第38話 狂人VS犯人VS異世界人
庭園を抜けた先には木立があった。
『こちらですっ』
俺達は木々の間を縫うように走り抜けていく。
「はいっ」
俺も息が切れてきた。
心臓も痛い。
『ここですよっ! 入りましょう』
木立を抜けた先にそれはあった。
白一色の建物。
正面の扉を押し開いて中に転がり込む。
「はぁっはぁっ」
『ふぅっふぅっ』
息が荒い。
胸に手を当て息を整えていく。
「次はどうしたらっ、いいですかっ?」
俺は秘跡の内容を知らない。
ここで入り口を守っていたらいいんだろうか。
『一緒に、来ていただけますか?』
どうやら違うみたいだ。
「分かりましたっ」
ここまで来たんだ。
最後まで付き合おう。
『こちらです』
俺達はそのまま建物の奥へと進んだ。
♢
「ここはどんな場所なんですか?」
息切れも落ち着いた俺はオーロラさんに訊いてみた。
白い柱が並び立つ場所を歩いていく。
『ここは一般には小聖堂と言われています』
「小聖堂ですか」
大聖堂の敷地内にある小さな聖堂って事かな。
『はい。小聖堂自体は他にもいくつかあるんですが……』
その中でもここは特別なんです。
オーロラさんはそう言うと奥の扉の前に立った。
『ここから先はご内密に』
ゆっくりと木の扉を押し開けていく。
「おぉ」
そこは異様に物がなかった。
あるのは人と同じくらいの大きさの石像だけ。
ステンドグラスから降り注ぐ光が正面に安置されている像を照らしている。
『正面にあるのが初代聖女様の像です』
「へぇ」
その像の前まで歩みを進める。
大聖堂で見た物と似てるな。
だけどこっちの方が妙にリアルだ。
まるで生きているように感じる。
『私は今から秘跡を行います』
オーロラさんが唐突に言った。
「俺はどうしたらいいですか?」
何か出来る事はあるだろうか。
『誰もこの部屋へ入れないで下さい』
つまり入り口を守ればいいんだな。
「分かりました」
俺は踵を返すと入口へ向かう。
『……出来れば側で守っていただけますか?』
「はい?」
一瞬意味が分からなかった。
誰も入れないんなら入り口で……。
「あぁ、なるほど」
入り口は正面の扉だけじゃない。
ステンドグラスを破って入られる可能性もある。
「では側で守ります」
俺は再び聖女像の前へ。
オーロラさんと並ぶと周りを警戒する。
『ありがとうございます』
秘跡の内容は知らない。
てっきり見てはいけない物だと思っていた。
まあ、見た所で何をしてるのかは分からないだろうけど。
『秘跡を行っている間は私は動けません』
「はい」
『しばらくは無防備になりますのでお願いします』
「任せて下さい」
ライトさんの代わりではないけど、秘跡の間くらいは守り切ろう。
『では、始めます』
オーロラさんは聖女像の前へ一歩踏み出すと跪く。
そして祈り始めた。
俺はその様子を確認するとオーロラさんを背に短剣を構えた。
♢
秘跡が始まって少し経った。
ライトさんやマァは無事だろうか。
オーロラさんを見る。
『―――』
何かを呟いている。
ただそれを言語として認識する事は出来ない。
「無事に終わってくれよ」
そんな俺の願いは無情にも届かなかった。
カツン、カツン、カツン
扉の向こうから足音がする。
近づくにつれてその音は増えた。
「大勢いるな」
困った。
一人ならどうにかなったのに。
観音開きの扉が押し開けられる。
「―――」
先頭の男が何かを呟く。
マァがいないから何を言ってるか分からないな。
♦♦♦
「これはこれは」
白いローブを着た男が部屋へ入ってくる。
巡は短剣を構えたままだ。
「余計な者がいるようですな」
「?」
オーロラは秘跡の儀式を続けている。
集中しているのか微動だにしない。
「我らを恐れて動き出す。実に分かりやすい」
白ローブはフードを外した。
そこにいたのはマーク司教であった。
「君が犯人なのでしょう?」
「??」
巡は言葉が分からない。
マーク司教から何を言われても首を傾げていただろう。
「王都で近頃起きている行方不明事件」
マーク司教は聖堂内を歩きつつ指を折る。
「大聖堂での誘拐及び殺人事件」
事件を紐解く探偵のように。
「そして今日の白昼堂々の襲撃事件」
巡の前で足を止めた。
「全て君の仕業だ」
「?」
巡は意味が分からなかっただろう。
知らない人間がいきなり目の前を歩き回り、ドヤ顔で指を一つ一つ折っていく。
そして最後に指を差される。
「どうですかっ。この私の完璧な推理は!」
「……」
巡は短剣を構え続ける。
「別に市井の者がどうなろうと知りません」
返事がないのを肯定とでも受け取ったのか。
マーク司教は饒舌に語り続ける。
「ただぁぁっしっ! 聖女様への冒涜はこの私が許しませんぞ!!」
「……」
巡は答えない。
言葉が分からないから黙るしかない。
「仕方ありませ――」
「そろそろいいでしょう」
続く言葉に別の白ローブが被せた。
マーク司教は隣に控えていた男を見る。
「何がですかな? ゲイリー補佐司教」
「お前の話は長い。それにもう隠す必要もないって事だ」
白いローブが黒に染まっていく。
同じく後ろに並んでいた人達のローブも黒に染まる。
「なっ! これは一体何なのですか!?」
一人だけ白いままのマーク司教が声を上げる。
「仲間割れか?」
言葉は分からないものの、雰囲気で対立している事を理解したらしい。
巡は二人から距離を取った。
「お前は後でいい」
「ぐわっ!」
マーク司教は数人掛かりで拘束され、部屋から出されていく。
「はぁ、これでスッキリした」
首を回しつつ肩を揉む。
そして最後に巡を見た。
「お前は何も言わなくていいぞ」
ゲイリー補佐司教は黒いローブの中から杖を抜いた。
黒く禍々しい力が渦巻いている。
「大人しく従え」
♦♦♦
「マズいっ」
鑑定!
《闇呪の杖》深度:Ⅳ 品質:優
・闇の力が宿る木で作られた杖。非常に強く呪われている。【妄想支配】を発動出来る。
【妄想支配】深度:Ⅳ
・呪物スキル。スキル発動を願う事で対象者を強制的に支配する。発動には10SPが必要。一度支配を行うと発動を止めても効果は持続する。任意で解除は可能。
「―――っ!」
男が叫んだ次の瞬間、杖から黒い何かが伸びてくる。
俺はどうにか回避した。
「冗談じゃない!」
急いで内容を流し読みする。
……あれに触れたら支配される!?
「―――」
男が今度は何かを言ってきた。
するとその黒い物体は避けた俺を追尾してくる。
グネグネうねりながら飛んできて気持ち悪い。
「チッ!」
一対一がいつまで続くか分からない。
他の仲間もあいつの後ろにいるんだ。
動く前にケリをつける!
「夜籠!」
俺は自分のスキルを発動した。




