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栄光の中年、ただ生きる  作者: vastum


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23/102

■第23話「頼ることは、弱いことだと思っているやつはだいたい損をする」

 人に頼るのが下手なやつは多い。


 頼ることを、弱さだと思っているからだ。


 自分でやらなければいけない。


 自分でできなければいけない。


 そう思いすぎると、だいたい無駄に疲れる。


 だが、本当に強いやつは、必要なところでちゃんと人を使う。


 任せることと、頼ることは似ているようで少し違う。


 任せるのは、“できる前提で渡す”こと。


 頼るのは、“できない部分を借りる”ことだ。


 その違いを理解しているやつは、だいたい長く続く。


⸻


「今日はどうする」


 朝、ガルドが聞く。


 最近の流れだと、ここでリオが決めることが多い。


「……今日は」


 リオは少しだけ考える。


 掲示板を見る前に、先に口が動いた。


「軽めでいいですか?」


「いいぞ」


 即答だった。


⸻


 掲示板の前に立つ。


 依頼を一枚一枚見る。


 危険度が低く、時間もかからないもの。


 そして、少しだけ判断が必要なもの。


「……これにします」


 選んだのは、街の倉庫周辺の見回りと軽い補修。


 特別なことはない。


 だが、完全に“何も考えなくていい”わけでもない。


⸻


「それでいいのか」


「はい」


 リオは頷く。


⸻


 外に出る。


 空は晴れている。


 風も穏やかだ。


「……最近」


 リオが言う。


「少しだけ慣れてきました」


「何にだ」


「決めることにです」


 ガルドは少しだけ頷く。


「そうか」


⸻


「でも」


 一拍。


「まだ迷います」


⸻


「迷うだろうな」


 ガルドはあっさり言う。


⸻


「迷わなくなる日って来ますか?」


「来ない」


「即答ですか」


「来ない」


⸻


 リオは少しだけ苦笑する。


⸻


「じゃあ、どうすればいいんですか」


「慣れる」


「結局それですか」


「だいたいそうだ」


⸻


 倉庫に着く。


 周囲を確認する。


 特に異常はない。


⸻


「……ここ」


 リオが言う。


「どう見ますか」


⸻


 自分で判断できる。


 だが、あえて聞いた。


⸻


 ガルドは少しだけリオを見る。


⸻


「お前はどう見る」


⸻


「……問題なさそうです」


⸻


「ならそれでいい」


⸻


 それだけだった。


⸻


(……あれ)


 少しだけ、違和感。


⸻


(聞いたのに、答えてない)


⸻


 だが、それが意図的だと気づくのに、時間はかからなかった。


⸻


「……教えてくれないんですね」


⸻


「必要ない」


⸻


「なんでですか」


⸻


「お前が見れてるからだ」


⸻


 短い答え。


⸻


 納得はできる。


 でも――


⸻


(全部自分でやるしかないのか)


⸻


 少しだけ、重さを感じる。


⸻


 作業を進める。


 見回り、補修、確認。


 順調だ。


⸻


 だが、途中で少しだけ迷う場面があった。


⸻


 倉庫の裏手。


 木箱の配置が微妙に変わっている。


 大きな問題ではない。


 だが、完全に無視していいかは微妙なライン。


⸻


「……」


 立ち止まる。


⸻


(どうする)


⸻


 自分で決める。


 それはできる。


⸻


 でも――


⸻


「……ガルドさん」


⸻


「なんだ」


⸻


「これ、どう思います?」


⸻


 言ってから、少しだけ自分で驚いた。


⸻


(今、頼った)


