セリアが治療棟の方から出てきて言った。
「それならお店の人も助かりますし」
「そうなんです!」
ミレナが少しだけ明るい顔をする。
「やっと理解者が……!」
「そんなに大変だったんですか」
「大変でした!」
思い返すだけでも疲れるらしい。
「昨日なんて、先に五つ頼んだあとで“やっぱり汁物だけ別の店”とか言い出した人がいて」
「誰ですか」
リオが聞いた。
「知らん」
ガルドが言った。
「お前だよ!」
ミレナが叫ぶ。
「なんでそんな他人事みたいな顔してるんですか!」
「でもあそこの汁は薄い」
「そういう話じゃありません!」
どうやら初手から犯人ははっきりしていたらしい。
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「で、何をどうするんですか」
リオが聞く。
「注文表を作りました」
ミレナが取り出したのは、大きめの紙だった。
上の方にきっちり線が引いてあり、こう書いてある。
昼食注文表
名前/品名/大盛・普通/備考(必要なら)
「本格的ですね」
「本気ですから」
ミレナは頷く。
「これに自分で書いてください。読みやすい字で。曖昧な表現は禁止。“いつもの”とか“あれ”とか“なんか多いやつ”は全部却下です」
そこまで言われると、過去にそういう被害が何度もあったことがよくわかる。
「ちなみに対応してくれる店は三つです」
ミレナが指を折る。
「食堂《風見亭》、焼き物屋《赤炭》、軽食屋《石畳》。どこで何が頼めるかはここに書いてあります」
横にはさらに小さな一覧表まで貼られていた。完全に本気だ。
「すごいですね……」
リオが素直に感心すると、ミレナは少しだけ胸を張った。
「今日は絶対に失敗しません」
その言い方は、だいぶ危なかった。
こういう宣言が成功した試しはあまりない。
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「おもしろそうだな」
嫌な声がした。
ライルだ。
朝から元気で、そしてこういう“ちょっとしたイベント”の気配を嗅ぎつけると必ず来る。もはや野生の勘で動いているとしか思えない。
「帰れ」
ガルドが言う。
「なんでだよ!」
「お前が来ると注文が増える」
「増えるのはいいことだろ」
「よくないです!」
ミレナが即答した。
「今日は混乱を減らしたいんです!」
「じゃあ俺、シンプルにするよ」
「本当ですか?」
リオが聞く。
「本当だ。肉、飯、汁」
「それをちゃんと店のメニューに変換してください!」
ミレナが言った。
「曖昧禁止です!」
すでに怪しい。
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そこへカインが入ってきた。
朝のギルドの空気がいつもと違うことに気づいたのか、入口で一瞬だけ立ち止まる。
「……何だ」
第一声はいつも通りだった。
「昼食をまとめて頼みます!」
ミレナが答える。
「そうか」
カインはそれだけ言って掲示板へ向かおうとした。
「書いてください」
ミレナが注文表を突き出す。
カインが紙を見る。
少し考える。
「……まだ決めてない」
「今決めてください」
「そんなに急ぐのか」
「急ぎます。締切は午前中です」
「昼なんだから当たり前か」
そう言って、意外と素直にペンを取った。
「真面目ですね」
リオが言う。
「食事は必要だ」
カインは淡々と書く。
カイン/焼き魚定食/普通/なし
「備考が理想的ですね」
ミレナが言う。
「そうか?」
「はい。余計なことが一切ないです」
それはかなり高い評価だった。
「魚か」
ガルドが言う。
「肉じゃないのか」
「朝は肉だった」
「基準そこなのか」
「栄養配分だ」
カインは本気だった。
そういうところが妙に真面目で、妙に面倒くさくない。
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セリアも書いた。
セリア/野菜と鶏の煮込み皿+パン/普通/パンを一つ多めに
「備考ありますね」
リオが言う。
「午後、少し遅くなるかもしれないので……」
「そういうのは全然いいです!」
ミレナが言う。
「ちゃんと意味のある備考なので!」
備考にも善悪があるらしい。
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「どうする」
ガルドがリオを見る。
「僕ですか?」
「お前、もう決まってるか」
「うーん……」
リオは一覧を見る。
風見亭の日替わり定食。赤炭の串焼き盛り。石畳の卵サンドとスープ。どれもそれなりにうまそうだ。
「……日替わりにします」
「無難だな」
ガルドが言う。
「たまにはそういうのもいいかなって」
