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栄光の中年、ただ生きる  作者: vastum


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24/102

■第24話「だいたいくだらないことの方が、なぜかよく覚えている」

 人は、大事なことよりも、どうでもいいことの方をよく覚えている。


 命をかけた戦いの詳細はぼやけているのに、誰が変な顔をしていたとか、どうでもいいやり取りの方はやけに鮮明に残っている。


 理由はわからない。


 たぶん、緊張していない時の方が、記憶が素直に残るからだ。


 だから、くだらない時間は、意外と無駄ではない。


 むしろ、そういう時間の方が、あとで振り返るとやけに残っていることがある。


⸻


「今日は働く気がしない」


 朝一番、ガルドが言った。


 あまりにも堂々とした宣言だった。


⸻


「働いてください」


 リオが即座に返す。


⸻


「なんでだ」


「冒険者だからです」


「今日は違う」


「何が違うんですか」


「気分だ」


⸻


 理由になっていない。


⸻


「じゃあ僕一人で行きます」


「それはだめだ」


「なんでですか」


「面倒になる」


「もうなってます」


⸻


 ミレナが横から入ってくる。


⸻


「働いてください」


⸻


 まったく同じことを言った。


⸻


「なんでだ」


「仕事だからです」


⸻


 ガルドは少しだけ考える。


⸻


「……今日は休みでいいか?」


⸻


「ダメです」


 ミレナが即答する。


⸻


「じゃあ半分」


「何の半分ですか」


「働く量」


「ダメです」


⸻


 完全に拒否された。


⸻


「……じゃあ軽いの」


⸻


 少しだけ譲歩した。


⸻


「それならいいです」


⸻


 ミレナが頷く。


⸻


「じゃあリオ決めろ」


⸻


 結局そこに戻る。


⸻


「……」


 リオは掲示板を見る。


⸻


(軽いの……軽いの……)