⸻


 ガルドは少しだけ木箱を見る。


⸻


「問題はない」


⸻


「そうですか」


⸻


「ただし」


⸻


 一拍。


⸻


「気になるなら触っとけ」


⸻


「……」


⸻


「気になるってことは、引っかかってるってことだ」


⸻


 リオは少しだけ考える。


⸻


「……確認します」


⸻


「やれ」


⸻


 木箱を動かす。


 下を確認する。


 何もない。


⸻


「……何もなかったです」


⸻


「それでいい」


⸻


 ガルドは言う。


⸻


「無駄じゃない」


⸻


「……はい」


⸻


 リオは少しだけ息を吐いた。


⸻


(頼ってよかった)


⸻


 その感覚が、少しだけ新しかった。


⸻


 今までは、“自分でやる”ことばかり考えていた。


 でも、今は違う。


⸻


 必要なところで、聞いた。


⸻


 それでいいのかもしれない。


⸻


 作業を終える。


 問題なし。


⸻


 帰り道。


⸻


「……さっき」


 リオが言う。


⸻


「頼りました」


⸻


「そうだな」


⸻


「いいんですか?」


⸻


「いい」


⸻


 即答だった。


⸻


「頼るのって、なんか……」


⸻


「なんだ」


⸻


「負けた感じがします」


⸻


 正直な感想だった。


⸻


 ガルドは少しだけ笑う。


⸻


「それ、勘違いだな」


⸻


「……そうですか?」


⸻


「頼るってのはな」


 一拍。


「使うってことだ」


⸻


「使う?」


⸻


「自分にないもんを借りる」


⸻


 リオは少し考える。


⸻


「……それって、ずるくないですか」


⸻


「なんでだ」


⸻


「自分でやってないじゃないですか」


⸻


 ガルドは首を少しだけ傾ける。


⸻


「じゃあ聞くが」


⸻


「はい」


⸻


「お前、一人で全部やれるのか」


⸻


「……無理です」


⸻


「なら借りろ」


⸻


 あっさりと言う。


⸻


「それでいい」


⸻


 その言葉は、シンプルだった。


 でも、妙に納得できた。


⸻


 人は、自分でできることには限界がある。


 だから、人を使う。


 頼る。


 借りる。


⸻


 それは弱さじゃない。


⸻


「……少しだけ」


 リオが言う。


⸻


「わかった気がします」


⸻


「ならいい」


⸻


 ガルドはそれ以上何も言わない。


⸻


 ギルドに戻る。


⸻


「おかえりなさい」


 セリアが言う。


⸻


「どうでした?」


⸻


「問題なしです」


⸻


「よかったです」


⸻


 ミレナが書類を受け取る。


⸻


「報告お願いします」


⸻


「異常なし」


⸻


「確認します……はい、大丈夫です」


⸻


 処理が終わる。


⸻


「……どうだった」


 ガルドが聞く。


⸻


「……一つ、変わりました」


⸻


「何がだ」


⸻


「頼れるようになりました」


⸻


 少しだけ照れながら言う。


⸻


 ガルドは笑った。


⸻


「それでいい」


⸻


 頼ることは、弱いことじゃない。


 むしろ、それができない方が、よほど不利だ。


⸻


「で」


 ガルドが言う。


「飲むか」


⸻


「やっぱりそこなんですね!」


⸻


「締めだ」


⸻


「今日は……少しだけならいい気がします」


⸻


「だろ?」


⸻


「でもダメです」


⸻


「なんでだよ!」


⸻


 ミレナが飛んでくる。


⸻


「ダメです!」


⸻


 いつものやり取り。


 いつもの日常。


⸻


 でも、その中で、少しだけ変わったことがある。


⸻


 頼ること。


 それが、選択肢に入った。


⸻


「なあリオ」


「はい」


⸻


「次は、使う側もやるか」


⸻


「使う側?」


⸻


「人を動かす方だ」


⸻


 リオは少しだけ驚く。


⸻


「……やります」


⸻


 迷いはなかった。


⸻


 騒がしくて、くだらなくて、それでも確実に積み重なっていく日常は――


 少しずつ、“一人でやる”から“人とやる”へと形を変えていくのだった。

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