「日替わりは外れる時もあるぞ」
「やめてください急に不安になること言うの」
それでもリオは書いた。
リオ/日替わり定食/普通/なし
「いいですね」
ミレナが頷く。
「こういうのでいいんです」
「こういうので、ってなんですか」
「後から揉めないやつです」
それもまた切実だった。
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問題は、当然ガルドだった。
「早く書いてください」
ミレナが注文表を差し出す。
「考えてる」
「顔がまったく考えてる顔じゃないです」
「考えてる時はこんなもんだ」
「絶対違います」
ガルドは一覧表を見て、腕を組み、少しだけ目を細めた。
嫌な予感がする。
「……焼き魚定食に、串焼き三本つけられるか?」
「備考が多い!」
ミレナが叫んだ。
「しかも店が違います!」
「でも食いたい」
「だめです!」
「じゃあ魚定食に唐揚げは?」
「一覧にありません!」
「ないなら作れ」
「食堂はあなたの屋台じゃないんです!」
たぶんミレナは、こういう問答を何十回もやってきたのだろう。
「じゃあ、風見亭の日替わり大盛に、赤炭の串を二本、石畳のスープをつける」
「だから店を混ぜないでください!」
「全部昼飯だろ」
「そういう問題じゃありません!」
「細かいな」
「細かくないです!」
それから五分ほど、ガルドは“なんとか複数店のいいとこ取りをしようとする”という非常に迷惑な交渉を続け、最終的にミレナが一枚の紙を机に叩きつけた。
「この中から一つ選んでください!」
完全に親と子どもの構図だった。
「……じゃあ串焼き盛り」
「大盛は」
「あるか?」
「あります」
「じゃあ大盛」
「備考は」
「なし」
「最初からそうしてください!」
ようやく書かれたのは、
ガルド/串焼き盛り/大盛/なし
だった。
「なしって書けるんですね」
リオが言う。
「書けるぞ」
「そこは威張らないでください」
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これで一応、主要メンバーの注文は揃った。
あとはライルだ。
「俺は決まってる」
ライルが言う。
「不安です」
リオが正直な感想を述べた。
「肉盛りだ」
「メニュー名でお願いします!」
ミレナが言う。
「赤炭の串焼き盛り特大!」
「特大はないです」
「なんでだよ!」
「店に聞いてください!」
「じゃあ大盛二つ」
「一人でですか?」
「昼と予備」
「予備ってなんですか!」
結局ライルも相当揉めた。
最終的には、
ライル/串焼き盛り/大盛/なし
になった。
「ガルドさんと同じですね」
リオが言う。
「強い男はだいたい似る」
ライルが言う。
「そこ二人とも並べないでください」
ミレナが言った。
心の底から同意である。
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ここまででかなり疲れたが、注文表はまだ埋まっていなかった。
受付を出入りする他の冒険者たちも、昼が近づくにつれて少しずつ注文を書き始めたからだ。
真面目に一品だけ書く者もいれば、「辛いやつ」とだけ書いてミレナに書き直しを命じられる者もいる。「いつもの」と書いて却下される者もいた。どうやら“曖昧な注文をしようとする人間”は予想以上に多いらしい。
「人ってそんなに“いつもの”って言いたがるんですね……」
リオが言う。
「言いたがります!」
ミレナが疲れた顔で言う。
「しかも店によって“いつもの”が違うんですよ!」
「それは地獄ですね」
「地獄です!」
そこへアルが奥から出てきた。
「何の騒ぎだ」
とりあえず一言で言うなら、注文表の前の混乱である。
「昼食のまとめ注文です」
リオが説明する。
「そうか」
アルは紙を見る。
少しだけ考える。
「……俺も書けばいいのか」
「お願いします!」
ミレナが即答した。
アルはペンを取る。
そこに迷いはなかった。
アル/日替わり定食/普通/なし
「早い」
リオが言う。
「余計なことを考えていないだけだ」
アルは淡々と答えた。
その通りだろう。
「一番理想的ですね」
ミレナがしみじみ言った。
「そうか?」
「はい。お手本みたいです」
アルは特に誇るでもなく紙を置いて奥へ戻った。
「ずるいですね」
ガルドが言う。
「何がだ」
「こういう時だけ模範解答みたいなことしやがる」
「普通のことをしただけだ」
「それができないやつがここにいるんです!」
ミレナがガルドを見た。
「うるせえな」
だが反論は弱かった。
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午前の終わり頃には、注文表はほぼ埋まった。
