第42話 事の顛末
「うーん」
「メグル、諦めなさい」
俺とマァは今王城の一室で待っている。
オーロラさんとライトさんは王様と会っている最中だ。
「それはもういいんだけどさ」
あの後、ゲイリー補佐司教率いる黒ローブの集団は騎士達によって全員捕まった。
その際に別の部屋へ連れて行かれたマーク司教も無事に助け出せたそうだ。
「本当に何もないんだよね?」
今頃彼らは激しい尋問を受けているだろう。
余罪も含めて調べているらしいからな。
「大丈夫よ。私達は聖女を守ったんだし」
そう、俺達は聖女側として動いた。
オーロラさんを保護し、教会内の裏切り者を倒し、秘跡も無事に終わらせた。
でも逆に言えばオーロラさんを誘拐し、大聖堂へ侵入し、騎士長と戦った側でもある。
「どうなんだろ」
視線を部屋の扉へ向ける。
扉の横にはメイドさんが控えていた。
あんまり変な事は言えないが、それでも不安は口から漏れてしまう。
コンコン、コンコン
その時、扉がノックされる。
メイドさんが確認するとどうやら王様が来たらしい。
「おお! そなたらが協力者か」
開かれた扉から豪奢なマントを身に纏った男性が入ってくる。
年齢は五十代らしいが、老けている印象は受けない。
灰色の髪は上品に纏められ、オーロラさんと同じ碧眼は鋭い眼光を宿している。
「はい!」
俺は自然と椅子から立ち上がっていた。
横にいて励ましてくれたマァもゆっくりと立ち上がる。
「お久しぶりですわ、おじさま」
「そなたは!」
王様は速足でこちらに近づくとマァの前に立った。
後ろのお付きの人達が慌てている。
「マァ殿ではないか。元気にしておったか?」
「はい。おじさまもお元気そうで」
気安く話す二人。
初めて会った感じじゃないな。
昔オーロラさんに会った時に一緒に会っていたのかもしれない。
「オーロラと会いたいと連絡があったが、先に会っておったとはな」
「私も驚きましたわ。まさに運命のいたずらでした」
再会のために動いてもらったからな。
話はちゃんと通っていたのか。
「グロリアス様」
王様の後ろから声が掛かる。
「おお、すまんな。つい懐かしい顔に興奮してしまったわ」
側近的な人なのだろうか。
苦労がにじみ出ている気がする。
「一旦座る事にしようか」
俺達と向かい合わせに置いてある椅子に腰を下ろす。
側近的な人は王様の後ろに立った。
他のお付きの人達は部屋の中にカートを入れると何かの準備をし出す。
「そなたらも座るといい」
「は、はい」
「お言葉に甘えて」
俺達は椅子に座り直す。
「ほれ、宰相も座らんか」
そう言いつつ自身の隣の椅子を手で示す。
この人宰相なんだな。
「……分かりました」
一瞬言い返しそうだったけど、俺達の手前止めたんだろう。
大人しく椅子に座った。
長方形の机を挟んで俺達と王様達は向かい合う。
「まずは自己紹介からだな」
王様の名前はフォート=ワ=グロリアス。
宰相の名前はロウ=ハンボル。
「ん?」
「どうかしたかね」
王様がこっちを見る。
いや、別に大した事でもないんだけど……。
「いえ、何でもありません」
「それならいいのだが」
後でマァに訊いてみよう。
お互いに自己紹介も終わったし、今は準備してもらったお茶でも飲むか。
「私達に何か訊きたい事があるのでしょうか?」
マァが話を続ける。
たしかにそれは気になる。
「いや、状況は理解しておる」
オーロラさんとライトさんから報告を受けているからか。
「確認しておきたいのは今後の事だ」
なるほど。
話を聴きたいんじゃなくて話をする方なのね。
「宰相、続きを」
「はっ」
続きはロウ宰相がしてくれるらしい。
「では今後についてですが――」
♢
オオオオオオオ―――ッ!!!
