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『  』と呼ばれた少年  作者: リフ
第二章 星渡巡と白鼠とワ

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第43話 見えない地雷を踏んだ先に

「美味いな」

「そうねぇ」


 俺達は王城で食事をしている。

 こんな長い机は映画でしか見た事がない。


「もっと食べるといい」

「ありがとうございます」


 この料理にはパンケーキに似たキノコであるフェトルを乾燥させた調味料が使われている。

 つまり目の前のこれが特別な日の料理というわけだ。


「後でお土産を持たせてもらうか」


 ラジエルとハッズにも食べさせてやりたい。

 正直美味いと言ったが、緊張で味はよく分かっていない。


「伝えておきますね」


 右隣から声がする。

 見るとオーロラさんがニコリと笑っていた。


「ありがとうございます」


 緊張の理由は王様と食事を共にしているからだけではない。


「?」


 俺がじっと見つめているからか、不思議そうな顔をしている。

 失礼にならないように顔を逸らす。


「どうかした?」


 左隣のマァが心配して訊いてきた。


「いや、何でもない」


 席順がおかしい。

 誕生日席には王様。

 これは当然だ。

 長机の右奥にはオーロラさん。

 分かる。

 長机の左奥にはライトさん。

 まぁ分かる。

 オーロラさんの隣に俺。

 ん?

 俺の左隣にマァ。

 んん?


「どうかしましたか?」


 振り向くとオーロラさんが心配そうに俺を見ている。


「どうもしないですよ、大丈夫です」


 椅子を引かれるままに座ってしまった。

 ちゃんとメイドさんに誘導されたから席は間違ってないはず。

 マァが隣なのは助かる。触れていないと会話も出来ないし。


「席順が気になっているのだろう」


 王様が正解を当ててしまう。


「あはは、実はそうなんです」


 バレてるんなら正直に言うしかない。

 机の向こう側にはライトさんしかいないし、バラけるならもう一人が向こうに行くべきだ。


「まあ、そんな事を気にされていたのですね」


 オーロラさんは口元に手を当てて驚いている。


「そなたがこの国の言葉を話せないのは分かっておる」


 王様は長机をジッと見る。

 ちょうど机の下で俺達の指が触れあっている辺りだ。

 食事中は手を離して、会話になると手を繋ぐ。


「そうですよね」


 さすがに手の動きが不自然だったな。

 マァのスキルも知っているみたいだし。


「ちなみに席はオーロラが決めた」

「そうなんですか?」

「はい、私であれば通訳も可能ですから」


 オーロラさんは手を見せてくる。

 その指には落ち着いたデザインの指輪が嵌まっていた。



《伝心の指輪》クラス:Ⅲ 品質:優

・純銀で作られた指輪。【心の友】を発動出来る。


【心の友】クラス:Ⅲ

・装備スキル。お互いの言葉の意味が伝わる。任意で解除も可能。



「これは伝心の指輪。異なる言語同士でも会話が出来る装備になります」


 オーロラさんを最初に鑑定した時に見えた【心の友】。

 この指輪のスキルだったのか。


「……気付いてたんですね」

「当然です。あれだけ長く話していれば分かります」


 今まで特に指摘されなかったから気付いてないと思ってた。


「じゃあその通訳のために隣の席にしたんですね」


 近くの方が内容も教えやすいとか?


「……そうです」

「ふぅん」


 マァが意味あり気にオーロラさんを見る。

 ちょっと視線がねっとりしている感じがするな。


「マァさん、私はずっと見ないふりをしていたのですよ」

「!」

「席くらいはいいでしょう?」


 俺を挟んで変な睨み合いはしないでほしい。

 背後に水の龍と光の天使が見えるようだ。


「あ、あのっ」


 俺は空気を変えるために話題を振る事にした。

 とっさに思い浮かんだ中から選ぶ。

 母親の事については訊かない。

 今まで誰も触れてないし、地雷っぽいしな。


「オーロラさんのスキルって二つあるんですよね」


 その言葉を口にした瞬間、場が凍った。

 マァだけは首を傾げていたが、王様もライトさんも表情が固まっている。


「はい、そうですね」


 オーロラさんは穏やかな顔で言った。

 地雷は避けたつもりだった。

 マァが自慢していたからオーロラさんも喜ぶはずだとばかり。


「結局どんなスキルだったの?」


 マァがオーロラさんに訊いている。

 あれ、昔見せてもらったんじゃ?

 ちょっと不安になってきた……。


「後でお見せしましょうか」


♢


「始めます」


 食事を終えた俺達は、別室でオーロラさんのスキルを見せてもらう事にした。

 周りにはオーロラさんとライトさん、マァと俺だけだ。

 王様は急用が出来たとかですぐに出て行った。


「光輪」


 秘跡の日、聖女像の前で聞いた言葉。


「おおっ」


 オーロラさんの頭の上に光の輪が現れる。

 前回は背中に大きい光の輪が出ていた。

 集中具合で違ったりするのかもしれない。


「これが私のスキル光輪になります」

「綺麗ですね」

「ありがとうございます」


 オーロラさんは褒められて嬉しそうだ。


「久しぶりに見たわねぇ」


 マァはその輝きに目を細めている。


「昔よりも出来る事は増えました」


 人差し指を立てると、その先に光が集まり始める。

 そしてすぐに光の玉が出来上がった。


「そしてこれを」


 オーロラさんはそう言うと光の玉を宙に飛ばす。

 鋭角に曲がったり、カーブを描いたり。


「へぇ、やるじゃない」


 マァも水龍を操作するからか、その難しさが分かるようだ。


「では消しますね」


 光の輪が消えると同時に光の玉も消える。

 光を操るスキル、か。


「もう一つのスキルなのですが……」


 オーロラさんはちょっと困ったように笑う。


「実は発動しないのです」

「えっ?」


 俺はその言葉に驚いてしまった。

 自分のスキルなのに?


