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栄光の中年、ただ生きる  作者: vastum


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25/102

■第25話「騒いだあとの静かな時間は、だいたい少しだけ心地いい」

 騒いだあとの時間は、妙に静かに感じる。


 実際に音が減っているわけではない。


 周りはいつも通りに動いている。


 人も話しているし、物音もしている。


 それでも、さっきまでの騒がしさを知っていると、今の時間はどこか落ち着いて感じる。


 あれだけ無駄に動いて、意味もなく張り合って、どうでもいいことで笑っていたあとだと、ただ座っているだけの時間がやけに贅沢に思える。


 たぶん、人は対比で物事を感じている。


 騒がしいから、静けさがわかる。


 何もしていないから、何かしていた時間の重さが見える。


 どっちがいいとかじゃなくて、両方あるからちょうどいい。


⸻


「……静かですね」


 リオがぽつりと呟いた。


 ギルドの朝。


 人はいる。


 声もある。


 だが、昨日の“あの無駄な熱量”を知っていると、今日は驚くほど普通だった。


⸻


「普通だな」


 ガルドが言う。


⸻


「昨日が異常だったんです」


⸻


「そうだな」


⸻


 否定しない。


⸻


「……なんか」


 リオは少し考える。


⸻


「今日、ちょっと楽です」


⸻


「だろうな」


 ガルドが椅子にだらけながら言う。


⸻


「体は少し疲れてるのに、頭は軽いです」


⸻


「無駄に動いたからな」


⸻


「無駄って言いましたね?」


⸻


「言った」


⸻


 リオは苦笑する。


⸻


「でも」


 一拍。


⸻


「嫌じゃなかったです」


⸻


「だろうな」


⸻


 ガルドはあっさり頷く。


⸻


「意味ないことでも、やる時はやる」


⸻


「そういうものなんですか」


⸻


「そういうもんだ」


⸻


 その言い方は、妙に納得できた。


⸻


 掲示板の前に立つ。


 依頼を見る。


⸻


「今日はどうします?」


⸻


「任せる」


⸻


 最近の流れだ。


⸻


「……軽めにします」


⸻


「いいぞ」


⸻


 選んだのは、街の外れの畑の見回りと簡単な補修。


 危険度は低い。


 やることも単純。


⸻


「……こういうのでいいですね」


⸻


「こういうのでいい」


⸻


 二人の意見が一致する。


⸻


 外に出る。


 空は穏やか。


 風も優しい。


⸻


 歩きながら、リオは少しだけ昨日のことを思い出していた。


 無駄な競争。


 無駄な動き。


 無駄なやり取り。


⸻


(でも、ああいうのも必要なのかもな)


⸻


「何考えてる」


 ガルドが言う。


⸻


「昨日のことです」


⸻


「無駄だったな」


⸻


「即答ですね」


⸻


「でも」


 一拍。


⸻


「悪くなかっただろ」


⸻


「……はい」


⸻


 それもまた、あっさり認める。


⸻


 畑に着く。


 見回りをする。


 柵の状態、土の状態、水の流れ。


⸻


「……問題なさそうです」


⸻


「だな」


⸻


 簡単な補修をする。


 壊れかけた柵を直す。


 水路の流れを少し整える。


⸻


 静かな作業。


 言葉も少ない。


⸻


 だが、気まずさはない。


⸻


「……こういう時間」


 リオが言う。


⸻


「なんか、落ち着きます」


⸻


「そうか」


⸻


「昨日との落差がすごいですけど」


⸻


「だろうな」


⸻


 ガルドは笑う。


⸻


「でもな」


⸻


「はい」


⸻


「こういう時間の方が長い」


⸻


「……」


⸻


「だから、こっちに慣れとけ」


⸻


 その言葉は、静かだった。


⸻


「……はい」


⸻


 リオは頷く。


⸻


 作業を終える。


 問題なし。


⸻


 少しだけ、その場に座る。


⸻


 風が通る。


 草が揺れる。


⸻


「……なんか」


⸻


「なんだ」


⸻


「このまま寝れそうです」


⸻


「寝るな」


⸻


「寝ませんよ」


⸻


 少しだけ笑う。


⸻


 静かな時間。


 何も起きない時間。


⸻


 でも、それがいい。


⸻


「なあリオ」


⸻


「はい」


⸻


「昨日みたいなの、またやるか?」


⸻


 突然の提案だった。


⸻


「……たまになら」


⸻


「毎日は?」


⸻


「嫌です」


⸻


 即答だった。


⸻


「だろうな」


⸻


 ガルドは笑う。


⸻


 ギルドに戻る。


⸻


「おかえりなさい」


 セリアが言う。


⸻


「どうでした?」


⸻


「問題なしです」


⸻


「よかったです」


⸻


 ミレナが書類を受け取る。


⸻


「報告お願いします」


⸻


「異常なし」


⸻


「確認します……はい、大丈夫です」


⸻


 処理が終わる。


⸻


「……なんか」


 リオが言う。


⸻


「今日、すごく普通でした」


⸻


「そうだな」


⸻


「でも、昨日より好きかもしれません」


⸻


「どっちもだろ」


⸻


 ガルドが言う。


⸻


「どっちもあっていい」


⸻


「……そうですね」


⸻


 人は、騒ぐ時間も、静かな時間も、どちらも必要だ。


 片方だけだと、たぶんバランスが崩れる。


⸻


「で」


 ガルドが言う。


⸻


「飲むか」


⸻


「やっぱりそこなんですね!」


⸻


「締めだ」


⸻


「今日は……」


⸻


 一瞬迷う。


⸻


「……少しだけなら」


⸻


「だろ?」


⸻


「でもダメです」


⸻


「なんでだよ!」


⸻


 ミレナが飛んでくる。


⸻


「ダメです!」


⸻


 いつものやり取り。


⸻


 いつもの日常。


⸻


 でも、今日は少しだけ違う。


⸻


 騒いだあとの静けさ。


 それをちゃんと感じられる日。


⸻


 それは、たぶん悪くない一日だった。


⸻


 騒がしくて、無駄で、でも静かで落ち着く時間もある日常は――


 今日もまた、ゆっくりと積み重なっていくのだった。

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