エピローグ
「そろそろ一軒家に引っ越すか?」
俺はラジエルを撫でながら考える。
聖女関連の事件も落ち着きを見せ、俺達は日々依頼をこなしていた。
安定した収入もあるし、そろそろ宿暮らしからも卒業したい。
「そうねぇ、一度物件を探してみましょうか」
マァがブラシで髪を梳きつつ答える。
起きたばかりで身支度を整え中だ。
「にゃん」
「ちゅっ」
ラジエルとハッズはカマルのぬいぐるみを使って何かをしている。
ハッズが一瞬でカマルの後ろに回り込み、ラジエルはその動きをじっと観察している。
ハッズはその動きを何度も繰り返しているけど……新しい遊びか?
「とりあえず先に朝食を食べましょう」
「分かった」
準備が出来たマァの一声で俺達は食堂へ向かった。
♢
「あっ、すみません」
「いいわ、気にしないで」
今日は大聖堂の一般開放の日で、いつもより歩いている人も多い。
そんな中マァと手を繋いでいなかった俺は誰かとぶつかってしまう。
相手の顔はローブで見えないが小柄な女性のようだ。
「はぁ」
彼女はスキップをしながら離れていく。
機嫌がよくて助かったな。
「もう、何してるのよ」
その時、隣から声が上がった。
視線を移すとマァが呆れ顔で俺を見ていた。
「ごめん、ちょっと気抜いてた」
「しっかりしなさい」
はい、と手を差し出してくる。
せっかく伝心の指輪で話せるようになったのに、これじゃあ前と変わらないな。
ありがたく繋がせてもらうと再び歩き出す。
「で、どういう家がいいの?」
「うーん、そうだなぁ」
俺達はいま物件を紹介してもらえる場所へ向かっている。
元の世界で例えるなら不動産屋が近いだろう。
『また後でお話ししましょう』
『はい、お忙しい時に申し訳ありません』
ちなみにこの声が人にぶつかった本当の理由だ。
【報連僧】が使えるようになってから、たまにオーロラさんの声が聞こえるようになった。
大体は寝る前の時間だが、こうして突発的に話しかけられる事もある。
「見つけましたよ、お嬢様」
「今度は何だ?」
今日はよく話しかけられる日だな。
そう思いつつ振り返ると、少し先に背の高い女性が立っていた。
金属の鎧を身に纏い、大きな盾も背負っている。
「……何でここにいるのよ」
ファーレス=サーデク
年齢:20歳
種族:精霊人
職業:盾使い
SP:30/30
通常スキル:【盾術】
装備スキル:【衝壁】
薄水色の髪と瞳を持ち、常に表情を崩さない。
以前マァを探しに来た人だ。
手紙を渡されて帰ったはずでは。
「手紙はご当主様へお届けしました。ですが連れ戻すのを諦めたとは言っておりません」
無表情でそう言い切る。
「……」
親としては娘の無事が分かったのはよかったはずだ。
詳しい手紙の内容は知らないが、しばらく戻らない的な事を書いたんだろう。
それを読んだ親が娘を説得するためにこの人を再び派遣した。
「はぁ~」
マァが深い溜息を吐く。
この件に関しては俺が横入りしない方がいいな。
話がややこしくなりそうだ。
「落ち着いて話せる場所へ移動しましょうか」
「はい、お嬢様」
こうして俺達の家選びは先延ばしになるのだった。
♦♦♦
「救貧院の子ども達はまだ見つからんのか」
「はい、ゲイリーの証言通り別の犯人がいるものと思われます」
「そうか……」
グロリアス王とロウ宰相が執務室で話している。
行方不明事件の経過報告だ。
「引き続き捜索を続けよ」
「はっ」
「それで、助かった者達の様子はどうだ」
「その件ですが……」
オーロラが操られていた人達を浄化し、彼らは無事に意識は取り戻した。
「あまり芳しくありません」
「まさか記憶がないとはの」
兵士の聴き取りによれば、操られていた間の記憶がすっぽりと抜け落ちているらしい。
闇呪の杖で無理やり支配された影響なのかもしれない。
「そもそも呪いの力を利用しようという考え自体が間違っておる」
「はい、今までそういった事例もなかったはずです」
呪物は強制的に回収され、教会の手によって浄化される。
それがこの国の決まりだった。
だが実際に武器として利用されてしまっている。
彼らも初めての事態に戸惑っているようだ。
「オーロラには負担を強いる事になるか」
「そうですね。まだ杖自体の呪いも解けていませんし」
闇呪の杖自体の呪いが想定よりも強く、未だ完全な浄化には至っていない。
操られていた人達を優先したのはそういった理由もあるらしい。
「杖に関しては時間を掛けるしかないの」
「はい、呪いも少しずつ薄まってはいるようですので」
「そうだな……で、像の件はどうだった?」
「そちらは手掛かりがありません」
教徒達が掃除のために小聖堂へ入り、壊れた初代聖女像を見つけたらしい。
事件によって大聖堂全体がピリピリしている中での新たな火種。
こちらの犯人捜しも同時にしなければならない。
「オーロラには言えんの」
「はい、これ以上心的な負担を増やすのは控えるべきかと」
「ままならんものだな……」
グロリアス王はそう言うと、背もたれに深く身体を預けた。
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