風見亭が七つ、赤炭が五つ、石畳が四つ。そこまで偏りもなく、意外とまともにまとまりそうに見えた。
「……いけそうですね」
リオが言う。
「いけます!」
ミレナが言った。
「ここまで来たら、あとは私がまとめて店に伝えるだけです」
「本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫です!」
その力強さに、一瞬だけ不安がよぎる。
だが、ここまでやって崩れるとも思いたくない。
「じゃあ、行ってきます」
注文表を持ってミレナが出ていく。
その背中は、とても頼もしかった。
――そしてこの時、誰も気づいていなかった。
注文表の一番下に、いつの間にか余計な一行が書き足されていることに。
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ミレナが戻ってきたのは、三十分後だった。
「注文、通りました!」
少しだけ誇らしげだ。
「お疲れさまです」
セリアが言う。
「どうでした?」
「やっぱり、まとめてくれると助かるって言われました」
「ですよね」
リオも頷く。
「さすがに毎日ばらばらだと大変そうでしたし」
「はい。今日は時間もあまりズレずに届くそうです」
ここまでは完璧だった。
そう、ここまでは。
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昼になり、最初に届いたのは石畳の軽食だった。
卵サンド、野菜スープ、煮込み皿用のパン。リオとセリアの分は間違いなく、それ以外にも何人かの分が揃っている。
「今のところ順調ですね」
リオが言う。
「でしょう?」
ミレナが満足げに頷く。
次に、風見亭の日替わりが届いた。
これも問題ない。アルの定食、リオの日替わり、他の冒険者たちの分。
「完璧ですね」
セリアが言う。
「今日は平和です」
その時だった。
最後に、赤炭の串焼き盛りが届いた。
大皿が三つ、包みが二つ、紙札が一枚。
「……多くないですか?」
リオが言った。
明らかに多い。
串焼き盛り大盛が二つなら、こんな量にはならない気がする。
配達に来た少年が紙札を見ながら言う。
「えっと、串焼き盛り大盛二つと……“特大肉盛り、できるだけ派手に”が一つです!」
場が止まった。
「……何ですかそれ」
ミレナが紙札を見る。
そこには確かに書いてある。
特大肉盛り できるだけ派手に
「そんな注文通したんですか!?」
リオが言う。
「書いてあったんです!」
ミレナが叫ぶ。
「一番下に小さく!」
全員の視線がライルに向く。
ライルは、ものすごく気まずそうな顔で少しずつ後ずさった。
「……あれ、通るんだな」
「お前か!!」
ミレナとリオが同時に叫んだ。
「だって余白あったし」
「余白は自由欄じゃありません!」
「でも“できるだけ派手に”って店の人も頑張ってくれたぞ!」
見れば、大皿の上に串が妙に立体的に盛られていた。野菜も挟まっている。たしかに派手だ。派手だが、誰の昼食なんだこれは。
「俺のではないな」
ガルドが言う。
「俺もそこまで言ってない」
「俺のでもない」
カインが言う。
「俺は注文してない」
「注文してるだろ!」
リオが言う。
「大盛って書いたじゃないですか!」
「それは普通の大盛だ」
「比較対象がわかりません!」
ライルが観念したように手を挙げた。
「……俺だ」
「なんでそんな余計な一文足したんですか!」
ミレナが言う。
「書いたらどうなるか気になって」
「好奇心で店を試さないでください!」
配達の少年が少し困った顔をしている。
「えっと、お代はもう聞いてます」
「払います!」
ミレナが即答した。
「払いますけど、次からこういうのはやめてください!」
「はい……」
ライルがしゅんとした。
たぶん数分後には元に戻る。
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「でも、うまそうだな」
ガルドがぽつりと言う。
「乗らないでください!」
リオがすぐ言った。
「いや、事実だろ」
「事実でもです!」
大皿はたしかに見栄えが良かった。串の焼き色もきれいだし、香りも強い。どう考えても“普通の大盛”より派手で、どう考えても“目立つ”。
「派手ってこうなるんですね……」
セリアが言う。
「勉強になります」
「そこ学ばなくていいです!」
ミレナが言う。
だが、問題はここで終わらなかった。
「待て」
カインが紙札を見る。
「串の本数がおかしい」
「え?」
リオも見る。
確かに、多い。明らかに多い。
「これ、大盛二つ分と特大一つ分、全部混ざってません?」
その瞬間、全員の顔が固まった。
配達の少年がはっとする。
「えっ」
「えっ、じゃないです」
ミレナが震える声で言う。
「分かれてないんですか?」