⸻


 視線を動かす。


⸻


 その時。


⸻


「おーい」


⸻


 軽い声が響いた。


⸻


 振り向く。


⸻


 いた。


⸻


 ライルだ。


⸻


「お前ら暇か?」


⸻


 第一声がそれだった。


⸻


「暇じゃないです」


 リオが即答する。


⸻


「今から暇になる予定だ」


 ガルドが言う。


⸻


「ならちょうどいい」


⸻


 ライルは満足そうに笑った。


⸻


「勝負しようぜ」


⸻


「帰れ」


 ガルドが即答した。


⸻


「なんでだよ!」


⸻


「面倒だ」


⸻


「面倒じゃねえ!」


⸻


 絶対面倒だ。


⸻


「何の勝負ですか」


 リオが聞く。


⸻


「体力」


⸻


「帰ってください」


⸻


「なんでだよ!」


⸻


「勝つまで終わらなそうだからです」


⸻


「いいだろ別に!」


⸻


 ミレナが割り込む。


⸻


「ダメです」


⸻


「なんでだよ!」


⸻


「仕事してください!」


⸻


「勝負も仕事みたいなもんだろ!」


⸻


「違います!」


⸻


 完全に却下された。


⸻


「……じゃあさ」


 ライルが少しだけ考える。


⸻


「依頼で勝負しようぜ」


⸻


「依頼で?」


⸻


「どっちが早く終わるか」


⸻


 ガルドが少しだけ顔を上げる。


⸻


「……面倒だな」


⸻


「でも楽だぞ」


⸻


「どこがだ」


⸻


「勝ったら飯奢り」


⸻


 その瞬間。


⸻


「やるか」


⸻


 即答だった。


⸻


「早い!」


 リオが叫ぶ。


⸻


「食い物が絡むと判断が速いですね!?」


⸻


「当然だ」


⸻


「当然じゃないです!」


⸻


 ミレナが頭を抱える。


⸻


「……条件付きです」


⸻


「なんだ」


⸻


「軽い依頼限定」


⸻


「いいぞ」


⸻


 ガルドはあっさり了承した。


⸻


「決まりだな!」


 ライルが笑う。


⸻


「……僕もですか?」


 リオが聞く。


⸻


「当然だ」


⸻


「巻き込まれてるんですけど!?」


⸻


「大丈夫だ」


 ガルドが言う。


⸻


「勝てば飯だ」


⸻


「そこですか!?」


⸻


 結局、勝負が始まった。


⸻


 内容は単純。


 同じ種類の軽い依頼を受けて、どちらが早く終わるか。


⸻


「じゃあ行くぞ」


⸻


「おう」


⸻


 スタート。


⸻


 ――数分後。


⸻


「遅い」


⸻


「うるせえ!」


⸻


 すでに揉めていた。


⸻


「なんでそんな遠回りしてんだ!」


⸻


「近道だ!」


⸻


「絶対違う!」


⸻


「違わねえ!」


⸻


 全然進んでいない。


⸻


「……これ、終わるんですか?」


 リオが聞く。


⸻


「終わる」


 ガルドが言う。


⸻


「終わらせる」


⸻


「強引ですね!」


⸻


 作業に入る。


⸻


 荷物運搬。


 単純な仕事。


⸻


 だが――


⸻


「よし競争だ」


⸻


「競争じゃないです!」


⸻


 ライルが荷物を持って走る。


⸻


「速えだろ!」


⸻


「落としますよ!?」


⸻


 案の定。


⸻


 落とした。


⸻


「ほら!」


⸻


「まだだ!」


⸻


 全然まだじゃない。


⸻


「……なんでこうなるんですか」


⸻


「こいつがいるからだ」


 ガルドが言う。


⸻


「お前もだろ!」


⸻


 ツッコミ合戦が始まる。


⸻


 リオは静かに作業を進める。


⸻


(普通にやれば終わるのに)


⸻


 だが、周りが普通じゃない。


⸻


「勝負だ!」


⸻


「だから違います!」


⸻


 ライルが無駄に張り切る。


⸻


 ガルドも乗る。


⸻


「いいぞ」


⸻


「乗らないでください!」


⸻


 結果――


⸻


 時間はかかった。


⸻


 普通にやればもっと早かった。


⸻


 だが――


⸻


「勝った!」


⸻


「俺だ!」


⸻


 なぜか判定が曖昧だった。


⸻


「どっちですか!」


⸻


「俺だ」


⸻


「俺だ」


⸻


「同時です!」


⸻


 結局――


⸻


「……引き分けでいいか」


⸻


「いいぞ」


⸻


 雑に決まった。


⸻


「じゃあ飯は割り勘だな!」


⸻


「意味ねえ!」


⸻


 リオが叫ぶ。


⸻


 ミレナが遠くから叫ぶ。


⸻


「仕事は終わりましたか!?」


⸻


「終わった!」


⸻


「ならいいです!」


⸻


 いいのか。


⸻


 ギルドに戻る。


⸻


「……なんだったんですか今日」


⸻


「遊びだ」


 ガルドが言う。


⸻


「遊びじゃないです!」


⸻


「楽しかっただろ」


⸻


「……少しだけ」


⸻


 否定できなかった。


⸻


 くだらない。


 無駄も多い。


 効率も悪い。


⸻


 でも――


⸻


 少しだけ、笑っていた。


⸻


 人は、くだらないことの方をよく覚えている。


 理由はわからない。


 でも、たぶん、そういう時間の方が、無理がないからだ。


⸻


「で」


 ガルドが言う。


⸻


「飲むか」


⸻


「やっぱりそこなんですね!」


⸻


「締めだ」


⸻


「今日は……ちょっとだけ許せます」


⸻


「だろ?」


⸻


「でもダメです」


⸻


「なんでだよ!」


⸻


 ミレナが飛んでくる。


⸻


「ダメです!」


⸻


 いつものやり取り。


⸻


 でも、今日は少しだけ違う。


⸻


 くだらないことをして、少し笑って、少しだけ疲れて、それでもちゃんと一日が終わる。


⸻


 たぶん、こういう日の方が、あとでよく思い出す。


⸻


 騒がしくて、無駄で、それでもどこか心地いい日常は――


 また一つ、くだらない記憶を増やして、今日も終わっていくのだった。

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