■第23話「頼ることは、弱いことだと思っているやつはだいたい損をする」
人に頼るのが下手なやつは多い。
頼ることを、弱さだと思っているからだ。
自分でやらなければいけない。
自分でできなければいけない。
そう思いすぎると、だいたい無駄に疲れる。
だが、本当に強いやつは、必要なところでちゃんと人を使う。
任せることと、頼ることは似ているようで少し違う。
任せるのは、“できる前提で渡す”こと。
頼るのは、“できない部分を借りる”ことだ。
その違いを理解しているやつは、だいたい長く続く。
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「今日はどうする」
朝、ガルドが聞く。
最近の流れだと、ここでリオが決めることが多い。
「……今日は」
リオは少しだけ考える。
掲示板を見る前に、先に口が動いた。
「軽めでいいですか?」
「いいぞ」
即答だった。
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掲示板の前に立つ。
依頼を一枚一枚見る。
危険度が低く、時間もかからないもの。
そして、少しだけ判断が必要なもの。
「……これにします」
選んだのは、街の倉庫周辺の見回りと軽い補修。
特別なことはない。
だが、完全に“何も考えなくていい”わけでもない。
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「それでいいのか」
「はい」
リオは頷く。
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外に出る。
空は晴れている。
風も穏やかだ。
「……最近」
リオが言う。
「少しだけ慣れてきました」
「何にだ」
「決めることにです」
ガルドは少しだけ頷く。
「そうか」
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「でも」
一拍。
「まだ迷います」
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「迷うだろうな」
ガルドはあっさり言う。
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「迷わなくなる日って来ますか?」
「来ない」
「即答ですか」
「来ない」
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リオは少しだけ苦笑する。
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「じゃあ、どうすればいいんですか」
「慣れる」
「結局それですか」
「だいたいそうだ」
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倉庫に着く。
周囲を確認する。
特に異常はない。
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「……ここ」
リオが言う。
「どう見ますか」
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自分で判断できる。
だが、あえて聞いた。
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ガルドは少しだけリオを見る。
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「お前はどう見る」
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「……問題なさそうです」
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「ならそれでいい」
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それだけだった。
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(……あれ)
少しだけ、違和感。
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(聞いたのに、答えてない)
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だが、それが意図的だと気づくのに、時間はかからなかった。
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「……教えてくれないんですね」
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「必要ない」
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「なんでですか」
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「お前が見れてるからだ」
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短い答え。
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納得はできる。
でも――
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(全部自分でやるしかないのか)
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少しだけ、重さを感じる。
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作業を進める。
見回り、補修、確認。
順調だ。
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だが、途中で少しだけ迷う場面があった。
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倉庫の裏手。
木箱の配置が微妙に変わっている。
大きな問題ではない。
だが、完全に無視していいかは微妙なライン。
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「……」
立ち止まる。
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(どうする)
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自分で決める。
それはできる。
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でも――
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「……ガルドさん」
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「なんだ」
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「これ、どう思います?」
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言ってから、少しだけ自分で驚いた。
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(今、頼った)
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ガルドは少しだけ木箱を見る。
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「問題はない」
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「そうですか」
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「ただし」
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一拍。
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「気になるなら触っとけ」
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「……」
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「気になるってことは、引っかかってるってことだ」
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リオは少しだけ考える。
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「……確認します」
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「やれ」
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木箱を動かす。
下を確認する。
何もない。
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「……何もなかったです」
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「それでいい」
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ガルドは言う。
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「無駄じゃない」
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「……はい」
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リオは少しだけ息を吐いた。
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(頼ってよかった)
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その感覚が、少しだけ新しかった。
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今までは、“自分でやる”ことばかり考えていた。
でも、今は違う。
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必要なところで、聞いた。
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それでいいのかもしれない。
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作業を終える。
問題なし。
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帰り道。
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「……さっき」
リオが言う。
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「頼りました」
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「そうだな」
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「いいんですか?」
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「いい」
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即答だった。
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「頼るのって、なんか……」
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「なんだ」
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「負けた感じがします」
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正直な感想だった。
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ガルドは少しだけ笑う。
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「それ、勘違いだな」
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「……そうですか?」
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「頼るってのはな」
一拍。
「使うってことだ」
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「使う?」
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「自分にないもんを借りる」
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リオは少し考える。
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「……それって、ずるくないですか」
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「なんでだ」
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「自分でやってないじゃないですか」
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ガルドは首を少しだけ傾ける。
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「じゃあ聞くが」
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「はい」
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「お前、一人で全部やれるのか」
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「……無理です」
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「なら借りろ」
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あっさりと言う。
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「それでいい」
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その言葉は、シンプルだった。
でも、妙に納得できた。
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人は、自分でできることには限界がある。
だから、人を使う。
頼る。
借りる。
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それは弱さじゃない。
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「……少しだけ」
リオが言う。
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「わかった気がします」
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「ならいい」
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ガルドはそれ以上何も言わない。
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ギルドに戻る。
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「おかえりなさい」
セリアが言う。
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「どうでした?」
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「問題なしです」
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「よかったです」
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ミレナが書類を受け取る。
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「報告お願いします」
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「異常なし」
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「確認します……はい、大丈夫です」
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処理が終わる。
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「……どうだった」
ガルドが聞く。
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「……一つ、変わりました」
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「何がだ」
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「頼れるようになりました」
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少しだけ照れながら言う。
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ガルドは笑った。
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「それでいい」
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頼ることは、弱いことじゃない。
むしろ、それができない方が、よほど不利だ。
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「で」
ガルドが言う。
「飲むか」
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「やっぱりそこなんですね!」
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「締めだ」
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「今日は……少しだけならいい気がします」
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「だろ?」
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「でもダメです」
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「なんでだよ!」
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ミレナが飛んでくる。
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「ダメです!」
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いつものやり取り。
いつもの日常。
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でも、その中で、少しだけ変わったことがある。
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頼ること。
それが、選択肢に入った。
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「なあリオ」
「はい」
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「次は、使う側もやるか」
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「使う側?」
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「人を動かす方だ」
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リオは少しだけ驚く。
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「……やります」
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迷いはなかった。
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騒がしくて、くだらなくて、それでも確実に積み重なっていく日常は――
少しずつ、“一人でやる”から“人とやる”へと形を変えていくのだった。