「え、えっと……“串焼き系まとめて一便で”って言われたので……」
「誰がですか!」
リオが言う。
少年は正直に答えた。
「店長です!」
店側も雑だった。
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結果、ガルドとライルの注文が完全に混ざった。
しかも、カインがついでに頼んだ“焼き鳥だけ追加で一本”がなぜかそこに吸収されている可能性まで出てきた。
「なんで一本だけ追加したんですか!」
ミレナが言う。
「朝、少し足りない気がした」
カインは真顔だった。
「そういうのが混乱の種なんです!」
「それはすまん」
素直に謝る分だけまだマシだ。
「じゃあどうするんですか……」
リオが大皿を見る。
もう誰の何が何本なのか、完全にわからない。
「数えるか」
ガルドが言う。
「無理ですよ!」
「肉の種類で分ける」
「店長の気分で混ざってる可能性あります!」
「たしかに」
ライルが串を眺めて頷く。
「なんか豪快に盛ってある」
「お前のせいだよ!」
⸻
ミレナは頭を抱えていた。
せっかくここまでまとめたのに、最後に“余白に余計な一文を書く男”と“派手にと頼まれたら本当に派手にする店”と“ついでに一本足した男”のせいで台無しである。
「……もう」
ミレナが深呼吸した。
「これは、じゃんけんで分けてください」
「雑!」
リオが言った。
「今までの苦労どこいきました!」
「知りません!」
ついに投げた。
その気持ちはわかる。
むしろよくここまで持ったと思う。
「じゃあ俺が一番多いところ」
ライルが言う。
「なんでですか」
「俺の“派手”が入ってるから」
「意味がわからない!」
ガルドがすでに箸を持っていた。
「食えば同じだろ」
「同じじゃないです!」
しかし、ミレナがついに言った。
「ではガルドさんとライルさんで半分ずつ! カインさんの一本分は私が会計から引きます! 以上!」
完全に強制決着だった。
「それでいいのか」
アルが奥から言う。
やっぱり聞いていた。
「いいです!」
ミレナが言った。
「これ以上、この話に時間を使いたくありません!」
それはもう、全員が同じ気持ちだった。
⸻
結果として、昼食はなんとか行き渡った。
リオの日替わりは普通においしかったし、セリアの煮込みも優しい味だった。カインの焼き魚定食は見た目通り真面目な内容で、アルの定食はなぜか最も安定感があった。
問題の串焼き大皿は、ガルドとライルが半分ずつ分け合い、ライルが「派手って大事だな!」と言ってミレナに睨まれ、ガルドが「普通にうまい」と言って余計に悔しがらせていた。
「結局、味はいいんですね……」
リオが言う。
「そこが一番悔しいです」
ミレナは疲れた顔で答えた。
「失敗してもおいしいのが余計に腹立ちます」
「でも、まとめたのは良かったんじゃないですか?」
セリアが言う。
「店の人も助かってましたし」
「そこはそうなんです」
ミレナが頷く。
「問題は、余白に余計なことを書く人がいたことです」
ライルが気まずそうに串を噛んだ。
「……次からは書かない」
「当たり前です!」
「でも、“派手に”が通るのは知れた」
「知らなくていいです!」
こういう人間がいるから制度が複雑になるのだ、とリオは心から思った。
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昼食を食べ終わった後、ミレナは新しい紙を取り出して、注文表の横に貼った。
備考欄に感想・希望・願望・気分を書かないこと
「そこまで書くんですね」
リオが言う。
「必要です」
ミレナは真顔だった。
「今日で学びました」
「重い学びですね……」
でも、たしかに必要だった。
願望を書き始めたら終わりだ。
「もう一個足してもいいか?」
ガルドが言う。
「なんですか」
「“店をまたがないこと”」
「それも書きます!」
ミレナはすぐに追記した。
一人一店まで
制度がどんどん強くなる。
「なんか、自由が減っていきますね」
ライルが言う。
「あなたのせいです」
リオが言った。
完全にその通りだった。
⸻
まとめて頼めば楽になると思ったやつは、だいたい途中で後悔する。
だが、それでも個別に頼むよりは少しだけましだったりするから、やめるわけにもいかない。
その日の昼食騒ぎは、その日のうちに終わった。
夕方にはもう誰も“特大肉盛り できるだけ派手に”の話を本気でしていなかったし、せいぜいライルが「でもまた頼みたいな」と言って、全員に止められたくらいだった。
それで十分だ。
話題はその日で終わる。
次の日にはまた別の面倒が起きる。
ただ少なくとも、注文表の備考欄に願望を書くな、という教訓だけは、しばらく全員の頭に残るだろう。




