第40話 聖解の光
「戻ろう」
こいつはもう立ち上がれないだろう。
スキルを解除すると部屋へ戻る。
『―――』
オーロラさんは変わらず聖女像の前で祈り続けている。
部屋の中の黒ローブ達も倒れたままだ。
「そういえば」
あの白ローブの男はどうなったんだろうか。
そのまま連れていかれたままだ。
「まあいいか」
今は気にしないでおこう。
全ては儀式が終わってからだ。
腰から水筒を外すと聖水を飲む。
「はぁ」
予定では避難路を使って大聖堂へ侵入し、こっそり儀式を終わらせて屋敷へ帰るはずだった。
それがライトさんやマァには足止めを頼み、俺はこうしてオーロラさんを守っている。
「どうやって帰るかなぁ」
まずマァを庭園で拾って物置小屋まで向かう。
そして地下への階段を下りてライトさんと合流する。
そのまま避難路を通って屋敷へ帰る。
「ああ、屋敷も襲われてるんだっけ」
じゃあ王城へ向かうか?
儀式さえ終われば外へ出なくても大丈夫そうだし。
「とりあえず終わるまで待とう」
♦♦♦
「―――」
私は聖句を唱え続ける。
意識を集中し、力を高めるために。
「―――」
聖女の行う秘跡の一つ、聖解の光。
それは初代聖女様へ光を捧げる聖なる儀式。
「―――」
聖女は日々研鑽を積み、穢れなき光を身に宿す。
その光をもって秘跡を行使するのです。
「―――」
そこには形だけではないある目的も含まれます。
その成就こそが歴代聖女の悲願でもあります。
「―――」
聖女とは助けを求める者の救いの象徴。
ですが、もしその聖女が逆に助けを求めているのなら?
「―――」
答えは一つ。
さあ、始めましょう。
「光輪」
♦♦♦
『光輪』
その言葉が聞こえた直後、部屋は光に包まれた。
「うぉっ」
眩しくて目を開けていられない。
腕で顔を庇いつつオーロラさんを確認する。
「えぇっ」
オーロラさんは手を組んだまま宙に浮いている。
ちょうど聖女像の頭と同じ高さに頭がある。
光源はオーロラさんの背後に広がる光の輪。
「儀式は順調……なんだよな?」
正解が分からない。
ただ、悪い感じはしないから大丈夫だとは思う。
「んん?」
光の輪から放たれた光が聖女像へ流れ込んでいく。
かなりの勢いだ。
「大丈夫か?」
なんか聖女像もゆっくり点滅してるし。
これ以上変な事は起こらないでくれよ。
「眩しさも減ってきたな」
時間が経つにつれて明るさも落ち着いてきた。
光を注いだら終了か?
「おっと、見過ぎはよくないな」
警戒に戻らないと。
俺はオーロラさんに背を向けると光が収まるまで待った。
♢
ドサッ――
警戒を再開してしばらく。
背後で何か音がした。
振り返るとオーロラさんが床に倒れている。
「オーロラさん!」
急いで駆け寄ると上半身を抱き起こした。
意識がなく、身体も異常に冷たい。
力を使い果たしたらしい。
「マズいな」
このままじゃ命も危ないかもしれない。
自分の腰元から水筒を外す。
「よし、まだ残ってる」
蓋に注ぐと口元へ。
上手く飲んでくれ。
「大丈夫そうか」
少しずつ口の中に含ませていく。
喉も動いているし気管に入ったりもなさそうだ。
「これで終わりかな」
目の前の聖女像を見上げる。
あれだけの光を吸収したにも関わらず、特に変わりはなかった。
『うぅん』
オーロラさんが目を開けた。
『ここは……』
状況が理解出来ていないらしい。
何度か瞬きをするとやっと俺に気付いた。
『あっ』
「おはようございます」
挨拶をしただけなのにオーロラさんは固まっている。
徐々に顔も赤くなってきた。
「大丈夫ですか?」
オーロラさんはふるふると首を横に振ると身を起こす。
俺は背中を支えつつ一緒に立ち上がった。
『ご、ご迷惑をおかけしました』
「いえ、迷惑じゃないのでいいですよ」
『そうですか……』
「はい」
『……』
「……」
お互い無言になる。
き、気まずい……。
別に悪い事はしてないはずなんだけど。
『あのっ』
オーロラさんが話し出す。
『秘跡は終わりましたので帰りましょう』
「分かりました」
やっぱりさっきので終わりか。
オーロラさんと一緒に出口へ向かう。
『きゃっ』
ああ、言うのを忘れてた。
部屋には黒ローブ達が倒れてるからな。
驚くのも当然だ。
「起き上がっては来ないので大丈夫ですよ」
『そうなんですね』
オーロラさんは恐る恐る倒れている人の間を縫って歩く。
俺は少し前に出ると手を差し出した。
「はい、転ぶといけないので」
『……ありがとうございます』
手を握るとそのまま歩く。
「……」
『……』
無言の時間が続く。
緊張が手からも伝わってくる。
「これから避難路まで戻るんですよね?」
この後の動きを確認する。
『ええ、その方がいいでしょう』
片手で扉を開く。
部屋の外には男が一人。
もちろん倒れたままだ。
『この方は……』
「乗り込んできたので倒しておきました」
オーロラさんはその男の顔をじっと見ている。
「知り合いなんですか?」
『はい、ですが説明は後にしましょう』
オーロラさんの言う通りだ。
話は一旦落ち着いてからだな。
俺達は駆け足で建物を出ると庭園へ急いだ。