「色々試してはみたのです」

「それでも発動しなかったと」

「……はい」


 あ、これがさっき場が凍った理由か。

 失敗したなぁ。


「ねぇ、メグル」


 マァも知らなかったんだろう。

 袖を軽く引いてきた。

 俺はすぐにオーロラさんを鑑定する。



オーロラ=ノーブル=ワ=グロリアス

年齢:16歳

種族:普人

職業:光の聖女

SP:5/25

通常スキル:【光輪】【報連僧】

装備スキル:【犠聖陽極】【心の友】



【光輪】クラス:Ⅳ

・通常スキル。スキル発動を願う事で頭上に光の輪を生み出し、周囲に存在する光を操る力を得る。発動には20SPが必要。追加でSPを使用する事で選択した対象の呪いを解く。SPが無くなると強制的に解除される。任意で解除も可能。


【報連僧(ほうれんそう)】クラス:Ⅳ

・通常スキル。スキル発動を願う事で発動者と上位者間での秘匿通信を行う。ただし、初回登録時には相手へ直接触れなければならない。任意で解除も可能。



 鑑定の結果だ。

 光輪は大体予想通り。

 追加で呪いも解けるらしく、まさに聖女って感じのスキルだ。


「うーん」


 もう一つのスキル【報連僧】。

 これは内容を知らないと発動は無理だな。


「ほうれんそう、ね」


 読み方だけなら聞いた事はある。

 ただ、上位者かぁ。


「あの、どうかされましたか?」


 オーロラさんが不安がっている。

 これ以上待たせるのはよくないな。


「俺に一度使ってみてくれませんか?」

「えっ?」


 オーロラさんは驚いている。

 まあいきなりだしな。


「何か分かったの?」


 マァが訊いてくる。


「ただの予想だけど」


 誤魔化しつつオーロラさんに近寄る。

 マァには後で説明しよう。


「どうぞ」


 俺は手を差し出す。


「……では、お言葉に甘えて」


 オーロラさんは俺の手を優しく握った。


「報連僧」


 その瞬間、俺達は淡く光り出す。


「!」

「わ!」


 ライトさんもマァも驚いている。


「!!」


 でも一番驚いてるのはスキルを発動したオーロラさんだ。

 目を見開いたまま動かない。


「発動したようですね」


 光が消えるとライトさんが呟く。


「ここからが本番ですよ」


 俺は繋いでいた手を離すと心の中で問いかける。


『もしもし、聞こえますか?』

『!』


 オーロラさんは飛び上がって驚く。

 いきなり声が聞こえたからな。


「何が起こった?」

「大丈夫なの?」


 ライトさんやマァはその様子を不思議がって見ている。


『あ、あの……メグル様でしょうか?』


 不安げな顔でこちらを見上げるオーロラさん。

 俺は笑顔で頷く。


『はい。いまオーロラさんの心に直接語りかけています』

『そんな事が……』

『出来るみたいですね』

『……』


 試してみたけど当たりか。

 これがスキルの説明にあった秘匿通信だろう。


『あの……ありがとうございます』


 オーロラさんは頭を下げた。


『いえ、思い付きだったので』


 俺も頭を下げる。

 成功してよかった。


「で、いつになったら説明してくれるのかしら?」


 マァが腰に手を当てて俺を見ている。


「ごめんごめん」


 スキルを止めてもらうと、皆に説明する。

 オーロラさんやライトさんもいるから所々ぼかしてだけど。


「俺の故郷にはこのスキル名と似たような言葉がありまして」

「ふむ、それが上役に報告や相談をする意味だと?」

「はい、なので一応試してみた次第です」

「なるほど」


 ライトさんは呟くと考え込む。

 分かった理由はそれっぽい説明でどうにか誤魔化した。

 さすがに【鑑定】で見ましたとは言えない。


「そうだったんですか……」


 オーロラさんは俯く。

 今までスキルが発動しなかったのは、単純にオーロラさんにはハードルが高かったからだ。

 オーロラさんは聖女でもあり王女でもある。

 上の立場の人はほとんどいないはずで、しかも初回は直接触れながらじゃないと発動しない。


「でもなんでメグルが上なのよ」

「それは俺も思った」


 ダメなら別の人で試すつもりだった。

 それこそ王様なんて喜んで手伝っただろうし。


「うぅっ」


 声に振り向くと、オーロラさんは顔を両手で覆っていた。

 指の隙間からぽたぽたと床に雫が落ちる。


「はい!?」


 いきなりの展開に頭が追い付かない。

 もしかして泣いてる?


「やっと私も……」

「オーロラ……」


 マァは俺の手を離すとオーロラさんへ近づく。


『マァさんっ』


 オーロラさんがマァの胸へ飛び込む。

 ライトさんがその光景を見てうんうんと頷いている。


「あー」


 よく考えたら六年も分からなかったんだよな。

 これまでにも色々苦労したに違いない。


『ありがとうございます』

「よかったわね」


 マァが優しく頭を撫でている。

 あれ落ち着くんだよな。

 俺は過去を思い出しつつ、しばらくその光景を見守るのだった。

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