第44話 ただの少女として
「そなたの願いを申せ」
「は、はい……」
俺は王様の前に跪いている。
周りには多くの人達が綺麗に整列していた。
多分貴族とかそんな感じの人達なんだと思う。
「……」
なぜこんな状況になっているのか。
俺は今朝の出来事を思い出す。
□□□
コンコン、コンコン
無事にオーロラさんの二つ目のスキルが使えるようになった翌日。
宿で寝ていた俺はノックの音で起こされた。
「んん?」
時間はまだ早朝だと思う。
上半身を起こし、枕元の明かりを点ける。
ベッドを出ようとしてラジエルが耳を立てている事に気が付く。
「おはよう」
さらりと頭をひと撫でしてからマァのベッドへ向かう。
俺だと対応出来ないからな。
「マァ、マァ」
穏やかな顔で寝ているマァの肩を揺する。
本当は起こしたくないけど仕方ない。
「うぅん……」
マァは少しぐずったけれど薄く目を開けてくれた。
「おはよう」
「……」
目を擦りつつ起き上がる。
「なによファーレス。もう朝なの?」
まだ寝ぼけているのか、誰かと違えているらしい。
「俺は巡だ。誰かが用があるらしい」
コンコン、コンコン
「ほら、ノックされてる」
「ん~」
普段はマァの方が早起きだから、こういう姿は珍しい。
「ちょっと待って」
跳ねた髪を手櫛で直す。
服の裾を軽く伸ばす。
しばらくして、身だしなみを整えているマァと目が合った。
「メグル」
「ん?」
「あんまり見ないで」
「分かった」
俺は自分のベッドに戻る。
目が覚めたみたいでよかったよ。
「もうっ、こんな時間に誰よ」
天井の明かりを点けたマァはそのまま入口へ向かう。
こんな時に俺も言葉が話せたらな。
「起こさなくても済んだのに」
「にゃん」
ラジエルは膝の上に乗ると丸くなる。
その身体を撫でていると少しは気持ちも落ち着いた。
「ハッズはまだ寝てるか」
マァの枕元にある寝袋を見た。
《子守歌の寝袋》クラス:Ⅳ 品質:優
・月の力が宿る羽毛で作られた寝袋。小動物のみが装備可能。破壊不可。【月の五歌】を発動出来る。
【月の五歌】クラス:Ⅳ
・装備スキル。スキル発動を願う事で発動者にのみ聞こえる子守歌を流す。五つの歌があり、発動者を睡眠に適した状態へ整える。任意で解除も可能。
この寝袋を使い始めてから、入眠も早くなって目覚めもいいらしい。
ハッズが寝ている姿は赤ちゃんのおくるみに包まれているように見える。
「買ってきてよかったな」
俺がそう思っているとマァが戻ってきた。
ちょっと困った顔をしている。
「メグル、今日も王城へ行くわよ」
♢
「おお、待っておったぞ!」
急いで準備をして向かうと、早朝にも関わらず元気な王様がいた。
案内された部屋には他にロウ宰相やオーロラさん、ライトさんもいた。
室内のメイドさんに席に案内されるとそのまま座る。
「朝早くにすみません」
ロウ宰相が謝ってくる。
多分横で興奮している王様の命令だろうし仕方ない。
「いえ、大丈夫ですよ」
「もう少し後でもよかったのよ?」
マァがチクリと刺す。
いきなりの呼び出しではあったからな。
「私がスキルを使ってしまったばかりに……」
オーロラさんが落ち込んでいる。
「別にオーロラのせいじゃないわよ」
マァの言う通りだ。
もしオーロラさんが原因だとしても時間は関係ない。
「すまんな、少々立て込んでいての」
王様も反省はしているらしい。
「それで、一体何の用事なんですの?」
「うむ、それなのだが――」
俺達が城を辞した後、オーロラさんが王様へ【報連僧】を使ってみたそうだ。
そして無事に発動したのを見て王様は大喜び。
発動した経緯を聞くと俺に褒美を与えたいと言い出した。
「なるほど」
褒美かぁ。
受け取るのはいいけど、いきなり言われてもな。
「好きな物を言うといい」
王様は鷹揚に頷く。
それが一番困るんですよね。
「ただしオーロラはやらんがな!」
ハッハッハッと笑う王様だが目は笑っていない。
オーロラさんを見ると頬を微かに染めている。
そうやって娘の恥ずかしがる事を言うと嫌われるぞ。
「そうですね……」
それよりも褒美だ。
お金は頑張れば稼げるし、珍しい物とかの方がいいのかな。
「簡易ではありますが式典も行います」
ロウ宰相が追加の情報を出してきた。
式典だって?
