■第25話「騒いだあとの静かな時間は、だいたい少しだけ心地いい」
騒いだあとの時間は、妙に静かに感じる。
実際に音が減っているわけではない。
周りはいつも通りに動いている。
人も話しているし、物音もしている。
それでも、さっきまでの騒がしさを知っていると、今の時間はどこか落ち着いて感じる。
あれだけ無駄に動いて、意味もなく張り合って、どうでもいいことで笑っていたあとだと、ただ座っているだけの時間がやけに贅沢に思える。
たぶん、人は対比で物事を感じている。
騒がしいから、静けさがわかる。
何もしていないから、何かしていた時間の重さが見える。
どっちがいいとかじゃなくて、両方あるからちょうどいい。
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「……静かですね」
リオがぽつりと呟いた。
ギルドの朝。
人はいる。
声もある。
だが、昨日の“あの無駄な熱量”を知っていると、今日は驚くほど普通だった。
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「普通だな」
ガルドが言う。
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「昨日が異常だったんです」
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「そうだな」
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否定しない。
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「……なんか」
リオは少し考える。
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「今日、ちょっと楽です」
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「だろうな」
ガルドが椅子にだらけながら言う。
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「体は少し疲れてるのに、頭は軽いです」
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「無駄に動いたからな」
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「無駄って言いましたね?」
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「言った」
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リオは苦笑する。
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「でも」
一拍。
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「嫌じゃなかったです」
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「だろうな」
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ガルドはあっさり頷く。
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「意味ないことでも、やる時はやる」
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「そういうものなんですか」
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「そういうもんだ」
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その言い方は、妙に納得できた。
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掲示板の前に立つ。
依頼を見る。
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「今日はどうします?」
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「任せる」
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最近の流れだ。
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「……軽めにします」
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「いいぞ」
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選んだのは、街の外れの畑の見回りと簡単な補修。
危険度は低い。
やることも単純。
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「……こういうのでいいですね」
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「こういうのでいい」
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二人の意見が一致する。
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外に出る。
空は穏やか。
風も優しい。
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歩きながら、リオは少しだけ昨日のことを思い出していた。
無駄な競争。
無駄な動き。
無駄なやり取り。
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(でも、ああいうのも必要なのかもな)
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「何考えてる」
ガルドが言う。
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「昨日のことです」
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「無駄だったな」
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「即答ですね」
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「でも」
一拍。
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「悪くなかっただろ」
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「……はい」
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それもまた、あっさり認める。
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畑に着く。
見回りをする。
柵の状態、土の状態、水の流れ。
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「……問題なさそうです」
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「だな」
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簡単な補修をする。
壊れかけた柵を直す。
水路の流れを少し整える。
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静かな作業。
言葉も少ない。
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だが、気まずさはない。
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「……こういう時間」
リオが言う。
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「なんか、落ち着きます」
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「そうか」
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「昨日との落差がすごいですけど」
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「だろうな」
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ガルドは笑う。
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「でもな」
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「はい」
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「こういう時間の方が長い」
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「……」
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「だから、こっちに慣れとけ」
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その言葉は、静かだった。
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「……はい」
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リオは頷く。
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作業を終える。
問題なし。
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少しだけ、その場に座る。
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風が通る。
草が揺れる。
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「……なんか」
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「なんだ」
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「このまま寝れそうです」
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「寝るな」
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「寝ませんよ」
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少しだけ笑う。
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静かな時間。
何も起きない時間。
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でも、それがいい。
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「なあリオ」
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「はい」
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「昨日みたいなの、またやるか?」
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突然の提案だった。
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「……たまになら」
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「毎日は?」
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「嫌です」
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即答だった。
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「だろうな」
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ガルドは笑う。
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ギルドに戻る。
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「おかえりなさい」
セリアが言う。
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「どうでした?」
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「問題なしです」
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「よかったです」
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ミレナが書類を受け取る。
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「報告お願いします」
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「異常なし」
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「確認します……はい、大丈夫です」
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処理が終わる。
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「……なんか」
リオが言う。
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「今日、すごく普通でした」
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「そうだな」
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「でも、昨日より好きかもしれません」
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「どっちもだろ」
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ガルドが言う。
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「どっちもあっていい」
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「……そうですね」
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人は、騒ぐ時間も、静かな時間も、どちらも必要だ。
片方だけだと、たぶんバランスが崩れる。
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「で」
ガルドが言う。
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「飲むか」
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「やっぱりそこなんですね!」
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「締めだ」
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「今日は……」
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一瞬迷う。
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「……少しだけなら」
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「だろ?」
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「でもダメです」
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「なんでだよ!」
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ミレナが飛んでくる。
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「ダメです!」
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いつものやり取り。
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いつもの日常。
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でも、今日は少しだけ違う。
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騒いだあとの静けさ。
それをちゃんと感じられる日。
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それは、たぶん悪くない一日だった。
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騒がしくて、無駄で、でも静かで落ち着く時間もある日常は――
今日もまた、ゆっくりと積み重なっていくのだった。




