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『  』と呼ばれた少年  作者: リフ
第二章 星渡巡と白鼠とワ

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第39話 守るために

 【夜籠】は夜の領域を生み出す。

 訓練で何度も使う事で広さは調整出来るようになった。


「――—っ!」


 背後のオーロラさんを巻き込まないように発動する。

 敵はまとめて範囲内へ。

 俺のように耐性がなければすぐに気を失うはずだ。


「―――!」


 バタバタと仲間達が倒れる中、杖を持った男だけが何かを叫びながら耐えている。


「へぇ」


 俺は念のため男を鑑定する。



ゲイリー

年齢:50歳

種族:普人

職業:呪操者

SP:30/40

通常スキル:【闇耐性】【呪耐性】

装備スキル:【妄想支配】



 通常スキルが二つもある。

 どっちも耐性系か。


「夜耐性はないな……」



【闇耐性】クラス:Ⅲ

・通常スキル。闇系統への耐性が中上昇。


【呪耐性】クラス:Ⅳ

・通常スキル。呪系統への耐性が大上昇。



 闇耐性は俺も持っている。

 ただ男の方がクラスが高い。

 呪耐性に至ってはクラスⅣだ。


「夜籠は呪いじゃないし……倒れない理由は闇耐性の方かな」


 俺だって夜耐性がなかった時もちょっとは耐えられた。

 あれも闇耐性のおかげか?


「―――!」


 そう考えていると、男がこっちへ向かって杖を振ってきた。

 すると先端から黒い何かが勢いよく伸びてくる。


「しつこい」


 俺は短剣に夜を付与して構えた。


「フッ!」


 そしてその黒い何かをすれ違いざまに斬り飛ばす。


「―――」


 すると男は口を開けて呆けてしまう。

 斬られると思ってなかったな。


「キモッ」


 視線を下へ向けると、斬り飛ばした部分が床でビチビチ跳ねていた。

 触手みたいで本当に気持ちが悪い。


「もう終わりだ」


 視線を正面へ戻し、一歩を踏み出す。

 さっさと倒してオーロラさんの無事を確認したい。


「―――」


 男は何かを呟くと後ろへ下がっていく。


「ん?」


 そしてそのまま背中を見せて駆け出した。


「逃げる気か!」


 【夜籠】は初めに効果範囲を決めておく必要がある。

 特に指定がなければ最大範囲で発動するが、今は扉の辺りまでしか広げていない。

 出入りの制限も特にないし、手として逃げるのは間違いじゃない。


「動きたくはない、が」


 オーロラさんの側を離れない方がいいのは分かってる。

 ただ、ここであいつを見逃す方が危険な気がする。


「それに……」


 ずっと【夜籠】を発動し続ける事は不可能だ。

 こうしている今も身体から生気は抜け続けている。


「―――!」


 男は何かを叫びつつ逃げていく。

 内容は分からないが、恨み言でも吐いてそうだな。


「ここでお披露目といきますか」


 俺は夜空を眺めつつ呟いた。


♦♦♦


「ハァッ、ハァッ」


 走る以上の体力を消耗する。

 動いて熱くなるはずの身体は芯から冷えていく。


「だが、ここまで来ればっ」


 扉を押し開けてそのまま外へ。


「ぐっ」


 足がもつれて倒れてしまった。

 だがあの空間からは脱したぞ。


「ははっ」


 あれは範囲型のスキル。

 出てしまえばこっちのものだ。


「しかし……」


 あんな効果は見た事も聞いた事もない。

 あれだけ強力ならもっと有名になってもいいはずだ。

 恐らくは最近手に入れた力に違いない。


「装備スキルか」


 あれが手に持っていた短剣。

 地味な見た目だったが、スキルは優秀だったという事か。


「まあいい」


 天井から降り注ぐ光も俺を祝福している。

 力が漲ってくるようだ。

 ゆっくりと立ち上がり、天を仰ぐ。


「聖女は俺のものだ」


 必ず支配してやる。

 そして……。


「その邪魔をするなら殺す」


 俺の支配を受け入れない者は必要ない。

 今までも、そしてこれからも。


♦♦♦


 部屋を出ると夜の付与が切れた。

 短剣が静かに崩れていく。


「さようなら」


 必要な犠牲だとは分かっていても。

 この瞬間だけはどうしても慣れない。


「―――」


 黒ローブはこっちを見てニヤニヤしている。

 さっきはあんなに睨んできてただろ。


「ふぅ」


 初めて短剣が散ったあの日を思い出す。

 彼の存在があったから、星辰の短剣を収納した。

 彼の存在があったから、星天の籠手が覚醒した。

 彼の存在があったから……。


「ありがとう」

「―――!」


 短剣を失った俺にもう手は残されていない。

 多分こいつはそう思っているんだろう。

 だから油断して攻撃してこない。

 甘い。さっきと状況が同じだと思うなよ。


「星影の約束」


 掌を合わせて発動する。

 地面に八芒星が描かれ、ドーム状の結界が張られる。

 敵がお前だけならこれでいい。


「それから」


 俺は後ろ手に隠していた水筒に口をつける。

 さっきも扉から出る前に一度飲んだ。

 中身はもちろん聖水だ。


「ふぅ」


 警戒していたが、黒ローブからの攻撃はなかった。

 突然張られた結界に驚いている。


「夜籠」


 結界内が夜に包まれる。

 どんどん焦ってくれ。


「付与」


 籠手に夜を付与する。

 武器は短剣だけじゃない。


「最後に」


 しばらく使ってやれなかったこのスキルも。


「気配遮断」



【気配遮断】クラス:Ⅲ

・通常スキル。スキル発動を願う事で発動者及び発動者が触れている者の気配を消す。発動には10SPが必要。一歩動く毎に1SPを追加で消費する。SPが無くなると強制的に解除される。任意で解除も可能。



「準備完了」


 夜に染まった拳の先は倒すべき敵へ。

 黒ローブは結界の壁を叩いている。

 無駄だ。お前はここから逃げられない。


「―――!」

「遅い」


 振り返ると周りを確認している。

 俺を探してるんだろう。

 相手の正面を避けてゆっくりと近づいていく。


「死なないとは思うが……」


 今回は短剣ではなく拳だ。

 命だけは助かるはず。


「シッ」


 十分に近づくと相手の胴体へ拳を思いっきり打ち込む。

 拳を介して肉を叩く嫌な感触が伝わってきた。


「―――ッ!」

「まだ倒れないのか」


 不意打ちを喰らってこの程度。

 打撃は素人だし仕方ない。

 念のためもう何発か打ち込もう。


「ッ!!!」

「ん?」


 男の身体がいきなり痙攣し始める。

 口を開けているが苦しすぎて声も出ないようだ。

 しばらくビクビクと踊った後、白目をむいて床に倒れた。


「……付与のおかげか」


 それ以外に考えられない。

 一発殴るだけでこうなるとは。

 

「自分の身体で確認しなくてよかった」


 実験台になってくれた黒ローブには感謝を。

 お礼はあげないけどな。

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