「で、こうなる訳か」
あれから数日後、俺達は馬車の上にいた。
大通りの先以外は人に囲まれている。
まるで優勝パレードだ。
「仕方ないですよ」
馬車の上には横長の椅子が何列もあって、最前列には騎士長が、真ん中の列には王様とオーロラさんが、そして最後列にはライトさんと俺、マァが並んで座っている。
「早急に聖女様の無事を知らしめるためです」
オーロラさんを見ると小さく手を振っている。
行方不明だったのは伏せられていたが、噂や不安は広がっていた。
それを払拭したいんだろう。
「だからって俺達まで……」
マァはまだ知り合いだからいいとして、俺はどう言い訳する気だよ。
「護衛の一部だと思われるだけですよ」
「いやいやいや」
有名人に囲まれて逆に目立つわ。
「皆さん聖女様目当てですからお気になさらず」
たしかに視線はそこまで感じない。
騒がなければどうにかなるか……。
「そういえば大丈夫だったんですか?」
気になっていた事を訊いてみた。
見た感じ無事ではある。
「大丈夫……とは?」
首を傾げてこちらを見る。
いやいや、聖女様誘拐の件ですよ。
周りに聞こえないよう小声で伝える。
「ああ、その件ですか」
ライトさんによると自分が行った事については正直に話したらしい。
初めは拘束されそうになったが、オーロラさんが止めたそうだ。
「状況的に仕方のない判断だった、と」
「へぇ、そうなんですね」
「ただ、かなり叱責は受けましたよ」
無事に帰ってきたからよかったものの、親目線からしたらたまったものじゃないからな。
「それはそうでしょうね」
「はい、反省しています」
早い段階でオーロラさんもライトさんもお互いに相談していれば、また違ったのかもしれない。
ただ、オーロラさんはライトさんを疑ってたんだろうし、ライトさんは元々オーロラさんをこの件に巻き込むつもりはなかった。
「どうにかなってよかったですね」
これに尽きる。
「はい。しかし犯人の狙いが聖女様だったとは」
屋敷の襲撃も作戦の一部だったらしい。
同じタイミングで別の屋敷も襲われていたそうだから、詳しい場所までは分かってなかったみたいだけど。
「犯人以外は操られてたんですよね」
結局、俺が殴った黒ローブ以外は行方不明になった人達だった。
襲撃に関わった人達も同じだ。
「ええ、杖のスキルらしいですよ」
行方不明事件はただの杖の練習だった。
本番は儀式中に無防備になったオーロラさんを襲って支配する事。
「アグリィ派の工作じゃなかったんですね」
「ええ、ゲイリーの個人的な執着が原因のようです」
ゲイリーは拘束され、補佐司教の座も失った。
現在は過去の事件も含めて取り調べが行われているようだ。
「被害に遭われた方々の救済も必要ですし」
「今はまだ眠ったままなんですよね」
操られていた全ての人が同じ状態だ。
「ええ、ゲイリーは杖がないと解除出来ないと」
だからといってまた杖を持たせる訳にもいかない。
今は誰も触れられないよう厳重に保管されているそうだ。
「解決しそうですか?」
「呪いが解ければあるいは」
近々オーロラさんによって呪いの杖は浄化されるらしい。
それで無理なら一人一人直接浄化していくそうだ。
それならどうにかなるかもな。
「ただ、まだ見つかっていない方々もいますので……」
現在は王城と大聖堂の合同で捜索を続けている。
ゲイリーの屋敷からも行方不明者は見つかったが、救貧院からいなくなった子ども達だけが見つからないらしい。
ゲイリー本人も知らないと言っているらしく、さらに厳しい尋問が待っているようだ。
「早く見つかるといいですね」
「ええ」
心からそう思う。
全員が一日も早く救われる事を祈ろう。
♦♦♦
ピシッ――
誰もいない空間に音が響く。
ピシピシッ、パキッ
そこは誰もいないはずの小聖堂。
あるのはステンドグラスから降り注ぐ光と初代聖女の像のみ。
パラッ
像の一部がひび割れ、表面が崩れ落ちる。
その下にはうっすらと肌色が見えた。
罅はそこで止まる事なく、すぐに像全体へと広がっていき――。
パァンッ!
一気に弾け飛んだ。
「ふぅ、やっと出られた」
金色の長髪、金色の瞳。
初代聖女像と同じその姿。
「皆の祈りはちゃんと届いていたわ」
袖に残った像の残骸を振り払いつつ、一つ伸びをする。
「さ~て、世界はどうなってるのかな?」
彼女はニヤリと笑うと台の上から飛び降りる。
そして床に音もなく着地すると、一歩一歩軽やかに歩き始めた。
♦♦♦




