第36話 大聖堂へ向かう者達
「ありえない」
ライトさんが言う。
「ここはダンジョンの中ではない」
ダンジョンは特徴的な構造をしている。
その一つに壁が光っている事が挙げられる。
この避難路は天井に設置された明かりしか光源がなく、壁も光っていない。
つまりダンジョンではないという事だ。
「何でこんなところに」
カマルは動かない。
カマル
年齢:7ヶ月
種族:迷宮化身
SP:0/0
通常スキル:【無抵抗】
装備スキル:
こっそり鑑定してみた。
種族は迷宮化身、要はダンジョンモンスターだろう。
スキル内容も確認する。
【無抵抗】クラス:Ⅰ
・通常スキル。何事にも抵抗しなくなる。
これはダメだ。
まさか持っていてマイナスしかないスキルがあるなんて。
俺はこれまで色々スキルを得てきたけど、どれもプラスの効果だった。
ダンジョンモンスターだからか?
もしくは俺の運がよかっただけなのかもしれない。
「とりあえず斬ります」
ライトさんが宣言し、一瞬で敵に近づくと剣を振り抜く。
カマルは自身のスキル通り、何の抵抗も見せないまま光となって消えていった。
「光の粒になったわね」
マァが呟く。
今の消え方はダンジョンモンスター特有のものだ。
「そうですね。でもなぜこのような場所に……」
オーロラさんは戸惑っている。
「通路のどこかに迷宮があるとか?」
俺は思い浮かんだ可能性をとりあえず言ってみた。
「いえ、それはないと思います」
ライトさんは断言した。
「なぜですか?」
「それはダンジョンの性質上ありえない事だからです」
ダンジョンの性質?
俺がピンと来てない事を察したのか話を続ける。
「ダンジョンは発生する場所がある程度決まっているんです」
「そうね。たしか人の営みにあまりに近すぎる場所には現れないんだったかしら」
「マァさんの仰る通りです」
なるほど。
考えてみればここは王都の地下だ。
階段を下ってきたとはいえ、地上とそこまで離れている訳じゃない。
「そしてそれがダンジョンが星の贈り物と言われる理由の一つでもあります」
「混乱を生まないように配慮されてるって事ね」
二人の説明でダンジョンが近くにない事は分かった。
じゃあさっきのモンスターは一体何なんだ?
「何か別の要因がありそうですが……」
ライトさんは真剣な表情で考えている。
「で、どうするの。先に進むの進まないの?」
マァはそこが気になるようだ。
モンスターがいる原因もそうだけど、この先は何か危険があるかもしれない。
ただ避難するだけなら通路にいるだけで済む。
地上が落ち着いたら戻ればいい。
でも大聖堂へ向かうにはこの通路を進むしかない。
「進みましょう」
オーロラさんが言う。
「身の安全を確保しつつ大聖堂へ向かえばいいのです」
「それはそうね」
「では私が前を行きます」
方針が決まれば後は早かった。
進む陣形も決まっていく。
ライトさんが先頭か。
道案内もしてもらわないといけないし妥当かな。
後ろは俺が担当しよう。
「俺は後ろを警戒します」
「助かります」
ライトさんと俺でマァとオーロラさんを挟む形だ。
「では行きましょう」
ライトさんの一声で俺達は警戒しつつも進み始めた。
♢
「シッ!」
短い呼気と共に剣が振るわれる。
モンスターは声を上げる事さえ出来ずに消えていった。
「これで四体目ですか」
順調に進んではいたが、時々モンスターが現れる。
しかも全てカマルだ。
ただただ無抵抗に斬られていく。
「目の前で現場を見ちゃうとなぁ」
「やっぱりそうでしょ?」
青空市場で話してた内容を実際に体験するとはね。
円らな瞳から光が消えていく感じはちょっとしたホラーだし。
こんな事になるなんてぬいぐるみを買った時には思いもしなかった。
「心を強く持ちましょう」
オーロラさんが励ましてくれる。
相手は無抵抗だからこっちは怪我もしないし、むしろいい事ではあるのがなぁ。
「この先に広間があります。そこで一旦休憩しましょう」
ライトさんが剣で示す先には金属の扉が見える。
「分かりました。ありがとうございます」
「先に安全を確保します。念のため扉から離れていて下さい」
俺達が離れたのを確認すると、ライトさんは素早く中へ入る。
不意打ちを警戒しての動きだろう。
「何か一瞬光ってなかった?」
マァが言った。
言われてみれば頬の辺りが光っていたような……。
「彼の装備スキルですね」
オーロラさんが言う。
「装備スキル?」
「ええ、光脈といって身体を強化出来るらしいですよ」
【光脈】ね。
何か鑑定で名前を見たような気がする。
スキルが多くて内容までは確認してないけど。
「大丈夫でしょうか」
俺はちょっと心配になる。
一人で行かせてよかったのか。
「むしろ私達がいるほうが動きにくいでしょう」
オーロラさんが言った。
「彼は聖騎士に相応しい実力を持っています。安心して待ちましょう」
それからしばらくして扉が開いた。
俺は前に出て警戒したが、出てきたのはライトさんだった。
「安全は確保しました。お入り下さい」
俺達はそのまま広間へと入った。
特に何か置いてある訳でもない。
ただ、扉が四方の壁にそれぞれあった。
「ここには複数の扉がありますが正解は一つだけです」
今までも分岐はいくつかあったが、ここは少し特殊らしい。
「正しい扉を知っていなければ先へは行けません」
ライトさんによると正しい扉以外は行き止まりになっていて、罠が仕掛けてあったりもするらしい。
「侵入者対策ですね。しかし……」
「ここにもモンスターがいたのね」
「ええ、その通りです」
少し強めのモンスターだったらしいが、問題なく倒したらしい。
「原因は分かりませんが、とにかく注意して進みましょう」
俺達は休憩をとると、再び大聖堂を目指して進み始めた。
♦♦♦
「モンスターとの繋がりが消えたな」
王都のとある場所にて。
ソファーに腰掛けていた男は異変に気が付いた。
黒いフードを被り表情は見えない。
「ほう、あの辺りに置いていたやつか」
男には場所も分かるようだ。
「となると聖女を連れ去ったのは聖騎士で確定か?」
しばらくそのまま宙を眺め、途中で何度か頷く。
「広間までは全滅か。まあいい」
男はソファーから立ち上がる。
目の前にはいつもと変わらず黒ローブの集団が整列していた。
「住処をつつかれて焦ったか」
嘲るような調子で言う男。
「ちょうどいい。俺の手を煩わせた責任は取ってもらうぞ」
そのまま黒ローブ達の前まで歩いていく。
そして彼らに声を掛けた。
「おいお前達! 黙って俺についてこい!」
彼らは返事をしないが、命令には忠実だ。
黒ローブの集団を引き連れた男はそのまま広間を出て行った。
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