「事前に動き方もお教えしますので」
大分大事になってきた。
下手な物は言えなくなったな。
「メグルがあったらいいなって思うものでいいのよ」
マァがアドバイスをしてくれる。
あったらいいな、か。
「……あ」
マァの言葉で思い付いた。
オーロラさんを見る。
「?」
赤みが差した頬を抑える手。
そこに嵌められている銀色の指輪。
物は試しだ、言ってしまおう。
「ではオーロラさんの――」
□□□
「指輪が欲しいです」
「指輪?」
「はい、伝心の指輪です」
俺が欲しい物を伝えた瞬間、周囲に騒めきが広がる。
ここは謁見の間、いるのは身分が高い人ばかり。
それなのに最初に皆に伝えた時と反応は同じだった。
「静まりなさい」
玉座に最も近い位置に立つ宰相が周囲を落ち着かせる。
騒めきは収まったが、今度は俺が視線の圧に曝される。
「陛下」
「うむ」
ロウ宰相の言葉に王様は頷く。
「分かった。用意しよう」
その言葉に周囲の人達はまた驚いている。
「この者は我が娘オーロラの恩人である」
周囲に言い聞かせるように王様は話を続けた。
式典の初めに褒美をもらう理由は説明されている。
それでもこの反応だとすると相当珍しい物なのか。
「故に今回が特別である。努々忘れるでないぞ」
言い終わると王様の身体からとんでもない圧が放たれる。
誰一人として反論は許さない。
そんな圧だ。
「では、これにて閉式いたします」
ロウ宰相の宣言で式典は終わった。
♢
「どうにかなったよ」
「よかったわね」
皆が待つ控室へと戻る。
マァが労ってくれた。
「途中変な空気になったけど」
「想像はつくわ」
マァは深く頷く。
「宝物庫に同じ物があるんだよな?」
「はい、私の嵌めている物と同じ物がありますね」
オーロラさんが手を見せてくる。
そこには落ち着いたデザインの銀の指輪が。
「はぁ」
マァが溜息を吐いた。
初めて伝えた時は王様とマァの圧力が凄かった。
今はこんな風に諦めているみたいだけど。
「マァのためなんだけどな」
「分かってるわよ」
宿で起こした事もそうだけど、マァに負担を強いるのは止めたい。
伝心の指輪があれば言葉も分かるし、マァも楽になるはずだ。
「メグルが言葉を理解出来るようになるのは歓迎よ」
「そうだよな」
「でもねぇ……」
「?」
ブツブツ言っているがよく聞き取れない。
気持ちがどうとか、一緒の指輪がどうとか。
「お待たせしました」
部屋にロウ宰相が入ってくる。
「お父様は?」
オーロラさんが訊く。
たしかに王様の姿がないな。
「陛下は別件の対応中でして」
そう言うと机の上に箱を置いた。
煌びやかな宝石や装飾が施してある白い箱。
「こちらが伝心の指輪になります」
宰相が蓋を開けるとクッションの上に指輪が差してある。
「これが……」
俺が眺めているとオーロラさんが寄ってきた。
「私がつけて差し上げましょう」
オーロラさんは慎重に箱から指輪を取り出すと俺の左手を握った。
「あら?」
オーロラさんはそのまま俺の左手をジッと見ている。
ああ、今日は籠手を外してるからな。
例の紫と白の稲妻ラインに驚いてるんだろう。
「いや、これはお洒落で」
「お洒落ですか」
「はい、でももう取れないというか」
「もう、取れない」
おかしい、話すたびに目がどんどん据わってきている。
握る手にも心なしか力が籠っているような……。
「ではこちらの指に嵌めましょうか」
オーロラさんはそう言うと今度は右手を取った。
そして小指に指輪を通していく。
「はい、いいですね」
嵌めた後に色んな角度から眺めていたオーロラさん。
納得がいったのかやっと手を離してくれた。
据わった目もいつの間にか元に戻っている。
「ぐぬぬ」
マァはこちらを見て変な顔をしている。
やっぱり女子的にはタトゥーはダメなんだろうか。
「まあ、どうしようもないしな」
『―――』
妖星茸は離れたがらないし。
頭の中に響く音は何かに呆れているみたいだ。
俺は格好いいと思うぞ、うん。
「こっちもいいね」
俺は自分の右手の小指を見る。
綺麗な指輪だ。
傷一つない銀色が光を反射している。
「これでやっと」
この世界で自立出来そうだ。




